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第4回 周波数割当

TEXT:佐藤 晃洋

 今回のテーマは「周波数割当」について。携帯電話事業への新規参入を巡って、ソフトバンクBBが800MHz帯の周波数割当を求めるなど、周波数の割り当てに関するニュースが注目を集めている。特にここ数年は、携帯電話や無線LAN・RFIDなど、無線を利用する機器が身近に増えてきており、この問題は私達の生活にもかなり深く影響を及ぼすようになってきている。しかし、そもそもこれらの機器が使用する周波数がどのように決められているかという点については、意外と知らない人が多いのではないか。そこで今回は周波数割当の基本を解説してみたい。


「この周波数はこの目的に」というのはどうやって決める?

 そもそも、電波は出力さえ十分に高ければ、例えば都内から発した電波が日本国内はおろか世界中に届いてしまう可能性がある。そのため、世界各国がそれぞれバラバラに周波数帯の割当を決めていたのでは、それぞれの国の電波が混信しあってしまい、電波による通信が使い物にならなくなってしまう。

 そこで世界的に「この周波数はこの用途で使用する」といった決め事を行なう必要から生まれた組織が、ITU(国際電気通信連合)の一部門である「ITU-R」(ITU Radiocommunication Sector)だ。ITU-Rでは周波数割当はもちろんのこと、無線通信のための各種規格の標準化、静止衛星の登録・管理など様々な業務を行なっている。その中でも、世界的な周波数の割当のために3~4年に一度開かれるのが「WRC」(World Radiocommunication Conference)という会議だ。携帯電話やアマチュア無線、テレビ放送など、電波を使用するシステムについては全てこの会議で基本的な割当が決められている。

 WRCでは、世界を第1地域(ヨーロッパ・アフリカ)、第2地域(南北アメリカ)、第3地域(アジア・太平洋)の3つに区分し、それぞれの地域で周波数をどの用途に使用するかといったことを決めるのが基本となっている。昔から世界共通の周波数帯を求める声はアマチュア無線などを中心に大きかったことに加え、最近では携帯電話やRFIDなど世界共通の規格を必要とする機器が増加してきているため、新たに割り当てられる周波数については徐々に世界共通の形態に移りつつある。しかし、過去の経緯から全てを統一するのは容易ではなく、細かい部分では依然として各地域で違いが残っている。

 このWRCの決定内容をもとに、日本では総務省が各周波数の利用目的を決めて行くのだが、 電波は周波数によってそれぞれ電波の飛ぶ範囲などの特性が異なる。特にブロードバンド用途の通信においては、1つの基地局である程度広い範囲をカバーできる電波特性を持ち、しかも広い帯域幅を確保できる周波数帯というのはどうしても限られる。そのため、ときには限られた帯域を複数の目的で共用しなければならないことがある。そんなときに使われる言葉が「~次業務」という表記だ。

 例えば5,770~5,850MHzあたりは、総務省が公開している周波数の使用状況を見ると、4段重ねになるほどの混み合いようだ。ここでは、「各種レーダ」が一次業務で、アマチュア無線、産業科学医療用の無線、高速道路のETCシステムなどで使われるDSRC等が二次業務となっており、利用の優先権は一次業務(各種レーダ)にある。同じように2.4GHz帯を見ると、一次業務は産業科学医療用の無線で、二次業務は無線LANとアマチュア無線になっている。つまり、無線LANは産業科学医療用の無線に影響を与えない範囲での使用のみが認められているということになる。

 このようにして各周波数ごとの利用目的が決められた後は、次は具体的にその周波数で利用されるシステムの技術基準を定める手続きに入る。あまりにも大きな出力で電波を送信すれば周りの周波数の電波に混信を招くし、それ以外にも本来の周波数の整数倍のところに現れる高調波などの余計な漏れ電波(スプリアス)が既存の無線通信に影響を与えないようにしなければならない。このあたりの検討作業は、日本では主に総務省の情報通信審議会が中心になって行なうのが普通だ。

周波数割当表(3,000MHz~10,000MHz) 周波数割当表(960MHz~3,000MHz)
3,000MHz~10,000MHzの周波数割当表。5,800MHz付近では4種類の用途で利用されている(2004年10月現在・総務省電波利用ホームページより) 960MHz~3,000MHzの周波数割当表。無線LANが利用する2.4GHz(2,400MHz)帯は産業科学医療用の無線とアマチュア無線も利用する
URL
 電波利用ホームページ(総務省)
 http://www.tele.soumu.go.jp/

