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【特集】

日本のDSL元年を振り返る

 12月12日、NTT東西地域会社がついに、ADSL接続サービスを本格提供に移すことを正式に発表した。NTTの電話回線を利用するものとしては国内初となるADSL回線が大分市内で開通してから、1年を迎えようとしていた。

 郵政省の「DSL普及状況公開ページ」によると、DSLサービスの加入件数は11月末で5,347件。DSLが普及しているお隣の韓国などと比較すると微々たる数字であり、増加のスピードもあまり速いとは言えない。しかし、着実に増加してきていることは確かであり、試験サービスが開始されたばかりの1月には19件しかなかったのに対し、11月は1カ月だけで2,176件の増加となっている。

 実際のところ、この1年の間、日本のDSLをとりまく環境は大きく変わった。当初はあくまでも実験的なサービスとして、東京、大阪などのほんの一部のエリアで提供されるに過ぎなかったが、郵政省が6月に「高速デジタルアクセス技術に関する研究会」の報告書の中でDSL推進へ向けた方針を打ち出したことも奏功。DSLサービスを提供する事業者が増加したほか、サービスエリアも徐々に拡大した。最近では、@niftyやBIGLOBEなどの大手ISPがDSL接続に対応するなど、アナログのダイヤルアップやISDNなどと並んで、DSLがインターネット接続のためのアクセス回線として着実に広まりつつある。

 今回の特集では、日本のDSLシーンに少なからず影響を与えたプレイヤー3社を紹介しながら、“日本のDSL元年”を振り返ってみたい。

■DSL普及状況公開ページ
http://www.mpt.go.jp/whatsnew/dsl/index.html

●DSL先駆者の苦悩
■コアラ
http://www.coara.or.jp/

 大分でDSLサービスを展開するコアラの尾野徹代表取締役は、「DSLを市民にいち早く届けたい我々としては、まことに厳しい1年であった」と振り返る。

 大分の地域ISPであるコアラがADSLサービスを開始したのは、1999年12月20日。それまでの準備期間となった8カ月間は、「(NTTと共同で)互いの採算性や事業性を右に置いて、実験モデルを構築する段階」であり、国内初の市内回線のアンバンドル実現へ向けてNTTの協力体制も良かったという。その結果、東京めたりっく通信などに先駆け、日本で初めてサービスインにこぎつけられた。

 しかし、郵政省のウェブサイトで公開されている資料によると、10カ月あまり経った10月末時点でも、大分市内におけるDSL加入者は27件。サービスインにはいち早くこぎつけたものの、「ビジネスモデルとしての構築を目指したこの1年間はやはり厳しかった」という。

 その理由は、一般のDSLに対する認識の無さ。「大分の地元新聞には、一度もDSLが紹介されなかったほど」と嘆く。逆に同じ高速常時接続でも、CATVは大分でも注目を浴びていたという。特に大分市内のCATVインターネットは月額4,000円台で提供されており、コアラのADSLサービスに比べて大幅に安価だ。それに加え、そもそも「都会に比べて、多チャンネルでテレビを見たいという基本願望」が強いという九州地域では、その分先行しているCATVとの「距離を埋めるのは相当に難しい」こともネックとなった。

 この状況について尾野氏は、DSLに対する国や自治体の「支援策の薄さ」を指摘する。すでに第三セクター方式で独占的に構築・保護されている地方のCATV会社は、いわば、過去から含めて相当の額の国費がCATV普及に使われていることになる。「それら基盤のあるCATV会社と比べれば、DSL会社はひ弱」だ。DSLの普及を目指す郵政省ではもちろん、DSL事業者への支援策を発表するなどの手を打ってきているが、それでも地方では「単なる採算性だけでは地方普及は難しい」。「特に地方自治体の政策内により、いっそうのDSL普及促進の理解を求めていくことが大事」だと指摘する。

 ただし今後は、DSLがいつまでも後塵をなめているわけではない。尾野氏は、2001年はP2Pのサービスがより普及すると見ており、そうなれば「CATVよりも、(グローバルIPが使える)DSLの面白さが充分に訴えられる」と見ている。そのためには、DSLならではの「より楽しげな利用ビジョン」を一般にうまく訴求していくことが必要となる。接続サービス以外にどういった魅力を提示できるのか、DSL先駆者の苦悩はまだ続きそうである。

●DSLの闘争者のその後
■日本交信網
http://koushinmou.com/

 NTTの東西地域会社がDSL試験サービスに開放した東京、大阪、大分の一部の電話局以外で、初めてDSLサービスを実現したのが、千葉県柏市でサービスを提供している日本交信網である。比較的スムーズにDSL開通にこぎつけたコアラに比べ、同社のDSLサービスは、NTTとの“闘い”を通じて実現したものだったと言える。

