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【イベントレポート/Silicon Alley 99】

パネルディスカッション:MP3が音楽業界に与える影響は?
――CHUCK D、MP3.comのCEO他、激しい議論を交わす

 初日のパネルディスカッション「Convergence: The Future of Media」では、デジタルテクノロジーが音楽業界に与える影響に関して、激しい議論が交わされた。とくに、音楽業界の対応の遅れにより、大量のMP3ファイルが無料でダウンロードされており、社会的に大きな問題になっている。パネラーには、ラップグループ「PUBLIC ENEMY」のリーダーであるCHUCK D、MP3.com創設者のMichael Robertson CEO、「Intel New Music Festival」の共同エグゼクティブプロデューサであるAndrew Rasiej氏、Intertainerの創設者、Jonathan Taplin氏が登場し、それぞれの立場からデジタル時代の音楽業界に関する展望を語った。

●もはや大手音楽レーベルは必要ない

 PUBLIC ENEMYのCHUCK Dは「音楽を作るためには、もはやでかい音楽レーベルの高価なスタジオなんて必要ないぜ。自分のコンピュータで音楽を作ってWebで売ればいいだけのことさ。もはやニューヨークやLA、ナッシュビルに行って、プロデューサに会うために気の遠くなるような順番待ちをする必要はない」と語った。CHUCK Dは、昨年末にWebサイトから新曲をMP3ファイルで無料公開し、音楽レーベルのPolygram/Universalと激しく対立している。

 また、大手の音楽レーベルを批判し「音楽はグローバルでインターネットと相性がいいが、音楽レーベルは海外に対してまったく無頓着だ。奴らはファンのことなど何も分かっちゃいないのさ」とも語った。

CHUCK D (PUBLIC ENEMY)
CHUCK D
(PUBLIC ENEMY)

●自分のファンがどこにいるか一目瞭然

 MP3.comのRobertson氏はこれを受けて「インターネットでの音楽配信でもっとも重要になるのは、自分のファンが正確に把握できることだ。音楽を売ること自体よりも、自分の音楽を買った人、つまり自分のファンがニューヨークに何人いるかの地域的把握などができることが重要だ。これにより、ライブを行なうときは、何人くらい来るかを推測できる」とした。同氏は、ファイル検索エンジン「Filez.com」とドメインネーム検索エンジン「Websitez.com」を開設したあと、1997年に「MP3.com」を開設した。検索とEC機能を融合させたビジネスに焦点を絞っている同氏はまた、アーティストは売上の50%を得ることができるという、デジタル配信システムを採用した音楽レーベル「Digital Automatic Music (DAM) 」を設立している。 Robertson (MP3.com)
Robertson
(MP3.com)

●0と1のビットにCDケースは不要

 Intel New Music FestivalのRasiej氏は「CDの中身は0と1で構成されているビットデータだ。このビットデータは、CD、さらにCDケースに入れられ、ビニールで密封されて販売されている。しかし、欲しいのは0と1のデータだから、結局家に帰ってこれらのケースをすべて取り除くハメになる。デジタル配信は、これらの不要なものを取り除く。したがって、コストも安くなり、クリエイター側であるアーティストに利益が還元され安くなる」と語った。同氏は、New Music Festivalをベースにした新たなWebキャストサイト「Digital Club Network」の設立を今年7月に予定している。これは、広告ベースでインディ系音楽のライブを無料Webキャストするサイト。 Rasiej (Intel New Music Festival)
Rasiej (Intel New Music Festival)

●音楽レーベルの抵抗は続く

 これに対して、IntertainerのTaplin氏は「大手の音楽レーベルは著作権の侵害防止に必死になっており、完璧なセキュリティ技術が保証されなければデジタル配信に乗り出そうとはしないだろう」との厳しい見解を述べた。Intertainerは、オンディマンドビデオ、高帯域幅のECなどの融合製品に特化したスタートアップ企業であり、Comcast、US West、ソニー、Intel、NBCなどから投資を受けている。

 パネラーにさまざまな意見の相違はあったものの、音楽のデジタル配信がコンシューマとアーティストの双方が求めている大きな流れであることで見解が一致した。また、デジタル配信はここ数年で起こるというようなものではなく、15~20年のスパンで見るべきだという点でも一致した。

 最後に、「3年後にCDの値段はいくらになっているか」という質問に対して、CHUCK Dは「5~7ドル」、MP3.comのRobertson氏は「CDによりけり」、Music FestivalのRasiej氏は「ケースつきで5ドル、ケースなしで50セント」、IntertainerのTaplin氏は「今と変わらない」という予測を行なった。これらの数字は、彼らの今後のビジネス展開により決定づけられるだろう。なお、CHUCK DはWebベースの音楽レーベルを設立するため、シリコンアレー企業と現在交渉中だと言われている。


■Silicon Alley 99レポート

('99/2/24)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp