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【インタビュー】

「Gooey」を開発したHypernix Technologies社CEOに聞く

■URL
http://www.gooey.com/

Adler&Shalom
Shai Adler氏(左)とRan Shalom氏(右)

 同じWebサイトを見ているユーザー同士がチャットできるというソフトが、今年6月に発表された。「Gooey」というこのソフトは、イスラエルのHypernix Technologies社によって開発されたもので、リリース以来、世界150カ国以上の34万人を超えるユーザーに利用されているという。

 先日、本誌でも紹介したが、12月には日本語版もリリースされた。もう試してみた方もいるかと思うが、特にWebチャット機能などが用意されていないサイトでも、ユーザー同士でチャットが行なえるようになっている。Gooeyを起動し、WWWブラウザーでどこかのサイトにアクセスした際、もし世界のどこかでGooeyユーザーが同時にそのサイトにアクセスしていれば、リストにニックネームが表示され、リアルタイムにコミュニケーションできる。まあ、ユーザーがまだまだ少ないせいもあり、日本のサイトではめったに出会うことはないが、今後ユーザーが増えれば、楽しみなコミュニケーションツールとなるはずだ。

 今回は、Hypernix社のCo-CEOであるShai Adler氏と、Co-CEO兼CTOのRan Shalom氏に、Gooey開発の経緯などについてお話をうかがった。

●開発のきっかけは日本のWebサイト

Light on the Net Project
「Gooey」開発のきっかけとなった「Light on
the Net Project」
。 岐阜県のソフトピアと
慶應大学藤幡研究室の共同研究の成果として
1996年に制作されたサイトだ
 Gooeyを開発するきっかけとなったのは、1998年の11月に起こった出来事だった。意外なことだが、それは、とある日本のWebサイトだった。Hypernix社の創設者のうちの2人は映画産業出身なのだが、彼らが「日本の芸術」というドキュメンタリー映画を作るために日本のWebサイトをあちこち検索していたときのこと、東京にある「Webcam」というサイトにたどり着いた。

Adler氏「そのサイトは、オンラインでスイッチをオン/オフすることによって、離れた場所にある照明をコントロールできるようになっていました。その機能を利用することで一定の構図を作れるのですが、自分のほかにもアクセスしている人がいるため、自分の思った構図で固定できません。同じサイトを見ている人がいるということはわかっても、『共同作業をしよう』とコミュニケーションをとれないのが、もどかしく感じられました」

 この、アイディアの元になったWebサイトは今でも見ることができる。「Light on the Net Project」というもので、ある場所に設置された縦7列/横7列、計49個のライトをネット上からオン/オフできる仕掛けだ。アクセスした人のドメインが、リストで表示されるようになっている。

Shalom氏「リストから、この人たちも今ここにアクセスしていて、照明をオン/オフしているということがわかります。この人たちとコミュニケーションできたら、もっと面白いのではないかと思いました」

Adler氏「しかし、これはなにもこのサイトに限ったことではありません。同じWebサイトにアクセスしていながら、今そこにアクセスしている人たちの間でコミュニケーションがとれないというのは、インターネット共通の問題です」

 そこで、同じWebサイトを見ている人同士がチャットするというアイディアが生まれ、もともと2人の友人だったAdler氏らとともに1999年1月にHypernix社を設立。Gooeyの開発にとりかかった。イスラエルの中でも最も優秀なプログラマーをスカウトし、同年の6月には最初のバージョンのリリースにこぎつけた。
 ちなみに、Gooeyという名称は「GUI(Graphical User Interface)」が転じたものだという。まだ名前が決まっていなかったころGUIと呼んでいたのが、Gooeyに変化したのだ。「使い始めると離れられなくなる」ソフトなので、「ぴったりくっつく」という意味の単語「Gooey」がうってつけだったとしている。

●Gooeyは“人のネットワーク”を実現する

Gooey
同じサイトにアクセス中のgooeyユーザーが
画面右のウインドウにリストアップされる。
チャットは画面左下のウインドウで進行。
公開チャットのほか、リストアップされて
いるユーザーと1対1でチャットすることも
可能だ。 gooeyゾーンでは動画やFlashムービー
が再生可能。ニュースや広告が配信される。
画面左がHitwave。gooeyユーザーに人気の
上位100サイトをリアルタイムに表示する。
 Gooeyの特徴は、知らない人同士が集まってチャットできるということだが、そうは言っても、まったく関係のない人というわけではない。ある一定のWebサイトにアクセスするということは、その人がそのサイトに関心を持っているということだ。ということはアクセスしている人同士でなにかしらの共通点があることになる。そういう共通の関心事項がある人たちの“橋渡し”をしようというのがGooeyの一つの考え方なのだという。

Adler氏「Gooeyが出る前には、インターネットは、時空を超えて人々をつなぐことができるという謳い文句を満たしてはいなかったと思います。実際は“コンピュータのネットワーク”に過ぎず、“人のネットワーク”ではありませんでした。インターネットに接続しているといっても、その人とコンピュータが繋がっているだけで、人と人はつながっていませんでした」
「いろいろなWebサイトにアクセスできるということは、例えば、映画館に行ったり、サッカーの試合を見に行ったり、あるいはレストランに食事に行くということに匹敵します。しかし、映画が面白くても、サッカーのゲームが面白くても、そこで出る食べ物がおいしくても、そこにいる他の共通の関心を持っている人たちとのつながりがなければ満足感は得られません。Gooeyには、それを解決しようという要素があるのです」
「もう一つの大きな要素としては、“ヒューマンサーチエンジン”という要素です。何かを探しているときや操作がわからないときなど、サイト上で出会った人から、人間を通じたアドバイスがもらえるようにしたいという意図もありました」
「また、消費者という視点で見た活用も要素の一つです。今までインターネットのサイトというものは、それを運営している側からの情報という一方通行に終わっていました。例えば、トヨタのサイトを開くと、トヨタがこの製品について言いたいことは書いているわけですが、それを消費者がどう見ているかということは、トヨタ側からの情報には載らないわけです。しかし、Gooeyを使ってもらえれば、実際にそれらの商品を使った消費者の声も聞くことができます。消費者同士で考えれば、より価値のある情報が得られるわけです」