 日本交信網の岩崎信代表取締役によると、同社がDSLサービスの提供へ向けて動き出したのは1999年の夏頃。東京めたりっく通信も設立されたばかりの時期だ。その頃、岩崎氏がDSLサービスを開始したいとNTTに打診したところ、「試験提供する東京の5局でやって欲しい」との回答。しかし、地元の柏市でやらなければ意味がないと、その後も交渉を重ねたが、「(NTTの試験サービスが終了する)2000年の12月までは、他のエリアではやらない」という方針のため、交渉は進展しなかったという。

 しかし同社ではこれに納得せず、3月に柏市内の電話局におけるMDF(主配線盤)接続を求める裁定申請書を郵政大臣に提出。その結果、なんとか6月の開局にこぎつけられた。

 いわばNTTの“箱庭”の外でもDSLサービスが可能だという例が示されたわけだが、その後、このパターンに続く事業者は現われていない。確かに東京めたりっく通信やイー・アクセスがエリアを拡大しているが、これは、DSLサービスでは大手と言えるパワーがあってこそのこと。岩崎氏は、「地方で新規に開局するのは、これらとは事情が違う」としながらも、追随する事業者がないのは「日本人の気質として、他力本願的なところ」があるからだと指摘する。DSLサービスが普及しないのは、「NTTだけが悪いわけではなく、本気でやろうという事業者があれば、2~3年前から実現できたはず」という。DSLでは国内のリーディングカンパニーである東京めたりっく通信についても、設立メンバーのバックグラウンドを考えれば、「なぜ、もっと早い時期に事業を開始しなかったのか」と疑問を投げかけている。

 ところで、日本交信網の特徴としてもう一つ、“コロケーション”をともなわない開局だということが挙げられる。通常、あるエリアを対象にDSLサービスを開始するには、加入者からの回線が収容されているMDFと自社のDSL装置に接続し、これらの機器を電話局内に設置しなければならない。これがコロケーションだ。

 ところが、郵政省の「DSL普及状況公開ページ」にある、「コロケーション情報」のリストには、同社が開局している柏豊四季局が含まれていない。しかし一方では、同じく「DSL普及状況公開ページ」にある「サービス提供数」のリストには、豊四季局でのサービス提供数が4件と記載されている。

 実は同社では、同電話局内に装置をコロケーションすることはせず、電話局に隣接する駐車場にコンテナを設置、ここに機材を収容している。ユーザーからすれば、やや信頼性に不安は感じるのは事実だが、「電話局内へのコロケーションなしで始められる例として面白いのではないか」という。コロケーション費用などの条件面からとられた方法で、20~40回線提供する規模になれば、コロケーションしても採算がとれるとしている。

 なお、同社における現在の加入者数は、上記にも書いたように、10件にも満たない。特に営業活動は行なっていないとしており、「DSLでやれることはやった」として、岩崎氏の目はすでにダークファイバーに向けられていた。「DSLは、光へのステップ」だったということで、現在は、ファイバー接続の交渉などで多忙な日々を送っているという。

●NTTの豹変
■NTT東日本 FLET'S 公式サイト
http://www.ntt-east.co.jp/flets/index.html

■NTT西日本 フレッツ・ADSL
http://www.ntt-west.co.jp/ipnet/ip/adsl/

 この1年で大きく変わったのは、何と言っても、NTTの東西地域会社におけるDSLサービスに対するスタンスだろう。

 NTTは分割前の1998年12月、同年2月から約10カ月にわたって行なったDSLのフィールド実験の結果を受け、翌年の1999年中に有料の試験サービスを開始することを発表した。しかし、この時点でNTTは、この試験サービスを“DSLサービス”としてではなく、あくまでも数百kbpsの“回線サービス”の一つとして提供すると説明している。すなわち、回線の種類がDSLか光ファイバーかに関係なく、数百kbpsのサービスを提供するということであり、ケーブルが光ファイバー化された後は、DSLで提供していたのと同内容のサービスを光ファイバー上のサービスで置き替えていく方針だった。光ファイバーを積極的に推進するNTTにとって、DSLはあくまでも、ISDNから光ファイバーまでの“つなぎ”だったのである。

 ところが、この発表通り、DSLの試験サービスを1999年の12月にスタートし、1年経た後、本格提供を発表した現在では、NTTにそのスタンスはない。ネット接続のためのアクセス回線サービスとして、通信速度や月額料金のバリエーション別に、ISDN、DSL、光ファイバーの3種類の回線を並行して提供していくというスタンスに変わった。

 12月12日に行なわれた記者会見では、これまでISDNで対応していた「ネット利用のニーズが、DSLに流れる可能性はある」(NTT東日本の古賀哲夫営業部長)と承知の上で、今後1年間で100万回線のDSLサービスを提供するのが目標だと述べている。1回線で2チャンネルの機能を利用できるという需要は消えないとしており、「ISDNそのものは、通信のパーソナルユースに対応したサービス」と位置づける。ネット接続サービスを、低速でもいいから手頃な料金で利用したいというのであればISDN、少し高くてもいいから高速環境が欲しいというのであればDSLということで、NTT東日本では「DSLとISDNが競合するとは考えていない」。むしろ、「トータルな品揃えで(他社と)競争していく」考えだ。

