特別企画:子供とPC

いよいよ来る、小学校からプログラミング必修化

重要なのは「家庭での環境作り」

いよいよ始動する「小学校からプログラミング」

今、プログラミングが子供の習い事として人気となっている。その背景には、小学校でプログラミング教育が必修化されることがあるのは間違いない。

文部科学省は、2020年以降に施行される、プログラミング教育必修化を盛り込んだ学習指導要領改定案を発表した。大きく報道されたので、「いよいよそんな時代か」と感じた人は多かっただろう。筆者の子供も現在小学1年生で、ちょうど対象となるので報道はまめにチェックしてしまった。

直接学習指導要領の影響を受けるのは現在小学2年生以下の子供たちだが、プログラミング教育が社会の潮流としてやってきている以上、それ以上の年齢の子供たちにも影響があるだろう。今回は、プログラミング必修化の流れと学校での取り組みの現状、家庭でできることまでを取り上げてみたい。

プログラミング必修化は必然の流れ

“小学校でプログラミング教育必修化”というのは、非常にインパクトが強い報道だった。ただし文部科学省によると、教科化はせず、総合的な学習の時間や算数、理科などの既存の科目を活用する予定だ。特に例示されているのは、算数における多角形の作図、理科における電気の働きを利用した道具に関する学習などとなっている。論理的な思考の育成を目的とし、社会のインフラがプログラミングによって動いていることを体験的に学ばせることなどを想定しているのだ。中学校では、2012年より技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修化とされていたが、いよいよ小学校にもその動きが及んできたのだ。

このような動きには、もちろん理由がある。経済産業省が2016年6月に発表したところによると、IT系人材(IT企業及びユーザ企業情報システム部門に所属する人材)は、現在の人材数は90万人に対し、約17万人不足している。今後2019年をピークに人材供給は減少傾向となり、より一層不足数が拡大する予定だ。社会がIT人材を求めており、人材育成は急務となっているのだ。プログラミングを仕事とせずとも、「プログラミングができること」が将来的に有利に働くことは間違いないだろう。

IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果を取りまとめました(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160610002/20160610002.html

もちろんこのような動きは日本だけのことではない。むしろ、海外ではもっと早くからプログラミング教育推進の動きが進んでいる。たとえばイギリスでは、義務教育の5〜16歳を対象に2014年9月よりプログラミング教育が必修化されている。教科「Computing」は、アルゴリズムの理解やプログラミング言語の学習なども含んだものだ。初等部では学級担任が指導を担当しており、中等部では基本的に専門の教員が指導するが、人材不足で理科や数学の教員が担当する場合もあるという。

フィンランドでも、2016年からプログラミングは義務教育の一環となった。エストニアでは、小学校1年生からすべての公立学校でプログラミングの授業が選択できるように活動が進められている。その他にも、米国、フランス、ドイツ、スウェーデン、ロシア、韓国、香港、インドなど多くの国でプログラミング教育は推進されているのだ。

「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」(文部科学省 平成26年度・情報教育指導力向上支援事業)報告書
http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/programming_syogaikoku_houkokusyo.pdf

必修化の最大の課題は教員のスキル向上か

では、日本の学校現場は必修化に対応できるのだろうか。現在でもICT教育のために学校に導入されている代表的なものに、タブレット端末が挙げられる。旺文社の高等学校におけるICT活用状況調査(2017年3月)によると、タブレット型パソコンを1台以上導入している高等学校は29.6%と約3割に上る。一方、タブレット型パソコンの活用状況について聞いたところ、導入校の半数にあたる48.5%が「あまり活用できていない」「まったく活用できていない」と回答。理由のトップは「教員の活用スキル不足」(75.1%)で、この傾向は「活用できている」と回答した高校にも共通していた。これは、タブレット端末の活用だけにとどまらない問題を示唆している。

全国の高等学校におけるICT活用状況を調査 ――タブレット型PC導入校の約半数が「活用できていない」と回答(旺文社)
https://www.obunsha.co.jp/news/detail/459

小学校は担任制だ。これまでも総合的な学習の時間などでパソコンを扱う授業は行われてきたが、基本的に担任が指導してきた。プログラミング必修化となっても、教えるのはおそらく担任教諭だろう。若い教員以外は大学で情報の勉強をしていないし、プライベートでパソコンやスマホを使っていない教員も少なくない。活用事例が増えてきたタブレットでさえ活用しきれていない状態なのに、プログラミング教育が必修化してもどれほどのことができるのか不安が残る。活用事例を増やすなど、指導人材不足の対応が急務となるだろう。

既に述べたとおり、プログラミングが必修化しても、授業時間が増えるわけではない。授業時間数の確保が難しくなっていることを考えると、他の教科の中でプログラミング的思考を身に着けさせていくという考え方はありだろう。しかし、ただでさえ時間に追われている現状を考えると、プログラミング教育をどこまで従来の授業内に盛り込めるかについても疑問が残る。子供たちがほんの少しプログラミングを「体験」しただけで終わる可能性も否めない。今後、それ相応の指導方法の確立や、活用しやすい教材も必要となるだろう。

