【特集】

果たして海外航空券はオンラインで売れるのか?
~海外航空券サービス特集

 2001年の同時多発テロ以降、海外旅行業界全体の落ち込みに関する記事などを良く目にするようになった。一方で、この時期に新たにオンライン専門海外旅行会社を設立する企業や、オンラインチケット会社の株式譲渡を受けるISPなど、海外旅行業界に対して、強気な態度を示す企業も現われている。まさに、どちらとも予測のつかない流れが、海外航空券市場に流れているようだ。

 今回の特集では、オンラインでの海外航空券業界を「オンライン特化」、「格安航空券」、「大手旅行代理店」という3つの企業の視点から話を聞き、今後のオンライン海外航空券の行く末を考えていきたい。


■PEX航空券に対する認知など、色々な意味でユーザーを育てていくことが必要
~オンライン専門旅行会社タビニ


タビニ
http://www.tabini.com/

 オンラインに特化した旅行会社の代表として、株式会社タビニにお話を伺った。タビニは、2001年6月に日本航空、全日空、Northwest航空など主要航空会社17社と米Travelocity社の共同出資によって設立された、オンライン専門の旅行会社だ。2002年3月27日よりサービスを開始した。

 今回お話を伺ったのは、タビニでWebの管理などを行なっている内藤 勉WEB企画マネージャーだ。

株式会社タビニ
内藤 勉 WEB企画マネージャー

INTERNET Watch編集部(以下、IW):タビニはまだサービスを開始して2週間程度(取材時4月10日)ですが、出足はいかがでしょうか?

内藤 勉氏(以下、内藤):全体的にみて言いますと「予想していたものを下回らず、上回りもせず」といった感じでしょう。個別に言いますと、サイトアクセスや会員登録は予想を上回り、売上などに関しては予想をやや下回っているという感じです。

 これは、インターネット業界全体に言えることだと思うのですが、最近の傾向として、「無料で興味があったら、取り敢えず登録しておこう」というものがあるように感じます。これは、特に若い世代を中心に言えるのではないでしょうか。このことに反せず、タビニにおいても会員登録数は順調です。

IW:オンラインに限らず、海外航空券市場では「格安航空券」が主流だと思いますが、タビニでは「格安航空券」に対してどのように考えているのでしょうか?

内藤:基本的に格安航空券は、「無視できない存在」だと考えております。現在は、PEX(正規割引運賃)航空券の扱いが中心ですが、将来的にはタビニでも扱うでしょう。しかし、タビニでは「格安航空券」と「PEX航空券」を別々に扱うつもりはありません。タビニのコンセプトは「比べて、選べるサービス」なので、選択肢の1つとして、格安航空券の取り扱いを行ないたいと考えています。

 現在では、海外航空券の7~8割程度が格安航空券の売上となっていますが、今後は航空会社の扱いの変更や、PEX航空券の種類の拡大などにより、この割合は減少していくと考えています。

 格安航空券の販売数が多い理由は、もちろん「値段」もあるでしょうが、もう1つの理由が「航空会社が、自分自身で席を売り切れない」ということです。航空会社自身だけで販売していたのでは、ほとんどの席が空いてしまいます。従って、旅行代理店が航空券の販売の多くを行なっているのが現状です。この流通形態の中で、格安航空券がでてきてしまうのです。

 しかし、航空会社自身がオンライン販売を行なうなど、今までにない窓口が広がってきたことで、このような状況も変わると予測しています。

IW:格安航空券に対して、PEX航空券に関する認知度は低いように感じますが。

内藤:確かに、それの点は否めないでしょう。現在、多くの方が誤解しているのは、「PEX航空券は高くて、条件が厳しい」という点です。確かに、PEX航空券の多くが、事前予約が早ければ早いほど料金が安く設定されています。しかし、その多くが「14~28日前までに予約などを完了させる」というものです。これは、一般的に海外旅行を計画される方の「標準的に予約を入れる時期と同じ」なのではないでしょうか?格安航空券を購入する場合でも、ほとんどの場合一ヶ月前には予約を行なっていると思います。

