【特集】

5GHz帯無線アクセスの屋外利用開放に
期待できること/できないこと


 5GHz付近の周波数を使う無線アクセスシステムといえば、5.2GHz帯(5.150〜5.250GHz)を使うIEEE 802.11aやHiSWANaなどに準拠した製品が国内でも実用化されている。特にIEEE 802.11aについては徐々に普及しているが、国内では利用が屋内に規制されているのがウィークポイントだ。すでに同じ周波数帯が割り当てられている移動衛星システムへの干渉を防ぐためである。

 これに対して、近く無線アクセスシステム用に屋外利用が開放されようとしているのが、4.9〜5.0GHzと5.030〜5.091GHzである(本記事では便宜上、これらをそれぞれ「4.9GHz帯」「5.03GHz帯」、2つをまとめて「5.0GHz帯」と呼ぶことにする)。

 5.0GHz帯は、一部条件があるものの屋外利用が認められる周波数帯だ。すでに総務省の情報通信審議会が答申をまとめ、あとは省令の改正を待つだけの状態となっており、サービス導入を見据えて取り組みを開始した通信事業者も現われている。

 今回の特集では、屋外利用の開放を機に実用化が進められている5.0GHz帯無線アクセスシステムについて概要をまとめた。既存の2.4GHz帯との違いや5.2GHz帯システムとの互換性などの面から、果たして期待できるものなのかどうか考えたい。

◎関連URL
■総務省 高速インターネット接続用無線アクセスシステムの導入に向けて─「5GHz帯無線アクセスシステムの技術的条件」の諮問
http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/011022_2.html
■総務省 無線インターネットの高速化に向けて─「5GHz帯無線アクセスシステムの技術的条件」を答申
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020507_1.html
■総務省 5GHz帯無線アクセスシステムの導入に係る告示の制定及び一部改正案に対する意見の募集
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020611_3.html

●通信事業用として“クリア”な回線環境の5.0GHz帯

2.4GHz帯の電波環境についての調査レポートが総務省東北総合通信局のウェブサイトで閲覧できる。宮城県仙台市近郊における実地調査データのほか、ISM機器から無線アクセスシステムに与える影響の測定データも公開されている
 LANはもとより、ブロードバンドサービスのラストワンマイルやホットスポットなど、屋内/屋外を問わず、あらゆるシチュエーションで活用されている無線アクセスシステムとしては、IEEE 802.11/11bという2.4GHz帯を利用するものが広く普及している。一方、近く屋外利用が開放される5.0GHz帯は、屋内限定の5.2GHz帯と補完しあうことで、2.4GHz帯に続く無線アクセスシステムとして普及する可能性がある。

 実際のところ、現在首都圏で2.4GHz帯を使ったブロードバンドサービスを展開しているスピードネットでは、「5.0GHz帯が無線アクセスシステムとして屋外で使えるようになることは、通信事業者にとって歓迎すべきことと考えている」(経営企画部広報グループの笹沼裕氏)としており、すでに同社では米ワイヤレス関連ベンチャーのAbicom International社などを含めて、事業化に向けた共同開発を推進中であることを明らかにしている。

 それでは、5.0GHz帯を使うことで、どういったメリットが生まれるのか? スピードネットによれば、「(電波の)干渉を懸念する必要がなく、通信事業用回線としてクリアである」(技術部技術開発グループの野村浩史氏)ことが大きいという。

 従来の2.4GHz帯はISM(Industrial,Science,Medical)バンドと呼ばれていることからもわかるように、家電や医療機器、商品管理システムなどさまざまな用途で採用されている。このため、無線アクセスシステムとしては無線局免許なしで手軽に導入できる一方、ISM機器や他の無線アクセスシステムからのノイズが存在することをわきまえたうえで運用しなければならないのは周知の通りだ。

 周波数ホッピングスペクトラム拡散(FH-SS)方式という比較的ノイズに強い無線システムを採用しているスピードネットでも、医療機器の影響などで通信速度が極端に下がってしまうユーザーもまれに存在するという。2.4GHz帯は、「屋外利用も可能だが、通信事業用としては限界もある」(野村氏)ことも事実なのである。

 その点、5.0GHz帯は「ノイズ源がない」(野村氏)。ISM機器からの干渉がないのはもちろん、5.0GHz帯は通信事業者向けの周波数帯として基地局設置には免許が必要となる。自営系の無線LANとしての運用が認められないため、無線アクセスシステム同士の干渉も少なくなるわけだ。

 確かに、4.9GHz帯については既存のデジタルマイクロ固定局と同じ周波数帯を共用することになるが、互いに干渉するエリアではそもそも無線アクセスシステムの基地局設置が許可されない制度となる(デジタルマイクロ固定局との周波数共用については後述)。設置が許可される以上は、他の無線機器からの「ノイズ源がない」ことには変わりないだろう。

