近藤社長、ユーザーイベントで「はてなで世界を目指す」宣言

~開発中の「はてなアルバム」もデモで披露


 3月31日、はてなユーザー有志によるイベント「HUG Tokyo」が開催された。イベントにははてな代表取締役社長の近藤淳也氏が登壇したほか、はてなが開発中の新サービスもデモが行なわれた。

イベントの最後にサプライズの花束を受け取り「世界を目指す」宣言をした近藤氏

 HUGは「Hatena Users Group」の略で、ユーザー主導で開催されるはてなのイベント。京都で起業したはてながオフィスを東京に移し、その後さらに京都へ移転する際に京都のユーザーが開催したのが第1回目であり、東京での開催は今回が初めて。プレゼンテーションイベント「TEDxKids@Tokyo」で近藤氏と出会ったid:Ichinosekiさんが、「はてなのオフラインイベントを開催したい」という思いから今回のイベントにつながった。

HUG TokyoHUG Tokyoを開催したid:Ichinosekiさん


近藤氏「はてなでオープンとクローズの中間領域を作りたい」

 イベントの冒頭では、近藤氏が「オープンインターネット」をテーマに基調講演を行なった。冒頭、「最近のインターネットは、誰でも見ることができるオープンなインターネットと、ログインしないと見ることができないクローズドなインターネットという2層構造になっている」と持論を展開した近藤氏は、「そうした中でもはてなはオープンなインターネットに注力してきた」と語った。

はてな代表取締役社長の近藤淳也氏基調講演のテーマとなった「オープンインターネット」

 近藤氏がインターネットに触れたのは大学生の頃。「HTMLを使ってホームページを作る、という大学の演習を受けた時、なんでもない大学生の自分が書いた文章を世界中で見ることができるということに大きな感動を覚えた」という近藤氏は、それから大学のクラブや自分のホームページ作りに熱中。「三重県の高校から京都大学という世間へ出てきた自分とも重なり、インターネットを使ったらすごいことができるのではないか、という思いがあった」と当時を振り返った。

 その後近藤氏が立ち上げたはてなは、「わからないことを他人に聞くという人力検索のアイディアを思いつき、パソコン1台を買ってきて立ち上げた」というのが起業のきっかけという。その後もはてなダイアリーやはてなブックマークといったサービスをリリースし、今では100人近いスタッフを抱える企業に成長したはてなだが、「普通の起業というのは開業資金を集めたり製品を作ってからだと思うが、パソコン1台買ってきて始めた会社がこうやって11年続けられていることに、オープンインターネットのすごさを感じている」。

 はてなの周辺でもこうしたオープンインターネットの力で夢を叶えたり有名になった例があるという。大学生の頃からはてなでまかないを担当していたSaccoさんは、「まかない日記」というブログが人気を博し、大学卒業後は「カフェのオーナーがまかないのブログを読んでいたのがきっかけ」で、京都でカフェを運営している。また、ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」のメレ子さんは、「普段は友達同士のプライベートな日記をはてなで書いていたが、ある日旅行記をオープンに書いたところ、旅先で出会った『わさお』という犬が話題になり、映画や書籍にもなった」と紹介。「ブログをオープンで書いているからこそこういうことが起きた」と語った。

「まかない日記」をきっかけにカフェを運営しているSaccoさんブログから人気に火がついた「わさお」は映画化もされた

 近藤氏によればブログでの情報発信は「プレゼンテーションみたいなもの」だという。「Facebookを使って友達とおしゃべりするのも楽しいが、自分の好きな何かで新たに出会いたい、という時にはブログが大事」とした近藤氏は、「今日このような場でお話をすることで僕の思っていることを感じてもらえる。プレゼンテーションは友達でもなかった人とつながるきっかけになっている」と自身の思いを語った。

「誰にでも平等に機会がある」のがオープンインターネットの価値

 今後の展望として近藤氏は「オープンとクローズをつなぐ中間領域を作りたい」とコメント。「普段はクローズドな場所で友達とおしゃべりしつつ、時にはインターネット全体に何かを書くという仕組みによって、勇気を持ってオープンなインターネットに出られるのでは」とした近藤氏は、こうしたコンセプトを踏まえて、はてなブログで検討している機能にも言及。「はてなダイアリーでは同じキーワードを書いたブログが全部読めるリンク機能があるが、こうしたつながりを記事単位でもできないかと考えている」という。

 その一例として近藤氏が挙げたのが、特定のテーマについて複数の人が1日交代でブログを書いていく「アドベントカレンダー」という試み。はてなで取り組んだアドベントカレンダーでは、近藤氏は「僕とはてな」というタイトルでブログ記事を執筆。「普段だったらこういうことは書かないが、リレーで順番が回ってくることで書こうという気になる」とし、「こういうユニークな機能をはてなブログにつけていけたら」と語った。


「はてなIDはFacebookの実名主義に対抗し得る」ライター毛利氏

 近藤氏に続いて、はてなを題材にした書籍「『へんな会社』のつくり方」を担当したライターの毛利勝久氏が「はてながフェイスブックに勝てるたったひとつの理由」をテーマにプレゼン。「オープンと言っても立場や見方にいろいろなオープンがある」とした毛利氏は「会員制のサービスはオープンではないのか、他のサービスと連携できればオープンなのか。エンジニア視点では開発手法がオープンかどうかというのも1つの見方」と、「オープン」という用語の多様性を指摘した。

