ここ数年、「いよいよ本格普及か」といわれ続けた「IPv6」。2001年末に行なわれたIPv6関連の国際会議「Global IPv6 Summit in Japan」では、KDDIが「2002年度の早期」、NTTコミュニケーションズが「2002年春」を目途に、家庭向けのIPv6サービス提供を計画していることを明らかにしていることもあり、個人向け商用サービスが今年いよいよ本格化しそうな気配だ。
また、現在、「IPv6普及・高度化推進協議会」が個人を対象とした大規模な実証実験を進めている。実証実験の成果は、IPv6接続サービスや対応製品に生かされる予定だ。 今回の特集では、個人に向けたIPv6利用について取り上げてみた。
●IPv6実証実験の現状
(左)中垣清文氏、(右)澤部直太氏 |
実証実験で配布されている「情報家電コントローラー」。Javaを用いており、高度な制御も可能となっている |
IPv6の普及を促進する目的で民間企業、官公庁、諸団体、個人により組織された団体「IPv6普及・高度化推進協議会」では3月末までの予定でIPv6の実証実験を進めている。実験は主に個人を対象としており、多くのIPv6対応機器が配布されている。そこで、個人向けのIPv6接続サービスの現状について同協議会でISP関係を担当する澤部直太氏(三菱総合研究所)とアプリケーション関係を担当する中垣清文氏(NTTコミュニケーションズ)のお二人に話を伺った。
INTERNET Watch(以下IW):現在、実証実験には何名が参加しているのでしょうか。
澤部直太氏(以下澤部):現在、参加者は700名弱ほどいます。
IW:実際に利用されているアプリケーションはどのようなものがあるのでしょうか。
澤部:実証実験では、IP電話やモバイルビューアーなどを提供しており、モニターがそれぞれ利用しています。その中でも、いろいろな使われ方をされると考えられるのは「家電コントローラー」でしょう。現在、実証実験のページに掲示板が立ち上がっておりさまざまな意見が出ていますが、実際に「これを作った」という報告はまだありません。
IW:家電コントローラーが1月の終わり頃、ルーターが2月の中頃に届くモニターもいるようですが、予定より遅れているのでしょうか。
澤部:各ISPとの調整やサポート体制の確立に手間取りました。つい最近になってやっと接続できたというモニターの方もいらっしゃいます。
IW:IPv6の個人向け接続サービスが広く始まった場合、ルーターの設定を簡単にしなければならないかと思いますが、モニターの方からそのような意見は出ているのでしょうか。
澤部:実際に、モニターの方からはコマンドでの設定について質問が来るなど、やはり敷居が高いようです。なおルーターは、2001年の秋から選定に入りました。基準は、価格、性能、ISPがサポートできるかなどを基準にしました。その結果、今回提供しているルーターは、ヤマハ(RTA54i)、NEC(IX1010)、富士通(Si-R510)の3種類となります。
IW:実証実験のほとんどはトンネル接続となっていますが、イー・アクセスと@niftyはネイティブ接続となっています。その経緯についてお聞かせ願えますか。
澤部:イー・アクセスとは、2001年の夏から秋にかけて相談をしていましたが、ADSLを用いたネイティブサービスはまだまだ技術的に難しいという結論に達しました。ADSLを用いたトンネル接続サービスについては、ある程度見通しが付いたので広く提供することになりましたが、ネイティブサービスについてはサポートが大変なのでとりあえず、ISPとして対応するのは@niftyのみということになりました。また、@niftyの「ISDN&ブロードバンドフォーラム」のみなさんの協力も得ています。実は私も昔からのニフティユーザーで、このフォーラムにはよく顔を出しています。その中では、モニターの方に対して「IPv6ってどうなの?」といった質問がよく聞かれたり、ルーター設定などの情報が行き交っています。IPv6については期待している人が多いようですね。
IW:トンネルサービスを利用する場合、現状ではIPv4の固定IPアドレスが必要となりますが、何故でしょうか。
澤部:グローバルアドレスが1つあれば、トンネル接続は提供できます。しかし、ISP側の管理が非常に難しい。IPv4のダイナミックアドレスでやろうというISPもありましたが、現状ではすべて固定のIPv4アドレスが条件となります。
中垣清文氏(以下中垣):NTTコムではネイティブ接続の検討もしています。IPv4のwebサイトへのアクセスはプロキシーを用意すればよいのですが、Windows 2000やWindows XPでは、DNSの名前解決についてはIPv4を使っている状態なので、早く対応して欲しいですね。
IW:現在、全国にショールームを用意していますが、各アプリケーションに対しての反応はいかがでしょうか。
中垣:実際に「Big P Kan」では、幅広いユーザーの方々に来ていただいています。中でも、IP電話の注目は高いですね。先日、NTTグループがIP電話を始めるといった新聞報道があったように、世間全般に関心は高いようです。あと、買い物をする場所であるためか「これいくら?」といった値段に関する質問が多いです。
IW:アプリケーションやコンテンツとしてのストリーミングの反応はいかがですか。
中垣:3月1日に行なわれた「むさしのFM」の公開録音の中継もそうですが、ちょっと広報不足だったかなと言う気がします。その点を反省して、3月20日と21日に行なう東京ドームのオープン戦のマルチアングル中継は広く広報活動を行ないました。今回は、マルチキャストを用います。
IW:実証実験は、3月末で終了しますが、この先の予定についてお聞かせください。
