月間249億500万ページビュー、ユニークユーザー数約3,931万人と推定される国内最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。今回は、米Yahoo! Inc.が買収したオンライン広告会社、Overture Services Inc.でワールドワイド展開の陣頭指揮を執るプレジデント、Brian Steel氏にYahoo!の子会社となったOvertureについてお伺いした。
■Yahoo!のOverture買収は、両者にとって大きな成功だった
|
Overture Services Inc.で、ワールドワイド展開の陣頭指揮を執るプレジデント、Brian Steel氏 |
――昨年末の買収決定から約1年半、Yahoo!の子会社となって大きく変わった点などはありますか?
OvertureもYahoo!も似たような歴史や企業文化を持っていたので、スムーズな体制移行ができたと思います。両社ともに同じような時期にスタートアップし、インターネット時代を生き延びてきた企業ですから。そして今、お互いにないものを補い合えるいい関係だと思っています。
一般的に言ってM&Aはうまくいかないことも多いですが、Yahoo!とOvertureの件に関して言えば、大きな成功だったと言えるでしょう。今や、Overtureの従業員はほとんどYahoo!の従業員となっています。元Overtureの従業員ともともとYahoo!からいる従業員の間で派閥が分かれるようなことはありません。とにかく、この2つの企業は非常に似たもの同士で、一緒になったことによってさらに大きなエネルギーを得たと思います。
――どのような部分でYahoo!に貢献できていると思いますか?
やはり人材面での貢献は大きいと思っています。事実、OvertureのチーフサイエンスオフィサーだったGary Flakeが今、Yahoo!の研究開発を行なうYahoo! Research Labsのトップにいますしね。
あと、Overtureが、Yahoo!にはなかったものをもたらした、ということは重要だと思っています。OvertureにはYahoo!とは付き合いのないビジネスパートナーがたくさんいます。そして彼らがどんな技術を求めているか、何を重要だと思っているか、そしてそれはなぜかなど、一言で言うと広告主のニーズに関して我々はノウハウの蓄積があります。そういった意味では、会社の意志決定、とりわけ検索技術に関する部分や、マーケティングにおける優先順位付けといった部分に我々は大きく貢献できていると思います。
あらゆるプロジェクトというのは優先順位という問題がつきまとうものです。常に何が一番大事なことかを決断していかなければならないのです。さまざまな要素を考慮し、優先順位を付けることでいい仕事ができ、よりよい技術を生み出せるのだと思っています。
■日本市場の特異性
――Overtureが非常に日本でも好調だと聞きました。それについてはどう思いますか? また、日本市場の特異性というものがあれば教えてください。
インターネットというのは根本的に国境を越えるもので、さまざまなニーズに応えていかなければなりません。そのためには異なる文化、異なる言語でも適用可能なコアとなる技術が必要です。
来年には我々がビジネスを展開する国は20カ国になるわけですが、日本はその中でも非常に特殊です。人口規模で見ても、検索エンジンの利用状況から見ても韓国や英国と並んで巨大なマーケットであることは間違いありませんが、どの国とも違う特徴を持っています。
まず挙げられるのが、日本は非常に広告代理店が強いということです。日本には電通と博報堂をはじめ、広告代理店の影響力が強く、我々は常に彼らをパートナーにしてビジネスをする必要があります。Overtureは基本的にマーケティングカンパニーですから、広告主のニーズというものを最重要視していますが、日本では広告主だけでなく、広告代理店が重要なカギを握るのでビジネスのやり方が違うのです。サービスが商品であるOvertureにとって、この違いというのは非常に大きい。
しかし、広告主と広告代理店とのビジネスということになると、Overtureにとっては好都合です。そもそもがマーケティング会社ですから、関係各社と調整しながらのビジネスに強いのです。これは他の検索エンジンを提供している会社とは明らかに一線を画する部分だと思います。
具体的な話をしましょう。たとえば、日本市場において我々は広告代理店向けの取り組みを常に強化しています。広告代理店の方々に私たちの製品について研修を実施し、スキルを習得したプロフェッショナルをこれまでに500人育成しました。そして彼らが広告主に検索エンジンという広告方法を提案しています。
なぜなら、検索エンジンを利用した広告というのは、広告代理店側としてもあまり経験がない新しい広告メディアであり、テレビやラジオ、雑誌や新聞といった既存のマスメディアとどうやって共存させればいいのか、広告代理店側にはまだ十分に理解されていないことも多いのです。そこで、オンライン広告の利点や使い方について我々がフォローすることによって信頼を勝ち取るわけです。
日本の特殊性というのは、ビジネスをするには広告代理店をパートナーとしなければならないこと、そして彼らと仕事をするには彼ら自身を啓蒙しなければならないこと、この2点に集約されると思います。これを実行するため、また、顧客のニーズを満たし、製品の本質を理解しているサービス・カンパニーだということをアピールするために、我々は膨大なリソースを費やしています。こんな会社は非常に珍しいのではないでしょうか。
■日本法人と米国本社の関係は?
