【イベント】

「アジア知的所有権シンポジウム2002」開催
~大観衆の前でファイル交換ソフトをデモ

■URL
http://www.aca.gr.jp/news/20020107.htm
http://www.mpaa.org/ (MPAA)

 2月8日、都内にて「アジア知的所有権シンポジウム2002」が開催された。今回で4回目となるシンポジウムでは「ブロードバンド新時代の知的財産戦略」をテーマとして、海外関連団体から講師を招いた基調講演や、関係各省庁関係者によるセミナーなどが実施された。主催は不正商品対策協議会。

 

 第一部では、米国の団体「MPA(Motion Picture Association)/MPAA(Motion Picture Association of America:アメリカ映画協会)」の上級管理副社長 デジタル戦略担当J.Scott Dinsdale氏による基調講演が開催された。MPAとは、米国の映画産業、ホームビデオ産業、テレビ産業のスポークスマンとして活動している組織。同団体の試算によると、“オンライン海賊”による被害がファイル数にして1日あたり35万件以上だという。同氏ではこういった行為に対し「オンライン以外の世界と同様に、悪質な違反者は特定されなければならないし、適切な行動をとらねばならない」としている。また、現在メディア/エンターテインメント業界はデジタル化されたビジネスの最先端にいるが、それらが抱える問題は他のすべての産業に関わることだと警告している。

 第二部では、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)ネットワーク課 内山裕之氏により、作品データ提供システム「J-SID」を含むJASRACのインタラクティブ配信システム「JASRAC Networchestra System」の紹介の後、各ファイル交換ソフトによるデモンストレーションが行なわれた。WinMXでは、ゲーム「ピクミン」のテーマ曲「愛のうた」、KaZaAではカシオペアの楽曲などを検索。ずらりと並んだ検索結果の中から、実際その場でダウンロードしてファイルを再生してみせた。会場には約600人の参加者がおり、これほど大人数の前でファイル交換ソフトがデモされたのは初めてだという。

デモを見守る参加者。WinMXでぞくぞくとファイルが検索されている。ちなみに後ろ姿の右側の方は基調講演の講師J.Scott Dinsdale氏 KaZaAでのデモ。カシオペアの曲を検索中。この結果に向谷氏は大きなショックを受けたとのこと。

 続いて開催された「パネルディスカッション」では、音楽家の向谷実氏、社団法人日本レコード協会 テクノロジーセンター センター長 田中純一氏、社団法人電子音楽事業協会(AMEI)透かし推進プロジェクトリーダー 戸叶司武郎氏が登場、JASRAC 送信部長 菅原瑞夫氏を進行役に進められた。

 先ほどのデモでKaZaAによりダウンロードされたカシオペアは、向谷氏の在籍するグループ。それを受け向谷氏は「もうミュージシャンやめましょうかね、というくらいショックをうけました」と語った。「息子は米国に留学しているが、隣人のNapsterマニアのおかげで最新の音楽をすべて知っていた、しかし、その友人はCDを購入したことはなかった。これは本来ミュージシャンが得るべき収入がすべて失われているということだ」と、ファイル交換の実体を目の当たりにしたエピソードを披露、「ファイル交換など、こういった問題について、ミュージシャンからの声は少ない。コンシューマーにとって便利なものだからだ。でも僕は声を大にしてこの問題について語っていきたい」と語った。

 RIAJの田中氏は「音楽はすべてタダで手に入ると、デモをみてびっくりされた方も多いと思う」とした上で、すでに英国で販売されているコピープロテクション付きCDを例に、コンテンツ所有者側からの対策を紹介した。続いて戸叶氏は、著作権侵害の「防止」と「抑制」の基本理解が必要だと語った。同氏によると「防止」は違法な行為をできにくい仕組みや仕掛けを持つこと、「抑制」はその行為を思い留まらせる警告を発信することだという。それらの実現には、防止効果としての「コピーガード技術」、抑止効果としての「電子透かし技術」などがあげられるが、戸叶氏は、それだけでも足りないとして「権利を尊重する意識の普及啓蒙が必要だ」とした。最後に向谷氏は、「特別授業(向谷氏は名古屋芸術大学音楽学部教授に就任している)でレポートを書いてもらったら『著作権に関する意識が変わった』と。学生達に違法性というものへの意識が生まれてきた。自分の曲が使われた時どういう気持ちになるかと。それ(著作権侵害)がどんな最終結果を生むのかを考えなくてはいけない。今は、やられているものに対して罪悪感がない」と語り、さらに音楽業界全般にわたる話として「あるアーティストの言動でレコード会社の株価が変わる。そんなことはこれまでなかった。こんなことでははっきりいって未来はないです。ミュージシャンはもっといいことができると確信している」と語りパネルディスカッションを終えた。

左からJASRAC菅原氏、向谷氏
RIAJ田中氏、AMEI戸叶氏

 第三部では、「日本における知的財産保護に関する現状と今後の課題」として、文化庁、財務省、特許庁、警察庁から各担当者によるセミナーが行なわれた。特に警察庁 生活経済対策室長 谷直樹氏によるセミナーでは、最近のインターネット関連の検挙事例が紹介された。それによると知的所有侵害事犯においては、従来の露店からネット通販へと「販売形態」のバリエーションが増えたり、新たな事例として、オークションで正規品のほかにオマケとして海賊版のCD-Rを付ける例もでているという。また、WinMXでの検挙事例をあげ、今後の「ネット利用犯罪に対する捜査力強化」をアピールした。


WinMXによる著作権侵害で捜索で押収されたPCとCD-R

 シンポジウムは「アジア知的所有権」の名の通り、アジア地域での不正コピー商品の蔓延に対し、知的財産に保護と、不正商品の排除を訴えるものだ。最近では、映画「ハリー・ポッターと賢者の石」が米国で公開されて4日目に、中国でそのDVD(150円)が売られていたという。この場合は米国の映画館で隠し撮りされたものがアジアの密造工場で大量複製されたとのことだが、そういった”オーソドックス”な海賊行為に対し、デジタル化による海賊行為がブロードバンドの普及により、さらに拡大している。

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(2002/2/8)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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