 さらに5.0GHz帯では、「2.4GHz帯システムと比べて通信速度が向上することも大きなメリット」(野村氏)だ。例えば、5.2GHz帯を使うIEEE 802.11aに準拠した仕様を5.0GHz帯にも適用すれば、2.4GHz帯のIEEE 802.11/11bよりも通信速度の向上が見込める。また、空中線電力に関する規制が2.4GHz帯よりも緩くなっているため、より長い距離をカバーできるシステムも開発可能だという。

 なお、2.4GHz帯の無線アクセスシステムでも、IEEE 802.11gとして高速化を図った仕様が標準化されようとしている。また、周波数によって電波の伝搬性質は変わってくるため、空中線電力が高いからといって必ずしも5.0GHz帯のほうが長距離接続が可能になるとは限らないだろう。使う周波数帯だけを見て、5.0GHz帯のほうが通信速度や通信距離で有利であるとは一概には言えず、やはりもっとも期待できるのは「通信事業用回線としてクリア」な周波数帯が使えるという点になりそうだ。

◎関連URL
■スピードネット 5GHz帯無線アクセスシステム基本動作試験成功
http://www.speednet.co.jp/press/020204.html

●5.0GHz帯無線アクセスは“広帯域”とは限らない

NTTアクセスサービスシステム研究所の北條氏作成によるチャンネル配置の説明資料。なお、チャンネル幅が5MHz(または10MHz)の狭帯域システムがいずれかの帯域で一つ立ち上がっていると、共用バンド内のその他の帯域が空いていても、20MHzのシステムからはビジー状態と判断されてしまう。このため、広帯域システムほどキャリアセンスのレベルについて条件を緩くすることで、異なるチャンネル幅を持つシステムが混在する環境でも、各システムが公平に接続を確立できるような仕組みが取り入れられた
 今のところ5.0GHz帯は、無線アクセスシステム用としては日本で独自に開放される周波数帯であり、この周波数をカバーしている無線アクセスシステムの標準仕様は存在しない。とはいえ、総務省の情報通信審議会が5.0GHz帯の屋外利用開放のための技術的条件を検討するにあたって前提としたのは、既存技術の活用や互換性である。5.2GHz帯という比較的近い周波数を利用しているIEEE 802.11aやHiSWANaなどを、そのまま周波数だけ移動させて適用することは可能のようだ。

 ただし、5.0GHz帯が、必ずしもIEEE 802.11aやHiSWANaの拡張または修正仕様向けにあるわけではないことに注意したい。実は総務省の定めた5.0GHz帯無線アクセスシステムの技術的条件には、IEEE 802.11aやHiSWANaにはない“狭帯域”への対応も盛り込まれているのである。

 例えばIEEE 802.11aでは、5.2GHz帯の中に5.170GHz、5.190GHz、5.210GHz、5.230GHzと20MHz間隔で4つのチャンネルを配置。これらの周波数を中心に1チャンネルあたりそれぞれ20MHz弱の周波数帯を利用できるようになっている。

 一方、5.0GHz帯でも、同様に20MHz幅でチャンネルを配置することで、4.9GHz帯で4チャンネル、5.03GHz帯で3チャンネル配置することが可能だが、このうち一部の周波数帯では、より狭帯域な10MHz幅や5MHz幅のチャンネルも配置することが可能だ。

 具体的には、4.9GHz帯のうち4.91〜4.95GHz、5.03GHz帯のうち5.03〜5.06GHzが、20MHz幅/10MHz幅/5MHz幅チャンネルの共用周波数帯となる(残りは20MHz幅チャンネルのシステム専用)。例えば、4.91〜4.95GHzでは、20MHz幅チャンネルでは2チャンネルしか確保できないが、10MHz幅なら4チャンネル、5MHz幅なら8チャンネル分の通信を同時に収容することが可能になる。

 20MHz幅チャンネルでは20Mbps以上の最大伝送速度が義務づけられているのに対して、10MHz幅では10Mbps以上、5MHz幅では5Mbps以上となっている。通信事業者が実際に提供するサービスの内容に応じて、採用するシステムやチャンネル幅が選択でき、広帯域にも狭帯域にも対応できるようになっているのだ(異なるチャンネル幅を使う異なるシステムを複数の通信事業者が同時に運用しても、問題なく周波数を共用できるよう「キャリアセンス」という方法も規定されている)。

 5.2GHz帯を使うIEEE 802.11aに対して、IEEE 802.11bを高速化した無線アクセスシステムというイメージを持っている方も多いはずだ。そのため、5.0GHz帯が狭帯域にも対応したことを不思議に思われるかもしれない。これには、総務省が想定している5.0GHz帯無線アクセスシステムの利用形態を説明する必要がある。

 5.0GHz帯無線アクセスシステムで想定されている利用形態は、ADSLなどのブロードバンド固定網を無線に置き換えた「FWA(Fixed Wireless Access)」と、ホットスポットなどでの公衆無線接続サービス「NWA(Nomadic Wiress Access)」の2つ。しかも、前述のように通信事業用に免許制で開放される周波数帯である。

 例えば、5.0GHz帯無線アクセスシステムをFWAとして利用するとなれば、エリアを面的にカバーする必要がある。チャンネル数が多く確保できるに越したことはない。一方、NWAならば、PDAあるいは携帯電話といった小型端末からの利用も見込めるだろう。チャンネル幅の広いシステムでは、高速になる一方で消費電力が大きくなるというデメリットがある。これは、小型端末にとっては避けたい問題だ。

