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サイコロ給やユニークなオフィスなどで知られる面白法人カヤックの創業社長、柳澤大輔氏
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面白法人カヤックは、鎌倉駅近くのビルに構えたユニークなレイアウトのオフィスや「サイコロ給」などのユニークな給与システムなどで、IT業界では有名な企業だ。1平方cmあたり5円からという、絵画の測り売りショップ「ART-Meter」などの面白いサービスでも知られる。今年2008年に、設立10周年を迎えた。
「今週は海に3回行きました。今朝も7時に集まって海に行ってから会社に来たんですよ。鎌倉は涼しいのでエアコンは入れません。もうすっかり身体が鎌倉仕様になっているんですよね」とカヤック代表取締役柳澤大輔氏は笑う。
オフィスも限りなくユニークだ。柳澤氏いわく、「“24時間遊び24時間働く”というコンセプトでつくりました。畳やソファで寝転がって仕事ができるようにしたのです」。
2階は鎌倉ということもあり和室風。畳が中央にあり、ぐるりとデスクが囲んでいる。真ん中には掘りごたつがあり、畳の上では横になることもできる。3階は畳の代わりに紫のソファがあり、こちらもソファ部分で横になることができる。照明も凝っていて、インテリアショップにいるような不思議な空間となっている。
IT業界で鎌倉にある会社というのも珍しいが、それ以外にも変わったところが多く、興味を引かれる。ユニークな経営スタイルで知られる会社、カヤックはなぜ生まれたのか。カヤックの目指すものは何か。柳澤氏に話を聞いた。
● 発明をしていた子ども時代
父の仕事の都合で、小学校3年生くらいまで香港にいました。でも、その頃のことはほとんど記憶にないんですよね。日本語以外に広東語や英語もペラペラだったらしいのですが、今は喋れません。
とくに変わった子ではなく、ごく普通の小学生でした。サッカーと野球をするスポーツ少年でしたね。多少変わっていたことと言えば、お楽しみ会の脚本を書いたり、発明に凝っていたことくらいでしょうか。
発明したもので覚えているのは、モーターで動く自動消しゴムとか、チャック開けっ放し防止ズボンとかです。時々ズボンのチャックを閉め忘れてしまうんですよ。なぜ忘れるかと言えば、ボタンを先に留めるからチャックの存在を忘れてしまうわけです。そこで、チャックを上げないとボタンが留められないような仕組みを考えました。
● 貝畑氏との出会い
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「付属高校に入れば大学受験をしないで済む」と考えて慶應大学の付属高校に進学。後に一緒に創業することになる貝畑政徳氏に出会った
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付属高校に入れば大学受験をしないで済むから、高校では遊びほうけられる。その後、大学で勉強しておけば社会に出た時に楽になると考えて、慶應の付属高校に受験進学しました。もちろん、現実はそんなに甘くはなくて、社会に出てからも勉強だらけでしたが(笑)。
高校では体育会系の自動車部に入りました。高校で自動車部があるのは、日本中で慶應付属だけだったんです。学内の道路は私有地ですから、学内であれば、免許がなくても運転できるのです。
全国大会に高校生代表として出るのが自動車部のミッションでした。とは言っても、高校はうちだけなので確実に出られるわけですが(笑)。毎年大学生相手にフィギュアという車庫入れ競技に出るのですが、我々が出るのはその競技だけでそれに集中して練習するので、割と良い成績を取っていました。
自動車部に入ってはいたものの、特別自動車が好きというわけではなかったんですよ。他のメンバーは車好きな人たちばかりで、大学卒業後は自動車メーカーに就職したりしていましたが、僕は「日本に1つしかないから」という理由で入ったんです。
高校の頃はよく麻雀をしていて、取締役の1人である貝畑政徳とはそれが縁で知り合いました。同じ高校だったんですが、貝畑はゲーム好きでオタクなタイプの男だったのですが、なんとなく気が合って、その頃から「大人になったら一緒に何かやろうよ」と話していました。
● SFC、モザイクとの出会い
大学進学は、ちょうど慶應大学にSFCキャンパスが出来たばかりの頃でした。恩師に「将来おもしろくなりそうだ」とアドバイスをもらい、SFCに進学することにしました。ここでもやはり、珍しさや新しさが決め手となりました。
当時はパソコン通信全盛期、インターネットがなかった時代です。僕自身は、大学に入るまで、コンピュータとの関わりといえば小学生の頃にファミリーベーシックでゲームを作っていた程度でした。
大学3年生の頃、イリノイ大学でWebブラウザ「NCSA Mosaic」が誕生しました。このWebブラウザを使ってみて、これはおもしろいと思いましたね。ネット利用環境も日進月歩の時代でしたが、そのうちにレポートはメールで提出するようになり、ホームページも自分で作るようになりました。プログラミングもやるようになり、ゲームソフトを作ったりもしました。
