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起業の夢を応援したい ~あきない総研社長 吉田雅紀氏(後編)
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● 「うまくいくのが怖かった」―あきない・えーど
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公共事業はふつう、できるだけ長期かつ継続的に受注しようとするものだが、吉田社長はだいたい3年の期限を切って引き受けるという
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1999年に、あきない・えーどの所長になりました。あきない・えーどを運営している大阪産業創造館(以下産創館)とあきない総研は実は同じです。産創館は2001年1月立ち上げですが、関わっているのはすべて民間人です。運営そのものは財団ですが、プログラムを作っているのもやはり民間です。
ネットを使って起業支援をすることにしたところ軌道に乗り、やがて行政との仕事をするようになり、2003年ベンチャー国民フォーラムのアワードで起業支援家部門経済産業大臣賞までいただいたりしました。順調だったのですが、うまくいくうちに逆に怖くなりました。
最初の起業であるベビーショップの時も、最初こそうまくいったものの、結局は潰れてしまった。その時のことを思い出して、最初がうまくいくとその先うまくいかなくなるのでは、と思ってしまうのです。
そこで、最初から大阪市には「2002年度までで辞めます」と言っておきました。引き止めていただいたんですが、僕は辞める決心をしていました。周囲にも「あきない・えーどを卒業しようと思う」と話はしていたものの、実は次に何をするかは決めていない状態でした。
ちょうどそんな時、経済産業省の方から、「来年3月で大阪市の仕事を辞められるそうですが、ちょうどその頃にこちらの事業が始まるのでやりませんか」と誘われたのです。2003年4月に始まったその事業こそ、「起ち上がれニッポン DREAM GATE」プロジェクトでした。
● そして全国へ―DREAM GATE
「DREAM GATE」とは、起業をサポートする日本全国を対象としたプロジェクトです。これまでに、ポータルサイト「DREAM GATE」の運営、セミナー、ビジネスプランコンテスト、起業家表彰制度などさまざまなことを行っています。
経済産業省の方の話はこうでした。最低資本金特例時限立法というものができて、ある条件を満たせば1円で会社が作れる制度が2003年に施行されるというのです。今でこそ最低資本金制度自体がなくなったため、1円で会社が作れますが、当時としては画期的なことでした。それを多くの人に使ってもらうために広めてほしい。そう請われて、DREAM GATE総合プロデューサーに就任したのです。
あきない・えーどの時は大阪中心でやっていたのですが、DREAM GATEでは、北は北海道から南は沖縄まで、それこそ全国を飛び回るようになりました。あきない・えーどと同様に、DREAM GATEも2003年から2006年3月末までと区切ってやることに決めました。行政の仕事は同じ場所で長くやるものではないと考えていたのです。
● あきない総研誕生!
2006年に、株式会社となっていたベンチャー・サポート・ネットワークの名称を「あきない総研」に変更しました。現在は、インキュベーション事業や人材事業、創業支援や出資、人材紹介などを行っています。もともと行政関連の事業をベースにしているので、パブリック事業も扱っています。社員は、東京と大阪あわせて20人くらいまで増えました。
「横浜ビジネスグランプリ」など横浜市のベンチャー支援の仕事もしています。全国の自治体がベンチャーを支援する方向に向かっていますが、どれも行政が直接支援するのではなく、民間に委託するやり方を取っています。その方がコストは安いし、ハイパフォーマンスになるんですよ。行政が行うことには、福祉、教育、環境から中小企業支援までありますが、起業支援は金儲けの世界ですから、福祉や教育などとはちょっと色が違う。直接行政がやるのは難しいと思うんですよね。
横浜ビジネスグランプリは、横浜市の政策の1つです。中小企業には資本も人材も少ないですが、政府が支援することで、日本の経済の下支えをしている中小企業を活性化させることにつながるのです。
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あきない総研が手がける横浜ビジネスグランプリのトップページ。12月7日応募締切り
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あきない総研の汐留オフィスでは、インキュベーションセンター(レンタルオフィス)も運営。個室専用デスク・電話機付きで月3万9800円など、低コストでの起業をサポートする
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● 世の中に貢献したい症候群
ライブドアの堀江元社長は、証券取引法違反容疑で逮捕されるまで、経済、――つまりカネをとっかかりとして旧体制を打破する若い力を象徴する、良くも悪くもカリスマ的な存在でした。
当時は、渋谷系のベンチャーや六本木ヒルズに入居するITベンチャーなどがさかんにメディアに取り上げられ、バブル崩壊後の成長業種として赤字のITベンチャーも期待値だけで株価が上がる、いわゆるネットバブルの“いけいけどんどん”な時代でした。
それが、堀江元社長が逮捕されて叩かれるようになると、若い子たちの考えも変わりました。
いま起業したい学生たちを集めると、偏差値の高い大学の学生ばかりが集まるけれど、全部同じことを言うんですね。世界の貧困を救いたいとか、環境や福祉や介護、南北問題とかフェアトレードとかで起業したいという。“世の中に貢献したい症候群”なんですよね。
僕が彼らに毒舌で「いま飯食えてるからそう言ってるやろ。衣食住足りて礼節を知るというが、それでは飯食われへんで」と言うと、「言うことはわかるけれど裕福な日本に生まれているので飯が食えないというのがわからないし、欲求の段階が高いんです」とか偉そうなことを言うわけです(笑)。
