【インタビュー】

ストリーミングに革命が起こる? 米Generic MediaのPeter Hoddie氏に聞く

■URL
http://www.genericmedia.com/

 先日開催された「DEMO Japan 2001」の基調講演で注目されたのが、米Generic Media社によるコンテンツ配信サービス「Generic Media Publishing Service」だ。これは動画・音声ファイルを、RealPlayer、Windows Media Player、QuickTimeといった再生ソフトの形式に自動的に変換して配信する技術。コンテンツプロバイダーにさまざまなフォーマットのファイルを用意する必要がなくなり、スピーディで効率のよい配信ができる。またユーザーにとっては、1つの再生ソフトを持っていれば、すべての形式のストリーミングフォーマットに対応できるメリットを持つ。

 今回、「DEMO Japan」に合わせて来日した同社CEOのPeter Hoddie氏に、「Generic Media Publishing Service」が生まれた背景と、今後について伺った。

●1つのファイルですべての再生ソフトに対応


Peter Hoddie氏
 本編に入る前に、Peter Hoddie氏の略歴を紹介しよう。彼は長年、米AppleでQuickTimeの開発に携わり、その功績をたたえて「QuickTimeの父」とも呼ばれている。QuickTime関連の講演などでメディアに登場していたので、御存知のMacユーザーも多いだろう。2000年2月にAppleを退社し、その後Generic Mediaを立ち上げた。「Generic Media Publishing Service」以前にも、SonyのPalmOS搭載PDA「CLIE」に同梱されている「gMedia」をSonyと共同開発している。

Hoddie氏「Generic Media Publishing Service」(以下GMPS)は、オーディオ・ビデオのコンテンツ市場の根本的な問題を解決しようという観点から立ち上がっています。2000年春にGenericMediaを設立し、同夏に資金集めを行なってから開発に取り組んだ形です。

 GMPSは、1つの動画・音声ファイルを、ユーザーの再生ソフトのフォーマットに自動的に変換し、配信するサービスだ。従来、コンテンツプロバイダーは、ユーザー側の再生ソフトや接続スピードを考慮し、ストリーミングを行なう際には、複数のフォーマットのファイルを用意する必要があった。例えば1つの動画ファイルをRealPlayerとWindows Media Playerで、低速回線と高速回線用に分けて用意した場合、計4つのファイルをサーバーに置くことが必要となった。配信したいコンテンツが増えると、もちろんこれら別フォーマットのファイルも倍増していた。GMPSはこの煩雑さを解消する、革新的なサービスといえる。

Hoddie氏アクセスしているユーザーの接続速度を自動的に判断し、それに合わせた配信ができます。また必要な場合は、コンテンツプロバイダー側が希望の帯域幅を選んでおいて配信することも可能です。GMPS対応コンテンツをよく利用するユーザーなら、自分で希望の再生ソフトやスピードを選んでおけば、毎回そのソフトが立ち上がるような設定も可能です。

 コンテンツの配信は、アップロードから細かい条件まで、すべてWebページから設定できる。動画に希望のテキストやFLASHファイルをかぶせることや、音声重視の配信、動き重視の配信といった選択も可能だ。コンテンツプロバイダーは希望の機能や条件をWebから選んでいくだけで、配信作業が完了する。

Hoddie氏もとになるコンテンツは、どの帯域のストリーミングまでを行ないたいかを考慮し、それに適応する高画質なものが望ましい。具体的には動画だとAIFF、Mpeg-1、QuickTimeなど、音声ならMP3にWaveなどが上げられます。ただGeneric Mediaとしては、1つのフォーマットを薦めることはしていません。それぞれの都合に合わせて再生ソフトやフォーマットを選んでいるはずだから、それをこちらに合わせろということはしたくない。これはユーザーに対してもコンテンツプロバイダーに対しても同じことです。さらに、再生ソフトが新たに登場した場合にも、そのフォーマットを追加するだけでよく、コンテンツプロバイダーの負担にはなりません。

●ファイル形式やソフトは、使う側が自由に選ぶべき


 「DEMO 2001」での発表は高い反響を集めた。GenericMediaのサイトでは、米Canonや米Sonyなど、すでにいくつかのパートナー企業の名前が上がっている。日本でも近々導入する企業を発表できるという。

