● 3人集結、カヤック創業
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面白法人カヤック社長 柳澤大輔氏。カヤックの社名は、創業メンバーの3人、柳澤氏の「や」、貝畑氏の「か」、久場氏の「く」を語感の良い並びにして付けた
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貝畑はデータベースの研究で大学院におり、久場はアメリカを放浪していましたが、いよいよ時期だと思って2年後に声をかけて集まりました。1998年に3人でカヤックを立ち上げたのです。
社名は、3人の名前の頭文字を取って付けました。オールが3本ついたカヤックのマークに、僕らの姿を託しています。もっとも、いまから思えば、SEO的には一般名詞ではトップに上げにくいので、今からなら造語で名称をつけたと思います。当時はまだ競争がなかったので頭文字と語感で決めたんです。
創業当初は、3人で一緒に住んで川の字で寝ていましたね。パソコン3台でのスタートでした。僕のサラリーマン時代の賞与が残っていたので、それを食いつぶしながらやっていました。最初の仕事はネット系の仕事で、ホームページ制作を請け負ったりしていましたね。
創業して、まずは、自社のホームページを充実させることにしました。ていねいにポイントを抑えて作り方を見せるサイトを作ったので、それを見て「ていねいにやってくれそうだから」と依頼が来るようになりました。今なら実績を載せれば済みますが、創業当初はまだ載せられるようなものがなかったので、別のアプローチをしたのです。1~2年はそんな感じで仕事をしていました。
● 「もっと世の中に問いかけたい」と拡大化へ
カヤックは、クライアントからのWeb制作も請け負いつつ、1年目から自社サービスも7個リリースしていました。自社サービスと受託サービスの両方を事業としていたわけです。そこで、各事業に集中するために2001年に分社化して、カヤックは自社サービスをメイン事業とし、受託サービスはクーピーという別会社がやることになりました。ちなみにクーピーは、今年の9月に合併しています。
当初は東京にオフィスを置いていました。クーピーができたのをきっかけに、自社を鎌倉に持ってきたのです。鎌倉を選んだのは、海が近かったのでよく来ていて、ここで仕事ができたら楽しいだろうと思ったからです。
本当に会社を大きくする決意をしたのは、2005年のことです。企業は一度大きくなるほうへ舵をきると、後戻りできないことはわかっていました。ですから、24歳で起業して、自分たちの人格形成を見ながら、志などにどこまで変わりがないかを見極めていたんですね。そしたら、意外とぶれがなかったんですね。自分たちは自分たちにしかできない、新しいことをやっているのではと思い、もっと世の中に発表してもいいのではと考えるようになっていました。
全員が結婚したということも大きいかもしれないですね。自分のことでいっぱいいっぱいだったのが、大人になって、社員のことや周りへの配慮もできるようになってきました。「上に立って引っ張っていってもいいのでは」という自信みたいなものも出てきたのです。それから数年で、社員が一気に増えましたね。
● 社員が増えても変わらない
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鎌倉駅。カヤックのオフィスは、駅から鶴岡八幡宮へ向かう参道の中ほどにある。東京からさほど遠くないが、駅前に降り立つと、都内とは空気が違うのがわかる
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社員が増えても、社内の雰囲気ややり方はあまり変わっていないです。強いて言えば、同じことをしていても人数が多いと価値が上がるところでしょうか。たとえば、社員数が少なくて社員全員のプロフィールを出しているところは割とあると思いますが、千人になっても全員分出していたら珍しいと思うんですよ。
10人でフラットな会社だと普通ですが、うちは社員が80名近くいてもフラットなので、おもしろいと言われます。つまり、僕ら自身は変わっていないけれど、規模が大きくなると周りの見方が変わるんです。それから、数が多いと、大きな仕事ができるようになるのもメリットかもしれません。
静岡にも支社があるのですが、これは8年くらいうちに勤めていたプログラマーが作ったものです。彼の実家が静岡で、家の都合で戻らなければならない状況になりました。はじめは新幹線通勤も考えましたが、最初のうちはよくても、そのうち通勤だけで疲弊してしまい、長くは続かないと思います。SOHOで働いてもらうプランもありますが、個人が成長するためには、実際に対面してのコミュニケーションがない環境ではありえないと考えているので、カヤックではSOHOという働き方は勧めません。
僕たちはその社員と一緒に仕事をしたい。そして、その社員も「まだカヤックでやり残したことがある。一緒に働きたい」と申し出てくれました。そこで、解決方法を模索して、たどりついたのが、「静岡に支社を作る」ということでした。現在、静岡支社は、14~5人の規模になっています。
ちなみにうちの社員は、9割はクリエーターなんですよ。デザイン、イベント、ラジオでも何でもいいのですが、何か作ってないとダメなんです。管理系の仕事をしていてもクリエーターの仕事も兼ねていたりします。
