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第6回 UWB(Ultra Wide Band)

TEXT:佐藤 晃洋

 今回のテーマは「UWB」(Ultra Wide Band)。2002年に米FCC(連邦通信委員会)がこのUWBに関する規制緩和を発表して以来、IntelやMotorolaを始めとする様々な企業がこの分野に参入してしのぎを削っている。今年後半には、一般の消費者がUWBを利用した製品を入手できるようになる可能性が高い。果たしてUWBとはどのような技術なのだろうか。


UWBは「究極のスペクトラム拡散」方式

 いつものようにUWBの辞書的な定義を考えてみると、これはその名の通り「従来の無線通信に比べて非常に広い帯域を利用する無線通信」と呼ぶしかないだろう。従来の無線通信では、電波を狭い帯域に高出力で飛ばすことで通信を実現していたのに対し、UWBでは逆に非常に広い帯域に低出力で電波を飛ばす。UWBの電波の出力レベルは、グラウンドノイズ(宇宙線など、自然界に元々存在する電波が原因のノイズ)と同じぐらいに抑えても通信が可能になる、というのが売りの1つだ。

 では、なぜそのような低出力で通信が可能になるのか。そこで使われる技術が「スペクトラム拡散」だ。スペクトラム拡散は、すでにIEEE 802.11bなどの無線LANや携帯電話のCDMA技術などで広く使われている。デジタル信号を一度電波(搬送波)に乗せた上で、その信号を元の電波よりも広い帯域幅に拡散させて送信し、受信側でその拡散した電波を元の搬送波の形に戻すことで通信を可能にする技術のことだ。

 ただし、既存の無線LANなどでは拡散する帯域幅が数MHz程度であるのに対して、UWBではその幅は最大で数GHzにも達する。スペクトラム拡散方式には、元の搬送波(ベースバンド信号)に対して拡散後の帯域幅の比率が大きいほど、通信を行なうのに必要な電波の出力を下げられるという特徴がある。UWBは、その特徴を究極まで突き詰めて利用した、いわば「究極のスペクトラム拡散」方式ということができる。また帯域幅が広いという点は通信速度を上げる点でも有利であり、既にIntelなどはUWBを利用して数Gbps程度の通信が可能であることをシミュレーションで確認しているという。

 ここまで見るとUWBはいいこと尽くめのように聞こえるが、もちろんUWBにも弱点はある。それは「通信距離が短い」ことだ。UWBは電波の出力が非常に低いため、電波の飛ぶ距離は非常に限られ、一般的には送信アンテナから半径10m程度が通信できる限界だと言われている。また距離が通信速度に与える影響も大きく、後述するMB-OFDM方式のUWBシステムの場合、距離が3mで最大480Mbpsの通信が可能なものが、距離が10mになると速度は最大110Mbpsに低下するという。そのためUWBは主に「同一の部屋内での高速通信」用途に使われるのではないか、と見る関係者がほとんどだ。

 ところで「非常に広い帯域」といっても、実際UWBと呼ばれるためには最低どのぐらいの帯域幅を使う必要があるのか、という疑問を持たれる方もいると思うが、これにはFCCが明確な答えを出している。FCCの基準によれば、ある無線通信システムがUWBとして認められるためには、以下の2つの条件のどちらかを満たさなければならない。

  1. 10dB比帯域幅が中心周波数の20%以上
  2. 帯域幅が500MHz以上

 また現在のFCCのルールでは、UWB用に使用できる帯域は「3.1~10.6GHz」の間に限られているため、それに従うと帯域幅は最大でも7.5GHzということになる。


異なる2方式が独自に標準化を行なう方向へ

 UWBは電波の出力レベルがノイズ並みのため、他の無線通信システムにほとんど影響を与えることなく高速通信が可能という特徴を持つ。このことから、以前から関係者の間では注目を集めていたが、2002年の米国での規制緩和が引き金となり、多くの企業がUWBを利用した製品の本格的な開発に着手。それに伴う形で、IEEEにおけるUWBシステムの標準化も始まった。UWBも当初は様々な規格が乱立していたが、標準化作業が進展するに伴い、現在はほぼ2つの規格に集約されている。

 規格の1つはMotorolaやNICT(情報通信研究機構)らが推す「DS-UWB(Direct Sequence UWB)」方式(DS-CDMA方式と呼ぶこともある)。この方式はデジタル信号を3.1~4.85GHz、6.2~9.7GHzの2バンドに分けてそれぞれ拡散を行ない、最大1,320Mbpsでの通信が可能という方式。DS-UWB陣営の関係者によれば、この方式はそのシンプルさ故に1チップ化で有利な立場にあるほか、省電力という点でも有利だという。