 そのように考えると、「条件が厳しい」という点はあまり問題が無いと思います。また、「料金が高い」ということに関しても、場合によっては「格安航空券よりも安い場合がある」ということです。更に、購入時に「航空会社・便名・座席」の指定まで行なえるものが多いのです。このように、格安航空券に無いメリットを考えると、数千円高くてもお気に入りの航空会社などを選ぶ人は多いのではないでしょうか。

 ただ、PEX航空券の認知が低いため、このようなPEX航空券ならではのメリットが分かって貰えていないのが現状だと思います。その点に関して、タビニでは周知を徹底して行なっていきたい。この点をクリアできれば、「格安航空券とPEX航空券のシェアの逆転」もあると考えています。

IW:ここまでのお話は、オンライン/オフラインを問わない問題ですが、タビニのようなオンラインに特化した会社の場合、「オンラインでの取引きに関する不安」などをどう解消するか?などが問題になってくると思いますが。

タビニのWebサイト

内藤:その点は、かなり重要な問題だと考えています。基本的には、ターゲットを「そのようなことを厭わない人」としています。経験的にも、日本人は100%オンラインで解決することに対して、不安を抱く傾向があるようです。「90%はオンラインでも、最後位は声を聞いて安心したい」と感じると言えます。特にこれは、高齢者の方に多いようです。

 タビニでは、基本的にオンラインで解決しますが、365日体制で電話サポートを行なっています。これによって、10%の不安を消していきたいと考えています。また、タビニは大手航空会社17社が株主なので、そのバックボーンの強さも利用して、安心感の獲得を行なっていきたいと考えています。

IW:では、オンラインに特化した旅行会社としての「最大の売り」は何になるのでしょうか?

内藤:やはり、「タビニだけで、複数の航空会社の商品を比較できる手軽さ」でしょう。オフラインの場合でも、値段の比較などは何店舗も回って行なわなければなりませんが、タビニの場合は「時間や目的地などの必要項目を入力する」だけで、複数の航空会社の値段などを比較できます。

 また、旅行代理店などが利用している業務用システム「CRS」を導入していることにより、「オフラインの旅行代理店では、店員が操作しているものと全く同じ情報を見ることができる」点も大きいでしょう。もはや、「タビニで検索して無い情報は、オフラインの旅行代理店でも無い」と言えます。この点に関しても、CRSの導入は大きいでしょう。

 また、オンラインでしかできない機能として、「クッキーなどを利用した、データ管理」でしょう。これにより、ユーザーの購買履歴や、趣向などを管理することが可能となります。また、このデータを利用することにより、オフライン店舗では難しい「ユーザーに対しての能動的なアプローチ」も可能となります。

 例えば、ロスに頻繁に行くユーザーだけをピックアップして、ロス行きの格安チケット情報などをメールで提供するなどの方法が考えられます。

IW:最後にタビニの今後の展開などについて教えてください。

内藤:はっきり言ってオンライン旅行ビジネスは、まだまだ未成熟です。PEX航空券のことなども含めて、ユーザーを育てていくことが必要でしょう。価値観が多様化している現状では、タビニのコンセプトである「比べて、選べる」点が重要になってくると考えています。

 また、現状ではタビニの利用方法を難しいと考えている方も多いでしょう。そのような点も含めて、どんどんユーザーの声を拾ったシステム/サービスの改良を行なっていきたいと思います。

 このように、「ユーザーを育てる」ことや「システムの改良」、「オンラインにしかできないサービス」を行なっていくことにより、オンライン旅行ビジネスは確実に成長していくと考えています。


 タビニからは、まだサービス開始から2週間ということからも、「まだまだ、これから」という意気込みを感じた。だが、「ユーザビリティが重要」としながらも、「利用方法が難しい」点など問題も多いようだ。

 だが、「ユーザーを育てる」ことや「オンラインにしかできないサービス」を提供していく点は、オンライン航空券販売を普及させるために必須の条件と言えるので、今後のタビニの活動に期待したい。

◎関連記事
■「オンライントラベルは非常にインターネット向き」~TravelocityのCEOが来日
/www/article/2002/0326/travelo.htm
■国内外主要航空会社によるオンライン旅行サービス「tabini」が開始
/www/article/2002/0313/tabini.htm

