月間249億500万ページビュー、ユニークユーザー数約3,931万人と推定される国内最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。現在はショッピングやオークションを始め、さまざまなサービスを提供しているが、ご存じの通り、そもそもの始まりは検索エンジンだ。検索の昔と今、そして未来。現在ホットな技術はなんなのか。スタッフのインタビューを通して検索を掘り下げる本連載の第1回目は、リスティング事業全般を統轄するヤフー株式会社リスティング事業部事業部長の志立正嗣氏にお話をお伺いした。
■そもそもの始まりは「インターネットの電話帳」
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リスティング事業全般を統轄するヤフー株式会社リスティング事業部事業部長の志立正嗣氏 |
――まずはYahoo!検索の経緯をあらためてご説明いただけますか。
志立:そもそもYahoo!は、アメリカのスタンフォード大学にいた2人が、インターネットのサイトの電話帳、羅針盤を作ろうとしたのが起源です。
検索エンジンの黎明期の考え方は、サイトを1冊の本として捉えるというものでした。ちょうど図書館の本を整理するのと同じように、同じジャンルのものは同じ場所に置くということですね。ただ、図書館で一番特徴的なのは、こういう分類というのが固定化されていることですが、Yahoo!は14のカテゴリを基本にして、その下の分類を時代やニーズに合わせて増殖させたり、削ったり、非常に動的に扱っているのです。これは図書館とは違って、非常にインターネット的だと言えますね。
1990年代も中頃から終盤にさしかかると、インターネット人口も、サイトの数も飛躍的に伸びてきました。もう、そうした管理方法が限界に達してきたわけです。本のたとえを使えば、本を整理するスピードよりも本が増えるスピードの方が早くなってきてしまった。じゃあどうするのか、そこで出てきたのがロボット検索というものです。今までは、サイトを1冊の本として捉えていたわけですが、そうではなく、すべての本のページ情報を集積し、ユーザーの知りたい情報が、どの本のどのページに載っているかまでガイドする必要性が出てきたのです。
検索される情報は2つのタイプに大別できます。まず1つは、メジャーな情報を求めている場合です。たとえば、企業名や製品名などが、検索キーワードとして1つだけ入力された場合には、たいていのユーザーは公式ページにジャンプすることを望んでいるわけです。そうではなくて、もっと欲しい情報が細かく特定できる場合は、複数のキーワードを入れるなどしてユーザーが情報を絞り込んで検索します。この場合は、ロボットによる検索が有効になってくる場合が多いでしょう。
Yahoo!では、専任スタッフが実際にアクセスして内容を確認した上で有用性が高いと判断したサイトを登録するディレクトリサービスと、ロボットによる検索エンジンの両方を提供していることが特徴と言えるでしょう。求める情報によってうまく使い分けていただければと思いますが、我々もどうしたらうまく使っていただけるかということを考えて、使い方の提案も含めてサービスを改善していきたいと考えています。
検索エンジンについては、Googleさんのページ検索エンジンを利用していた時期もありますが、今年の5月末からYahoo! JAPAN独自の「YST(Yahoo! Search Technology)」を利用しています。
■「東京の天気」と検索した場合、ダイレクトに東京の天気を表示したい
志立:検索サービスはいろいろな意味でまだまだ過渡期だと考えています。不十分な点はたくさんあります。
たとえば、ごく最近対応した機能があるんですが、検索窓に「東京の天気」と入力すると、検索結果の上部に東京の天気予報が表示されるようになりました。株価も、「ヤフーの株価」や株式コードを入力するだけでダイレクトに表示されます。
どうしてこういうことをしたかと言いますと、「東京の天気」とキーワードを入力した場合、ユーザーは「東京の天気」という語句を含むページが見たいわけではなく、単刀直入に東京の今日明日の天気を知りたい場合がほとんどです。「探しているものそのもの」を出してあげる、そういう方向性になってきていると思います。明らかに検索語に対してメジャーなサイトや情報が存在するなら、そこに直接アクセスできてもいいのではないか、ということです。これを我々は「ダイレクト検索」と呼んでいます。
天気のほかにも、たとえば「Yahoo!の株価」と検索キーワードを入力した場合など、このキーワードを入力したら、ユーザーはそのキーワードを含むサイトやページのリストではなく、情報そのものがすぐ表示される方が明らかに便利、というキーワードも少なくありません。株価についても、すでに「ヤフーの株価」や株式コードの番号などを検索窓に入力すると、株価が検索結果で直接表示されるように変更しました。
Yahoo! JAPANでは、サービスがものすごく増えているのに、検索エンジンでそれをうまく活かしきれていないという面もあるので、すでにあるコンテンツをもっと有効に活用していただく意味でも、こうした「ダイレクト検索」というものを少しずつ利用できるようにしていこうと考えています。
そうした改良と同時に、ロボット検索そのものの性能を上げていくこともやっていかなければなりません。助詞や表記のゆれ、文の区切りなど、日本語特有の問題も多く、これもまだまだ改善の余地があるでしょう。
■インターネット上に表現されている知は、ほんの一握りにしか過ぎない
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Yahoo!知恵袋は「“未だインターネット上に表現されていない知”を引っ張り出す道具」(志立氏) |
――今後、検索はどのような方向に進化していくのでしょうか。
