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【実証実験】

名古屋では5台に1台が“インターネットタクシー”
インターネットITSの大規模実験がスタート

■URL
http://www.InternetITS.org/

 慶應義塾大学SFC研究所、トヨタ自動車、デンソー、NECからなる「インターネットITS共同研究グループ」は28日、名古屋地区においてタクシー1,500台以上を利用した大規模なインターネットITSの実証実験を開始した。走行中のタクシーの位置や速度などのデータをインターネットを通じて集約し、タクシー会社向けに各種情報を提供するほか、車内に設置されたタッチパネル式端末で乗客向けのコンテンツ配信も行なう。

助手席の右後方に取り付けられタッチパネル式端末(左)。実験に参加している車両には後部ウインドウに「InternetITS」のステッカーが貼ってあるので識別可能(右)

 走行中の車両を動くセンサーに見立てて各地からリアルタイムにデータを収集、天候や渋滞などの情報に加工してウェブ上で提供しようという“インターネット自動車”の構想は、かねてより慶應義塾大学の村井純教授らによって取り組まれており、すでに横浜市で「プローブ情報システム(IPCarシステム)」として実証実験も行なわれている。同様のプローブ情報は名古屋の実験でも提供されるが、前回の技術的な部分の評価から、今回は「ビジネスとの結びつきを強化し、評価の対象にする」(村井教授)というスタンスに移行している。

 例えば、タクシー会社の配車センターにインターネット端末が設置され、各車両の位置はもちろん、空車か実車かという動態情報、走行経路、速度をもとにした道路の混み具合、ワイパーの稼働状況をもとにした降雨量などの情報を、配車係が地図上で視覚的に確認することができる。

 これにより、従来のタクシー無線では指示が届きにくかった周辺地域で車両の手配がスムーズに行なえるようになるという。また、蓄積された過去のデータをもとに乗降の多い場所を時間帯別に把握したり、雨の降っているエリアに空車を回すといった、営業面での業務効率化も期待されている。これまでこういった情報を得るには、ドライバーの提出する日報をもとに分析する方法しかなかったという。

名鉄タクシーグループの配車センターにインターネット情報端末が設置されている(左)。左手前に座っている方が配車係。必要に応じて右奥の情報端末を参照することになる。走行実績管理の画面(右)では、赤く表示されているのが実車で走ったルート、青が空車で走ったルートを表わしている

 実験には、名古屋地区のタクシー会社32社が協力。合計1,570台の車両にGPSシステム、車載サーバー、DoPaパケット通信端末、アンテナが搭載された。このうち70台にはさらに、乗客が利用できるタッチパネル式の端末が装備されており、実際に走行している付近のレストランやイベント、ショッピングなどのタウン情報が表示されるようになっている。なお、タッチパネル端末のない1,500台についてはIPv4での通信だが、タッチパネル端末搭載の70台にはIPv6の実アドレスが割り当てられている。

車載システム一式。左が1,500台のうち845台に搭載されている「タイプ1」と呼ばれるもの。このほか、これにカーナビを追加した「タイプ2」と呼ばれるものが655台に搭載されているが、いずれも実験における機能に差はない。右がコンテンツ配信に対応した「タイプ3」で70台に搭載。XMLやSNMPといった汎用プロトコルを用いて、車両情報を外部からオンデマンドで引き出すことが可能だという。車載サーバーやパケット通信機は、トランクルームの片隅に取り付けられている

 28日には、報道関係者などをタクシーに乗せて市内を走行するデモンストレーションを実施。時と場所に応じたコンテンツを“プッシュ配信”する様子が公開された。

 タクシーはまず、営業所を出発する際、所内に設置されたDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域無線通信)のアンテナの下で数十秒間停車、新規コンテンツなどをダウンロードして車載サーバーに蓄積する。その後、市内を走行中は約300メートルごとに位置情報がセンターに送信され、センター側のサーバーがその付近半径2キロメートルのおすすめ情報のリストを車両に配信する仕組みだ。

 実際に体験して気になったのは、コンテンツ表示のレスポンスの遅さだ。車載機器の処理能力も一因だが、むしろネックとなっているのはワイヤレス部分の通信速度だという。位置情報やリストの取得で発生するデータは数十バイト程度だというが、やはり9,600bpsの携帯電話のパケット通信では厳しいようだ。

 インターネットITS自体はワイヤレス部分についてのインフラまで限定しているわけではなく、無線LANやPHSなども候補となるとしている。さらに今後、より高速な次世代携帯電話などを採用する方法も考えられるが、通信料金も合わせて方式を考慮しなければならない。例えばタクシーならば、タクシー無線のデジタル化とともにこれにITSのデータを乗せることも考えられるという。

 なお、各スポットの詳細ページはあらかじめ車載サーバーにデータが蓄積されており、これを表示する分にはパケットが発生しない。乗客が階層メニューをたどりながら、手動で情報を検索・閲覧することも可能だ。

タクシーの営業所内に設置されるDSRCアンテナ(左)。タクシーが真下に来ると、コンテンツのダウンロードを開始するという音声メッセージが車載端末から流れる。写真のワンボックスタイプはデモンストレーション用に走行した車両で、実際に市内を走るのは一般的なセダンタイプのタクシーとなる。70台の内訳は、名鉄タクシーグループとつばめタクシーグループが各35台である

 名古屋地区で現在走っているタクシーは約7,000台だというから、5台に1台は“インターネットタクシー”に当たることになる。しかし、実験車両のうち大多数を占める1,500台のほうは、残念ながら、乗客向けに何か変わったサービスが提供されるわけではない。

 一方、70台のタッチパネル端末搭載車両は一見便利そうに見えるが、試乗して疑問に思ったのは、目的地付近の情報ならともかく、ただ通過するだけのエリアの情報を配信されて役に立つのか?ということである。このあたりのサービス面について、さらなる検討が必要になりそうだ。

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(2002/1/29)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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