 そうなると、フレッツ・ISDNの64kbpsと同程度の月額料金で最大1.5Mbpsのフレッツ・ADSLが利用できてしまうことになるが、「時期は未定だが、フレッツ・ISDNの価格は見直す方針」でいるという。ユーザーがいずれを選んだにせよ、NTTの売上になるという点で不思議はないが、「ネット接続にはISDN」と今まであれほどアピールしてきたことからは想像しがたい、NTTの豹変ぶりである。

 一方、ケーブルの光ファイバー化後についても、従来はメタルケーブル撤去にともない、DSLは使えなくなるという説明だったが、古賀氏は「メタル撤去にもコストがかかる」とし、「(そのエリアが光ファイバー化された後も)しばらくは、そのままではないか」との見方を示している。「保証はできない」としながらも、「メタルが少数にならない限り、存続がかなり先まで続くと考えている」という。なお、光ファイバーによるアクセス回線サービスについては、今週にも試験サービスについての発表がある。

 確かにこの1年間、NTTのDSLへの取り組みについては、他の通信事業者やマスコミからの批判、そして郵政省からの指導、さらには公正取引委員会の調査などがあり、大きな影響を及ぼしたのは事実だろう。しかし、NTTがそれまでDSL市場の重要性に気付いておらず、今になってやっと対応したということは考えにくい。実際、DSLサービスに携わっているある通信事業者によると、「他の業者にやらせるぐらいならば、NTT自身でDSLサービスを提供する」といった考えが見えかくれしていたという。どうやら、NTTにとってこの1年間は、既存のISDNサービスに影響がないことが確認され、自らがDSL本格参入する準備ができるまで、先行他社のサービス拡大を防ぐために粘りに粘った期間だったと捉えることができそうだ。

●おらが町にブロードバンドを呼ぶ方法

 さて、これまでDSLの普及においていちばんの障害となっていたNTTの地域会社自身がDSL本格提供に乗り出したことで、残された唯一の懸念事項は、サービスの提供エリアではないだろうか。本誌では、こういった常時アクセスサービスのニュースを掲載するたびに「大都市でしか提供されない」「自分の住む地方にサービスが来るのはずっと先の話」といった、怒りとも諦めともとれるレスポンスも多い。フレッツ・ISDNでさえ、やっと全国の市制都市へ拡大しようとしている今、DSLはいったいいつになるのだろうか。

 NTT東日本によると、DSLサービスの提供エリアについても、「なるべくフレッツ・ISDNと同じエリアにまで拡大したい」としている。実際のところ、フレッツ・ISDNに対応するには電話局の交換機に手を入れなければならないのに対し、フレッツ・ADSLではその必要がないという。フレッツ・ISDNでは、電話局の設備対応が追いつかず、申込から1カ月も待たされる地域があるという話も聞かれるが、設備的な対応では、フレッツ・ADSLのほうがより早急に対応できるのだそうだ。

 とはいえ、これは都市部での話であり、需要がそれほど見込めない地域では、ちょっと待ったところで、NTT地域会社も他のDSL事業者も対応してくるとは考えにくい。

 そこで、指針になるのが、以前本誌でとり上げた「住民の署名でDSLサービスの早期誘致に成功─多摩ニュータウン─」の記事である。地元NPOがユーザーの要望をとりまとめて、本来はまだ先の予定だった東京めたりっく通信のサービス提供を前倒ししてもらうことに成功したという事例だ。同ニュータウンが幸運にも首都圏に位置しており、もともとサービス予定エリアに含まれていたことや、団地ということで需要が集中していたことがかなりプラスに作用したのは事実だが、同様の考え方は、地方のエリアにも当てはめられないだろうか。

 東京めたりっく通信では、関西と中部を対象にDSLサービスを展開するため、大阪めたりっく通信と名古屋めたりっく通信というベンチャー事業にコミットしている。それぞれ地元のISPなどとのベンチャーだが、同社によると、何も相手は企業とは限らないという。実際、全国のNPOや自治体との連携事業がいくつか進行中ということだ。

 すなわち、サービスが必要と思うのならば、サービスが向こうからやってくるのをただ待っているだけではなく、ユーザー自らが動くということだ。個人では無理なら同じサービスを求める仲間を集めればいいし、自治体に働きかけていくという手もある。DSLをとりまく環境が通信事業者レベルで大きく変化した今、残された課題はユーザー自身の意識の変化かもしれない。“おらが町にブロードバンドを呼ぶ方法”をユーザー自身が考えるべき時が来ていると言える。

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(2000/12/18)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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