今回取り上げるキーワードは「ドライカッパー」。といっても別に頭の上のお皿が乾いてもがいている河童のことではない。最近は平成電電の「CHOKKA」に続き、日本テレコムが「おとくライン」、KDDIが「メタルプラス」の名称で、このドライカッパーを利用した電話サービスを提供することを発表している。いったいこの「ドライカッパー」とはどのようなものなのだろうか。
■ドライカッパー≒「NTTのメタルケーブルを借りたサービス」
まずいつものように辞書的に定義すると、ドライカッパーとは「NTTなどが所有する電話サービス用のメタルケーブルのうち、他の事業者がケーブル内のメタル線を1対単位で借り受けてサービスに使用しているもの」ということができる。といっても、NTT以外に電力事業者や鉄道会社など多くの事業者がケーブルを敷設している光ケーブルと異なり、電話サービス用に使用できるメタルケーブルを大量に所有しているのは実質的にNTT東日本とNTT西日本の2社しか存在しない。実質的にドライカッパーといえば、NTTのケーブルを借りてサービスしているもの、ということになる。
ただここでわかりにくいのは、「ADSLでYahoo! BBやイー・アクセスがNTTの電話線を使ってサービスを提供しているのとはどう違うの?」という点だ。その答えは「電話サービスが重畳されていないADSL回線(タイプ2)と扱いは全く同じ」ということになる。具体的に言うと、NTTとドライカッパーを借りる事業者は電話局内のMDF(Main Distributing Frame:主配分架)で互いの設備を相互接続し、MDFから伸びたケーブルをNTT局内に設置した自社の交換機等に接続してサービスを行なうことになる。
なお、本来「ドライカッパー」とは、前述のメタルケーブルのうち「信号の通っていない(=ドライ)銅線ケーブル(=カッパー)」を指す用語だったが、現在では前述のようにメタル線を借りてサービスに利用することを指すことが多くなっている。これは、前回説明した「ダークファイバ」が、「信号の通っていない光ファイバ」ではなく「本来のケーブル所有者以外の事業者が借り受けてサービスに使用している光ファイバ」の意味で使われることが多くなったこと同様だ。
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メタル線(電話線)を借りて、他の事業者がサービスに用いる形態を「ドライカッパー」と呼ぶ
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■ドライカッパーはDSL回線以外でもスペクトル管理が必要
光ファイバにおけるダークファイバとほぼ同じような形態を取るドライカッパーだが、ダークファイバとドライカッパーには1つ大きな違いがある。それは「ドライカッパーではどんなサービスでも自由に行なえるわけではない」ということだ。
光ファイバの場合はその原理上、1本の光ファイバの中に流れる信号の強さが非常に強い場合でも、他の光ファイバに影響を与えることはない。そのため、ダークファイバを借りた事業者は、基本的に自由にそのファイバを使うことができる。しかし、ドライカッパーの場合には、強いレベルの信号を流してしまうと誘導電流などによるノイズが発生してしまい、他のメタル線に対して通信に悪影響を与えてしまうので、勝手にそのような悪影響を与える方式を用いたサービスを行なうことができないのだ。
そこで登場するのが、TTC(社団法人情報通信技術委員会)のDSL専門委員会・スペクトル管理サブワーキンググループだ。一見ADSL関連のことしか議論していないように見えるこのグループだが(事実議題の9割以上はADSL関連の話題なのだが)、別に対象をADSLやVDSLだけに限っているわけではない。例えば平成電電が「CHOKKA」サービスの一環として提供している、米国規格のエコーキャンセラ方式を利用したISDNサービス(2B1Q ISDN)についても、サービス開始に当たっては同グループにおいて既存の電話回線やDSL回線への影響がどの程度あるかがきちんと評価された上で「問題なし」ということで承認されている。
■ドライカッパーの特性を利用した新サービスに期待
現在、電話用のメタルケーブルを利用したサービスといえば、NTTが提供する従来のアナログ電話やISDN(TCM-ISDN)、そして各種ADSLやVDSLといった方式が挙げられる。これらのサービスのほとんどはアナログ電話と同一のメタル線に多重して提供することが想定されているので、あまり思い切ったサービスが提供できていない。しかし、ドライカッパーであれば、同一ケーブル上の他の回線に迷惑をかけない範囲であれば、必ずしも既存の電話サービスへの多重にとらわれる必要はない。
例えば、現在国内で提供されているADSLサービスでは、アナログ電話と信号を多重することを考慮して周波数の下限はいずれも25.875kHzになっている。これを、アナログ電話と多重しない場合にはもっと低い周波数まで利用することで、伝送速度を上げるといった手法が考えられる。これは決して筆者の単なる思い付きではなく、ITU-Tで標準化されているADSLの規格の中でも「All Digital Mode ADSL(G.992.3 Annex I/J、G.992.5 Annex I)」として実際に標準化されているのだ。
他にもドライカッパーならではの思い切った手法はいろいろ考えられ、そうした新たな方式を実際のサービスに導入して行くことも通信事業者には求められると思う。果たして今後ドライカッパーを利用したサービスについて新たな事業者は現われるのか、そしてその中で我々ユーザーを驚かせてくれるような新サービスは登場するのか、そうした点に期待したい。
(2004/12/22)
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佐藤 晃洋
1975年北海道旭川市生まれ。某通信事業者での法人営業(という名の現場調査員)を経て、現在は通信・ネットワーク関連を主な専門分野とするテクニカルライター。ついでになぜか煎茶道の師範もやっている。 |
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