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ここ最近ADSL接続サービスの値下競争が激化し、月額3,000円台でも数Mbpsの常時接続環境が手に入るようになった。エリアの拡大に伴い自然とユーザーも急増し、10月末現在の総務省調査によるとADSLユーザーは約92万契約にもなるとの結果も出ている。 自宅でインターネットに高速で常時接続できるようになると、インスタントメッセンジャーを使ったビデオチャットやインターネット経由での家電の操作などの利用が考えられるが、「IPv4」ではまだそれが満足に実現されないのが現状だ。ADSLなどの常時接続はほとんどの場合、IPアドレスを節約するためNATルーターを使いクライアントにはプライベートアドレスが割り当てられるため、インターネットを介したP2P通信が困難になるからだ。
そこで、常時接続とブロードバンドをさらに最大限に生かすために考えられるのが、次世代インターネットプロトコル「IPv6(Internet Protocol Version 6)」だ。今回の特集では、そのIPv6の現状を報告する。
数年前からインターネットに接続するクライアントの増加によるIPアドレスの不足が予測されている。これまでNATやIPmasqueradeなどの技術を使って乗り切ってきたが、根本的な解決方法として、より膨大なIPアドレスを持つIPv6への移行が進められているということだ。IPv4による専用線接続の場合、IPアドレスが8または16個しか割り当てられなかったが、IPv6の場合は1つのネットワークに1.2×1024個(12に0を23個付けた数)が割り当てられるため、IPv4のアドレス空間全体よりも多いアドレスが使えるようになる。
また、IPv4における問題の1つとして「クラスによるアドレス割り当て」の問題があった。クラスとはIPv4におけるアドレスの割り当てポリシーで、「クラスA」だと約1,700万個、「クラスB」だと16,382個、「クラスC」だと254個のアドレス割り当てがある。多くの組織はクラスBだと割り当てられるアドレスが多く、クラスCだと少ないことから、連続した複数のクラスCアドレスを割り当てていた。そのためこのクラスの概念が意味をなくし、現在はクラスの概念に捕らわれないアドレス割り当て「CIDR(Classless Interdomain Routing)」が行なわれている。
IPv6ではこのIPv4での反省からクラスの概念は当初から存在しない。クラスの概念に捕らわれないアドレス割り当てを行なうことにより「ルーティングテーブルの集約」ができるようになる。IPv4では、各ネットワークに割り当てるアドレスをなるべく少なくなるように割り当ていたが、ネットワークの規模が大きくなるとIPアドレスの追加を実施するため同じネットワークに複数のサブネットができてしまっていた。その結果、ルーターのルーティングテーブルが大きくなり、通信速度や安定性の低下を招いていた。
IPv6の場合、クラスに捕らわれないアドレス割り当てを行ない、しかも、膨大な数があるため、アドレス空間の不足を考慮しなくてもよい。膨大な数のアドレス割り当てが可能で、ほとんどの場合、将来ネットワークの規模が大きくなっても、最初に割り当てられたIPアドレスがあれば足りるので、1つのネットワークに1つのサブネットが原則となる。その結果、ルーティングテーブルが簡素化されネットワークの安定へとつながるのだ。
IPv6は1995年に開発が開始され、1996年には運用実験が開始されている。また、ネットワーク製品・技術の総合展示会として知られる「Network+Interop」(N+I)でも、1997年からIPv6のデモンストレーションが行なわれており、その他のネットワーク関連のイベントでも「いよいよは本格普及だ」とアピールされることが多い。また、各企業や研究所はIPv6の推進団体などを立ち上げて、普及を加速させようと試みているが、実際にはまだまだIPv6への移行は進んでいない。
その原因の1つに、IPv6ならではの魅力あるアプリケーションがないことが挙げられる。よくIPv6普及とともに予想されるのが、エアコンやビデオデッキにIPアドレスを割り当て、インターネットを経由して電源を入れたり予約などができる「ネット家電」と称されるものの実現だ。しかし、当面の間は実用化は難しく、また、家電同士を通信させるためには電力線やBluetoothといった方法が考えられているが、両者とも技術的には固まっているがほとんど普及していないのが現状だ。
