【ホビー】

「電子ブロック」復活の陰にインターネットあり!?
<名古屋編>

■URL
http://www.denshiblock.co.jp/ (電子ブロックホームページ)

 電子ブロック復活のムーブメントは、インターネット上では今に始まったことではない。学習研究社の「電子ブロックEX-150」が復刻される3年半前の1998年11月、電子ブロック機器製造株式会社がオンライン販売限定で売り出した復刻版が反響を呼んだことがある。




お話をうかがった電子ブロック機器製造取締役技術部長の大鹿正喜氏。中学生になる息子さんがいるが、やはりテレビゲームなどに夢中でまったく興味を示さないと笑う
 電子ブロックというと学研というイメージがあるかもしれないが、もともとは名古屋市内に本社のある電子ブロック機器製造の商品である。かつて学研では「マイキット」という電子ホビー商品を展開しており、いわば両社はライバル関係だった。それが1970年代はじめ、両社が提携したことで学研ブランドの電子ブロックが登場。電子ブロックという商品が全国的に広く認知されることになった。

 電子ブロック機器製造から限定発売されたのは、1971年の「ST-100」というモデルの機能を復刻したもの。学研から発売され、1972年には科学技術庁長官賞を授賞している記念的なモデルである。復刻版は当初、限定100個の予定だったが、雑誌などで紹介されたこともあって申し込みが殺到。最終的に生産数は750個に達した。

 ところで、ST-100に関連して興味深いエピソードが残されている。同社では復刻版の発売にあたり、それまで問い合わせのメールをもらっていたユーザーに対して告知メールを送信したのだが、実はここでCc:にメールアドレスを列挙してしまうというありがちなミスをおかしてしまった。

 まあ、当事者にとっては洒落にならなかっただろうが、その時に流出したリストが興味深い。そのメールを受け取ったあるユーザーによると、そこにはコンピュータメーカーやシンクタンク、IT関連出版社のドメインによる「なかなかの面々」のメールアドレスが含まれていたという。実際、この情報を提供してくれた本人もネットワークセキュリティのアナリストである。現在インターネット関連業界に従事している人の中には、かつての電子ブロック少年も多いのではないだろうか?




NT-55は木製のアタッシュケースに収められている。昨年の夏にNHKのテレビ番組で紹介され、注文が殺到したという
 教材用の電子ブロック事業については当時から継続している電子ブロック機器製造も、玩具モデルについては学研とともに撤退した経緯がある。ST-100も限定販売ということで、電子ブロックが復活したのも一時的な事業かと思われた。ところがそれから2年後の2000年11月、同社から電子ブロックの“新”製品「NT-55」が発売された。

 ST-100復刻版の生産終了後、これを手に入れられずにがっかりしていた人も多いことは同社でも十分承知していたという。しかし、国内で流通している部品で当時と同じモデルを生産し続けることがコスト面などで困難になってきていた。そこで、別に製品を開発して提供しようという判断だった。

 NT-55は、ST-100の実験回路から代表的な回路を選りすぐったモデルで、55種類の実験回路が再現できる。LEDやモーターを追加するなど、今風の味付けも施されている。現在まで継続して販売されており、出荷数は2,000個に届きそうな状況だ。

 取締役技術部長の大鹿正喜氏は、一時はあきらめた玩具モデルの電子ブロック事業について、「評判を聞きながらということになるが、せっかく買っていただいた方を落胆させてしまわないように、今後も会社が継続する限り続けていきたい」と述べている。スタッフの都合でなかなか手が回らないと苦笑しながらも、NT-55用のオプションパーツの開発にも取り組んでいくとしている。




バーチャル電子ブロックは、電子ブロックホームページで体験版がダウンロード配布されている。作成した回路をファイルとして保存できるため、ネット上でオリジナル電気回路の公開・配布も行なわれている
 ST-100の復刻版をきっかけに新製品のNT-55が開発され、玩具モデルの電子ブロックが復活したわけだが、そもそもST-100を復刻することになった経緯は何だったのか?

 電子ブロック機器製造では現在、NT-55だけでなく、Windows用の「バーチャル電子ブロック」というソフトと、同ソフト用の外部インターフェース「VDB I/F-01」も販売している。バーチャル電子ブロックはその名の通り、電子ブロックをパソコン上でシミュレートしたソフトで、ドラッグ&ドロップで各種ブロックをパレット上に並べていくところなど本物の感触がうまく再現されている。VDB I/F-01は、パソコンと接続できるセンサーやマイク、リレースイッチなどのキットで、パソコン上のバーチャル回路とリアル世界の入出力が可能になる。実は、ST-100復刻のきっかけになったのは、このバーチャル電子ブロックだったのだという。

 電子ブロック機器製造は1997年、マルチメディアプロデューサーのはやしとしお氏らからバーチャル電子ブロックという企画を進めたいという申し出を受けた。電子ブロック機器製造でもこれは面白いということで、機能的な部分で要望を出すなど開発に協力した。