志立:やはり画像や音声などマルチメディアな方向に広がっていくんだろうな、ということは考えています。さらに、情報を検索するという究極のところまで行くには、Webページとして掲載されていない情報もすくいあげる必要性を感じています。例えば、「Yahoo!知恵袋」などはそれにあたるものです。
Yahoo!知恵袋は、あらゆるテーマにおいて、ユーザーが出した質問に対して、その問題に詳しいユーザーが答える、そうしたやりとりをする場です。そもそも、インターネット上の情報は、誰かが頭の中で考えていることや調べたことをアウトプットするために、Webページとして記述したり、ブログを書いたりするわけです。
しかし、こうしたインターネット上に表現された知、というものは、世の中のいろいろな人の頭の中にある知に比べれば、ほんの一部分にしか過ぎないと思うんです。そうした「未だインターネット上に表現されていない知」というものを引っ張り出す道具として、Yahoo!知恵袋のようなサービスが必要なのだろうと思います。
こうした装置があることによって、インターネットに向いていなかったような種類の知まで、インターネット上に蓄積できるわけです。我々はこの分野には非常に期待しています。事実、韓国ではこうしたユーザーのやりとりから情報を検索するタイプのものが、普通の検索エンジンの検索数を抜いてしまっていると聞きます。もちろん、韓国の場合はWebページに蓄積された情報の絶対数が国内に比べて少ない、という事情はありますが、検索エンジンとは違うアプローチの情報の集積にそれだけニーズがあるということで、注目しています。
そうしたQ&A方式で蓄積される情報の扱いで難しいのは、どんな人が回答を書いているかという評価です。情報の内容がどれだけ信頼に足るものなのか、このレーティングの仕組みがないと、普通の掲示板となんら変わらないものになってしまいます。
オークションサービスを提供する時も、我々はその点で悩みました。どういった人が出品し、どういった人が落札しているのか。その信頼性を表現するためにオークションで導入したのが、現在の評価システムです。Yahoo!知恵袋では、貢献度のような形でしかまだ表現できていませんが、もっと洗練させていかなければならないと思っています。
■「サービスが増えたせいで、検索窓が多すぎる」
志立:このほか、僕たちがやらなければならないと思っているのは、サービスが増えるにつれ、検索窓が多くなりすぎてしまっていることへの対策です。おそらく100個は超えてしまっているのではないかと思います。
例えば、グルメの分野だけでも、レシピの検索、レストランの検索、なんでもQ&Aの検索など、豊富な情報があるのはいいのですが、検索窓が多すぎるのではないかと思っています。
確かに、きっちりとした目的があるならば、検索窓がニーズごとに用意されているほうが便利です。しかし、すべてのユーザーがそこまでコンテンツすべてに精通しているというわけにはいかないですし、それらの豊富な情報から、適宜必要な情報を引っ張り出してくる仕組みが必要だろうと思います。
我々はこれを「複合検索」と呼んでいますが、検索に使う窓を限定しなくても、「このページでこの語句を検索しているのだから、きっと欲している情報はこういうものだろう」と予測して検索結果を表示するアルゴリズムですね。こうしたことはやっていかなければならないと思います。さらに話を発展させると、こうしたことをやるには、パーソナライズ、というものが重要になってくるのです。
■パーソナライズによって、検索エンジンをチューニングできるようにしたい
――パーソナライズというと、性別や生活スタイルに合わせて検索結果を調整するということですか?
志立:利用者が増えれば、それだけニーズも多様化します。検索キーワードが同じでも、ユーザーによりレシピを知りたかったり、ショッピングをしたかったりするわけです。
「こういう種類の情報は表示しない」とか「こういう情報は常に求めているから上位に表示させるようにする」とか、検索インデックスそのものをカスタマイズできるようにすることで、ユーザーにとってより効率よく自分に必要な情報を探せるようになるのではないかと考えています。
現在は検索エンジンを使うのにお金を払おうというユーザーはいませんが、こうした方向性ならば、十分に商品としての価値も出てくるのではないかと思っています。
――最後にお聞きしたいのですが、今、MSNやGoogleがパソコンの中のファイルを検索するデスクトップサーチが注目されていますが、御社ではそれについてどのように考えてらっしゃいますか?
いつか我々もやることにはなるとは思います。ただ、ただローカルファイルを検索エンジンの手法で検索することそのもので便利になるとはあまり思いません。現在はむしろ、ローカルファイルを検索するよいソリューションがないために、ローカルファイル検索が求められているのであって、ローカルファイルとネット上の情報を区別なく検索可能となることが、必ずしもユーザーの求める解決方法とは言えないのではないかと思っています。
一番大事なのは、ユーザーが求める情報をいかに簡単に、効率よく得られるかということです。そのために、検索できる範囲を指定できるようにするとか、先ほど触れたように、ユーザーが求めているものが明らかなら直接その情報ページを表示するとか、いろいろな工夫を考えています。ローカルファイル検索はあくまでそうした方法の1つであって、それ1つでユーザーが便利になるというわけではないでしょう。また、ロボット検索だけではなく、ディレクトリも常にフィードバックを踏まえて改善していかなくてはならないし、やれることはまだまだあると思います。
――ありがとうございました。
□Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/
□ダイレクト検索
http://search.yahoo.co.jp/promo/direct.html
□Yahoo!知恵袋
http://knowledge.yahoo.co.jp/
[2004/11/26 取材・執筆:伊藤大地]
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