そこで、IPv6の最初のキラーアプリケーションとなるのはインターネット経由で音声通話をするVoIP(Voice Over IP)などのP2Pアプリケーションが予想される。すでにWindowsには、「Net Meeting」や「Windows Messenger」(MSN Messenger)などのVoIP対応アプリケーションが搭載されている。また、11月16日からはイー・アクセスがWindows Messengerを用いてパソコンと固定電話で通話ができる「PC to Phone」と呼ばれるサービスを開始する。月額350円から400円程度で国内の場合3分10円から15円を想定しているという。
そこで問題となるのはこれらのサービスはパソコンにグローバルアドレスが割り当てられている必要があるということだ。現状のブロードバンド接続では1台のクライアントしかグローバルアドレスを割り当てることができないため、設定するにしても非常に不便だ。しかし、IPv6で接続した場合はそれぞれのクライアントにグローバルアドレスが割り当てられるため、そのサービスのメリットを最大限に生かすことができる。
キラーアプリケーションはまだそろわないものの、現在、各プロバイダーは続々とIPv6による専用線実験を開始している。
専用線の場合、IPv6パケットしか流さない「ネイティブ接続」、IPv4ネットワークでIPv6パケットを流す「トンネリング接続」、1つの専用線にIPv4とIPv6の両方のパケットを流す「デュアルスタック接続」3つの形態がある。ネイティブ接続はIPv6パケットしか流さないため、IPv4での接続が必要な場合はほかに専用線が必要となる。また、トンネリング接続の場合、IPv4も利用できるがIPv6ネットワークがIPv4ネットワークに影響を受ける。デュアルスタック接続だと、IPv4とIPv6のパケットが相互に影響することなく利用できる上、IPv4とIPv6の相互運用でも専用線は1つ済むため、本格的にIPv6が普及し始めた段階で共存を図るときに最適な運用方法と言える。
以下にIPv6の接続実験を実施している主なプロバイダーを記載したので、ぜひ参考にしていただきたい。なお、知多メディアスネットワーク以外のプロバイダーはすべてトンネリングサービスをサポートしている。また、特に記載がなければ割り当てられるアドレスは/48(※)となる。
■IIJ
http://www.iij.ad.jp/IPv6/
IIJのIPv6接続実験の特徴は、IPv4/IPv6のデュアルスタックサービスを提供していることにある。なお、トンネリングとネイティブサービス(東京・大阪・名古屋・福岡・札幌のみの提供)については各専用線サービスのオプションとなっており、IPv4/IPv6デュアルスタックサービスは新規契約が必要だ。
■OCN
http://www.ocn.v6.ntt.net/
通常の専用線のほかに、DSLをアクセスラインとして用いた「スーパーOCN DSLアクセス」での提供も行なっている。専用線料金のほかにオプション料金が必要。「OCNエコノミー」月額2,500円、「OCNスタンダード」月額14,000円など。
■DION
http://www.v6.kddi.com/
エンドユーザーの場合/48の割り当てだが、ISPへは/43の提供となる。
■JENS
http://www.jens.co.jp/ipv6/
ネイティブ接続も東京のみで提供。
■WCN
http://www.v6.omp.ad.jp/
IPv6専用のSMTPとNetNewsの提供も行なっているのが特徴だ。
IPアドレスには、「ネットワーク部」と「ホスト部」に分かれている。「ネットワーク部」はそれぞれのネットワークをインターネット上で認識するために、「ホスト部」はネットワーク上でホストを認識するために付けられており、ネットワーク部が小さくホスト部が大きい場合は、1つのネットワークに多くのクライアントが接続できることになる。
