【インタビュー】

「Yahoo!オークションの値上げはBIDDERSの責任でもある」
DeNA・南場代表に聞く

■URL
http://www.bidders.co.jp/ (BIDDERS)
http://www.dena.ne.jp/ (DeNA)

 インターネットオークションが戦国時代を迎えている。3月にYahoo!が発表した「Yahoo!オークション」のシステム利用料導入は、ネットオークション利用者に大きな波紋を投げかけた。明けて4月、勝負に出たのが「BIDDERS」を運営するDeNAだ。従来落札価格の5%だった「BIDDERS」の落札手数料を2.5%と半分に引き下げ、出品点数を現状の5倍である100万件まで拡大すると表明した。さらに楽天も「楽天フリーマーケットオークション」で、基本システム利用料と画像登録料の無料キャンペーンを開始している。
 4月1日の発表では、「Yahoo!オークション」に真っ向勝負の姿勢を打ち出したBIDDERSの勝算と今後を、DeNAの南場智子代表取締役に伺った。

●Yahoo!とケンカしたいわけではない

BIDDERSのサイト
 Yahoo!オークションが有料の本人認証を開始したのが2001年5月。認証開始後は出品数が落ち込んだ時期もあったが、その後再び増加し、現在では認証開始以前の約2倍に上る出品数400万点の規模に成長している。対してBIDDERSの出品数は、4月に入った時点で約19万点。規模にしてYahoo!オークションの20分の1だ。これほど大きな相手に戦いを挑む理由は、どこにあるのか。

南場智子氏(以下【南場】) 今回のYahoo!オークションの値上げは、Yahoo!さんがオークション業界を独占する状態だったから可能だった。要は今、ユーザーから見ると、他に選択肢がない形になっていて、それで今回のように急に値上げすることもできてしまうんです。で、それは我々にも責任があると思っています。オークション業界の中で、Yahoo!に並び立つ存在に育っていなかったという。ここでオークションならYahoo!オークションかBIDDERSだねって言われるような立場までなんとか並んでおかないと、ユーザーを無視して値上げしたりできないような、そういう産業構造を作っておかないと、ユーザーがいちばん不利益を被ってしまう。今はまだ400対20ですからお話になりませんが、これが400対100とか200になれば状況は変わってきます。

 4月1日の発表では、「6ヶ月でBIDDERSの出品数を100万件まで引き上げる」と表明。またその規模に育つことを踏まえての手数料値下げだと公言した。これは100万件規模に育たないと、BIDDERSそのものが揺らぐことも意味している。

【南場】 公開実験みたいなものです、言ってしまえば。これだけ大っぴらに言ってしまったのでもう後には引けません。失敗を考えると怖いですが、やるしかない。またインターネット業界のサービスとして、オープンでやっていかなければという部分もあります。

 とはいえ、無謀な戦いを挑んだわけでは決してない、という。

【南場】 単純に400対20ってことでは、それは勝てるわけがないと思います。でもオークションっていうのは、ユーザー同士1:1のように見えて、そうではない部分があるんです。何かいいものないかなってぶらっと来るユーザーがたくさんいます。その一方で、力のある出品者、魅力的な品物が多い出品者さんに、ファンとして顧客的に付いている方も多いんです。そうした力のある出品者の方に、今度はBIDDERSで買えますよと、ファンの方と一緒に移ってきていただくことは考えています。そのために今、アフィリエイト的なキャンペーンを行なっています。出品者の方が自分のサイトに「BIDDERSで出品中!」というリンクを設けて、そこからBIDDERSの会員になると、1人に付き300円(正確にはBIDDERSの出品時に利用するポイントで支払われる)のポイントが支払われるものです。今これはすごく好評ですね。
 ただ、今はまだBIDDERSの知名度が低いので、これを何とかしたい。地方に講演に行って、「BIDDERSを知ってる方」って聞くと、本当に少ないんですよ。それでこういうのなんですよって説明すると、皆さん「そんないいものがあったのか」って言ってくださる。もちろんオークションの機能や安全面、料金では自信があるので、まずBIDDERSを知ってもらえればと思ってます。そういう面では、ISPをはじめとする企業とのアライアンスは非常に強力なものだと考えています。皆さん、BIDDERSにお客さんを送ることにメリットがあると考えてくださっているので。
●楽天とはゆっくり競っていく

