月間249億500万ページビュー、ユニークユーザー数約3,931万人と推定される国内最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。連載第5回目となる今回は、Yahoo!検索の心臓部にあたる検索エンジン「YST」の開発現場、米国Yahoo! Inc. 検索部門エヴァンジェリストのJeremy Zawodny氏にお話を伺った。
Zawodny氏はブログやRSSの普及にも尽力し、MySQLに関する著書もある有名なエンジニアだ。
■エヴァンジェリストの仕事とは?
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米国Yahoo! Inc.の検索部門エヴァンジェリスト Jeremy Zawodny氏 |
――まず、エヴァンジェリストというお仕事についてお聞かせください。
いい質問ですね。私の仕事は“こういうものです”となかなか表現しにくいものですから(笑)。マーケティングでもないし、プロダクトエンジニアリングというわけでもない。業務はさまざまな分野に渡り、ひとつのグループに収まりきらないですね。今もっとも力を入れているのは「Yahoo! Search Blog」ですね。これはYSTについての情報をYahoo!のスタッフが記録する開発日誌のようなものです。スタッフでもまだブログに慣れていない人も多いので、環境をセットアップしたり、円滑に利用できるよう手助けをしています。
あとは、新たなサービスを始めるにあたって、実現に向けてプロジェクトを立ち上げる、というようなこともありますね。ただ考えているだけではダメで、行動することによってなにかしらの反応が得られますし、それが結果的に進歩に繋がりますから。
また、会社が取り組まなければならないテーマを見つけ出すことも大事な仕事です。そして、それを実現するにはどのような人と話し合わなければならないか、そういった次のサービスの仕込みも私の仕事のひとつです。
人材発掘もあります。研究職に興味があり、いいアイデアを持っている人材をYahoo!に迎え入れる、ということですね。おおよそ、私のやっている仕事はこんなところでしょうか。
■Yahoo! Search Blogの意味
――なるほど、Yahoo! Search Blogの話が出ましたが、内容について詳しくお聞かせください。
見て頂ければわかると思いますが、Yahoo! Search Blogにはさまざまなコンテンツがあります。私のような開発メンバーのコメントもあれば、読者への問題提起もありますし、新しく追加した機能についての説明もあります。今、直面している技術的問題についても書くときがあります。つい最近始まったものに、インタビュー特集があります。これはYSTの開発に関わっているいろいろなスタッフに話を聞き、それを公開することで外部の人にももっとYahoo! Searchに興味を持ってもらおうという狙いです。Yahoo!の中でなにが起こっているのか、Yahoo!はどういう考え方を持ってサーチエンジンを作っているのか、どんな人が働いているのか、これを伝えられたらと思っています。
また、新しいサービスをベータ版で提供するとき、そのサービスの開発者がサービスについて解説し、アピールする場としても活用しています。実際、数週間前の画像検索の立ち上げの時にはそういったキャンペーンを行ないましたね。
とにかく、Yahoo! Search Blogは、Yahoo! Searchを少しでも多くの人に知ってもらいたい、伝えたい、ということでできたのです。一般のユーザーにサービスのことをより知っていただくには、プレスリリースを発表して、それで終わり、というやり方よりもよっぽどいいコミュニケーションだと思っているのですが(笑)。
――今のところ順調ですか。
そうですね。もう多くのフィードバックをYahoo! Search Blogから得ることができました。驚いたのは外部だけでなく、社内からも「もっとサーチエンジンをこうした方がいい」といったフィードバックが帰ってきたことですね。我々が書くと、内部、外部に拘わらず必ず誰かがコメントをくれる。実際に見て頂ければわかりますが、我々のサーチエンジンに対して、さまざまな意見交換が行なわれるよいコミュニティになっていると思います。
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米Yahoo!社内のカフェテリア「URL」。世界各国の料理が並ぶ
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カフェテリア「URL」の客席。日差しを取り入れた、開放感のある設計だ |
■来年にはRSSを使ってYahoo!でいろいろなことができると思う
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米国Yahoo! Inc.のキャンパス全景 |
――ブログやRSSなどを積極的に取り入れるという方針は、Yahoo!がこれまでのサービス重視路線からテクノロジーへと目を向け始めたということでしょうか。
確かにそうかもしれませんが、会社自体の方針がどう、ということは私には申し上げられません。ただ、Yahoo! Search Blogに関していえば、人材発掘のため、という側面があるのは確かです。
ある人が転職するとしましょう。決意に至るまでには、会社のある場所は気候がいいか、会社の経営は安定しているかなど、考えなければならないことは無数にあるわけです。しかし、普通その会社でなにが起こっているかは外部の人間にはわからないのです。今あなたがされているように、インタビューでもできれば少しはわかるのでしょうが、それは誰にでもできることではありません。
しかし、Yahoo! Search Blogがあれば、Yahoo!のスタッフが何を考えているかが外部の人間にもわかるということです。そしてこれを継続することで、ブログは記録として残り、後々、大きな助けになるでしょう。人材発掘、記録としての価値、こういったブログによって得られたものが、よりよい検索エンジンを作るのに役立つだろうと思います。
――今、人材発掘についてのお話がありましたが、そういったブログを開設することによって、技術的に詳しく、最先端のテクノロジーやサービスを追い続けている人が集まるコミュニティが盛り上がりますよね。Yahoo!はRSSも積極的に取り入れていますが、これも同じ狙いがあるのでしょうか。
