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【業界動向】

5GHz帯無線アクセスの想定するサービスはいったい何か?
屋外利用の開放を検討する総務省の審議会で課題に


 5GHz帯無線アクセスシステムによって、いったいどんなサービスを想定しているのか? 総務省が屋外利用解禁のための技術的条件をとりまとめるにあたり、根本的なスタンスの確認が審議を長引かせそうな気配だ。


 現在、総務省の情報通信審議会に設置された「5GHz帯無線アクセスシステム委員会」で検討されている“5GHz帯”は、正確には4.9GHz~5.0GHzと5.030GHz~5.091GHzの2つに分かれている。昨年秋に審議会に諮問された時点では検討対象が4.9GHz~5.0GHzのみだったが、審議の途中で5.030GHz~5.091GHzが追加された。航空無線航行用に割り当てられている周波数帯だが、国内では運用されていないため、ニーズの高まっているブロードバンド用に回そうという考えだ。

 一方、4.9GHz~5.0GHzは、これと一部重なる周波数帯で運用されているマイクロ固定局との干渉をクリアすることが課題だ。4.4GHz~5.0GHzにはすでに電気通信事業者やテレビ放送の中継用に770の無線局があるとしており、無線アクセス向けに開放するには、マイクロ固定局に影響を与えないような電波強度や設置可能エリアについて条件を設定する必要がある。

 しかしいずれにせよ、現時点の報告書案を見る限り、あくまでも検討の途中段階だが、5GHz帯の屋外利用は開放へ向かっていると見ていい。問題になっているは、これらの周波数帯を複数のバンド(チャンネル)に分割するにあたり、“ナローバンド”にも対応する必要があるのかどうかという点だ。


 審議中の5GHz帯に近い無線アクセスシステムとしては、5.15GHz~5.35GHzなどを利用する「IEEE802.11a」やETSI(European Telecommunications Standards Institute)の「HiperLAN2」、5.15GHz~5.25GHzを利用する日本の電波産業会(ARIB)による標準仕様「HiSWANa(High Speed Wireless Access Network type a)」があるが、これらはいずれもチャンネル間隔を20MHzに設定している。すなわち、1つのチャンネルが使用するバンド幅を20MHzと広くとることで、数十Mbpsの高速アクセスに備えようという考え方によるものだ。

 一方、委員会では、1チャンネルあたりのバンド幅が20MHzのシステムだけでなく、5MHzや10MHzのシステムも想定したバンド割りを検討している。例えば、4.9GHz~5.0GHzについては、20MHzごとに4つのバンドに分割。そのうち2つを20MHzシステム用の専用バンドとし、残る2つを5MHzおよび10MHzシステムとの共用バンドとしている。5.030GHz~5.091GHzについては、20MHz専用バンドを1つ、5MHz/10MHz/20MHzの共用バンドを1つ、5MHz/10MHz専用バンドを2つ配置する。

 当然ながら5MHzや10MHzのシステムでは通信速度は遅くなるが、その分確保できるチャンネル数は多くなる。それでもADSL程度の通信速度は期待できるため、面的なカバーが必要となる固定網サービスにも対応できる。また、PDAなどそれほど高速な接続を必要としない携帯端末での利用にも対応したいという意図もあるだろう。


 このような考えに対して、新たに開放する5GHz帯についても既存の20MHz単位の仕様と整合性のある通信方式が望ましいと述べるのが、マルチメディア移動アクセス(Multimedia Mobile Access Communication systems:MMAC)推進協議会だ。

 26日に開かれた第3回委員会で意見陳述の場が設けられ、20MHzのバンド分割でチャンネル数が減るのは事実だが、CDMAやDFS(Dynamic Frequency Selection:動的周波数選択)などの技術により、収容可能なユーザー数が少なくなる問題は解決できると指摘している。また、携帯端末としてはIMT-2000という存在もあることから、PDAなどのナローバンド接続用に5GHz帯という限られたリソースを配分することには否定的だ。あくまでも数十Mbpsクラスの無線アクセスシステムに活用すべきとのスタンスである。

 MMAC推進協議会は、HiSWANaに取り組んできた団体である。屋外利用可能な5GHz帯アクセスシステムがこれと互換性を維持することで、屋内利用に規制されているHiSWANaのデメリットを補いたいという考えは当然ながらあるはずだ。とはいえ、5.2GHz帯のHiSWANaと検討中の5.0GHz帯のアクセスポイントでのローミングも実現できるとしており、ユーザーの利便性が向上することも考えられる。また、IEEE802.11aなど国際標準とも整合性をとることで、安価な端末が期待できるというメリットもある。


 5GHz帯無線アクセスシステム委員会では当初、3回の会合を経て3月上旬にも答申案をとりまとめる予定だった。しかし審議は継続しており、結論が出されるのは4月はじめに開かれる第4回委員会にずれ込むことになった。

 ひと口に5GHz帯開放のニーズが高まっているとはいえ、そこには各社の思惑の相違がある。HiSWANa準拠の無線サービスをすでに実験投入している通信事業者もあれば、PDAからの利用拡大を期待する携帯電話メーカーもある。現時点で判断する限り、前述のようなバンド割りを示した検討案は、加入者系の固定網(Fixed Wireless Access:FWA)だけでなくホットスポットなどにおける移動アクセス(Nomadic Wireless Access:NWA)、高機能なパソコンだけでなくPDAからの接続など、あらゆるサービス/デバイスにとりあえず対応できる方法を示している感は否めない。答申へ向けた最後の課題は、5GHz帯無線アクセスシステムがどのようなサービスを想定するのかという点をあらためて確認することと言える。

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(2002/2/26)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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