山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

スティーブ・ジョブズ氏逝去、中国でも大きな話題に ほか~2011年10月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

スティーブ・ジョブズ氏逝去、中国でも大きな話題に

ジョブズ逝去時にすぐに作られた特集サイト

 10月5日にスティーブ・ジョブズ氏が死去したニュースは、中国でも新聞、雑誌、ネットなどで大きく報じられ、ブログやミニブログ、SNSなどでジョブズ氏哀悼のコメントが多数書き込まれた。中国人とApple製品の付き合いはiPhoneから始まり、その後Macにも人気が波及した。比較的新しい付き合いとなるが、情報を集めてApple創業からの製品をさかのぼって紹介するメディアや個人ブログもある。

 SNSで流れたのは哀悼コメントだけではなく、「スティーブ・ジョブズ氏のニュースは取り上げてはいけない」とする政府通達があったというコメントがミニブログで流れたりもした。現在でも、百度新聞やGooge Newsで確認する限り、スティーブ・ジョブズ氏のニュースは途絶えることなく、話題に上り続けている。


3Gユーザーが1億突破、携帯電話向けブラウザ利用者数は2億人超え

携帯電話による検索回数

 10月25日、中国政府の情報産業省にあたる「工業和信息化部」は、第3世代携帯電話(3G)利用者が1億ユーザーを突破したことを発表した。中国の3G市場最大のキャリアは、TD-SCDMA方式を採用する「中国移動(チャイナモバイル)」で、もともと2Gで最大のシェアを持っていた同社は、そのままエスカレーター式に3Gユーザーを獲得した。チャイナモバイルを追うのが、W-CDMA方式を採用する「中国聯通(チャイナユニコム)」とCDMA 2000方式を採用する「中国電信(チャイナテレコム)」だ。

 3Gユーザー増加の背景には、沿岸内陸都市農村問わず、キャリア3社がそれぞれAndoid搭載スマートフォンなどを3Gプラン長期加入の条件付で実質無料で配布していたという事情がある。iPhone人気に端を発し、その後Android OS搭載機にも波及したスマートフォンブームだが、フィーチャーフォンから使い続けている音楽試聴サービスに加え、人気ゲームが遊べる「ポータブルエンタメマシン」として人気が高いのが実情。このためか、「楽OS」や「阿里雲手机(アリババクラウドケータイ)」など、Androidベースの独自OSを搭載したスマートフォンも出ているが、これらの人気はいまひとつだ。

 エンタメ用途でスマートフォンを購入するユーザーが増える中、携帯端末からウェブを閲覧する人も増えてきたようだ。CNNIC(China Internet Network Information Center)によれば、携帯電話向けウェブブラウザー利用者は2億ユーザーを突破。またリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」によれば、LBS(位置情報サービス)人気も相まって携帯電話で地図ソフトを利用するユーザー数が1億を突破した。

 易観国際によれば、携帯電話による検索回数も特に2010年以降増加傾向だ。モバイル向け検索サイトの検索回数についてのシェアでは「百度(33.5%)」「宜捜(22.0%)」「騰訊捜捜(21.0%)」「Google中国(11.3%)」「3GYY(5.7%)」「宜査(4.7%)」と続く。


対ネット世論に「国有サイトを強化」「ミニブログでアピール」

ミニブログで民と官が対話できる「微博問政」をアピールするニュース

 中国政府は、共産党中央委員会総会でインターネットの管理を強化することを決定した。その発表に絡んでか、10月は特に、さまざまな中国ニュースサイトが、中央から地方まで「ミニブログ(中国語で微博、発音はウェイボー)で市民に向け情報を発信し対話していく」という各政府方針の記事をよく掲載していたように思う。

 また、同じくインターネット管理強化の一環で、「国営メディアを民間メディアよりも影響力が強くなるよう国営メディアの強化を図る」という内容が含まれる「中共中央関于深化文化体制改革推動社会主義文化大発展大繁栄若干重大問題的決定」を発表した。国営メディアのライバルとする中国有力ポータルサイト「新浪」「QQ」「網易」「捜狐」など人気サイト39サイトの代表は、「デマを発生させない」などのサイト管理を強化するようにという政府の方針に、従順に従っていく考えを明らかにしている。

 うがった見方をすれば、「中国における健全なインターネット実現」に関しては、大手の民間メディアすら信用できないので、国営メディアに直接インターネット利用者を呼び寄せて直接指導したい、という解釈もできそうだ。


スマートフォン向けの海賊版配信ソフトに賠償請求

 残念ながら海賊版配信サイトや海賊版入手を助長するソフトが登場するのは、中国の新ガジェット登場後の定番の流れだ。スマートフォンの人気が高まると、過去にパソコンや電子ブックリーダーがそうであったように、スマートフォン用にそうしたツールやサイトが登場する。中国におけるコンテンツの配信状況を確認したい場合は、スマートフォン用アプリもチェックする必要があるだろう。

