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■URL
http://www.ebookjapan.co.jp/ (EBI)
http://www.10daysbook.com/ (10daysbook)
イーブックイニシアティブジャパン(EBI)が昨年12月、コミックや小説を中心とした電子書籍の配信事業を開始した。概要は本誌2000年12月8日の記事でもお伝えした通り、紙面を画像形式のデータで再現する点が他の電子書籍と異なる最大の特徴だ。
OSの種類や言語、インストールされているフォントの種類などを問わず、紙の本のレイアウトや書体を再現でき、文字だけでなく挿し絵やコミックも扱えるということで採用された方法だが、その一方でデータの容量は、テキスト形式のデータなどと比べてはるかに巨大になってしまう。テキスト中心の文庫本でも1冊が6MB以上、コミックでは15MB程度に達するという。
このため、「10daysbook」などのウェブサイトでもダウンロード配布はするものの、当面メインとする配布チャネルはCD-ROM。購入キーだけをネット上でやりとりすることで、CD-ROM内のコンテンツが閲覧できるようにする仕組みだ。
EBIの電子書籍事業はこのように、容量の大きい画像形式のデータを採用、そしてCD-ROMで流通させるという側面から、我々ネットユーザーにとっては受け入れにくい点も多い。そこで今回は、EBI代表取締役社長の鈴木雄介氏に、同社の電子書籍事業の意図についてうかがった。
まず最初に踏まえておきたいのは、EBIの電子書籍事業は、電子書籍コンソーシアムが行なったブックオンデマンド実証実験の流れをくんでいるということだ。
同コンソーシアムは、出版社や印刷会社、取次、書店など155社が参加し、従来の紙の本に携わってきた業界が横断的に電子書籍事業に取り組んだプロジェクトだった。1998年10月に設立し、本誌1999年9月16日の記事でもお伝えしたように、1999年11月からは読者モニター500名以上の大規模なフィールド実験も実施。4,500タイトル以上の既存書籍が電子化された。インターネットで配信してパソコン上で閲覧する方式のほか、書店店頭などに設置したキオスク端末に衛星経由でデータを配信し、click!ディスクに記録。これを携帯型の専用端末で閲覧するという2つの方法がとられた。
EBIの前身であることからもわかるように、電子書籍コンソーシアムでも画像形式のデータが使われている。インターネット経由のダウンロードにはあまりにも大きすぎ、キオスク端末への衛星配信でもデータが渋滞するなどの問題が明らかになった。また、携帯端末は、文庫本のよみがなまではっきり表示できるように170dpiの高精細液晶を搭載したものだったが、携帯するには大きく電池の持続時間も短かかった。結局、実験は予定通り2000年1月末までの3カ月間続けられ、コンソーシアムも同年3月に終了。「ビジネスとしてやるには時期尚早」との結論に達したという。なお、鈴木氏は同コンソーシアムでは総務会長を務めた人物だ。
「実験では、シャープにお願いして高精細液晶をわざわざ開発してもらったんです。多分、1台20万円くらいします。そういう意味で、コンソーシアムが失敗したと言う人は『あんなディスプレイが売れるわけがない』と言われますが、それは当たり前。商品として作ったわけではありません。液晶で本が読めるかという課題を出版社の目で検討する実験実験だったわけで、商品として売れるかどうかという実験ではなかったんです」
しかし、これはコンソーシアムが活動を開始した3年も昔の話であり、ノートパソコンの普及にともない、現在では液晶ディスプレイの品質は大きく向上。「そんな特別な液晶を作らなくても、一般のパソコンで十分にきれいに見える」ようになった昨年、「我々としては、ビジネスが見えた」という。また、電池や重さの問題は、日本の技術だったらすぐ解決できると考えているという。
さらに通信手段についても、「ブロードバンドなどという言葉はなかった」時だからこそ衛星通信が採用されたわけだが、その後はご存じのように、「想像してもいなかった」という早さで「ブロードバンド時代」がやってきたという。
「コンソーシアムで積極的にがんばった一部のメンバーたちから、『時期尚早だからこそ、ビジネスチャンスがある』と言われ、この会社を作ったんです。我々の予測では1年半から2年ぐらいでブロードバンドサービスが行き渡ると考えていますが、それがどんどん前倒しになっています。つまり、ブロードバンドサービスが行き渡った時に、私たちが先頭を走っていたいんです」
コンソーシアムの実験では小説からハウツー本までさまざまなジャンルの本が電子化されたが、圧倒的に強かったのは、やはりコミックや小説だったという。それを受けてEBIでは、まず、コミックを中心にコンテンツを揃えることにした。また、小説についても「挿し絵の入っているものを、積極的にコンテンツに取り入れていくことにした」という。現在、コンソーシアムに参加していた60数社の出版社のうち、15~16社がEBIにもコンテンツ提供で協力している。
このジャンル選択は、データが画像形式であるからこそ実現できたことだが、その一方で、一般に電子書籍の長所として期待される機能が欠けているのも事実だ。すなわち、検索や文字のサイズ変更、データの再利用という機能だが、これについてはどう考えているのだろうか。
「そこまで技術開発をしたり、特にテキストデータにしていくためには、ものすごくコストがかかります。EBIとしてはまだそれほど体力がありませんので、電子化のきわめて楽な画像形式でやります。テキスト形式で電子化するのに比べると、画像では10分の1のコストで済むんです。この最初のコストが今の10倍かかったら、もうビジネスは成立しません。そういった要望はきっとあるのでしょうが、それは他のサービスにまかせてもいいんじゃないかと思っています」
