インターネット業界で頻繁に使われるキーワードを毎回1つ取り上げて解説するこの連載、第1回で取り上げるのは「FTTH」(Fiber To The Home)。FTTHと言うと、NTTや電力系など従来からサービスを提供する事業者のほかに、最近ではソフトバンクBBやKDDIなど多くの事業者が新規参入してきている。それに伴い、FTTHにもいろいろな形態のシステムが登場しており、業界事情をよく知らないと混乱してしまう場面も少なくない。そこで今回は、FTTHには現在どのようなタイプのシステムがあるのかという点を中心に解説していきたい。
■FTTHの3つのトポロジー
まずFTTHという言葉の定義だが、これはその名の通り「光ファイバを家まで通す」こと、より詳しく言えば「電話局(もしくはNOC、CATVのセンター局など)と家との間を光ファイバで結ぶ」ことだ。現在一般家庭において、NTTの電話であればメタル線、CATVであれば同軸ケーブルが引き込まれているのが一般的だろうが、究極的にはこれらの家の外からやって来るケーブルを全て光ファイバに置き換えてしまうのがFTTHの目標だ。
そんなFTTHも、ネットワーク形態としては大きく3つの形態(トポロジー)に分けられる。1つが「Single Star(SS)型」と呼ばれるタイプ。これは単純に電話局などと各家庭を1対1で結ぶというもの。最も構造としては単純であり、有線ブロードネットワークス(USEN)や電力各社が提供するFTTHサービスの多くがこのタイプに属するほか、NTTでもBフレッツのベーシックタイプなどはこのSS型で提供されるサービスだ。この方式は、他の加入者の通信状態に関係なく、電話局と家庭の間で一定の帯域を確保できるといったメリットは多いが、電話局から出る光ファイバの本数が膨大になってしまうのが難点。このタイプは、電話局と家庭の間の光ファイバを1本まるごと占有することから、「占有型」とも呼ばれる。
2つ目は「Passive Double Star(PDS)型」と呼ばれるタイプだ。これは電話局から出た1本の光ファイバの信号を、電柱上などで「光カプラ」と呼ばれる装置を用いて複数の光ファイバに分岐して各家庭に送り込むもの。電話局からスター状に出たケーブルが、さらに光カプラによってもう一段階スター状に分岐することが「ダブルスター」と呼ばれるゆえんだ。また光カプラは特に外部からの電源供給を必要とせず、あくまで入力された信号から受動的に信号を分岐・多重するため、「Passive」という言葉が頭について前記の名称となっている。ユーザーから見ると、電話局から出た1本の光ファイバを複数ユーザーで共有する形となるため、この形式を「共有型」と呼ぶことも多い。
3つ目は「Active Double Star(ADS)型」。ネットワーク形態としては前記のPDS型とほぼ同じダブルスター型を取るのだが、大きく異なるのはPDSでは光カプラによって受動的に信号を分岐・多重するのに対し、ADS型では分岐点に置かれた分岐装置が能動的に信号の分岐や多重をコントロールする点。以前は光カプラでは信頼性が不足したり、分岐できるユーザー数が少なかったりしたためにこの形態が使われることも多かったが、最近は光カプラの技術開発が進んだことに加え、分岐装置に外部からの電源供給が必要になるなど保守の手間がかかることから、この形態はあまり使われなくなっている。
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「Single Star(SS)型」は電話局と家庭の間の光ファイバを占有する
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「Passive Double Star(PDS)型」は光ファイバを複数ユーザーで共有する
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「Active Double Star(ADS)型」は信号の分岐を分岐装置のみで行なう
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■PONにも3つのタイプがある
この中で最近技術の進展が著しいのが2番目のPDS型だ。PDS型のトポロジーを取るFTTHネットワークを一般に「PON」(Passive Optical Network)と呼ぶのだが、このPONにもいくつか種類がある。
まず1つ目は「B-PON」(Broadband PON)。これは下り622Mbps/上り155Mbpsの帯域を最大32ユーザーで共用するというもので、光ファイバ部分の伝送技術としてはATM(Asyncronous Transfer Mode)が使われている。これは既にITU-T G.983シリーズとして標準化されており(特に「B-PON」という場合はG.983.3を指す場合が多い)、BフレッツではNTT西日本の「ファミリー100」タイプで使われているほか、NTT東日本の「ニューファミリー」タイプも今後順次このB-PON型に切り替えていくと発表されている。