【お詫びと訂正】
 初出時に、周波数の利用目的に関する「~次業務」についての解説に誤りがありましたので訂正いたしました。電波の利用目的に関する解説の中で、「三次業務」「四次業務」といった言葉を使用していましたが、正しくは他の業務に優先しての利用が認められる「一次業務」以外の利用目的は全て「二次業務」に分類されます。また、同じく文中で「つまりアマチュア無線は無線LAN等に影響を与えない範囲での使用のみが認められているということになる。」と記載している点についてもそのような事実はなく、アマチュア無線・無線LANは共に同等の二次業務として、混在した環境での利用が認められています。以上関係者にご迷惑をかけたことを深くお詫び申し上げます。


誰に免許を与えるか、方法はいろいろあるが一長一短

 これが終わると、いよいよ「誰にその周波数を使わせるか」を決める免許手続きの段階となる。ここが、ソフトバンクBBの件でも問題になった点だ。

 周波数の利用者の決め方には、欧州の3G携帯電話の免許などで使われた「オークション方式」や、無線LAN機器のように機器の出力などを制限する代わりに、免許不要で誰でも使用できるようにする「コモンズ方式」などいろいろ方法がある。一般的には、その帯域を使用したい人間が申請を行ない、その内容を監督官庁(日本なら総務省)が審査し、最も内容が良かった者に免許を与えるという「コンテスト方式」が使われることが多い。

 ただし、コンテスト方式の問題点としては、プロ野球の新規参入問題ではないが、どうしても申請内容の審査の段階で「どの申請を認めるか」という点に審査側の恣意的な判断が入りがちになってしまうという点がある。日本の場合は、総務省の全国11カ所にある総合通信局が免許の審査に当たるほか、必要に応じて電波監理審議会への諮問が行なわれる。しかし、審議会の議論そのものの傍聴や議事録の公開などは現状で行なわれておらず、審議過程でどのような議論があったのかといった点はやや不透明だ。

 またオークション方式は、単純に最も高い値段をつけた人間がその周波数帯域の利用権を得るという点では極めて市場原理に基づいており、わかりやすいという利点がある。しかしその一方で、3G携帯電話のケースでは通信事業者があまりにオークションに多額の資金をつぎ込んでしまった結果、せっかく利用権を得てもサービス開始のために必要な基地局などの設備投資を行う資金が大幅に不足し、サービスがなかなか立ち上がらないという問題が発生してしまっている。

 そしてコモンズ方式の場合は、多数のユーザーが限られた帯域を共有するという性質上、どうしても電波が混み合ってしまう。このため、安定した品質の通信を行なうのが難しくなることに加え、放送のような広範囲に電波を届ける必要のある用途には向かないという問題があり、どの方式も一長一短があるというのが現状だ。


使われなくなった電波は立退き料を払って新たな用途に

 このようにして割り当てた電波も、時代の流れによって技術革新が進んだりすると、全く使われなくなったり、使用頻度が減るものが出てくる。身近なところでは、ポケベルなどがその代表例だろう。

 システムが完全に停止してしまっているならば、その帯域の免許を取り上げて別の用途に転用することもそれほど難しくはない。問題なのは、頻度こそ減ってはいるが、まだ完全にはシステムが停止していない場合だ。このようなケースで、仮に免許を取り上げようとした場合に、既存の利用者が他の方法(電波を利用するものとは限らない)に切り替えるためのコストを誰が負担するのかといった問題が出てくる。このため、従来はなかなかそのようなシステムに手をつけることができなかった。

 この点について、日本では「新たな電波の利用者から『立退き料』を徴収し、それを原資として既存ユーザーのシステムの切替を進める」という方向に進んできている。具体的には今年改正された電波法の中で、周波数の変更または無線局の廃止を要求された既存無線局のユーザーに対し、そのために発生する費用について給付金などの形態で援助を行なえるようにすることが盛り込まれており、その原資には電波利用料を充てるとしている。

 このように、周波数の割当はいろいろな利害が絡んだ非常に複雑な仕組みとなっており、「新たに技術を開発したのでこの周波数帯域を使いたい」と言って簡単に使えるものではないということがお分かりいただけたかと思う。今後も携帯電話だけでなく、UWB(Ultra Wide Band)やWiMAXといった、新たな電波を利用する技術の登場が予想されているが、単純に新しい技術だからといって歓迎するのではなく、既存システムへの影響などをきちんと考慮した上で、お互いが幸せになれるような利用形態を実現できるようにしていかなければならないのだ。

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(2005/01/13)

佐藤 晃洋
 1975年北海道旭川市生まれ。某通信事業者での法人営業(という名の現場調査員)を経て、現在は通信・ネットワーク関連を主な専門分野とするテクニカルライター。ついでになぜか煎茶道の師範もやっている。

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