 ただ、同社としては「単なるシミュレーターではつまらない。せっかく“電子ブロック”という名前を使うのだから、リアルなオプションパーツも作ってしまおう」(大鹿氏)ということで、まず外部インターフェースの開発が決定。さらに、バーチャル電子ブロックを盛り上げる意味で、電子ブロック機器製造の公式ウェブサイトを立ち上げてプロモーションすることにした。その開設記念として「まあ、50個ぐらいは売れるだろう」として始めたのが、ST-100の復刻版だったのだ。




バーチャル電子ブロック用の外部インターフェースであるVDB I/F-01。パソコンとはRS232Cケーブルで接続する。NT-55とも組み合わせ可能で応用回路も制作できる
 その後、プロデューサーだったはやし氏の急逝によりバーチャル電子ブロックのプロジェクトは一時停滞してしまったが、ST-100の復刻から2年後の2000年秋、NT-55の発売と前後してバーチャル電子ブロックとVDB I/F-01がリリースされた。

 かつて、液晶ゲームやファミコンなどデジタルの波に押されて消えていった電子ブロックが、今度はデジタル技術でパソコン上で甦り、結果としてそれがきっかけでST-100の復刻やNT-55の開発が実現したのはなんとも皮肉な話ではある。

 しかし、その時々の最新技術をうまく取り入れて発展するというのも当然あり得ることだ。確かに電子ブロックの最大の魅力は、実際にこの手で触れられる点である。「人間の五感を使って操作するという部分があり、操作のすべてが印象に残る」(大鹿氏)のだ。例えば、電流がショートするという現象はバーチャル電子ブロックでも“無限大の電流”として再現されているが、焦げた匂いはリアルでなければ感じられない。また、電子ブロックの代表的な回路にラジオがあるが、ラジオの電波をキャッチすることは、バーチャルでは再現できない。「自分の作成した回路で電波をキャッチできた時の感動は、リアルならではのもの」なのである。

 その一方で今ならば、パソコンをうまく活用することでバーチャルならではのよさが生まれる。例えば、「部品数の制限がない」というのはバーチャル最大の強みである。その気になれば、同じ素子のブロックを複数個使った回路も作成できる。今はまだ提供されていないが、波形の確認ができるオシロスコープなどの新らしいパーツや、組み立てた回路をまるごと1個のブロックに集約するという新機能の追加も考えられるということで、バージョンアップの際の検討課題になっているという。




学研のEX-150とはずいぶんと大きさが違うことがおわかりになると思う。NT-55は、ブロックの一辺の長さが1.5倍ほどある。これは教材用のブロックと同サイズだ
 ST-100復刻版の購入者はやはり30代から40代で、「昔は欲しくても買えなかったから」という人も多いらしい。大鹿氏はその点、「プレミアムグッズとして、使わないまま大事にしまっている方が多いのでは?」と、やや残念そうだ。というのも、個々の素子の特性の違いなどにより、回路図の通りに組んでもうまく動かないものはどうしても出てくるのだという。問い合わせがあってもよさそうなところだが、販売後、同社に寄せられるユーザーの声が思っていたより少ない。

 「『その通りやっても動かないんだけど?』という問い合わせはままあります。例えば『電子小鳥』という実験回路にしても、自分の思う音のニュアンスと違うというのであれば、抵抗やコンデンサーの定数を変えてくださいとアドバイスするんです。全部マニュアルに書くのではなく、ちょっとずつでも自分でいじっていただく楽しみを残しているつもりなんです」(大鹿氏)。

 電子ブロックは見るからに電気回路の実験キットというイメージだが、「これで回路の勉強しなさいという考えは、回路が全部ICの中に入っている時代ですから通用しない」。むしろ、「調子が悪い部分には何か原因がある。動かなくなっても短絡的にすぐ次のものに買い替えるというのではなく、何かちょっと工夫すれば動くようになるんじゃないかという考え方。そういう気持ちにさせるヒントづくりになれば」と考えているという。「玩具でも道具でも出来合いのものを与えられていることが非常に多くなってきている。これは完成していてあたりまえ、動いてあたりまえという部分で育ってきている子供が多い。『あたりまえじゃないよ』というところを、電子ブロックを通じて少しでも知って欲しい」。

 大鹿氏は、「学研のEX-150が復刻されたことで、また電子ブロックが盛り上がってくる」と見ている。製品自体はそれぞれ別だが、電子ブロック機器製造としてもBBSやメールニュースを通じて電子ブロックのユーザーをサポートしていく考えだ。ファンが運営する個人サイトとも協力して、電子ブロックのコミュニティを運営することも考えられるという。もしかしたら、かつての「電子ブロック友の会」がインターネット上で甦る日が来るかもしれない。

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(2002/5/2)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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