でも、当時も今も、よく考えると変なんですよね。当時はIPOしやすくて、一緒に横で飲んでいたメンバーがある日ぽっとIPOして億万長者になる。それを見て、それなら俺も、となっていた。ところが、いまはこういう時代でIPOもハードルが高く、先輩たちもIPOを目指さなくなっている。若い子たちはそれを見て、自分もやめようと考えているわけです。
べつに何がいいとは僕は言わない。やりたいことをやればいいと思うんです。ただ、ライブドアの件以後、起業を目指す子たちの価値観に大きな変化が起きたのは間違いないですね。
● ベンチャービジネスはアートだ
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個人的には万馬券が好きなので、新奇性があって面白かったら、実現可能性が低くても積極的に支援したいと言う
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ビジネスプランコンテストをやると、面白いアイディアも出てくるし、実際にコンテスト参加者がたくさん起業しています。僕らが評価するのは、アイディアの素晴らしさ、つまり新奇性、独創性、市場性、成長性、収益性、実現可能性です。
ただ、新奇性が高ければ高いほど実現可能性は下がります。マーケットも既存マーケットではなく創造型なので、そんなマーケットが本当にあるのかどうか、実際にやってみなければわからない。個人的には万馬券が好きなので、新奇性があって面白かったら、実現可能性が低くてもそこに賭けてみますけれどね(笑)。
わりと、どんどん励ましてしまう方なんですよ。「うまくいくと思いますか」と言われたら、「やってみいや」と言ってしまう。支援する我々が本当に目利きができていたら、もっと金持ちになっているはずですよね。やってみないとわからない。
けれど、ビジネスプランコンテストの1位は実際はそれほどうまくいってないし、かえって2位とか3位だったところの方がうまくいっていたりします。そのビジネスが大きくなるかどうかを多数決で当てられるかと言えば、なかなか当てられないものなんですよ。
起業は統計ではなくアートみたいなもので、僕が面白いと思っても他の人は面白くないと言う。みんなは今の世の中の延長線上に未来を予測しているけれど、世の中はどう変わるかわかりません。
たとえば、インフラが今の10倍、100倍、1000倍と速くなったらどうなるのか。やはり新しい発想というものが必要だし、こういうコンテストでは、新しい発想を持った人やアイディアを奨励するという面はありますね。
● “夢なし君”へのアドバイス
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あきない総研が主催する、起業家社長の交流会「GENKIKAI NETWORK」。メルマガ会員なら会費は無料だ
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学生と年齢的にも近い、20代の社長ばかり集めて学生とディスカッションをしたことがあるんです。聴衆の大学生が会場から手を挙げて言ったんです。「今日集まった社長たちはみんな熱い思いで人生を生きていてすごいと思う。僕もそうしたいけど夢がない。何かをやりたいのに、何をしていいかわからない」。
夢がないけれど何かやりたい子、いますよね。夢がなくても、自分の夢を見つけて追いかけたいと思っていること自体でいけていると僕は思います。夢は追いかけるものでなくて、夢の方からやってくるものです。だから、その時に備えて準備しておけばいいのです。
夢がなくてもできることがあります。夢がなかったら、勉強したり、旅行して見聞を広めたりしておけばいい。そして友だちをたくさん作っておけば、夢が見つかった時に最初に手伝ってくれるはずです。
そして、夢があるやつの近くに居るといい。あとは、金が要るから貯めておけということ。いま夢がなくても、備えておくことはできる。このうち、1つ2つでもやっておくことが大事です。これが、夢見つかった時に活きてくるんです。
一番なのは、夢のあるやつの近くにいること。サラリーマンで愚痴とか悪口とか言ってる大人の近くにいると、大人ってこうやと思って自分の発想もどんどん狭くなるし夢からも遠ざかります。そうではなくて、熱く語っている人たちのそばにいると、いま学生なら、早く大人になりたくなります。
社長の練習は、実際に社長をやるしかないんですよ。本を読んでもセミナーに通ってもダメで、社長力はやって初めて身につくんです。だから、とりあえずやれと言いたい。何でもええ。もがいてみい。最初のビジネスモデルのままで成功するというのは99%以上ないでしょう。でも、そこから見えてくるものはたくさんあるはずです。
● 夢はアジアのベンチャーサポートへ
今後は、パブリックビジネスを行政と一緒にやっていくことと、場所を貸したりお金を出したり人材を紹介するなどのインキュベーション事業を展開していきます。大学と一緒にインキュベーションセンターをやったりもしていきたいです。11月には横浜にもインキュベーションセンターができるので、東京汐留、大阪本町、横浜関内、3拠点を展開していきます。
次は、アジアにも進出していきたいですね。年明けには上海、香港、シンガポールにもインキュベーションを計画しています。すでにホーチミンや上海ではビジネスプランコンテストを開いています。そして、アジアのベンチャーサポートのネットワークを作りたいですね。(おわり)
(→ 前編をみる)
関連情報
■URL
あきない総合研究所
http://www.akinaisouken.jp/
Venture Support Network Japan
http://www.vsn.jp/
■関連記事
・ 起業の夢を応援したい ~あきない総研社長 吉田雅紀氏(前編)(2008/11/17)
2008/11/18 13:42
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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