――日本市場を非常に重視されているということは理解しました。次に、実際に業務を行なっている日本法人と米国本社との関係についてお聞かせいただけますか。
日本は本当に重要なマーケットですし、そして現地法人も強力なスタッフが揃っています。我々は中央集権的なモデルを良しとしていません。日本法人には独立したチームとして、自分たちで意志決定をして、日本市場の特性に合わせて、米国ではまだ立ち上がっていないモバイルサーチのような独自の製品を開発していって欲しいと思います。我々は、その国の特徴に合わせてカスタマイズされた製品を提供できる、その国に密着したローカルな企業でありたいのです。オンライン広告はさらに伸びる分野で、日本に限らず、世界全体が我々にとって大きなマーケットだと思っていますが、そこで重要なのはローカルに密着するということなのです。今後も日本の特異性にどんどんチャレンジしていきたいですね。
――今お話のありましたモバイルサーチについてお聞かせください。
モバイルサーチは英国で世界で初めてサービスインし、今は日本でも提供していますが、まもなく韓国でも開始されるでしょう。モバイルサーチは広告媒体として非常に潜在能力があります。なぜなら、モバイルサーチにおいて、検索結果のうちトップ20までをクリックする確率はパソコンの場合よりもぐんと高いのです。
しかも、根本的な広告手段やテクノロジーはパソコン向けの場合とあまり変わらないので、広告主もわかりやすいですし、我々も全く別のビジネスモデルを立ち上げる必要がないので、導入に踏み切りやすいのです。日本の携帯電話は言うまでもありませんが、最近は米国でも携帯電話が進化し、その用途も多様化の一途を辿っています。まだ日本でもモバイルでの検索は始まったばかりですが、ここで学んだことは1年後くらいに、必ず米国でも活かされるだろうと思っています。
■Yahoo!の買収によって、Overtureは大きなプレイヤーになった
――広告関連業務の面から見て、Yahoo!グループに入ったことでどのような変化がありましたか。
日本の例で言うと、さきほど、電通や博報堂といった広告代理店の話をしました。当初、彼らに対してOvertureのサービスがいかに有用で、ビジネスの助けになるかを説得するのは決して簡単なことではありませんでした。しかし、Yahoo! JAPANとのパートナーシップができたことで、今は電通という大会社が小さなOvertureという会社を認識してくれるようになり、今では最大の取引先となっています。つまり、Yahoo!の買収によって、Overtureは小さいながらも、大きなプレイヤーになったと言えるでしょう。
今後もYahoo! JAPANとは連携して、日本のユーザーに使いやすいように検索エンジンを改良していきたいですね。そのために、四半期ごとに日本のスタッフと会議を行なっています。前回は40人くらいのスタッフが集まり、我々はこれからどうするべきか、といったことを話し合いましたね。
■ブログやRSSは注目している分野
――今後、オンライン広告業界のキーとなる技術はどのようなものだと思われますか。
お話しできる範囲で言いますと、ブログやRSSは今我々が注目している分野です。さきほど国が違えば状況が違う、という話をしたわけですが、韓国ではもうずっと前からブログが重要視されてきました。というのも、韓国はことインターネットに関しては、コミュニティ志向の非常に強い国で、ブログを「ミニ・ホーム・ページ」などと呼んでいることがブログの重要性を端的に表わしています。韓国においてブログがどう扱われてきたかを見ていれば、日本でどの程度可能性があるかは予見できるかもしれませんね。今は慎重に見守っている段階です。
常に我々はワールドワイドの規模で、どんなことが起こりつつあるのかをウォッチしていなければなりません。究極的にはそれが、競合他社よりも早く、かつクオリティの高いサービスを提供することにつながるからです。インターネットだからといって、スピードだけではダメなのです。我々は常にサービスの質に気を配っています。もう毎日のようにOvertureには「こういった広告方法はどうだ」といってくる人間がいますが、ほとんどお断りしているのは、一定のクオリティに達していないからです。そうして厳しく選別していくことで、はじめてクオリティを守ることができるのです。
具体例を挙げましょう。検索広告ではこの検索語が入力されたら、こういった広告を表示させる、という手法がベースになっています。考え得る検索語はおびただしい数があるわけですが、我々はただそれを提供するのではなく、常にデータに基づいて、「この1万語ほどはほとんど検索されていないから、広告を結びつけるのはやめよう。その代わり、使い物になる1万語を新たに探し出さねば」といった試みを日々繰り返しているのです。それは、世の中が日々、移り変わっているからです。我々ががんばれば、顧客もついてくる。ライバル会社ががんばれば、顧客は奪われる。昨日トップだったからといって、今日休んでいてはダメなのです。我々は常に新しい技術をテストしています。ユーザーや広告主はもちろん、報道関係者も喜ぶようなホットなトピックを提供できるようにね(笑)。
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
もはやYahoo!にとっても、Overtureの広告サービスというのは欠かせないものになっていると思いますし、我々にはインターネットという媒体を通して、Yahoo!とOvertureのサービスを世界中に普及させ、利用者と広告主の双方を満足させるという共通の目的があります。我々はマーケティング会社ですが、広告で利益を上げるには検索のトラフィックが必要不可欠です。広告に関するサービスのクオリティを上げるのはもちろん、検索精度に関してもYahoo!と協力し、Overtureとしても今まで以上に力を入れてやっていきたいですね。
――ありがとうございました。
□Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/
□Yahoo!
http://www.yahoo.com/
□Overture
http://www.content.overture.com/
[2004/12/27 取材・執筆:伊藤大地]
- ページの先頭へ-
|
|
|
Copyright ©2004 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|