【ホビー】

「電子ブロック」復活の陰にインターネットあり!?
<学研編>

■URL
http://kids.gakken.co.jp/kit/otona/7/index.html (電子ブロックEX-150)

EX-150に同梱されるブロックで、縦6×横8グリッドのパレットがちょうど全部埋まる。下位モデルではブロックの数が少なく、別途オプションキットを買い足していくことで上位機種にアップグレードできた。なお、復刻版のEX-150ではスピーカーは固定式
 4月27日、学習研究社が「電子ブロックEX-150」の復刻版を発売した。

 電子ブロックは、トランジスタやコンデンサー、抵抗などの素子が埋め込まれたブロックを組み合わせることで、ラジオやモールス練習機、ウソ発見器などさまざまな電気回路を再現できる実験キットである。

 オリジナルのEXシリーズの発売は1976年で、年間の出荷数は10万個以上。いわば“電子ホビー”の代名詞的存在である。組み立てられる回路の数でいくつかのモデルがラインナップされており、EX-150はシリーズ中もっとも人気のあったモデルだったという。計46個のブロックで、その名の通り150種類の回路が再現できた。

 1981年には、後継機種のFXシリーズが発売され、“マイコン”を搭載するまでに電子ブロックは進化した。しかし、液晶ゲームやファミコンの台頭で、電子ブロックはやがて時代遅れになる。ターゲットとしていた小中学生に売れなくなってしまったことで、学研は1986年、電子ブロック全シリーズの生産を終了した。




「大人の科学」のロゴと復刻版という文字が入っている以外、見た目は同じ。説明書のデザインも懐かしい
 今回、20数年ぶりに復活したEX-150は、本体はもちろん外箱、電気回路図が掲載された説明書もほぼ当時のまま。学研が展開する「大人の科学」シリーズの第7弾として企画・発売されたもので、価格は9,800円。当時の価格は1万3,000円だったため、復刻版という位置づけながらオリジナル版よりも安い設定である。

 当時実際に電子ブロックで遊んだ、もしくは欲しくても買えなかったかつての小中学生が今はちょうど30代ぐらい。思わず手を出してしまうのもうなずける。今年2月、1万3,000人の読者がいるという「電子ブロック・メールマガジン」で先行予約を募ったところ即日完売。さらに学研のウェブサイトでのオンライン販売はすでに予約件数が5,000件を突破し、現在は6月発送予定の第3次出荷分の受付となっている。オンライン販売だけでなく、大人の科学シリーズ特約店における店頭販売分の受注も好調だという。

 プロモーションとして行なったのがポータルサイトへのバナー掲載と同社発行のメールマガジンだけだったため、学研では当初、売れたとしても最大で1万5,000個程度だろうと見込んでいた。しかしその予測は見事にはずれ、最低でも合計4万個を生産する計画だという。




お話しをうかがった金子氏(左)と原田氏(右)。大人の科学シリーズの購入者層である30~40代のうち、EX-150は年代的に30代がターゲットになる。40代からはマイキットの復刻を望む声もあり、今後ラインナップとして検討していきたいとしている
 学研が今になって電子ブロックの復刻に踏み切った理由は、あっさりしている。科学学習編集部企画開発室の新商品企画チーフディレクターで大人の科学編集長の金子茂氏によると、「大人の科学シリーズの購入者ハガキで自由に要望を書いてもらった中で、いちばん多かったのが電子ブロックだった」。

 かねてより大人の科学では、同シリーズのコンセプトに沿って「木で電子ブロックの新製品を作ろうか、という企画はあった」という。それが、「当時の電子ブロックそのものが欲しい」という声が多かったために、大人の科学シリーズとしては異色の復刻版というかたちで登場することになったわけだ。

 さらにそれ以前からも、電子ブロックを求める声は同社に寄せられていたという。特にそれを実感するようになったのが、1995年の暮れに公式ウェブサイトを立ち上げて以降である。

 当時のウェブマスターで現在は大人の科学シリーズを担当する新販売事業部副部長の原田洋一氏は、「試行錯誤を繰り返しながらのウェブ運営だったため、ネチケット上の不備を指摘するメールをたくさんいただいたが、それとともに目立ったのが電子ブロックの問い合わせだった」と振り返る。インターネットがまだまだ一部の先進的なユーザーに利用が限られていた時代、そんなユーザーにとって「学研と言えば、電子ブロックですよね」というイメージが強かったらしいと指摘する。

 もちろん、要望があっただけではなかなか商品化はできない。しかしその後、大人の科学という大人向けの商品事業が生まれたことで、ここに来て電子ブロック復活に至ったわけである。




問題のある実験回路については新しい回路を設計したにもかかわらず、それでも動作が安定しなかったものもあった。最終的に正誤表を添付してフォローすることに
 最終的に商品化にゴーサインが出されたのは、2001年の秋。「そののま復刻するのだから、苦労することはないだろう。実験回路も当時と同じであれば、説明書をスキャンすればいい」(金子氏)との目論見だったが、すぐに大きな問題に直面することになる。「はたして今、当時と同じものを生産することが可能なのか?」。

 当時の金型はもう使用できないことがわかった。そして、もっとも苦労したのが電子パーツの素子の調達だった。特にトランジスタについては、機能自体は同じはずの互換製品でも当時の製品と特性が微妙に異なっていたという。「150種類ある実験回路の中には、当時の回路図のまま組み立てても動作しないものがあるらしい」と気付いた。

 復刻版用に入手可能なトランジスタが決定したのが12月。やはり、当時とまったく同じ特性の素子は調達できなかった。しかし、学研ではその時すでに復刻についてアナウンス済みだった。ファンの期待を裏切るわけにもいかず、金子氏は「150種類の実験回路について、すべて自分でブロックを組み換えて動作確認を行なった」。毎日のように試作パーツと向き合い、年の瀬も押し迫る12月29日の深夜、やっと確認作業が終了した。

 その結果、約30種類の実験回路が当時の回路図では動作しないことが判明。これらについては、抵抗の値などを調整した新しい回路図が用意されることになった。したがって復刻版では、実験回路の名前や再現される機能については同じだが、使うパーツや配線などが異なるものがあるという。

 そのほか、本体もオリジナル版から微妙に変わった部分がある。もちろん、雰囲気は完全に再現されているために問題はないだろうが、逆にオリジナル版を持っているユーザーは相違点を見つけるのも楽しいかもしれない。




 「今回の復刻は、懐かしい製品を限定品として発売するものと誤解されているようだが、けっしてマニアに限定するつもりはない」と原田氏は説明する。むしろ、「電子ブロックによる実験は、いつの時代にやったって面白いもの。初めて触れる今の小中学生がどういう反応を示すのか興味深い」ということで、基本的には今後も継続して販売していきたいとしている。

 金子氏は、「30代の人からは、ぜひ子供と一緒に遊びたいという熱い声も寄せられている。今ではデジタル機器の中に隠れてしまってなかなか見られない部分を、電子ブロックを媒体として子供とともに勉強して感じとって欲しい」と強調する。

 もちろん一人で昔を懐かしむのも悪くないが、自分の趣味としてしまっておくのはもったいないだろう。ゴールデンウィークには間に合わないかもしれないが、夏休みまでにはぜひ入手して、「かつて不思議に思った経験を、子供の世代につなぐツールとして使ってもらいたい」(原田氏)ものである。

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(2002/5/1)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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