日本市場に本格参入! 「Kindle」サービスファーストインプレッション


 Amazon.co.jpは10月25日、かねてから予告していた電子書籍サービス「Kindle」を開始した。専用の電子書籍リーダー発売に先駆けてリリースされたスマートフォン・タブレット向けのアプリを利用し、その使用感をレポートする。

スマートフォン向けサービスを先行リリース。専用リーダーは11月以降

 「Kindle」はAmazon.co.jpが運営する電子書籍サービス。サービスそのものは米国Amazon.comが専用の電子書籍リーダーとともに2007年から開始しており、その後もAndroid OSをベースにした専用端末「Kindle Fire」など次々に新端末や新サービスをリリース。日本での展開も期待されていたが、2012年6月にはAmazon.co.jpのサイト上でkindleが「近日発売」と予告。それから約4カ月を経て、ついに日本でのサービスが開始された。

 国内では内蔵型フロントライトの電子ペーパーディスプレイを採用した「Kindle Paperwhite」、NTTドコモの3G対応モデル「Kindle Paperwhite 3G」を11月19日に、Android OS搭載モデルの「Kindle Fire」「Kindle Fire HD」を12月19日に発売。Kindle Paperwhite 3Gは通信料金をAmazon.co.jpが負担するため、通信料金不要でKindleの電子書籍を購入できる。

Kindle Paperwhite 3G/
Kindle Paperwhite
Kindle Fire HD

 いずれの端末もサービス開始よりも後に発売されるが、開始時点ではAndroidとiOS向けのアプリが提供されており、サービス自体は10月25日から利用できる。今回は詳細は後述するがOSによってアプリも機能が異なっており、今回はiOSとAndroidそれぞれでKindleを利用した。


アプリはiOSとAndroidに対応。米国Amazonアカウントも統合可能

 iOSの場合は5.0以降に対応し、画面の解像度が変わったiPhone 5やiPod touch 第5世代にも対応。Androidの対応OSバージョンはGoogle PLAYで「端末により異なります」と明記されているが、手持ちのAndroidではバージョンが2.2でも対応可能と表示されており、国内のかなり多くの端末で利用可能だろう。

 iOSとAndroidでは基本的な機能はほぼ同一ながらインターフェイスがまるで別のアプリのように異なっており、設定や機能も一部が異なる。最大の違いは電子書籍の購入方法で、iOSの場合はPC経由またはブラウザからKindleストアにアクセスする必要があるが、Androidの場合はKindleストアをアプリが内包しており、アプリのみで電子書籍の購入から閲覧までを完結できるようになっている。

Androidアプリの画面iOSアプリの画面。iPod touch 第5世代の画面サイズにも最適化して表示される

 利用の際は端末にアプリをインストールし、Amazon.co.jpのアカウントでログインすれば準備は完了。これまでAmazon.co.jpでオンラインショッピングを利用したことがあれば、同じアカウントをそのまま利用できる。

 なお、日本よりも先にKindleを展開している米国のAmazon.comアカウントでKindleの電子書籍を購入している場合は、日本のAmazon.co.jpアカウントとの結合を行なうことで、Amazon.comで購入済みのKindleコンテンツをAmazon.co.jpで管理できる。Amazon.comの居住国設定(Country Settings)を「日本(Japan)」にした状態でKindleの設定ページを表示すると「Great news!」というメッセージと共にアカウント結合を知らせるバナーが表示され、ここからアカウントの結合が可能だ。アカウント結合後も設定で変更することで、再度Amazon.comのKindleを利用することもできる。

 ただし、以前にAmazon.comで購入した端末ではAmazon.co.jpのKindleストアを利用できない場合があるほか、現状ではアカウント結合の際にエラーが発生することもあるという。設定で変更できるものの、Amazon.comとAmazon.co.jpを併用することはできないため、今後も引き続きAmazon.comでKindleを利用したい場合は、別途端末を用意しておき、Amazon.co.jpとAmazon.comでそれぞれログインしておくほうが使いやすいだろう。また、Amazon.co.jpのアカウント結合に関するお知らせも確認しておくことをお勧めする。

◇Amazon.co.jp ヘルプ: アカウントの結合
http://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?ie=UTF8&nodeId=201049300