●Eコマースアプリケーションも展開

 こうして見てくると、確かにWebサイトの視聴者側にとっては役立つツールと言える。しかし、一方でサイトの運営者側にとっても、自分のサイトを見にきてくれた人たちが互いにコミュニケーションできるというのは魅力的だ。サイトの運営者が、Gooeyを利用する方法はないのだろうか。

Adler氏「今のところは、サイト側がコミュニケーションの主導権を握るようなサービスは提供していません。視聴者側が、どこかのサイトに行ってチャットを始めるとことはもちろんできます。しかし、サイト側がイニシアティブをとることができるようにすると、いわば押し付けという可能性も出てきます。ですから、今のところ、サイト側から行動を起こせるようにはなっていません」

 ただし、同社では近い将来、GooeyをベースにしたEコマース向けアプリケーションも開発する計画があり、サイト側にとっても役立つツールとなるという。

Shalom氏「Eコマース向けアプリケーションでは、Javaを使って、そのWebサイトに来た人が、Gooeyをインストールしていない人も含めて、チャットに参加したり、Webの運営者とコミュニケーションできるようになります。また、セキュアプロトコルを使って、実際にそこで取引までできるようにしたいと思っています」
「これにより、現在のEコマースの姿をかなり人間同士のコミュニケーションに近づけることができると思います。現実では、コミュニケーションがあってはじめて取引が成り立つわけですが、オンラインのEコマースではコミュニケーションなしでモノのやり取りだけがなされるという面があります。それをもっとリアルライフの取引に近づける役割が果たせるのではないかと思います」

Adler氏「リアルタイムにコミュニケーションができることで、顧客満足度を上げられ、アクセスを増やせるという利点もあります。例えば、証券取引などの場合は非常にお金もかかり、リスクも高い。ユーザーとしてはその場でたずねたいのですが、今はリアルタイムで答をもらうことができません。そういうところで、消費者側の欲求がより満たされることができれば、必然と企業の評判が上がると思います」
「もう一つ例を挙げれば、リアルライフでは、何かを買おうとお店に行った際、すすめ方のうまい店員がいて、買う予定ではなかったものを4つも5つも買ってしまうことがあると思います。Gooeyなら、同じことがWebサイトでもできるのです」

●バージョンアップで検索ディレクトリとしての役割も

Hitwave
GooeyのWebサイトでもHitwaveが公開されて
いる。今後はカテゴリー別の分類も行ない、
検索ディレクトリとしての機能も提供する
計画だ。あるテーマで人気のあるサイトが
わかるだけでなく、同じ趣味や関心を持つ
人とのコミュニケーションも図れるわけだ。
 6月にバージョン1がリリースされ、現在はさらに機能を拡張したバージョン2が配布されている。追加された機能のうち代表的なものが「Hitwave」という機能だ。Gooeyユーザーの間で人気のあるトップ100のWebサイトが常にリアルタイムで表示されるようになった。これにより、今どこにGooeyユーザーが集まっているか把握でき、そのサイトにクリック一つでアクセスできるわけだ。
 ただ欲を言えば、Hitwaveのサイトは純粋に人気によるリストなので、サイトの分野などから検索できない。また、全世界のトップ100なので、国別のサイトもわかるようになると便利なのだが、そのあたりはどうなのだろうか。

Shalom氏「もちろん、バージョンアップする度に新しい機能を付けて製品のアップグレードを図っていきます。例えば次のものでは、サーチ能力をさらに強化します。カテゴリーにしたがって、自分の探したいサイトを検索する能力や、今アクセスしている人たちの中から自分の目的の人を探す機能が加わります」
「Hitwaveでは、トップ100一括のリストに加えて、カテゴリーごとのトップ10も表示できるようになります。例えばスポーツ、ニュース、金融関係などのトップ10がそれぞれリストアップされます。ユーザーにとっては、より利用価値が高くなるのではないでしょうか」
「また、ソフトウェアとしてだけではなく、GooeyのWebサイトでも、カテゴリーごとの人気のあるサイトを見られるようにして、リアルタイムで動く検索ディレクトリのサービスも実現していきたいと思います」

Adler氏「(Gooeyの検索ディレクトリは)サーチエンジンという面でも有用だと思います。現在、Yahoo!などのポータルで、例えばエンターテイメントというカテゴリーを検索しようとすると1万件も答が返ってきてしまい、その中から自分の欲しいものを探すのに何時間もかかってしまうということがあります。Gooeyの検索ディレクトリでカテゴリーごとに人気のあるものをリストアップすれば、探す人にとっても非常に効率がよくなるのではないでしょうか」
「また、国別のカテゴリーもHitwaveの中に設ける計画があります」

 このほか来年には、Windows以外のプラットフォームにも対応する予定だ。第1四半期にはMacintosh版とUNIX版の開発を終え、第2四半期にはリリースする。また、1月にはファイヤーウォール対応版を発表するほか、動画でチャットができるバージョンもリリースするとしている。

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[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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