■現状では、Webコンテンツは「電子チラシ」みたいなもの
~格安航空券マップ・インターナショナル


マップ・インターナショナル
http://www.maptour.co.jp/

 格安航空券販売会社の代表として、株式会社マップ・インターナショナルにお話を伺った。マップ・インターナショナルは、「マップ・ツアー」というブランド名で格安航空券を取り扱っている老舗の旅行会社だ。なお、親会社は、大手格安航空券販売のH.I.Sとなっている。

 今回は、マップ・インターナショナル広報宣伝課の山土井 真一課長にお話を伺った。

マップ・ツアーのWebサイト

IW:まず、マップ・インターナショナルの事業概要を教えてください。どのようなサービスの提供を行なっていますか?

山土井 真一氏(以下、山土井):当社は、格安航空券を中心に、オフラインとオンライン両方で、販売を行なっています。オンラインでは、主に情報提供を行なっていますが、決済もクレジットカードで可能です。

 流れとしては、Web上で欲しい商品を見つけた後、そのままオンライン上で完結させることも可能ですし、Web上に掲載している電話番号に電話して相談することや、実店舗を訪れて店員から話を聞いて、そこで決済を行なう事も可能です。

IW:マップ・インターナショナルのオンラインへの姿勢を教えてください。

山土井:当社は、6年前からオンライン上で完結できるシステムの提供をしており、「オンラインで全て完結するシステム」を全面に押し出していました。しかし、今では少し姿勢が違います。今では、オンラインは「商品発表の場」もしくは「電子チラシみたいなもの」という認識でいます。

 しかし、インターネットの変化は非常に急速なので、「あくまで現状では」という前提付きです。来年同じ姿勢でいるという保証はありません。

 これは、「オンラインで完結させるということに固執しない」という姿勢です。以前は、「オンライン上で全て完結させることが重要だ」という認識でしたが、現在では「雑誌やテレビなどの窓口の1つとしてWebが存在する」という認識です。旅行は、行き先などを選んでいる時から楽しみが始まっているので、その楽しみ方として店員と相談することが楽しい人や、Webで情報検索しているのが楽しい人も居るでしょうし、パンフレットや雑誌を見ながら、友達と相談することが楽しい人も居るでしょう。そのような「旅行を楽しむ方法の1つ」として、Webで情報を提供していると言えます。

IW:マップ・ツアーは「格安航空券」というイメージが強いですが、PEX航空券の取り扱いは行なっているのでしょうか?

山土井:オンラインでもオフラインでも取り扱っています。しかし、PEX航空券は購入条件が厳しいこともあり、なかなかユーザーのニーズに合った商品が出てくることが無いのが実情です。

 当社のユーザーの場合、特定の航空会社を指定したい場合や座席指定したい場合に利用することが多いようです。また、場合によっては格安航空券より値段が安いこともあるので、ユーザーには、あくまでも当社で取り扱っている商品の中の選択肢の1つとして、紹介をしています。

IW:それでは、格安航空券の現状はいかがなのでしょうか。

山土井:格安航空券というものが登場して、既に約15年が経っています。これは、業界的に流れが一巡したと言ってよい時間だと考えています。つまり、格安航空券の認知度が世間的に高くなり一般化して、ユーザーのニーズが次の段階へ来ているということです。

 例えば、安ければ経由便でも良かったものが、数千円高くてもいいから直行便を選ぶようになったり、ヨーロッパ行きの際、南周りで良かったものが北周りになったりと、より細かいニーズがでてきているというものです。

 また、この流れに前後して、航空会社のマイレージ制度というものが登場するようになりました。これにより、「航空会社を指定したい」というユーザーのニーズが大きくなったと言えます。

 もちろん、とにかく安い航空券を求めるユーザーも居ます。このような、より細分化されたユーザーのニーズに応えるために、格安航空券の種類も増えています。やはり最終的には、「ユーザーのニーズが、業界や航空会社を動かしている」と言えるでしょう。

IW:「ユーザーニーズで新しい商品がでてきた」ということですが、今後予想される商品などはあるのでしょうか?