施行までにはまだ数年あるが、プログラミング教育必修化が決定したことで、今後対応が急ピッチで進んていくはずだ。また、時代がそちらを向いていることは間違いなく、必修化の影響を受けない年齢の子供を持つ保護者も、何らかの方法で子供にプログラミング的思考力を身につけさせたいところだ。

小学生に人気はMinecraft、Scratchなど

先進的な取り組みとして、一部の学校で既にプログラミング教育は実施され始めている。すでに小学校で行われている授業で使われている教材を紹介するので、家庭での取り組みの参考にしてほしい。

一部の小学校では、既存のツールをうまく活用した授業が行われている。たとえば、未就学児や低学年でも利用しやすいのが「VISCUIT(ビスケット)」だ。Webブラウザー上でアイテムをドラッグ&ドロップして進めていくので、小さな子供に楽しさを味わわせたい場合にぴったり。パソコン、スマートフォン、タブレットなどで無料で使えるので、導入の敷居も低い。

自分で描いた絵を使って動く絵本を作れる「VISCUIT」。お絵描きが起点となるのでペンが使えるPCだとなお楽しい

こちらも人気なのが、「Scratch」だ。MITメディアラボが開発したプロジェクトで、Webブラウザー上で無料で使うことができる。「◯◯がクリックされたとき」「もし〜なら〜でなければ〜」など、プログラミング文法が日本語で表現されているので、子供でもわかりやすいのが特徴だ。対象は8歳から(小学生)だが、5〜7歳を対象とした「Scratchジュニア」も用意されている。自分でゲームが作れるなど自由度が高いので、ゲーム好きな子やパソコンに興味がある小学生以上の子供にお勧めだ。厚切りジェイソンさん出演のEテレの番組『Why!?プログラミング』はScratchを扱った番組だ。子供が興味を持つきっかけとして見せてみてもいいだろう。

MITメディアラボが開発したプログラミングツール「Scratch」

MicrosoftのMinecraftを使った授業も行われている。Minecraftは、ブロックを配置して自由に建造物などを作っていくゲームだ。利用において、年齢制限は特に設けられていない。小学生の間で爆発的人気を博しており、パソコンではクラシック版、スマートフォンなどでは機能が限定されたポケットエディションが利用できる。ブロックの組み合わせで建造物を自由に作れるほか、動く建造物を作るためのプログラミング的な要素もあり、ゲーム好きな子やものづくりが好きな子が食いつくこと間違いなしだ。なお、教育用に機能が追加された「Minecraft: Education Edition」もリリースされている。

Minecraft: Education Edition

レゴ・マインドストームを使った授業もある。レゴパーツとプログラミングブロック、モーター、センサーを組み合わせることで、歩く、話す、つかむ、考える、撃つなどの色々な動作ができるロボットが作れる。プログラミングの結果、画面上だけでなく実際にロボットが動くので子供うけは抜群だ。パソコンやタブレットなどで利用できる。ただし、「レゴ・マインドストームEV3」は対象年齢10歳以上でセットで5万円前後とかなり高額となる。2017年8月に対象年齢7歳からで159.99ドル(約18000円)で「LEGO BOOST」が発売されるので、こちらを待ってもいいかもしれない。

「レゴ・マインドストームEV3」では、ロボットを動かすことを通じてプログラミングを学習できる

プログラミング教育に備えた環境づくりを

わずか3年後には、小学校でプログラミングが必修化される。それに合わせて、子供たちが学校でパソコンに触れたり、プログラミングをテーマとした授業を受ける機会は増えていくはずだ。

必修化に備えて、家庭で子供が自由に使える端末を準備しておくといいだろう。子供は興味を持ったことは自分でどんどん進めていくものだ。よく子供を読書家にしたいなら本がたくさんある環境を作れと言われるが、それと同じで、普段から子供が自由に使える環境を用意してあげることで、子供は自然と能力を伸ばしていく。

用意する端末はタブレットもいいが、できることが限られてしまうので、パソコンを用意するといいだろう。その際、デスクトップ型では使える場所が限られてしまうので、ノート型の方が好きな場所で使えるので使いやすい。プログラム教育に利用することを考えると、ハードウェアキーボードは必須といえる。

しかし、端末が揃っただけでは環境としては十分ではない。保護者が子供と同じ目線で、ときには子供と共にプログラミングをしたり、子供がプログラミングしたものに興味を持つことが大切だ。わからなければ、子供から教えてもらうというスタンスもありだろう。プログラミングを会話のきっかけとすれば、より一層子供のことを知ることができるはずだ。保護者が子供の興味関心や個性を受け入れたり、関心を示すことは、子供がプログラミングへの興味を継続させるために一番大切な環境となるのではないだろうか。

WDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)では、お子様へのパソコン訴求を強化するための長期的活動を行っています。詳しくは「My First PC」をご覧ください。