 これに対して、Intelらが推進するのが「MB-OFDM(Multiband OFDM)」方式だ。こちらはFCCが認めるUWBの帯域幅を528MHz単位で14のサブバンドに分割し、それぞれのサブバンド内で通信を行なうという方式で、最大通信速度は480Mbpsとなっている。Intelはこの方式を推す理由について「802.11aなどUWBの帯域に含まれる既存の無線通信との干渉を考慮した場合、今後新たな方式が登場してきた場合でもMB-OFDM方式ではその部分のサブバンドをoffにすることで混信を回避できる」「米国以外では依然としてUWBに対してどの帯域の利用が認められるかが不透明だが、国によってUWB用の周波数帯が異なっても、利用するサブバンドを変更することで対応が容易」という点などを挙げている。また省電力化や1チップ化の面でもDS-UWBと遜色がないとする。

 当初はIEEE 802.15.3aにおいてUWBの方式の一本化が図られる予定だったが、この2陣営が対立した結果、どちらもIEEEでの標準化に必要な75%以上の賛成を得られていない。そのため、現時点では両陣営とも独自に規格の標準化作業を進めているほか、最終製品への採用を巡る働きかけも盛んだ。MB-OFDM方式を推す「Multiband OFDM Alliance(MBOA)」では、2004年11月に物理層のプロトコルの標準化を完了しているほか、ワイヤレスUSBやFireWireless(IEEE 1394の無線版)などがIEEEでの標準化の動向に関わらずMB-OFDM方式のUWBを採用することを決めるなど、規格面ではMB-OFDM方式の方がやや先行している感がある。一方でDS-UWB陣営は、2004年8月にFreeScaleのUWBチップセットがFCCに初のUWB製品として認定されるなど製品化の面で先行しており、どちらが主導権を握るかはまだ甲乙付けがたい。

DS-UWB方式の利用周波数 MB-OFDM方式の利用周波数

現時点では日本では事実上利用不可、早期の規制緩和に期待

 さて、UWBを搭載した製品が実際に登場したとしても、今のところ日本ではその製品を利用する場合には個別に無線局の免許を総務省から得なければいけない。これでは一般消費者が気軽にUWB製品を利用するというわけにはいかないため、米国と同様に日本においてもUWBの利用が広く認められる必要がある。

 そこで日本でも総務省の情報通信審議会の中に「UWB無線システム委員会」が設けられ、現在も検討が続けられているが、今のところ具体的な結論は出ていない。2004年3月に出された中間報告を見ても、アマチュア無線や電波天文といった分野だけでなく、携帯電話や衛星放送などに対しても影響が出る可能性があるとの指摘がなされており、場合によっては高速電力線搬送(PLC)などと同様に導入が先送りされる可能性も否定できない。

 ちなみに今回は通信用途のUWBについてのみ解説してきたが、UWBは他に車載レーダー等の用途でもその利用が有望視されており、そちらの分野でも開発が着々と進められている。このように様々な分野での応用が期待されている技術だけに、何とか既存機器との干渉問題を早期に解決し、実製品の登場と同時に利用ができる環境が整うことに期待したい。

URL
 UWB無線システム委員会 中間報告(総務省)
 http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040324_8.html

【お詫びと訂正】
 本連載の第4回「周波数割当」の中で、周波数の利用目的に関する「~次業務」についての解説に誤りがありましたので訂正いたします。電波の利用目的に関する解説の中で、文中で使用している「三次業務」「四次業務」といった言葉は存在せず、正しくは他の業務に優先しての利用が認められる「一次業務」以外の利用目的は全て「二次業務」に分類されます。また、同じく文中で「つまりアマチュア無線は無線LAN等に影響を与えない範囲での使用のみが認められているということになる。」と記載している点についてもそのような事実はなく、アマチュア無線・無線LANは共に同等の二次業務として、混在した環境での利用が認められています。以上関係者にご迷惑をかけたことを深くお詫び申し上げます。


(2005/02/17)

佐藤 晃洋
 1975年北海道旭川市生まれ。某通信事業者での法人営業(という名の現場調査員)を経て、現在は通信・ネットワーク関連を主な専門分野とするテクニカルライター。ついでになぜか煎茶道の師範もやっている。

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