カリキュラムでも、ニューラルコンピューティングというゼミに入って、予想プログラムを作ったりもしました。馬のデータをインプットして競馬の予想プログラムを作ったのですが、精度を上げると結局は人気通りになってしまう。そこで、3番人気は3着より上にいくか下にいくかというピンポイントのデータを作ったりしていました。運という要素を入れたりもしたのですが、なかなか当たらなくて。「一発当てられるかもしれない」と思っていたのですが、ダメでしたね(笑)。
● 久場氏との出会い
もう1人の取締役である久場智喜との出会いは大学です。元々2人で会社を作るより3人がいいだろうと考えていたのです。同じクラスだったのですが、久場は部屋に入ってきた時から輝いていましたね! ヘアスタイルがすごくて、マッシュルームカットだけれど微妙におかしい頭で。後で聞いたところによると、料理に使うボールをかぶって自分で切っていたらしいんですよ。これはと思って即話しかけましたね。
それから1年以内に、3人で沖縄に旅行に行って熱く語り明かしました。どういう生き方がかっこいいとか、かっこ悪い大人にはなりたくないねとか。一発当てようとか。ただ、起業家に学ぶとか一切ないし、経営に対する興味はまったくありませんでしたね。
3年生の就職活動を始めるタイミングで、「一回社会に出てからまた集まろう」と決めました。僕は就職、貝畑は大学院、久場はアメリカ放浪とばらばらになりました。「何年か後に会おう」と約束をして別れたのです。
● 打算じゃなくて“直感”
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いずれ創業するつもりだったため、新人の時から活躍の場を与えられそうな会社に就職した。「勤めていた2年間は、限られた時間にできるだけ吸収しようと仕事に没頭しました」
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就職活動はきちんとやったので何社か受かったのですが、その中で比較的すぐに現場に行けて新しいチャレンジができそうなところ、ということでソニー・ミュージックエンタテインメントにお世話になることにしました。いずれ起業するつもりだったので、数年内にいろいろ経験しておきたいと考えていたのです。
スーツを着ない職種だから選んだという面もあります。スーツを着て就職活動をしていたら、のぼせて鼻血が出てしまって、答案用紙が血だらけになってしまったことがあったのです。そこで、ネクタイは性に合わないかもしれないと、スーツの仕事は止めることにしたわけです。
意外とそういう単純な感覚は重要だと思っています。「スーツを着たくないからスーツを着る仕事をやめる」というのは、僕はありだと思うんです。自分に合ったことを選んでいくといいことが起きる。最初の選び方を間違えると、ずっとつまらなそうに生きていくことになってしまいます。打算じゃなく直感なんですよ。「業界が伸びそうだから」じゃなくて、自分が「おもしろい」と思えることが大事なんです。
● 「嫌いじゃない」と「行きたくて仕方がない」の違い
ソニー・ミュージックでは全力で仕事に取り組みました。2年後に独立するつもりだったから中途半端ではなく、その間にどっぷり浸かって勉強し、与えられた仕事に取り組みました。いろいろな経験をさせてくれる会社で、販売などの顧客対応から、カタログ制作、商品企画、バイヤー的な仕事まで一通り経験しました。この時に顧客対応や通販の仕事を担当させていただいた経験が、後にカヤックでネット通販をする時に生かせました。
会社に勤めていた頃、会社は嫌いではありませんでした。でも、「行きたくてたまらない」ということはなかったですね。行けば仕事は楽しいのですが、朝になると「今日が休みだったらいいのに」と思うんですよね(笑)。いろいろな仕事をさせてもらったし楽しい仕事だったのですが、それでもやっぱりそう思う。
でも、今は毎朝会社に行きたくてしかたがないんです。今日はどんなことが起きるだろう、何をしようと思うのです。あれをしよう、これをしようとアイディアが次々と湧いてくる。
自分で決めるのって楽しいんですよ。最初の頃は、電話番号にも凝っていました。「カヤック=火薬だから、ノーベルが火薬を発明した年号の番号にしよう」とか考えたりして(笑)。会社が大きくなってくると楽しいことは変わっていきますが、創業したばかりのころは、名刺ひとつ作るにしてもパソコンを買うにしても、自分で決められるのが楽しかったですね。
ソニーミュージックはその後、退社するわけですが、いい関係を築けたのが良かったですね。今も前の会社とのコラボレーションのプロジェクトを扱っています。
(後編につづく)
関連情報
■URL
面白法人カヤック
http://www.kayac.com/
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2008/09/29 11:18
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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