2つ目がEthernetベースのPONなのだが、ややこしいのがここ。というのは、EthernetベースのPONに関しては、IEEEで標準化作業が行なわれる以前から各メーカーが独自仕様によるシステムを発売してしまっており、市場でもかなりの部分で混乱が見られるのだ。一般にはエンドユーザーのインターフェイスとして100BASE-TXが使われているものを「E-PON(Ethernet PON)」、1000BASE-Tなどのギガビットイーサネットが使われているものを「GE-PON(Gigabit Ethernet PON)」と呼ぶことが多いようだが、メーカーによってはこれらを混在して使っているケースもあるようで、余計に話がややこしくなっている。
しかし、この状況ももうしばらくすれば解消しそうだ。その理由は、「IEEE 802.3ah」別称「EFM」(Ethernet in the First Mile)で、EthernetベースのPONの標準化が完了したためだ。IEEE 802.3ahで仕様化されたPONは、上り/下りとも1Gbpsの帯域を16ユーザー以上(上限は各メーカーにより異なる)で共用するというもので、形式名としては「1000BASE-PX10/20」という名称が与えられている。末尾の数字は最大伝送距離(10km/20km)を示している。
そして3つ目が「G-PON」(Gigabit PON)。その名称からGE-PONと同種のシステムと誤解されやすいのだが、こちらはITU-TでB-PONの後継規格として検討が進められていたシステムで、既に昨年ITU-T G.984シリーズとして標準化が行なわれているもの。GE-PONと比較すると共用部の速度が最高2.4GbpsとGE-PONに比べて高速、分岐が最大64ユーザーまで可能、データフレームとしてEthernet以外にATMなどを混在することが可能などいくつか有利な点はあるのだが、機器の製造コストが高い点が通信事業者などに嫌われているようで、今後伸びるかといえばやや疑問符が付く。
この3つの中では、やはりEthernetベースということで機器構成がシンプルかつ低コストになることが見込まれているGE-PONが今後最も伸びる可能性が高いと言われている。実際に、NTTなどがGE-PONの実サービスへの導入を検討していることを明らかにしているし、ソフトバンクBBの「Yahoo! BB 光」も末端のユーザインタフェース部分が100BASE-TXになっている点を除けば、機器構成としてはGE-PONを採用している。
■FTTHは工事も以前に比べると容易に
FTTHの場合は新たに光ファイバを外から引き込まなければならないため、以前は非常に大掛かりな工事が必要とされていたが、最近ではその点も技術の進歩により少しずつ問題がクリアされつつある。
まずケーブルの引き込み形態だが、FTTHで局と家庭とを結ぶのに使われるシングルモードファイバ(SMF)は一般的にガラス素材をベースに製造されており、無理に曲げるとケーブルの中でファイバが折れてしまうなど、曲げに弱いために工事の障害となることが多かった。しかし、最近では最小曲げ半径が10mmを切るような(手の指に巻きつけても大丈夫)非常に曲げに強い光ファイバが複数のメーカーから登場しており、既存の電話線などの配管に光ファイバを通せる確率が格段に向上した。
光ファイバの引き込みが困難な場合でも、VDSLや無線などの技術が進化しており、建物の直近にある光ファイバに無線アンテナを接続し、建物のベランダなどに置いたアンテナとの間で通信を行なうケースや、建物の地下にVDSL装置を設置して構内は既存の電話線を利用するといったケースも増えてきている。ただこれらは完全に家庭内までを光ファイバ化しているわけではないため、特に前者のようなタイプは「FTTC」(Fiber to the Curb:Curbは縁石の意味)と呼んでFTTHと区別する向きもある。
FTTHサービスの加入者数は今年8月末現在で約160万人(総務省調べ)と着実に増加傾向にあるし、既に速度上昇が頭打ち傾向にあるADSLと比べると、FTTHで使用される光ファイバには今後もまだまだ速度上昇が可能なポテンシャルがある。いずれはFTTHにユーザーがシフトすることは間違いないだろう。地方の町村における光ファイバの人口カバー率が低いなどの問題もあるため、まだ万人におすすめできるサービスではないが、FTTHサービスを受けられる地域にお住まいの方は、一度加入を検討してみてもよいのではないか。
(2004/11/24)
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佐藤 晃洋
1975年北海道旭川市生まれ。某通信事業者での法人営業(という名の現場調査員)を経て、現在は通信・ネットワーク関連を主な専門分野とするテクニカルライター。ついでになぜか煎茶道の師範もやっている。 |
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