山土井:例えば、ビジネスクラスの格安航空券などは、比較的最近でてきた商品でしょう。これは、明らかにビジネスユーザーのニーズででてきたものです。

 また、当社のユーザーの意見で多いのは、「行きと帰りを違う航空会社を選択したい」というものでしょうか。現状でこれを行なう為には、片道づつ航空券を買うしかありません。ヨーロッパなどでは特に、「行きはパリまで飛行機で行き、電車でロンドンまで移動、ロンドンから飛行機で帰る」などのニーズが多いので、今後航空会社の取り組み次第では、ありえる商品だと思います。

IW:最後に、今後の展開などについて教えてください。

山土井:我々のような旅行代理店は、あくまで「PEX航空券」や「格安航空券」に対してニュートラルな位置に居たいと考えています。

 現状では、PEX航空券にバリエーション不足を感じますが、これから先航空会社がさまざまな種類をだしてくれば、我々としても提供する商品が増えますし、最終的にはユーザーの選択肢が増えることになります。これだけ海外旅行が普及した現在では、「安く行きたい人には、安い券」を、「高くても豪華に行きたい人には、豪華な券」を提供しなければならないと思います。また、券だけでなく、券を購入するまでの楽しみに対しても、さまざまな方法を提供していかなくてはなりません。

 特にWebの場合は、インターネットの優位点である「検索の容易性」、「即効性」、「リンク先での情報提供」などを有効に使った、インターネットでしかできない情報の獲得や、楽しみ方の提供の仕方を一層磨いていかないといけないと考えています。

 繰り返しになりますが、一番重要なことは、「ユーザーの選択肢が増えること」と、選ぶ時から旅行の楽しみは始まっていることから「楽しみ方の選択肢を増やす」ということでしょう。そのための手段の1つとして、Webコンテンツを位置付けて考えています。


 マップ・インターナショナルは、「現状では、Webコンテンツは『電子チラシ』みたいなもの」という見解を示している。これは、「まだまだ利益を出せないオンライン販売に固執しない」という、ある意味当然の意見とも言える。

 ユーザーがオンライン決済に不安を抱いている現状では、「オンラインで告知し、オフラインで決済」は一番スマートな方法だろう。

■航空券のオンライン販売での普及の鍵は「eチケット」が握っている
~大手旅行代理店近畿日本ツーリスト


近畿日本ツーリスト
http://www.knt.co.jp/

 大手旅行代理店の代表として、近畿日本ツーリスト株式会社(以下、近畿ツーリスト)にお話を伺った。近畿ツーリストは、年間売上7,000億円(平成13年度)を誇る業界2位の旅行代理店だ。オンラインの取り組みとしては、昨年よりWebでの格安航空券販売を開始している。

 お話を伺ったのは、同社本社企画室の越智 良典部長だ。

近畿日本ツーリスト株式会社
企画室越智 良典部長

IW:まず、近畿ツーリストにおける海外旅行やオンラインの取り組みについて教えてください。

越智 良典氏(以下、越智):まず、近畿ツーリストでは、総売上高7,000億円の内、海外旅行に関するものが、約半分の3,500億円程度です。オンラインでの格安航空券の販売は、実験的な意味合いも込めて昨年より開始したのですが、売上は1~2億円程度でしょうか。

 現在、オンラインの格安航空券販売サイトは、最大手のCAS(株式会社コスモエアーシステム URL:http://www.castour.com/)で20億円程度です。逆にいうと「ここしかない」という感じですから、業界全体的に「まだまだ商売にならない」というのが実感です。

 また、自社イメージというものも大きいです。「H.I.Sさんは、格安航空券の大手」というイメージがあるように、近畿ツーリストは「パッケージツアーが基本」というイメージがユーザーにあり、まだまだ「格安航空券を扱っている」というイメージがないようです。それを払拭するためにも、Webサイト上では格安航空券の扱いを大きくして宣伝を行なっています。

