【集中連載】

「パーソナルマッチングサービスのトレンドを追う」

第二回:今、あえてコミュニティサイト運営に踏み出す思惑
~Yahoo!パーソナルズの場合

■URL
http://personals.yahoo.co.jp/

 いわゆる「出会い系サイト」を舞台にして起きた数々の事件の影響で、インターネットで見知らぬ人との「出会い」を求めること自体が、どこか後ろ暗いイメージがついてしまっているということは前回の記事でも述べた。このような風潮の中、大手ポータルサイトなどは、安心して出会いが楽しめるように、きめ細やかな配慮をし、真剣に結婚相手や交際相手、また共通の趣味を持つ友だちを探したい人に支持を得てきている。本記事では、これらのサービスを性的な目的をもって利用する「出会い系サイト」とは区別し、「パーソナルマッチングサービス」と呼ぶことにしている。

 さて、Yahoo!JAPANがコミュニケーション支援サービスとして4月25日に「Yahoo!パーソナルズ」をスタートした。Yahoo!JAPANといえば、一日あたりのページビューが3億に達するという、押しも押されもせぬ巨大ポータルサイトだ。そのYahoo!Japanが満を持してスタートさせるからには、既存のパーソナルマッチングサービスにはないさまざまな仕掛けが用意されているに違いない。早速、ヤフーにYahoo!パーソナルズへの取組みを聞いてみた。

●後発サービスならではの創意工夫


 「インターネットにおいて、後発のサービスが有利ということはほとんどありえないんですよ」とヤフー株式会社の影山工編集長は謙遜するが、言葉とは裏腹に自信ありげなまなざしからは、参入への勝算が読み取れる。「今のような状況だからこそ、真剣な交際を求めている人に安全に使っていただける場所を用意することに意義があるのです」と影山氏。また、「過去に起きたさまざまなトラブルへの対策は内部で検討し尽くしています」と、同社リスティング事業部企画室・アソシエイトプロデューサーで、Yahoo!パーソナルズを担当する後藤雅美氏も言葉を添える。

 やはりキーワードは「安心して利用できる」という点だ。パーソナルマッチングサービスを利用する上で、安全面で大きな役割を果たすのが本人性の確認方法の確立だろう。利用者の個人情報を、必要ならばサービス提供者が特定できるため、万が一のトラブル時に迅速な対応ができる。また利用者にとっても、個人情報を把握されているということによって自らの行動に責任が生まれ、不適切な使用目的への歯止めがかかる。

 Yahoo!パーソナルズの場合、この役割を果たすのが「Yahoo!ウォレット」への登録だ。Yahoo!パーソナルズを利用するために、本人確認費として月額280円が必要となる。このシステムは、すでに「Yahoo!オークション」でも本人確認手段として採用されており、同サービスの利用者は新たな費用を負担することなく、Yahoo!パーソナルズを利用できる。ウォレットの開設には、指定銀行口座の開設かクレジットカードといった身元の確認ができるものを利用しているうえ、毎月継続して検証できるという仕組みだ。

 インターネット上でのパーソナルマッチングサービスの多くが無料で提供されてきた経緯を考えると、「お金を払ってまで」というネガティブな意識を利用者が持たないかという懸念がある。だが、このシステムでは、決済手段が身元確認を兼ねていることで利用者に対して安全性をアピールすることに成功している。「安心して利用できるとおおむね好評です。すでにオークションでウォレットを利用されている方も多く、シームレスに利用していただけるのも受け入れられている要因ではないでしょうか」と後藤氏。

 利用にあたっては、オリジナルのYahoo!IDのほかに6つまでニックネームを使い分けることができるのも安全面への工夫だ。Yahoo!IDは、オークションやメッセンジャーなど多くのサービスと共通使用されているが、Yahoo!パーソナルズではIDとは違うニックネームを使うことを強く推奨している。こうすることで、本人の意思に関係なくメールやメッセージを送りつけられることを回避できる。

 なおヤフーでは、自己PR文を掲載する際に事前のチェックを「検閲にあたる」として行なっていない。しかし、不適切な発言がないかどうかパトロール隊がチェックしているほか、「利用者からの申告」機能も設置されており、利用者全体でサービスの健全化を図っている。

 もちろん想定されるトラブルに関しては、ヘルプや利用ガイドラインに細かく掲載し、利用者の啓蒙を行なっている。Yahoo!パーソナルズでは、実際に会うことをけっして推奨してはいないが、それでもオフラインで会うことを想定して、事細かに危機管理について言及している。「これらの注意点をきちんと頭に置いた上で、おのおのが利用すれば多くのトラブルは防げるはず」と後藤氏は言う。