今日、ブログに造詣の深い人は、たいてい、常に新しい技術を人よりも早く取り入れ、珍しいデバイスを買って友達に見せびらかしたりするような人たちでしょう。そういう人が「お、これは面白いぞ」と興味を示すと、それを追って、一般の人が目を向け始めます。今、Yahoo! Search Blogに集まって意見交換をしている人たちは確実に、そういった、いわゆる「ギーク」と呼ばれる人たちが引っ張っていますね。もっとも、そういった現象はどこにでもあり、特別なことではないと思います。
当然、我々が伝えるまでもなく、ギークのような人たちはすでにRSSツールのような先端をいくソフトは使っていますよね。しかし、一歩そういったコミュニティから出れば、一般のユーザーはまだまだRSSなんて見たことも聞いたこともないし、興味もない、という人ばかりなのです。そういった人にどうやってアピールすればいいのか。まだYahoo!も取り組みを始めたばかりですが、RSSに関していえば、ポイントは個人個人がBlogというメディアを使って情報を発信できるということ、そしてRSSは個人のメディアも、大企業のメディアもあらゆる情報をひとつの場所に集めてこれるということではないかと思っています。
残念ながら、Yahoo!がRSSを使ってどういうことをしようとしているのかについて、今の段階ではあまり具体的なお話はできませんが、来年にはRSSを使ってもっといろいろなことができるようになっているだろうと思います。本当は言いたくてノドまで出かかってますが、もし言ったら会社からすぐにつまみ出されてしまいますからね(笑)。このインタビューの後の会議も実は、RSSの案件なのです。
――なるほど(笑)。ブログに関連した話題ですが、SEOの手段としてコメントやトラックバックをスパム的に利用するやりかたが今、日本では問題になっているのですが、いかがでしょうか。
いや、日本だけではなく米国でも大きな問題ですよ。我々は「ブログファン」や「コメントファン」というように皮肉をこめて呼んでいますが、企業が単に自分の会社の製品を宣伝したいがためにブログを作り、リンクを張るという悪質なSEO行為です。だいたい、私も自動的に自分のサイトへのリンクやコメントを増殖させるスクリプトを書こうと思えば書けますから。ブログのシステム側からも、検索エンジン側からも、双方から仕組みを考えていかなければならないでしょうね。
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米Yahoo!社内にあるジム
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オフィス内にもカフェのコーナーが設けられている
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■Yahoo!のアドバンテージ~サービスの総合力
――一般的に、Googleの登場によってYahoo!の検索に対する姿勢が変わり、YSTを生み出したという見方もありますが、どう思われますか?
客観的に見ればそうなのでしょうね。私はYahoo!の従業員ですが、友人にはGoogleで働いている人もいます。開発を行なう我々のようなギークやハッカーと呼ばれる人間のコミュニティは驚くほど狭い世界なんですね。勤めている企業や業界も限られています。Googleに限らず影響を与え合うのは別に不思議なことではありません。もっとも、開発レベルの問題以上に、今や検索は大企業間の競争になっていますから、切磋琢磨するのは当然でしょう。マイクロソフトはもちろん、Yahoo!もすでに大企業です。Googleもどんどん大きくなっていますし。
――MSNも検索を始めましたが、他社の技術と比べて、Yahoo!の持っているテクノロジーはどのようなアドバンテージがあるのでしょうか。
MSN Searchはまだ公開されたばかりですから、評価するには早いと思います。彼らはまだテスト中で、データを集めている段階ですから。
検索業界に関して言えば、もし一般ユーザーをここに連れてきて、検索エンジンの名前や見た目を隠して、YSTやらGoogleやら複数のエンジンをテストさせたとしましょう。結果だけを見たら、おそらく違いはわからないんじゃないでしょうか。今現在、どのエンジンもそこそこの結果を返してくるだろうと思います。
では、Yahoo!が他とどう違うか、ということを語るならば、「Yahoo!はただの検索エンジンではなく、それ以上のものだ」ということになるでしょう。Yahoo!には膨大な数のコンテンツがありますし、検索エンジンだけでなく、メール、ゲーム、ニュースのようなさまざまなサービスや情報を提供しています。間違いなくこれは我々の強みですね。
ローカルサーチもいい例で、他社のどのサービスよりも優れていると自負しています。親戚や友人にこれを見せると必ず彼らは「すごいね。なんで今まで知らなかったんだろう」と言いますから(笑)。店の住所を調べるのに、いちいち電話帳で住所を調べ、その住所を調べるためにさらに地図を開く、といったことが不要になります。
我々はローカルサーチを携帯電話でも利用できるように開発を進めています。これは日本のユーザーにも受けるんじゃないでしょうか。今まで日本には2度行っていますが、帰国するたびに「アメリカのケータイはなぜこんなにデカくて醜いんだ? 日本のとは雲泥の差じゃないか」と思っています(笑)。本当に、モバイルに関しては日本から学ぶべきところは多いですね。今後は、我々の検索技術を携帯電話に広めていくこと、これは重要なミッションだと思っています。
――最後に今後の抱負をお聞かせください
詳しいことはお話しできませんが、来年、検索にも大きな機能が加わると思います。そしてそれはみなさんにもきっと喜んでいただけると思いますよ。
――ありがとうございました。
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米Yahoo!のキャンパス内に設けられたバスケットコート
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ビーチバレーのコートもある
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□Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/
□Yahoo!
http://www.yahoo.com/
□Yahoo! Search Blog
http://www.ysearchblog.com/
[2004/12/22 取材・執筆:伊藤大地]
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