IW:そのようなオンライン航空券販売がまだ辛いという背景には、オンラインのクレジット決済で10万円などの高額決済に対する不安などがあるように感じますが。

越智:大体、海外航空券の平均単価は8~9万円程度です。ヨーロッパ方面では10数万円ですが。どちらにしても「気軽にクレジットカード番号を入れられる金額」ではないでしょう。この辺りの、「オンラインショッピングに対する不安」というのは、理由としてあると思います。

 しかし、クレジット決済ではなく、銀行振込だと受ける側の作業の流れ的に、入金確認やチケットの郵送手続きなどの「アナログ的作業」が入ってくるので、「ほとんど、対面販売に近くなってしまう」ので、元の木阿弥状態になってしまうのです。

 また、まだまだこちら側でオンラインを利用しているユーザー層が見えてこない、という現状があります。もしかしたら、実際の店舗には絶対に訪れてこないようなユーザー層の方が、オンラインではアクセスしているのかもしれません。我々は、その辺もキチンと分かってから本腰を入れた方がいいのでは?という考えでいます。

IW:オンライン航空券販売サイトでは、PEX航空券を中心に取り扱うサイトもありますが、近畿ツーリストの場合はどうなのでしょうか?

越智:もちろんPEX航空券の取り扱いは行なっています。PEX航空券は、航空会社が値段設定や商品規定を行なっているので、代理店としては楽といえば楽ですね。しかし、条件が非常に厳しいので「ユーザーに提供しやすいか?」という点では疑問が残ります。また、航空会社で条件がまちまちなことや、同じ航空会社でも複数の商品があり、それぞれ条件が違うことからも難しいものがあります。

 しかし、航空会社側がより選択肢を増やすなどの対応を行なえば、普及していくと思います。このような期待を込めて、近畿ツーリストでは試験的試みとしてPEXの新しいシステムを関東の4店舗で運用を開始します。

 最終的には、格安航空券とPEX航空券を同時に表示できるシステムを開発して、ユーザーに対して「格安航空券とPEX航空券の区別無しに提供する」ことが、一番ユーザーサイドに立ったサービスだと考えています。現在、これに対する最大の障害は、海外の航空会社のシステムとの連携でしょう。英語で運営されている海外のシステムをどう巧く日本語システムと融合させるか?という問題があると思います。

IW:では、格安・PEXを問わずに、一番オンライン航空券販売の障害となっているのは何だと考えますか?

近畿日本ツーリストのWebサイト

越智:結論から言うと、「eチケット」の普及でしょう。現在、大手オンライン航空券販売サイトではPEX航空券の販売が多いです。これは、先に述べた「アナログ的作業」の問題が大きいのでしょう。

 格安航空券の欠点として、「申し込み時点で搭乗便の回答などができない」ことが多い点が挙げられます。PEX航空券では、申し込み時に搭乗便はもちろん、座席指定までできるものがあります。搭乗便が決まらない場合、後日搭乗便が決まった際の連絡など、PEX航空券に比べて「手間」が多いのです。この手間は、旅行会社の「アナログ的作業」を生み出すので、コスト面で考えて難しいという理由があります。

 これを改善するために「eチケット(チケットレス)」化が必要なのです。航空会社のサイトなどでは、既にeチケット化が始まっていますが、これは旅行代理店としても実現したい機能です。eチケットとは、サイトで予約および決算を完了すると、旅行代理店から「予約番号」みたいなものが与えられ、搭乗日に航空会社の搭乗カウンターで「予約番号」を言えば、チケットが貰えるというものです。ドイツでは、既に航空券の30~40%がeチケット化しています。このeチケット化が進めば、大幅に手間が減少し、一気にオンライン航空券の普及に繋がることも考えられます。

IW:日本でeチケットを普及させるためには、どのような障害が考えられるでしょうか?

