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[2004/12/27]
第6回:米国Yahoo! Inc.の検索エンジンと「Yahoo! Search Blog」の裏側
[2004/12/22]
第5回:Yahoo!検索の開発最前線! YST開発の4つのポイント
[2004/12/20]
第4回:Yahoo!検索の開発最前線! 米Yahoo! Inc.の現場とは
[2004/12/16]
第3回:Yahoo!検索の開発現場の仕事とは
[2004/12/10]
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[2004/12/03]
第1回:Yahoo!検索の現在・過去・そして今後
[2004/11/26]

Yahoo!の検索ビジネス戦略を探る


第5回:Yahoo!検索の開発最前線! YST開発の4つのポイント

~米Yahoo!副社長 Tim Cadogan氏に聞く

 月間249億500万ページビュー、ユニークユーザー数約3,931万人と推定される国内最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。連載第5回目となる今回は、Yahoo!検索の心臓部にあたる検索エンジン「YST」の開発現場、米国Yahoo! Inc.の検索部門上級副社長 Tim Cadogan氏にYSTについてお話を伺った。

 なお、Cadogan氏はYahoo! Inc.が7月に買収したOverture Servicesの元検索担当上級副社長。買収以前の2003年1月にYahoo! Inc.に移った経歴を持つ。


YSTの大部分は、新規開発された全く新しい検索エンジン

米国Yahoo! Inc.の検索部門上級副社長 Tim Cadogan氏

――まず、YST開発の経緯からお聞きします。なぜ、独自のエンジンの開発を決めたのでしょうか?

Cadogan:なぜ私たちが独自の検索エンジンを開発したのか。それは、ポータルとして業界のリーダーであり続けるためには、独自の検索機能を提供することが不可欠だろうと判断したからに他なりません。その経営判断に基づいて、まず2002年末にInktomiを買収しました。そして、2003年には検索エンジンを用いたオンライン広告の技術を持つOverture Servicesを買収し、彼らが傘下に収めていたAltaVistaとAlltheWebという2つの検索エンジンの技術を得ることができたのです。

 買収で得たこれら3つのエンジンを組み合わせて新しいエンジンを作ること、これはチャレンジでもあり、大きなチャンスでもありました。まず、全く別のところから来た開発チームとその技術を抱えたことで、さまざまな考え方、ものの見方ができるようになりました。そしてこのことは、これまで自分の研究に没頭していたスタッフたちに、自分や他のチームの人間がこれまで、どういったことを学び、そして成し遂げてきたかを振り返って冷静に考えさせる、とてもいい機会になったのです。

 そうした効果もあって、4~6カ月という驚異的なスピードで開発され、2004年2月に発表されたのが、Yahoo!の全く新しい検索エンジン「Yahoo! Search Technology(YST)」です。

――3つのチームを統合させるのは大変な作業ですね。実際の開発チームはどのように組織されていたのでしょうか?

Cadogan:検索エンジンの開発部隊は、主に2つのチームから成り立っています。1つは検索対象となるサイトを集め、関連性で分類するチーム、もう1つは検索語から適切なデータを引き出すアルゴリズムを分析するチームです。他の会社から来たスタッフを、ただ元いた会社ごとに仕事をさせるのではなく、適切なポジションに適切な人材を配置するよう心がけました。これは試行錯誤の繰り返しでしたね。組織の統合というのは、一般的に言うと非常に難しいことですが、YSTについてはとてもうまくいったと思います。なにしろ本当に彼らは有能ですから。

――では、ただソースコードをつじつまが合うように合わせた、というレベルではなく、人員と時間という開発に必要なリソースそのものを統合させた、ということですね?

Cadogan:その通りです。一部、統合前の検索エンジンの技術を用いている部分も確かにありますが、YSTの大部分は統合された新しいチームによって開発された全く新しい検索エンジンです。


YST開発の4つのポイント

米国Yahoo! Inc.のエントランスにあるYahooメールチェック用PC

――YSTの開発思想についてお話しいただけますか。

Cadogan:世界市場における検索エンジン業界トップの座を奪い返すために、我々は4つのポイントに絞って完璧な検索エンジンを目指しています。

 第1のポイントは、「Comprehensiveness(包括性)」です。これはインターネット上のすべての文章を検索対象とすることを意味します。ある検索エンジンがほぼすべてのWebを網羅していて、もう一方が全体の50%しか網羅していないということになれば、ユーザーがどちらを選ぶかは明白です。すべてのWebサイトをカバーし、かつ検索精度を落とさない――これは、常に新しい技術を開発しなければならないことを意味します。

 第2のポイントは「Commonsense(常識)」です。たとえば「iPod」と検索した場合、ユーザーはiPodの情報を知りたいのであって、iPodの類似製品についての情報を調べているのではありません。これは常識で判断できることです。こうした常識をアルゴリズムに持たせること、これは大変重要なテーマです。