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オフィスの1階は後述する「DONBURI CAFE DINING bowls」の店舗がある。2階は和風で畳が中央にあり、ぐるりとデスクが囲んでいる。畳の上では横になってもかまわない
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3階は畳の代わりに紫のソファがあり、こちらもソファ部分で横になることができる
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● 揉めてもいい、コミュニケーションがないのはダメ
友人同士で共同創業者になって、3人で起業する時、先輩には「絶対にお金で揉めるからやめておけ」と忠告されました。けれど僕らは、「揉めたら揉めたで勉強になるからいい」という考えでした。
一緒に仕事をしていく上で、揉めること自体は必ずしも悪いことではない。揉めた時に、コミュニケーションをとらないのが悪いと思うのです。揉めたらコミュニケーションをとり、何が悪かったのか話し合えばいいのです。
● 「楽しく働けていますか?」
仕事は楽しく働くことが一番重要です。カヤックには、半年に1度、自分のことを振り返る制度があるのですが、最初の質問は「楽しく働けていますか?」。尊敬したり尊敬されたり、やりたいことができたり、周りに自分の価値を示せたり、そういうことすべてができて初めて楽しくなれると思うのです。変化もあり成長もできて健康じゃないと楽しくない。僕らの言う「楽しい」はその全てを引っくるめています。
そして、もうひとつ。カヤックはサイコロを振って給与の一部を決めています。これは、人が人を評価するのは難しいという考えから生まれたシステムです。
サイコロを振って、1~6まで、出た目のパーセントを基本給にかけた金額が、基本給にプラスされるという仕組みです。毎月サイコロタイムを設けて1人ずつ振っています。
たとえば基本給が30万円の人がいるとします。その人にはサイコロの出た目で3000円(サイコロの出た目が1)~1万8000円(サイコロの出た目が6)までのサイコロ給が付きます。これは、昼食代に影響する程度の額ではありますが、給与の一部を天に預けるという仕組みです。
人の評価なんて曖昧なものです。上司の感情ひとつで、給料の額なんて数万円ぐらいは簡単に変わってしまいます。でも給与が下がったことで、この世の終わりみたいに暗くなる、そんな馬鹿らしいことはありません。
だから給与なんて、サイコロで決まるくらいがちょうどいいと思ってます。
そして、カヤックでは、サイコロ給与のランキングを毎月発表しています。
カヤックでは、本人しかできないことを要求されます。オリジナリティや個性がないと尊敬されません。言ってみれば野球チームなのです。ポジションとかはっきりしたものがないと、チームとして必要のない人になってしまうのです。
その代わりに、何かあればみんな尊敬します。会社やポジションごとに重要視されるものは当然違ってきます。すごい美人であるとか、営業力が歓迎される会社もあると思います。しかし、うちはものづくりの会社なので、ものづくりでの個性や能力が重視されます。
これは厳しいですよ。何か必殺技を持っていたとしても、誰かに抜かされたり、みんなができるようになったら、もう「自分しかできないこと」ではなくなります。また、3年前には重要かつ貴重なスキルだったものが不要になってしまう、というのはIT業界では日常茶飯事です。常に自分しかできないことを持ち続けるのは、大変なことなんです。
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カヤックが経営する「DONBURI CAFE DINING bowls」。カヤックの社員がアイディアを出し合った、健康にも配慮したメニューを提供する
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「DONBURI CAFE DINING bowls」では、オリジナルのどんぶりも販売している(ネット通販もあり)。写真は、社員全員の名前が入った非売品。社員ひとりひとりを尊重する社風がこうしたアイテムからも感じられる
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● 変化と成功
僕らは変化を重視しています。変わりたくないと考えている人が実際には多いし、年と共に変化に対しての抵抗値は増えがちです。なので、変わりたいという意思を持ってるかどうかが大事です。変化の度合いではなく、変わることをいいと思っているかどうかなのです。
変わるのはそんなに難しいことではなくて、「変わります」と言葉を発した時点で既に変わっています。単純なことでもいいんです。たとえば、トイレ掃除をしなかった人が始めたとかでもいいんです。
失敗という意味では、ちょこちょことサービスを出しては失敗しているので失敗の連続ですね(笑)。ユーザーからの反応がないことも多々あります。だから、失敗をしても価値が下がらないようなスタイルが築けたのは成功だと思っています。