澤部:今回の実証実験はTAO(通信・放送機構)からの予算を受けて進めていますので、その辺りとの調整も必要ですね。続けるのであれば、3月末にはお貸しした機器を回収して、接続のみの提供となるかもしれません。私どもとしては4月以降も実験を進めたいと考えていますので、決まり次第モニターのみなさんにお知らせいたします。
●個人向けIPv6ルーター~まだまだ数が少ない
OCNを初めとしたISPでは、少しずつではあるが個人向けサービスが始まっている。ここでは、主に個人向けIPv6ルーターを集めてみた。エンタープライズ向けも含めると膨大な数になるので、ここでは5万円程度の商品に絞っている。なお、現状ではほとんどの機種にwebのユーザーインターフェイスが実装されておらず、Telnetを利用しなければIPv6関連の設定ができない。
■ヤマハ 「RTA54i」
価格:3万3,000円程度
ヤマハの一般的なブロードバンドルーター。ファームウェアのバージョンアップにより利用できる。実証実験でも使用されているルーターだ。■ヤマハ 「RTW65b」
価格:3万3,000円程度
無線LANに対応したルーター。ダイアルアップ機能がないため、ブロードバンドルーターに特化した機種となっている。■ヤマハ 「RT60w」
価格:3万3,000円程度
IPv6に対応したダイアルアップルーター。また、ブロードバンドルーターとしての利用も可能だ。無線LANにも対応。■ディアイティ 「NET-G/v6-mini」
http://www.dit.co.jp/company/news/2001/011214_1.html
標準小売価格:5万8,800円
3月に発売予定。すべての設定がweb上でできるのが特徴。6月には100Mbps版も発売される予定。■リンクシス 「BBR-310」
価格:1万2,800円程度
近日中に公開するファームウェアによりIPv6への対応予定を表明している。
ここではIPv6に関連したWebサイトを紹介する。IPv6でアクセスした場合「ロゴが動く」「IPv4では見られないコンテンツが置いてある」などさまざまな工夫が凝らされているページもある。IPv6が開通したらとりあえず開いてみてはいかがだろうか。
■IPv6普及・高度化推進協議会 CONTENTS for IPv6
network
http://contents.pr.v6pc.jp/apwg/event02.html(プロ野球オープン戦の中継)
IPv6の普及を進める「IPv6普及・高度化推進協議会」のサイト。「IPv6日テレチャンネル!」や各アーティストのプロモーションビデオなどIPv6限定のストリーミングコンテンツが豊富だ。また、3月20日と21日にはプロ野球のオープン戦のマルチアングル中継も予定されている。
■KAME Project
FreeBSDなどBSD系のIPv6化を進める「KAME Project」のサイト。亀のロゴが動く。
■OCN IPv6トンネル接続サービス
OCNが提供するトンネル接続サービスのサイト。OCN IPv6トンネル接続サービスのロゴが動く。
■TyrV6 -IPv6の総合情報サイト
雑誌「インターネットマガジン」によるIPv6情報サイト。関連ニュース、対応ソフトウェアの情報が充実している。また、同誌に掲載された「実践! IPv6ネットワーク」も用意されている。
■IPv6start.net
日経BPによる情報サイト。関連ニュース、雑誌の関連記事を掲載している。また、IPv4からIPv6サーバーへPingなどができる「feel the
IPv6」もある。
■Linux IPv6 Users
Group JP
Linux上でのIPv6の情報収集を目的としたサイト。Linuxでのトンネリング接続、対応カーネルのコンパイルなどの情報を掲載。メーリングリストも運営している。
■USAGI Project
LinuxのIPv6対応を進める「USAGI Project」のサイト。対応モジュールはこれまでに3回リリースされている。
■たん清.com
東京神田にある焼肉屋「たん清」の有志によって作成されたサイト。IPv6に対応。
IPv6接続に対して先進的な取組をしているISPとしてOCNとIIJが挙げられる。
IIJは先日、専用線型のIPv6接続サービス(トンネル型、ネイティブ型)の無償期間を2003年3月31日まで延長すると発表した。同社では、これ以外にもデュアルスタック型を提供しているが、IPv4のみのサービスと同価格であるため、実質IPv6部分の利用料金は徴収していないことになる。
またIIJでは、IPv6対応のiDCに収容するサービス「IPv6データセンター接続サービス」を2001年4月から、ネットワークの設計などのコンサルティング事業は「IPv6ソリューションサービス」を2001年7月より展開している。まず接続サービスのIPv6利用を企業に広げて、その次のステップとしてデーターセンターやソリューションサービスを提供することにより、さらにビジネスを広げるという展開が伺える。
一方のOCNは、既に「商用サービス」という立場を取っており、IPv6の部分に関しても利用料金(月額2,500円から)を徴収している。ラインラップに関しても充実しており、ADSLやBフレッツを含むすべての専用線型(固定IPアドレスが割り当てられるサービス)にオプションとして用意されている。前出のNTTコムの中垣氏によると、有料サービスは今後も継続し、さらに海外の拠点を「Ipsec」で結ぶサービスも検討しているという。
このように、各社の戦略の違いも少しずつ見え始めてきた。今後の各ISPの戦略としてはIP電話やマルチキャストストリーミングなど接続以外のIPv6サービスとの組み合わせも考えられる。
(2002/3/18)
[Reported by adachi@impress.co.jp / Watchers]