 第3は、「Freshness(情報の新しさ)」です。これは、特にニュースのような、常に情報が更新される情報を扱う上で重要です。たとえば今、イラクについて検索したとします。この場合、ユーザーは現在のイラク情勢について知りたい、というケースがほとんどでしょう。1年も前のニュースや観光情報が結果に表示されても意味がないのです。

 第4は、我々が「プレゼンテーション」と呼んでいることですが、これはこれまで挙げた3つのポイントとはちょっと質の異なるもので、検索ページ自体をどうやって見せるか、という外見の問題です。具体的には、ページタイトルはどうやって記述するのか、色をどう使うのかなどで、要はいかにしてユーザーが情報を早く見つけられるようなページにするか、ということですね。我々は米国だけでなくグローバルに事業を展開していますから、1つの答えに帰結するだけではなく、常に追求し続けなければならないテーマですね。

――Yahoo!のキーパーソンは常に検索精度とパーソナライズの関連性について言及していますが、それについてはどうお考えですか?

Cadogan:パーソナル検索に限った話ではありませんが、検索精度に関して言えば、常にユーザーが検索をどのように使っているのか、ということを念頭に置いて作っています。

 我々は毎日のように検索語と結果、いつそれを調べたか、そして結果に対してユーザーがどういう反応を示したか、というようなサンプルデータを採取し、研究しています。ページのレイアウトを変えるとどうか、全く別のアプローチで検索結果を出すとどうかなど、実験を繰り返しているのです。これは「はじめにパーソナライズありき」ではなく、ユーザーがどう反応するかを知りたいからです。

 その積み重ねによって、「こういう検索語を入れたらこういう結果が出るようにすればいいかもしれない」とか、「こういう結果を出すとユーザーは反応しないから、これは省くようにチューニングした方がいいのではないか」という方針が浮かび上がってきます。それをエンジニアに持ち込むと、「じゃあ、こういう方法はどうだろう」といった風に改良していくことで、検索エンジンが進化していくわけです。

 Yahoo!の他のサービスを使っているユーザーが、ついでに検索エンジンを使い、逆に検索のために訪れたユーザーが別のサービスを使う、こうした相乗効果によって利用者は伸びます。そしてユーザーが多くなれば、それだけデータを集められるわけですから、さらに検索エンジンの精度が高まるわけです。

Yahoo! Research Labs
http://research.yahoo.com/
Yahoo! Research Labsでは、おもにYahoo!の技術的なチャレンジに関する情報を提供している。このページから、メールで人材募集について問い合わせることも可能だ
Yahoo! Research Labsの開発メンバーの紹介コーナーもある。プロフィールのグラフィックがみんな個性的で楽しい

競合サービスとの差別化~1億人のYahoo!登録ユーザー

米国Yahoo! Inc.内にあるオリジナルグッズショップ

――精度を上げても、実際に使った感覚だけではなかなかライバルたちとの違いがわかりにくいのが現状ですが、これからどうやって差別化していくのでしょうか。

Cadogan:競争相手の中でも、筆頭はGoogleとMicrosoftでしょう。彼らとどうやって差別化するか。それは、一言で言うと「我々は単なる“Yahoo! Search”ではない。“Yahoo!”である」ということです。もちろん、検索そのものも重要ですが、我々には全世界で2億5,000万人のユーザーがいて、さらにそのうち1億人は、Yahoo!の登録ユーザーです。

 登録ユーザーは我々のサイトにログインして、検索をしたりツールを使うことで、自分の好みや行動の傾向といったものをデータとして残していきます。それをわれわれが分析し、その人に合った検索結果を用意することで、さらに検索の精度が上がります。これはユーザーと我々の間で行なわれる一種のコミュニケーションといってもいいでしょう。登録によって、我々とユーザーが結びつけられます。まさにここで、パーソナライズが差別化の切り札となるわけです。

 そうした発想から生まれたのが、現在ベータ版として提供している「My Yahoo! Search」というサービスです。登録ユーザーならば誰でも使えるサービスで、検索結果のリストの中から気に入ったものを保存したり、気に入らないものをブロックしたりできます。これは、登録ユーザーを持っていることが新たなインフラの構築を可能にしている1つの例です。多くの登録ユーザーを持っていることは、我々にとって大きなアドバンテージですね。しかし、これはまだスタートに過ぎません。もっと検索エンジンを強力なものにしていかなくてはならないと思います。