普通、失敗し続けると「あの会社どうしたの」と思われますが、カヤックでは、失敗を恐れている人もいないし価値が下がることも恐れていません。やりたいことをやり続けるだけです。社内の雰囲気的にもそういう感じですね。ただ、検証したりフィードバックしたりしないので、失敗を忘れて繰り返してしまっているだけかもしれないのですが(笑)。
● 3人でやる意味
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カヤックのオフィスには、創業10年を記念して描いてもらったという創業者3人――左から、久場智喜氏、柳澤大輔氏、貝畑政徳氏――の肖像画が飾られている
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いくら約束していたと言っても、起業までに数年の時間が経っています。そんな僕らが約束通り3人で集まれたのは、たまたまタイミングが合ったということだと思います。
「アメリカから戻ってこい」と言っても、その時に手放せないことがあったら一緒にやりたい気持ちがあっても来られなかったでしょう。そういう意味で、きっと、縁があったのでしょうね。創業以来ずっと3人それぞれがカヤックという会社にコミットしていて、それぞれの思惑がズレたりということはありません。やりたいことがあったらカヤックでやっているので、別会社という話も出ません。
僕らは、お互いに尊敬し合っています。みんな素直だし守りに入らない。3人とも変化を重要視しているのです。変われるということはすごいと思うんですよ。それから、おもしろさの価値観が同じだからうまくやれたのだと思いますね。
「それエキサイティングだね、おもしろいね」という価値観が一緒の人と仕事をすると楽しいんです。これがずれるとおもしろくない。価値観が一致している仲間と仕事をするおもしろさってあると思うんですよ。
お互いに厳しく監視し合うことができるので(笑)、3人でやっているのはよかったです。テンションが下がっていたら励まし合うし、対等な関係でものが言えますから。ベンチャーの場合、社長が図抜けた存在で、あとはフラットという組織が比較的多くて、社長にとって社内にライバルがいないことが多いですよね。でも、うちはそうではないので、うかうかしているとやばいんです(笑)。お互いが好敵手なんですよね。
● 現場の大切さ
現場は離れてはダメだと考えています。僕の場合は、ディレクターという作業を止めてはいけないと考えています。手を動かさなくなったら変わらなくなってしまうと思うんです。現場は本当に面倒くさい。管理に徹してしまった方が楽なんです。ですが、一度止めてしまうと戻ってこられないので、残しておきたいんですよ。
コーポレートサイトのリニューアルは僕が担当しているんですが、2年に一度まったく新しくしています。新しくした時には当然、前と比べて進化したところがなければいけません。作り終えた後にはその時の全力を出し切っているわけだから、当然その時に一番いいと思えるサイトに仕上げます。
ただ、数年後には、会社の情報も増えますし、ビジョンも変化しているかもしれない。その時に、もっといいコーポレートサイトをつくれる自分に成長していないといけない。終わった直後から戦いは始まっているのです。
● 笑顔の絶えない楽しい会社にしたい
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「もともと、仲間と一緒にやりたいという気持ちから始めた会社です。笑顔の絶えない、楽しいと感じあえる会社にしたい。」
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将来的には変わるかもしれませんが、IPOについてはイメージが湧かないので現在は選択肢には入っていないですね。ベンチャーキャピタルの出資は断っています。
もともと、経営者になりたいとかキャピタルゲインを得たいという気持ちで始めた会社ではなくて、「仲間と一緒にやりたい」という意識で始めた会社です。お金はもちろん必要なので利益は追求します。でも、お金を出してもらったことで、やりたくないこともやらなければならなくなるとか、それは違うと思うんですよね。
笑顔の絶えない、楽しいと感じ合える会社にしたいですね。中途半端にはしたくないので、個人の個性を大事にして会社の個性も大事にして、うちの会社にしかできないことを見極めていきたいです。カヤックが社会で担っていることは、新しいことの種を生み出すことだと思っています。そういうことができる会社として、地に足を付けてやっていきたいですね。
最後に。個人としては、毎年変化をしていきたいです。人数が増えていくと雑務が多くなりますが、チーフディレクターとして作りたいネットサービスがあるので、まだまだ作っていきたいですね。(おわり)
(→ 前編をみる)
関連情報
■URL
面白法人カヤック
http://www.kayac.com/
DONBURI CAFE DINING bowls
http://bowls-cafe.jp/
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2008/09/30 16:02
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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