●本国アメリカの「Yahoo!Personals」との差異


 米Yahoo!でも、Yahoo!パーソナルズは人気のサービスとなっている。米国では、新聞や街角で配られているフリーペーパーなどにペンパルやルームシェアリング相手を募集するメッセージを掲載することが一般的に行われており、見知らぬ人と知り合うことに関して日本人よりはるかに抵抗がないようだ。「向こうでは結婚相手やライフパートナーを探す目的で利用されている方がすごく多いんですよ」と社長室広報担当の中西りさ氏。米Yahoo!Personalsでは、ページのトップに成立したカップルが顔写真入りで「Success Stories」として紹介されており、実におおらかなイメージだ。インターネットで結婚相手を探すというのも、やがて日本でも珍しいことではなくなるのかもしれないと予感させる。

 日本でサービスを開始するにあたっては、もちろんいくつかのカスタマイズが施されている。例えば、「趣味」による検索である。あらかじめ設定された質問項目に応えることで自己PRがある程度作成できるようになっているが、「もしも無人島に一人で行くとしたら、何を持って行きますか?」など、設問が米国サービスとは違っている。自己アピールが苦手な日本人向けに担当者が頭を悩ませたことだろう。

 その他にも、シャイな日本人の習性を考慮して、プロフィール欄には写真以外にイラストを掲載できるようにしているのも日本版オリジナルだ。ただし、予想に反して顔写真の掲載率が高いそうだ。「顔写真を載せている方のほうが、メールをもらう確率はぐっと高まるようですね」と後藤氏も言うように、多くの利用者が顔写真を掲載している。実は、写真を掲載したほうが検索結果では優先的に表示される仕様だそうだ。写真掲載は、Yahoo!パーソナルズの特徴といって差し支えないだろう。

 男性に限らず女性でも、あまり抵抗なく顔写真を載せているようだ。出会いの確率を高める目的があるだけでなく、プリクラや写メールの流行で顔写真の露出に抵抗のない層が増えていることもあるかもしれない。

 なお、顔写真を含めた自己PR文が、Yahoo!パーソナルズに登録していない誰からでも容易に見られるということを念頭において欲しい。インターネット上というパブリックスペースの特性であることは間違いないが、顔写真を掲載することについては、本人やサービス提供者が想像するリスクを遥かに超えた利用をされることも当然考えられる。あくまでも掲載に関しては自己責任でよく考えてからにしよう。

●メッセージングサービスとの連動


 Yahoo!パーソナルズのユニークな特色が、Yahoo!メッセンジャーとの連動だ。自己PR文の顔写真の下に「オンライン/オフライン」を表示するボタンがある。ここでオンラインになっている人には、メッセンジャーで話しかけることもできるのだ。なお、オンライン表示をするかどうか、メッセンジャーからの呼びかけに応えるかどうかは個々に設定できる。

 Yahoo!メッセンジャーは、オークションの入札価格の更新お知らせや、出品者への質問がリアルタイムでできるツールとして組み込まれているなど、Yahoo!JAPANが提供する各種サービスにおいてリモートエージェント的な働きを担っている。

 また、Yahoo!メッセンジャーの最新バージョンからは、公開プロフィールの検索ができるようになった。公開プロフィールとは、Yahoo!JAPANを利用する人が、自分のプロフィールを登録しておけるサービスだ。これを使えば、Yahoo!パーソナルズを経由してメッセージを送ってきた相手のプロフィールを知るのに役立ちそうだ。「将来的には、Yahoo!パーソナルズ経由で新しいメールが届いたらメッセンジャーに通知が行くなどの仕組みは検討したいですね」と影山氏。

 メールでのやりとりのみならず、メッセンジャーを併用することでより親密なコミュニケーションも期待できる。ただし、リアルタイムでのメッセージ交換は、予想以上に相手との精神的距離感を短時間で縮めるので、お互いの理解が不十分なまま齟齬をきたす場合もある。そのメリットとデメリットをよく考えてから利用したいものだ。

 まだスタートしたばかりのサービスゆえ、新たな試みを採用するよりまずは安定した運用を図りたいとしながらも、「将来的には、携帯電話からの利用にも対応せざるを得ないでしょう」と影山氏。最大手ポータルが参入することでパーソナルマッチングサービスがどのような変化を見せるか、今後の展開に注目だ。

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[Reported by いちばゆみ]

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