EBIでは、実際に紙の本として存在するものについては、ページごとにバラバラにしてスキャンしていく方法を採用している。今後はさらにEBIオリジナルの書き下ろし小説なども発行していく計画で、これについては、スキャンする元となる紙の本が存在しないわけだから、必ずしも画像形式を採用するのが最良とは限らない。4月ごろまでにその方法を確立する予定だ。
フォーマットについても、テキスト形式やPDFも含めて、「いいフォーマットがあれば、いつでもそのフォーマットでサービスを始める」としている。ただし、「文庫本のよみがながはっきり読めること」という品質を満たすため、現在はシャープの開発した独自の圧縮技術を採用しているのだそうだ。このフォーマットでは200~300ページのコミックが圧縮後には15~16MBになる。現在のPDFでこの容量に圧縮したとしたら、上記の基準が満たされないという。
「やはり日本のマンガ文化と言いますか、印刷文化と言いますか、これがかなり優れていたということで、お客さんはザラザラのマンガにはお金を払いたくないと思うでしょう。かなり厳しい画像の精細度が要求されます」
しかし、いくらクオリティを求めるためとはいえ、日本国内でこの容量をストレスなくダウンロードできる環境のユーザーはまだ少数だ。EBIのフォーマットは、あまりにも現実の環境とかけ離れており、もっと小さくできないのかという声もある。
「逆に私は『なぜ、容量を小さくする必要があるのか?』と聞きたい。これからは映画までネットワークで流そうという時代です。マンガ本1冊くらいの容量は何でもないでしょう。今まさに大きい“土管”が用意されようとしているのに、今目の前にある土管が小さいからといってデータを小さくしても、この土管は変わってしまうんです。圧縮技術に開発コストをかけるのは無駄なことで、土管が大きくなったら、圧縮技術なんて意味がなくなってしまいます。記憶媒体のほうもどんどん大きくなっていますし、なぜ容量を小さくしなければならないかということが、私にはよくわかりません。
確かに現状の環境で言えば、小さいほうがいいですよ。ただ、繰り返すようですが、EBIはブロードバンドサービスに焦点を当てていますので、明日利益を上げようと商売をしているわけではないんです」
電子書籍は、インターネットという販売チャネルを経由することで、既存の書籍の流通網を利用しなくても読者にコンテンツを届けられるという強みがある。実際、人気作家がネット配信だけの小説を発表するなどの例も見られるようになった。
ところがこれに対し、電子書籍コンソーシアムのビジネスモデルでは、インターネット配信というモデルはあったにせよ、キオスク端末が設置された書店を通じて電子書籍を販売するというモデルがとられていた。取次や書店など、従来の書籍流通に携わる企業も参加したということで、過去のしがらみにとらわれ、電子書籍の強みが発揮できなかったという指摘も可能だろう。しかし、鈴木氏は、電子書籍の販売においても「既存の流通を切る必要はない」と断言する。
「本好きが集まるところがどこかといえば、本屋さんに決まっています。その本屋さんと手を結ぶというのはビジネスの基本でしょう。ですから私は『本屋さんで本を売らないで、いったいどこで売るんだ?』と思います。
ただし、本屋さんだけで売るというつもりはありません。インターネットでも売るし、パソコンにバンドルしても売るし、それからCATVでも売る。そこを多様化したということです。どこでも売ります」EBIではすでに昨年12月末、大手書店チェーンのジュンク堂と協力。ジュンク堂全店で電子書籍データを収録した10万枚のCD-ROMの無料配布を開始している。今後も月刊で出していく考えだという。CD-ROMには約40冊が収録されており、売場のスペースを取らずに“品揃え”を増やすことができるというメリットが書店側にも生まれる。また、ジュンク堂は配布に協力する代わりに、このCD-ROM内のコンテンツについて購入キーの売上があった場合には、同書店に売上の一部がキックバックされる。
この仕組みについては、大手書店チェーンだけでなく、もっと小さな書店にこそメリットがあると思われるが、現在のところ、そこまでカバーするのは困難だとしている。読者にとってもありがたい仕組みと言えるだけに、非常に惜しい点だ。
ただし、いずれにせよ、このCD-ROMによる配布は、ここ1年ぐらいのつなぎの手段だ。まず、家庭用のブロードバンド環境が普及することで、インターネット経由でのダウンロードにシフトしていく。すでに、CATVインターネットのコンテンツ配信会社と話を進めているとしており、早ければ、2月にもサービス開始となる見込みだ。
また、書店ルートでの流通については、CD-ROMでの配布という形はなくなるものの、情報キオスクという形が台頭。いずれにせよ、書店ルートが無くなることはないという。
「そうすると、フラッシュメモリーのようなものにピッとコピーするようになると思います。つまり、人はいくらネットワークの時代になったからといって、家から一歩も出ずに買い物をして楽しいでしょうか? そうではなくて、どこか集まるところがあるんです。若い人がコンビニの店頭でウンコ座りしていたりするでしょう。みんな外へ出て集まりたいんです。その集まるところこそが、情報キオスクを置く場所なんです。理屈で考えると、家でネットワークで購入するのは簡単でしょうが、そんなつまらない生活はやるわけがない」
鈴木氏によると、EBIでは1年間で、1万数千台の情報キオスクへの配信を計画しているという。今後、コンビニや書店などの店頭に設置されるであろう新型の端末において、音楽データやゲームなどと一緒に、EBIの電子書籍が購入できるようになるのではないかとしている。
EBIの売上目標は、2001年が10億円、2002年が35億円。そして2003年にブロードバンドが浸透すると見ており、同社の売上も100億円に急増する見込みだという。
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(2001/1/16)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]