越智:まず、航空会社の協力が必要です。現在、海外の航空会社については、旅行会社自身がeチケットを発行することも可能ですが、日本の航空会社の場合は、協力が必要です。旅行代理店と国内航空会社が協力し合えば、国内の航空会社についてもeチケット化は可能でしょう。

 もうひとつの問題が一番の難問といえるのですが、「まだ日本人は、チケットレスに対して不安を抱いている」という点です。現実には、旅行会社のサイトで予約を行なえば、そのデータが航空会社に渡されるので、「かなり安全」だといえるのですが、やはり航空券が手元に無いのは不安という方が多いようです。特に海外旅行の場合、パスポートでの身分確認もできますので、「予約番号を忘れても、名前を言うだけで航空券を渡すことも可能」なのです。しかし、そうは言っても、まだまだユーザーの不安は大きいでしょう。

 このような、不安については、先に述べましたオンラインでのクレジット決済に対する不安とあわせて、オンライン航空券販売の最大の関門といってよいでしょう。

IW:最後に、今後の展望を教えてください。

越智:個人ユーザーに対しては、先に述べたeチケットを普及させることが、オンライン航空券業界を広げるために最も必要なことだと考えています。これを普及させるためには、まず小額の国内旅行から始めるなどが有効でしょう。

 また、航空券販売に関しては、航空会社自身による直販が増えてくるのではないでしょうか。しかし、航空会社は、旅館などとのコネクションが不足しているため、宿泊施設などの予約に関しては弱いです。従って、我々は今までの経験を生かして「ツアーなどのパック商品」が強みになると考えています。このような、航空券に自社の付加価値を付けたパック商品をオンラインで販売していきたいと考えています。

 一方で、法人販売は、オンライン販売向きといえます。顧客企業のイントラと近畿ツーリストのシステムを連結させることによって、社員が目的地などを入力したものがそのまま当社のシステムに連結し、eチケットを発行することが可能です。また、企業間取引なので、決済の心配もありません。既に、このようなシステムを導入している企業もあります。顧客企業の協力さえ得られれば、このようなシステムの導入は比較的実現可能なものと言えます。

 このように、まだまだオンライン航空券販売に関しては、障害が多いと考えていますが、アメリカなどでは「いずれは全てがeチケットになる」という考えが常識です。あとは、「いつ日本で普及するか?」ですが、それについては前向きに見守っていきたいと考えております。


 越智氏は、「航空券のオンライン販売での普及の鍵は『eチケット』が握っている」ことを協調していた。これは、「オンラインで完結」させるという意味でも、当然の見解だろう。販売代理店側のコストや、無駄な郵送費などを考えれば、自分の名前を言うだけでチケットが発券されることは、ユーザーと販売代理店双方にメリットがあると言える。

 実際に、国内航空会社のサイトでは「チケットレス予約割引」というものが存在している。販売代理店、航空会社、ユーザーがそれぞれ協力して、「eチケット」を実現すれば、まだまだ航空券は安くなりそうだ。

○まとめ


 今回、「オンライン特化」、「格安航空券」、「大手旅行代理店」という3つの視点から話を聞き、それぞれの意見を聞いた訳だが、三社に共通した意見は、「まだまだオンライン航空券事業は儲からない」という認識だ。それは特に、海外航空券のような高額のものを扱う場合に難しいという認識でも一致している。

 また、これを改善するための案として、「ユーザーに対する啓蒙」や「ユーザーニーズに応えるための選択肢の増加」、「eチケットの普及」などが提案されている。

 「eチケットの普及」は、航空券業界独特のものなので、各航空会社や代理店の協力によって実現が期待できるが、「ユーザーに対する啓蒙」や「ユーザーニーズに応えるための選択肢の増加」に関しては、BtoC全体に関する問題と言えるだろう。

 特に「オンラインショッピングやクレジット決済に対しての不安」は、一朝一夕で解決する問題ではないので、確実で堅実なサイト作りなど地道な努力が必要なはずだ。しかし、クロスサイトスクリプティング問題などを露呈させる企業や団体は、後を絶たない。このような問題が、出てこなくなるような「セキュリティー認識をあらゆるオンラインサイト運営者が持つ」時まで、ユーザーの不安はなくならないだろう。

 一日も早く、「クリックすれば、後は成田に行くだけ」という時代が来るためにも、これに関わるショップやカード会社、OSベンダーに至るまで、地道なセキュリティー強化や啓蒙活動などの努力を行なってくれることを期待したい。

(2002/4/15)

[Reported by otsu-j@impress.co.jp]

ほかの記事はこちらから

INTERNET Watch編集部internet-watch-info@impress.co.jp
Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.