ストアから1クリック購入で自動ダウンロードできる手軽さが魅力

 書籍の購入はスマートフォンやタブレット、またはPCからブラウザでAmazon.co.jpにアクセスし、カテゴリから「Kindle」を選択し、Kindleストアにアクセスする。また、Amazon.co.jpの検索結果にもKindleストアの電子書籍が追加されており、Amazon.co.jpでオンラインショッピング経験があれば同じ手順で利用可能だ。無料のサンプルも用意されており、購入前に中身を確認することもできる。

Kindleストア
スマートフォン版のKindleストア。PCに比べると検索中心のシンプルな構成各カテゴリーごとのランキングなども用意されている

 ただし、Kindleストアでの書籍購入方法は1-Clickのみに限られており、オンラインショッピングでカート方式を選択している場合でもKindleストアでは1冊ずつ1-Clickで購入する必要がある。また、Kindleを複数の端末で設定している場合は、ダウンロード先の端末をプルダウンで選択した上で購入することになる。

利用端末を選択した上で1クリック購入できる購入した書籍は自動でダウンロード
スマートフォンから購入購入後は自動でダウンロード

 なお、端末の名称はiOSの場合、iTunesで設定した名称がそのまま表示されるのに対し、Androidは「○○さんのAndroid」「○○さんの2番目のAndroid」と、Kindleアプリを設定した順番で表示されてしまう。PCから購入する場合などはどの端末かわかりにくいため、複数のAndroid端末を利用する場合はKindleアプリを設定したタイミングで、Amazon.co.jpの「My Kindle」から端末名称を変更することをお勧めする。

 PCとスマートフォンどちらの場合も、購入が完了すると指定した端末へ電子書籍が自動的にダウンロードされ、閲覧が可能になる。また、他の端末で購入した電子書籍も「クラウド」カテゴリへ自動で同期され、タッチ操作のみで手軽にダウンロードが可能だ。


AndroidとiOSで異なる読書操作。操作自体は軽快

 購入した書籍を読む場合も、iOSとAndroidでは機能が異なる。読書設定ではどちらもハイライトの設定や、ハイライト部分の辞書検索が可能だが、iOSでは該当の文章をTwitterやFacebookへ投稿できるのに対し、Androidでは該当文章の投稿機能は備えておらず、OSのインテント連携を使って各サービスへ投稿することになる。なお、Facebookアプリのインテント連携では、なぜかリンク先が電子書籍でなくAndroidアプリの紹介になってしまい書籍を紹介することができない。

iOSでは選択部分のハイライトや辞書検索のほか、TwitterとFacebookへ投稿可能Androidはハイライトや辞書検索はできるが投稿に対応していない

ページの設定では、Androidの場合フォントサイズや背景色の変更に加え、行間や幅も設定できるのに対し、iOSはフォトサイズと背景色のみとなる。現状は利用するOSによって読書体験が異なってしまうため、今後は両方のOSに同一の機能を搭載することを期待したいところだ。

フォントサイズと背景色の変更が可能なiOSAndroidは行間や幅なども設定可能

 実際の読書は利用する端末のスペックや画面サイズによるものの、1度端末での読み込みが完了した書籍データは非常に扱いやすく、ページも高速にめくっていける。読書を中断した場合も、中断箇所がクラウド経由で自動的に同期されるため、他の端末からもすぐに続きを読むことが可能だ。


【動画】Galaxy NoteでKindleアプリを使う

【動画】iPod Touch第5世代でKindleアプリを使う


他の端末で読んでいた場合は続きから読める


電子書籍以外のデータも扱えるストレージサービスも提供

 Kindleでは、購入した書籍以外に自分の所有する文書データを閲覧することも可能。ユーザーには「パーソナル・ドキュメント」という容量5GBの専用ストレージが用意されており、ファイルをパーソナル・ドキュメントにアップロードすることでkindleから読むことができるようになる。

 Kindleを設定した端末にはそれぞれ「xxxxx@kindle.com」という形式のメールアドレスが割り当てられており、このアドレス宛てにファイルを送信すると端末側で自動的にダウンロードされる仕組み。他の端末宛てに送ったデータも、Webサイトの「My Kindle」から別の端末へダウンロードすることが可能だ。