“/n“のnはアドレスの先頭からnビットがネットワーク部であることを表している。IPv6の場合アドレス空間が128ビットのため2(128-n)でそのネットワークに割り当てられるアドレスを計算することができる。たとえば/48の場合2(128-48)で約1.2×1024となる。しかし、マルチキャストなどで予約されているアドレスがあるので実際は若干減ることになる。
専用線としては比較的低価格な「OCNエコノミー」であっても月額料金が32,000円と個人が使うには敷居が高い。そこでここでは、Windows2000とMicrosoftが配布する「Microsoft IPv6 Technology Preview」を使って手軽にIPv6接続を体験してみよう。なお、「6to4cfgコマンド」を使って手軽にIPv6ネットワークに接続するにはIPv4のグローバルアドレスが必要となるので注意していただきたい。IPv6接続を行なうためには、「Windows2000をIPv6に対応させる」「ネットワークインターフェイスをIPv6に対応させる」「トンネリング接続を確立させる」「アプリケーションを利用する」の4つの作業が必要となる。
※なおここで紹介している「Microsoft IPv6 Technology Preview」はプレビュー版となっているので使用は際には利用者の責任のもと行なってください。また、サポートについてはMicrosoftおよび弊社では行なっておりません。詳しくはMicrosoftIPv6 Technology Previewに含まれているドキュメントをご覧ください。
Windows2000にIPv6をインストールしたので次はネットワークインターフェイスにIPv6を追加する。
(図2) | (図3) | (図4) |
(図5) | (図6) |
IPv6対応のアプリケーションはまだまだ数が少ないが、対応しているアプリケーションの1つに「Internet Explorer」がある。バージョン5.5以上で対応しているので、Internet Explorerを使ってIPv6対応のウェブサイトを覗いてみよう。有名なのが「KAME Project」のウェブサイトだ。IPv6で接続すると、最初のページにあるカメの絵が動いて見える。また、Microsoft IPv6 Technology Previewには「ping6」「ftp」「tracert6」コマンドが含まれている。使い方はIPv4のコマンドと同じだ。
IPv4からIPv6への移行は思うように進んでいないのが現状だ。それは、IPv6の特徴を利用した魅力あるアプリケーションがないことも理由の1つだ。しかし、新たなアプリケーションを生み出すことだけが、普及を押し進めるものではない。現在ある「PCto Phone」と、ADSLなどの接続サービスをIPv6に対応させて、統合したサービスとして提供することでエンドユーザーでもIPv6を使ってみたくなるだろう。
また、パソコンに加えて多くの機器がインターネットに接続されるため、IPアドレスの不足がますます心配されているが、IPv4時代の“パソコン中心”から、IPv6時代のインターネットは各アプリケーションに特化した「専用機」の時代となるだろう。パソコン上で動いていたストリーミングやVoIPなどのアプリケーションをお手軽に使おうと考えると、専用端末がどうしても必要となる。インターネットからのストリーミングで音楽を楽しむための専用のインターネットラジオ、VoIPで電話をかけたければ電話機などがそれにあたる。
また、IPv6時代になるとインターネットを経由した家電の操作もより現実的になってくる。外出先からエアコンの電源を入れたり、テレビの予約録画をしたりといったことがわかりやすい例だろう。それぞれの機器にIPアドレスが割り振られることで、これらの実現が容易になるのだ。しかし、これらを実行するために、それぞれの家電をイーサーネットケーブルで接続するのは非常に厄介だ。そのため、家庭内ゲートウェイと家電の接続は、新たに線を引く必要のないBluetoothや、電力線の利用が考えられているが、現在、ある程度技術的に固まっているもののまだ市販されている製品は少ない。電力線接続とBluetoothの普及がネット家電を盛り上げ、ひいてはIPv6の移行へとつながるのだろう。
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(2001/11/12)
[Reported by adachi@impress.co.jp]