 2番目の我々のアドバンテージは、映画、スポーツ、金融、ニュースなど幅広い分野に渡る豊富なコンテンツを持っていることです。検索エンジンと自分たちの持つコンテンツを結びつけることで、相乗効果が得られるのです。たとえば、「Palo Alto(=パロアルト。米国カリフォルニア州の地名)」と「Weather」という語句で検索すると、通常の検索結果も表示しつつ、さらに検索結果一覧の上の方にパロアルトの天気が表示されるようになっています。これはYahoo! Weatherの情報を取得したもので、我々が「The Right Display(=正しい結果を表示する)」と呼んでいる機能です。ここで大事なのは、いつも原則に立ち返ること。つまり、「ユーザーが求めている答えを返すこと」です。この例では、ユーザーがパロアルトの天気を知りたいというのは明らかなので、それを検索結果のページで直接見せてあげれば、他のページに誘導する必要はないのです。これで、豊富なコンテンツを持っている我々が有利であることをおわかりいただけると思います。

 また、10月にAdobeと提携したことも我々にとって大きかったですね。なにしろ、Adobe Readerをはじめとしたアプリケーションに、Yahoo!の検索窓が付くことになっているのですから。PDFドキュメントを読んでいて、なにかわからない用語があればすぐに調べられるようになるのです。簡単に言えば、我々はユーザーがコンピュータを使っているすべての場面にYahoo!の検索がある、そういった環境を目指しています。Yahoo.comからの検索を増やすのはもちろんですが、他社と提携してWebサイト以外からのアクセスを増やすことは、競合との差別化の意味でも今後、さらに重要になってくるでしょうね。

Yahoo! NEXT
http://next.yahoo.com/
Yahoo! NEXTでは、Yahoo!の提供するベータ版サービスが案内されている。Yahoo!が目指すものをより深く知りたければ、ここにリンクされているYahoo! Research Labsのページへ
MY Yahoo! Search
http://mysearch.yahoo.com/
米Yahoo!でベータ版として提供している「MY Yahoo! Search」。試しに「INTERNET Watch」で検索してみる
検索結果の下に「Save」「Save with Note」などが表示される。「Save」をクリックすると、「My Web」というページに検索結果がセーブできる。すでにセーブしてあるURLは、画面のように「This result is saved...」と黄色でハイライトされて表示される MY Yahoo! Searchの検索結果からセーブしたURLは、My Webのページで一覧できる。サマリーも表示されるので、何のページかわからなくなることもない。わずらわしいブックマーク管理が不要になる便利さ!

米Yahoo!の新検索機能「プロダクトサーチ」と「ローカルサーチ」

――米国のYahoo.comでは、製品情報を検索できるプロダクトサーチと地域の店舗情報などを検索できるローカルサーチが利用できると聞きました。それについてお伺いできますか。

Cadogan:コンテンツを持っているということ。これは大きな強みだということは先ほどお話ししました。プロダクトサーチもその言葉に当てはまる例だと思います。この機能は、商品名や型番を入力すると製品のカタログ情報はもちろん、Yahoo! Shopping内の販売価格の比較、さらに郵便番号を入力すれば送料込みの値段での比較も可能になります。ただの検索エンジンではなく、製品検索と買い物に絞った使い勝手になっているのです。もちろん、価格でのソートや、通常の検索と同じように関連性でのソートも可能です。そして、そこから商品と店舗を選べばそのままYahoo! Shoppingで購入できるわけです。つまり、製品選びから購入手続きまですべてのプロセスがYahoo!の中で完結するシステムになっています。

 一方のローカルサーチですが、これまでインターネット上のイエローページ(米国の電話帳)はごくごく限られたものでした。たしかにイエローページというものは、自分が探しているものの分類がわかっていれば便利なのです。しかし、そうでない場合はどこを探していいかわからなくなってしまう。ここに検索エンジンが持つ包括性と関連性に従った情報の表示、そして情報の新しさという長所を活かすことができないだろうか、そう考えました。

 ローカルサーチはレストランやデパートなど知りたい場所のジャンルや店名、そして州や町の名前など範囲を限定する語句を入力すれば、それに該当する店をリストアップし、クリックすると連絡先と地図が表示されるというものです。ただ欲しいと思っているものを入力すればいい、そうした使い心地を追求した末にできたものです。

――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

Cadogan:我々がこれまで、積極的にアピールしてこなかったこともあり、新しくなったYahoo!の検索をまだ使われていない方がまだ大勢いらっしゃいます。しかし、お使い頂ければ、非常によくできた検索エンジンだということがわかるでしょう。ぜひ情報を検索する際の選択肢の1つとして、利用していただきたいと思っています。

――ありがとうございました。

たとえば、プロダクトサーチで「See's Candies bridge mix」と入力すると、どのショップでいくらで販売されているかが、検索結果としてダイレクトに表示される。販売ショップが複数あれば、価格比較も一度の操作で可能だ プロダクトサーチの結果をセーブすることもでき、セーブした商品は「Buy It」のボタンを押すだけで購入可能。ギフトでいろいろなものを比較したいときなど、買い物メモ代わりに利用可能

□Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/

[2004/12/20  取材・執筆:伊藤大地]


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