パーソナル・ドキュメントへアップロードするためのメールアドレス。端末ごとに異なるアドレスが割り当てられる

 対応するファイル形式はWord、PDF、RTF、Kindleフォーマットの「.MOBI」のほか、HTMLやJPEG、BMP、PNGといった画像ファイルも利用可能。また、PDFの場合はメールの件名を「変換」とすることでKindleフォーマットへ自動変換する機能も備えている。1ファイルの容量は50MBまで、1度に送信できるファイルは25までという制限もあるが、実利用上は問題ない範囲だろう。

 なお、送信元のメールアドレスはセキュリティ対策のため、あらかじめ登録されたメールアドレスでないと受け付けないようになっている。アドレスの追加や編集は「My Kindle」から設定が可能だ。


他サービスと比較して使い勝手で優位。書籍数も十分ながら今後に期待

 電子書籍サービスの魅力を左右する書籍のラインアップについては、サービス開始時点で無料の書籍1万タイトル以上を含む5万タイトル以上を揃え、出版社も角川グループパブリッシング、幻冬舎、講談社、小学館、新潮社、文藝春秋など大手が名前を連ねている。

 国内の電子書籍サービスは、ソニーのReader Storeが2012年9月時点で約2,000冊の無料を含む約63,600冊、凸版印刷グループのBookLive!が7万タイトル以上、約10万冊、楽天koboが青空文庫1万冊やWikipedia作家情報、楽譜データ、自作電子書籍サービス「パブー」の書籍などを含み約66,000冊を用意。数だけで見ると先行するサービスに比べるとやや少ないが、実際の利用感としては大手出版社が揃っていることもあり充実した印象を受ける。

 ただし、現状Kindleで購入できるのは書籍やコミック中心であるのに対し、Reader StoreやBookLive!では雑誌などのコンテンツも幅広く展開するほか、「ジョジョの奇妙な冒険」などの集英社コミックはモノクロ版だけでなくカラー版も取り扱うといったコンテンツの違いがある。こうしたコンテンツ数の充実は先行サービスに一日の長があるものの、サービス開始時点で充実した冊数を揃えてきたKindleが、今後どのようにラインアップを拡充するかも要注目だ。

BookLive!で販売されている集英社のカラーコミック。「ジョジョの奇妙な冒険」は第3部までとなっているが、実際には第7部までカラー版が用意されている

 使い勝手の面では、Amazon.co.jpアカウントを持っていれば1クリックで購入できる手軽さが魅力。PCとスマートフォンどちらから購入しても自動的に端末側にダウンロードされるため、転送の手間などが不要なのも利便性が高い。

 他サービスの場合、BookLive!とReader Storeは毎回パスワードの入力や支払い内容の確認が必要。楽天koboはパスワード入力が不要ながら購入方法の確認が必要なため、工数だけを見ると1画面分余計にかかる。また、PCで購入した際は楽天koboの場合USB経由での転送、Reader StoreはUSB経由の転送または端末から手動でダウンロード、BookLive!は端末から手動でダウンロードする必要があり、PC経由の購入でも自動でダウンロードするKindleのほうが利便性が高い。

koboの購入確認画面Reader Storeのアカウント確認(パスワード入力)画面


後続ながら電子書籍サービスの代表的存在に

 日本でのサービス予告以降、開始前から期待が高まっていたKindle。開始時点から充実した電子書籍をラインアップしただけでなく、1クリックで購入できる手軽さやクラウドで同期する便利さなどサービスの総合力も非常に高く、後続ながら注目の電子書籍サービスとして国内の代表的サービスに名を連ねた感がある。

 現状はスマートフォンやタブレットのみの利用に限られるが、今後は「Kindle Fire」「Kindle Fire HD「Kindle Paperwhite」といった専用の電子書籍リーダーも販売され、さらなるサービスの拡充が期待される。何よりこうした電子書籍サービスの活発化により、国内における電子書籍の利用度が向上し、それに伴って紙の書籍の電子化はもちろん、電子書籍ならではのサービスが展開されることを期待したい。



関連情報

(甲斐 祐樹)

2012/11/5 06:00