Hoddie氏現在は初期段階なので、多数のコンテンツプロバイダーを捕まえるというよりも、ストリーミングをよくわかっている、ユニークなコンテンツを持つところに導入してもらいたい。それによって、サイト側からのフィードバックで、自分たちも技術を磨いていけますから。実際、いくつかお断りしたケースもあります。
 現在は米・カリフォルニア州サンノゼで、約70台のサーバーを稼動しています。一度にどれくらいのトラフィックに対応できるかは、ちょっと答えにくいですね。アクセスされる帯域や画質で、いくらでも変わってきますので。ただ、何千という単位を同時に配信することは可能です。またキャッシュサーバーを利用して、人気のあるコンテンツをキャッシュから再生することもでき、その場合はもっと多くからのアクセスにも対応できます。

Generic Mediaのサイト
 Webベースの設定にしたのも、「それぞれの都合があって、FinalCutだったりDirectorだったりのツールを選んでいるわけだから、それに我々が対応するべき」(Hoddie氏)という理由からだという。

Hoddie氏余計なソフトなどを必要とせずに配信できるように、コンテンツプロバイダーはWebページからすべての設定が可能になっています。扱っているメディアの種類や長さ、内容や形態によって、適したソフトも変わってくるわけですし、うちが何かを押し付けようとしてもうまくいかないでしょう。再生ソフトも同じことで、MacintoshではもちろんQuickTimeが安定していますし、Windowsでは遅い回線速度ではRealPlayerが、高速回線ではWindows Media Playerが優れたパフォーマンスを出せる傾向にある。ユーザーはそういった条件などから自分の使うものを選んでいる。現状では「RealPlayerで再生してください」と、コンテンツプロバイダーが再生ソフトを選んでいる面がありますが、それは正しい姿ではないんです。
 これはPC以外の機器の場合、より複雑になってきます。PDA上では1つの再生ソフトしか走らないし、携帯電話なら、あんな小さなところにいくつもソフトを入れるわけにはいきません。しかし、1つ再生ソフトを使っているユーザーは、それを使って、インターネット上のあらゆる動画を見たいわけです。このとき、Generic Mediaのサービスを使えば、1つの動画ファイルで、すべての問題が解決できます。

 となると、ストリーミングの作り手たちにとって、気になるのはコストだけだろう。

Hoddie氏価格も一概には言えないのですが……。どれくらいのコンテンツを配信したいか、どの帯域に対応させるかなどで変わってきまして、数万円レベルから、数百万円以上まであります。ただ、トータルコストを考えると、従来のエンコーディングやホスティングを使うより、少ないお金でよりたくさんの人に見てもらえるのは確かです。

 当面はトラフィック部分までGeneric Mediaが行なうが、今後の拡大によってはトラフィックはアウトソースして、事業の核であるエンコードエンジンに特化する方向という。なお、ライブストリーミングには現在対応していない。技術的には可能だが、「現状のストリーミング業界ではオンデマンドが主流であること、ライブストリーミングの場合、技術的にもビジネスモデル的にもオンデマンドと異なっており、まだその部分は確立していないため」(Hoddie氏)という。

●PalmOS機で動画閲覧を実現した「gMovie」


 Generic Mediaには「gMovie」(gMedia)という製品もある。これはSonyと共同開発で作られたもので、PalmOS上で動画の再生ができるソフトだ。以前はSonyの「CLIE」のみの対応だったが、現在はCLIE以外のPalm機へも対応している。

Hoddie氏もともと「gMovie」の位置付けは、PC以外の動画再生能力のないデバイスでも、動画再生ができることを見せたかったところから始まっています。「gMovie」を使ってうちのシェアを伸ばそう、他のデバイスに広げようという気持ちは全くないんです。むしろ他のデバイスで再生ソフトが出てくれば、そのフォーマットをGMPSで導入すればよいわけです。ただ、他のデバイスの会社から「うちも動画をやりたいので手伝ってくれ」と言われて、対応している面もありますが。PDA上で動画が動くのを実際に見ることで新たな考えが出てくるわけで、そういった意味では市場を広げることに貢献していると思います。

 「gMovie」は現在のところ、ダウンロードして再生する形だが、「将来的にハードのパワーが上がってくれば、ストリーミングも可能」(Hoddie氏)という。手のひらでリアルタイムのニュース映像を見るといったことが出来るのも、そう遠い日ではなさそうだ。

 最後に、同社のサービスを「Publising」と名づけた由来について伺ったところ、「雑誌でも新聞でも、コンテンツがすべてできあがって、最後に印刷して人々の手に渡ります。Generic Media Publishing Serviceは、ストリーミングにとって最後の部分、その印刷の部分に当たるものなので、この名前を付けました」(Hoddie氏)と答えてくれた。この名前同様、今後のストリーミング業界の“最後の仕上げ”を担う企業として、Generic Mediaに期待が高まるところだ。

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(2001/3/6)

[Reported by aoki-m@impress.co.jp]


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