ライターの毛利勝久氏「オープン」は見方や立場で全く異なると指摘

 プレゼンテーションのタイトルにもあるFacebookについては「友達の声は聞こえてくるが、新しいことや遠くの声が聞こえにくいというフィルターバブルの弊害が指摘されている」とした上で、「一方、Facebookはそうした指摘に対して、むしろ遠くにある弱いつながりが現れやすく、遠くにある新しい知見を呼び寄せるという主張をしている」との例を紹介。

遠くの声が聞こえにくいという「フィルターバブルの弊害」Facebookは「弱いつながりこそが多様な情報伝搬を加速する」と主張

 また、「Facebookはクローズドと言われるが、フィードを公開設定にすることでインターネット上で広く公開できるため、クローズドとオープンを1つの場所で使い分けられる。Googele+もサークルと言う機能でそうした取り組みを見せている」とし、オープンとクローズドを1つのサービス上で実現するという流れは業界全体の流れだとした。

 そうした流れの中で、はてなの強みとなる武器として毛利氏が指摘したのが「はてなID」の仕組み。毛利氏は「インターネットには実名と匿名という2つの考え方があり、どちらにもメリットとデメリットがあって揺れている」とした上で、「はてなのIDで呼ぶという通名はFacebookの実名主義に対抗しうる何かになるのでは」とした。

 イベントには元ITmediaの岡田有花氏もビデオメッセージで登場。「2004年頃のインターネットは、自分たちで情報発信する時代が来た、という希望にあふれていたが、今はむしろインターネットが当たり前になっていて、YouTubeが100万回再生されても話題にならないくらい」と語りつつ、はてなの掲げるオープンとクローズについては「肩書きや会社といったプロフィール情報を見せなければ話しにくい場はおかしい。Facebookの気持ち悪さはそこにある」とし、「はてなのようなIDでの情報発信はとても正しい」と応援のメッセージを送った。

匿名主義と実名主義の間にある「通名主義」こそがはてなの武器ビデオメッセージで登場した岡田有花氏


開発中の新サービス「はてなアルバム」をデモ。「世界を目指す」発言も

 イベントの後半は参加ユーザー同士がはてなについて語り合う「ワールドカフェ meets. はてな」が開催。参加者が時間ごとにテーブルを交代しながら、それぞれはてなへの思いを語り合った。はてなならではの試みとして、良いアイディアには「スター」シールを貼るという仕組みも導入、参加者の名札には大量のスターシールが貼られていた。

イベント後半は参加者がはてなについて語り合う「ワールドカフェ meets. はてな」手元の紙に参加者がアイディアを自由に記入よいアイディアには名札に「スター」シールを貼ってもらえる

 イベントの最後には、はてなが現在開発中の新サービス「はてなアルバム」も公開された。はてなアルバムの説明を行なった二宮鉄平氏は、「はてなの合宿ではお互いに写真を撮りあうが、自分が写真を撮っていると自分の写真は自分の手元に残らない。他の人が撮った写真もアップロードされないと見ることができないし探すのも大変。また、人の顔が写った写真はアップロードしにくい」と開発に至った背景を説明。ユーザーが撮った写真を1か所にまとめて楽しむことができるのがはてなアルバムのコンセプトだとした。

はてなアルバムを紹介した二宮鉄平氏はてな合宿中、「たくさん写真は撮るけれど自分の写真は他の人のカメラにしか写っていない」という体験が開発のきっかけはてなアルバムのサービスイメージ
ログイン後の画面。作成したアルバムや自分が参加するアルバムを表示複数のユーザーが1つのアルバムに写真を投稿できるはてなアルバムの設定画面。アルバムごとに公開範囲を設定できる
投稿時のコメントも表示可能写真はFacebookから取り込めるアルバムの共有ははてなIDのほかTwitter、Facebookでも可能

 はてなアルバムは、アルバム単位で写真をアップロードでき、アルバムを他のユーザーと共有できるサービス。現在のところはiPhoneアプリから写真がアップロードできるほか、PCからも写真の追加が可能になっている。作成したアルバムは、編集権限を「みんなに公開」にすることで、複数のユーザーで1つのアルバムに写真を追加することが可能。ただし、開発中の時点では編集権限を共有するユーザーを限定することはできず、自分のみかユーザー全体のどちらかになる。

 アルバムの公開範囲は全体、友達のみのほか、指定したユーザーのみに公開することも可能。他のソーシャルサービスとも連携しており、Facebookにアップロードした写真をはてなアルバムに追加したり、FacebookやTwitterの友達へアルバムを送ることも可能。連携できる写真サービスは今後も拡充を検討しているという。

はてなアルバムは近日公開予定

 イベントの最後には、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズに近藤氏が選ばれたことをユーザーがサプライズでお祝いする一幕もあった。「ヤング・グローバル・リーダーズに選ばれたことをお祝いしてもらうのは初めて」と喜びを見せた近藤氏は、「これからは世界を目指してがんばっていく。世界を目指すだけのスタッフも揃った」と、海外進出への意欲を見せた。



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(甲斐 祐樹)

2012/4/2 11:55