DeNAの南場智子代表。自らBIDDERSの出品物を落札することも多いとか。今は落札したバイク模型の到着が楽しみだそう
 Yahoo!オークションへの意気込みは強力に伝わってくるが、楽天に対してはどうか。BIDDERSには共同購入やフラッシュセールなど、モール的な色合いも強くあり、DeNAは「Club BIDDERS」という法人向けの出店システムも運営している。また楽天も、2月21日に出店料の一部従量制導入を発表し、波紋を呼んだところだ。

【南場】 オークションでは負けませんが、モール、特にショッピングの機能に関しては、楽天さんに一日の長があると思っています。うちに揃ってないところが揃っている。うちはまず機能を充実させて、それからユーザーにアピールしていこうと。こちらはゆっくり強化していく構えです。
 法人のお客さんは、もともと商売をやっていますから、「こちらが有利」と見ると、ドライにシフトされる。例えば、いま楽天さんの値上げで怒っているから顧客を取りやすいかと言えば、それだけではないんです。「じゃあ貴方のところは楽天に比べてどれだけ儲けさせてくれるの?」と言われたときに、自信を持って答えられなければ意味がない。もちろんうちが自信を持って言える相手(法人)もありますし、たとえ楽天に店舗があったとしても、BIDDERSに入れば投資した分より儲かると言える部分はありますが、お客さんを取り合う前に、今はまだ自己研鑽のときですね。
 楽天とは仲良く、Yahoo!オークションとはケンカする、というわけじゃないですよ(笑)。ただモールは楽天だけじゃないし、日本のEC業界も今はそれなりにボリュームが大きくなって、選択肢はたくさんあります。ただ、オークションについては、今の(Yahoo!オークションの)独占体制はやはりユーザーに不利益があると思うので、そこで並べるようにならないと、という見方です。

 Yahoo!オークションが従量課金導入の発表をしてから1ヶ月、BIDDERSの出品は2倍近くに伸びた。

【南場】 3月1日では12万件だったのが、4月1日には19万件に伸びました。システムも、例えば今日1億ページビューになったら問題外ですが、徐々に伸びていく分には充分対応できると考えています。この1ヶ月、それは非常に検討して、それで手数料値下げの結論を出していますから。

 ただ、ユーザーからすると、BIDDERSの特色は少々掴みにくい面がある。Yahoo!オークションに比べると出品数の違いはもちろんあるのだが、オークション以外のEC的な機能の印象が強いためだ。南場氏自身も、「BIDDERSのアイデンティティって何なの?」と聞かれることが多いという。

【南場】 人によって捉え方がいろいろなんです。最初から知っている方はBIDDERSといえばオークションだと思っているし、現状を見るとショッピング色が強いように見える。この辺をどういうふうに打ち出していくかは今後の課題ですね。ただ、私たちはあまり取引方法にこだわらず、最終的に売り手と買い手をストレスなく結びつける点だけにこだわっていければと考えています。
 あと、私たちのやっていることは場の提供ですから、ユーザーがどういうふうに使ってくださるかを見ていて、傾向が分かったらシステム的なお手伝いをしてあげる方法もあります。ユーザーとの対話やハーモニーのなかで、BIDDERS的な特色を作っていくという。汎用型のオークションサイトとしては、ある程度のボリュームまで育ってから、こういうふうにゆっくり特徴を作っていけばいい面もあります。
 今回は、その点ではチャンスでもあるんです。今までのレベルでも、カテゴリーによってはうちが強いジャンルもありました。そこを伸ばす戦略もあったわけですが、それはしなかった。今回Yahoo!さんが独占状態で可能な方向を打ち出して、それならば私たちはなんとか並べるくらいまで成長しようと。そうなったらYahoo!で満たされていないニーズを打ち出していけるようになる。だからまず成長して、それから特徴を打ち出すと、順番ははっきりしているんですが、それでも大実験ですよ。でも、インターネット業界の大事な面として、怖くても失敗してもオープンにやっていこうと思っています。

 現在のDeNAの収益から見ると、BIDDERSの手数料はほぼ1/3を占める。後はClub BIDDERSの出店料、ASP、広告収入などだ。収益的に見ると、2001年末からは単月黒字を達成していたことも、今回の手数料値下げにつながったという。

【南場】 事業としては順調です。ギリギリまでいって始めたのではなく、収支的に利益が出始めていたし、ちょうど攻めに出られるタイミングっていうのもありますね。今回の値下げで、単月ではまた赤字になる可能性もありますが、それを補って余りある収益を得るつもりです。

 「リアルタイム版『プロジェクトX』と思って、この戦いぶりを見ていてください(笑)」という南場氏。インターネットオークション業界の今後を知るうえでも、BIDDERSの展開を注目していきたい。

(2002/4/12)

[Reported by aoki-m@impress.co.jp]

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