 世紀科技という企業がリリースしたiOS向けのアプリ「華語電影」で、中国のテレビドラマ「潜伏」を無断で配信したとして、配信権を所有する楽視網は世紀科技を提訴、配信の即時停止と10万元(約120万円)の損害賠償を請求した。裁判所の北京市朝陽法院は訴えを認め、世紀科技に対して4万元(約48万円)の損害賠償を支払うよう命じた。

偽オフィシャルサイト多数登場を国営テレビの番組で警鐘

 CCTV(中国中央電視台)は「毎週質量報告」という番組で、本家オフィシャルサイトにそっくりな偽サイトが多数立ち上がっていることを取り上げ、問題視した。ドメイン名からサイトのデザイン、画像やその配置に至るまでそっくりに作られていて、そこでは本家商品のニセモノが本家よりも若干安く売られ、中国本土より信用されている香港の電話番号を出すことで、消費者の購入意欲はそそられるのだそうだ。

 特に今年に入って、ニセモノを販売するニセサイトが急増したとレポート。扱う商品は高級ブランドから月餅に至るまで様々だが、特にクーポンサイト型のサイトが目立ち、ニセクーポンサイトは購入者から入金を確認したところですぐにサイトを閉鎖するのが一般的な手口だという。

 この問題の元凶に、番組はニセモノ広告を堂々と掲載する各サイトの広告掲載体制を指摘する。実際、大手サイトですら、iPhoneにそっくりな製品をはじめ、様々なあやしい商品の広告をひんぱんに目にする。以前同様の問題で、検索広告を審査なしと誤解されてもしかたないほどなりふり構わず掲載する百度が矢面に立たされたが、百度の状況は現在では改善されていると番組では報じている。「勤務時間外でネット利用者が多くなる夜間限定でニセサイトに豹変するサイトもあり、サイトチェックは極めて困難な状態」だという。

 権威有る局の番組を通しての警告で、各著名サイトは広告の審査方針を強化するのだろうか。

淘宝商城、年の出店費用が7万円から100万円超に。中小ショップが猛抗議

 中国で最も人気のオンラインショッピングサイトは淘宝網(TAOBAO)だが、淘宝網はオークションサイトのようなサイトで個人でも出品できることから信頼性という面では不安があり、その代替えとして淘宝網が楽天のような企業対個人(B2C)のオンラインショッピングサイト「淘宝商城(Tmall)」を開設し人気に。ユニクロやDELL、HPなどと提携し直販店を設けるなどして軌道に乗った淘宝商城は今年、淘宝網から分離、独自ドメインでサービスを開始している。

 そんな淘宝商城は10日、来年度の淘宝商城の出店にかかる費用について発表した。テクニカルサポート代が年6000元(約72000円)から10万元(約120万円)ないしは20万元(約240万円)に、保証金が1万元(約12万円)から5万元(約60万円)、10万元(約120万円)、15万元(約380万円)の3通りから選ぶ、となった。出店費の大幅、いや超大幅の値上げである。

 これに中小ショップが猛反対しネットで団結、資金力ある大規模ショップに対して「商品予約不買&商品マイナス評価」運動を開始したほか、「反淘宝聯盟」が作られ淘宝商城に対抗した。

 10月1日からの連休「国慶節」商戦では、淘宝商城の有力ショップほか、各B2Cオンラインショッピングサイトが「利潤ゼロ」と呼ばれるほどの値下げ合戦で客寄せを行った。メディア「経済観察報」の記事によれば、取材をうけた淘宝網に小規模ショップを出すオーナーいわく「現在淘宝商城で中小規模のショップは数では全体の8割だが、PV的には全体の2割いくのがやっと」と答えている。小規模ショップは生き残れるのだろうか。

動画サイト運営企業役員、逮捕される

openv(無線視頻)運営会社役員ら、逮捕のニュース

 中国の海賊版対策として押収品を工機で粉砕するアピールも見かけるが、動画共有サイトに関しても、中国初の刑事裁判が行われた。

 CEOをはじめとした6人の逮捕者を出した動画共有サイト「openv.com(無線視頻)」は、2006年に立ち上がり、2008年から2010年までの2年間で海賊版のテレビドラマを5000本以上アップし、2000万元超の広告収入を得た。2009年、2010年と事前に海賊版配信で検査を受けたり、損害賠償請求を訴えられていた。被告のひとりは「中国大陸や香港のは問題が起きやすいから、日本台湾韓国や欧米のテレビドラマを提供するようにはしていた」とコメントしている。


老舗ポータルサイト「中華網」、破産申請へ

 中国で最も早くアメリカの株式市場に上場したポータルサイトを運営するネット企業「中華網 www.china.com 」は5日、裁判所に破産申請を行った。

 中華網自体はまだあるが、その10月の発表から11月にまでも、「ポータルサイト競争から脱落していった結果どうなるか」といった中華網を振り返るコラムや、ひいては「長期的計画がない、国際性に欠けるので海外に出たときに厳しい洗礼を受ける」といった中国のネット産業全体を心配するコラムがしばしば掲載された。


関連情報

2011/11/14 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。