 その点、現時点における他のブロードバンド回線のスペックと照らし合わせて考えれば、FWAでもNWAでもADSL程度の伝送速度があれば十分だと言えないだろうか? IEEE 802.11aやHiSWANaなど、近い周波数帯を使う既存システムとの互換性を重視すれば、確かに20MHz幅のチャンネル配置だけにするのが妥当だったろう。しかし、5.0GHz帯無線アクセスシステムは、当初無線LAN用として実用化されたのがFWAやNWAにも活用されるようになった、IEEE 802.11bやIEEE 802.11aとはいささか事情が異なるのだ。

 そのため、5.0GHz帯でFWA事業を見込んでいるスピードネットや、ソニーなどの携帯機器メーカーらが狭帯域チャンネルの必要性をアピールし、最終的に10MHz幅や5MHz幅という狭帯域チャンネルも盛り込まれた模様だ。

 したがって、5.0GHz帯無線アクセスシステムによるサービスついては、最大54MbpsのIEEE 802.11aと似ているからといって、必ずしも同等の高速接続が提供されると期待してしまわないほうが無難である。制度上で運用できるスペックとは別に、実際に提供されるサービスの性質によってチャンネルあたりの帯域幅、つまり通信速度も異なってくる可能性がある。

 スピードネットでは現在、狭帯域システムの仕様も検討中だとしているが、やはり「5.0GHz帯システムでもっとも早く実用化できる仕様は、IEEE 802.11a準拠のもの」(野村氏)と見ている。ただし、それでは確保できるチャンネル数が限られてしまうため、「需要によっては面的な基地局展開は難しいかもしれない」という。

 同社では、20MHz幅もしくは5MHz幅のどちらのシステムを採用するかを含めて事業方針を検討中であり、料金や通信速度、提供エリアなどのサービス内容が決定されしだい概要を公表するとしている。

◎関連記事
■5GHz帯無線アクセスの想定するサービスはいったい何か?
/www/article/2002/0226/5ghz.htm

●開放される周波数帯のうち、事実上使えるのは半分だけ?

総務省の5GHz帯無線アクセスシステム委員会がとりまとめた報告書の添付資料より。同委員会では、既存の固定マイクロ通信システムと4.9GHz帯無線アクセスシステムの共存条件を検討するにあたって、全国10都市についてシミュレーションを行なった。このマップは、そのうちの東京23区周辺および長野市周辺のもの。送信電力が10mW/MHzの無線アクセスシステムでは、固定マイクロ通信局までの伝搬損失が130dB以下のエリア、すなわちマップでは緑色までのエリアには1局も基地局を開設できないという結果に。さらに基地局を複数設置する場合は、各基地局からの干渉量の総和を考えなければならない。伝搬損失が154dB以上のエリアと、さらに条件が厳しくなる
 20MHz幅のチャンネルで5.0GHz帯無線アクセスシステムを運用する場合、4.9GHz帯と5.03GHz帯とで合計7チャンネルが確保できるわけだが、実はどんな場所でもこれらすべてのチャンネルが使えるということではない。4.9GHz帯については、基地局設置が許可されるエリアが条件付きとなっており、その場合、運用できるのは5.03GHz帯の3チャンネルのみとなってしまうのだ。

 国内では現在、4.4GHz〜5.0GHz帯が電気通信業務用の固定マイクロ通信システム向けに割り当てられている。キャリアなどが拠点間の中継用に使っているものだ。徐々に光ファイバーなど他の回線への置き換えも進みつつあり、将来的にはこういった用途に割り当てる周波数そのものを見直すということも検討されているようだが、712区間の固定マイクロ通信システムが運用されているのが現状である(2000年12月現在)。

 実はこの一部が同じ周波数帯を使っているということで、4.9GHz帯の無線アクセスシステムは、これら既存の固定マイクロ通信システムに干渉を与えないエリアだけに基地局設置が規制されているのだ。

 やはり都市部では固定マイクロ通信システムも密集しているため、おのずと利用可能なエリアは限定される。具体的な数値は省略するが、総務省の審議会が作成した東京23区周辺のシミュレーションマップによると、10mW/MHzの送信電力(EIRP)の基地局をたった1局だけ設置する場合でも、利用可能なエリアは東京湾の海上などかなり狭いエリアに絞られるようだ。

 さらに、複数局を設置する場合では条件もシビアになり、1平方キロメートルあたり4局設置すると仮定すれば、東京23区周辺で利用可能になるエリアはない。同様の条件で長野市周辺をシミュレーションしたものでも、長野市などの市街地では利用不可能。山間部に利用可能エリアが広がるのみである。

 実は総務省の情報通信審議会に設けられた「5GHz帯無線アクセスシステム委員会」でも、屋外利用開放の検討対象となっていたのは当初4.9GHz帯のみだったが、固定マイクロ通信システムとの共存を考えた結果、「首都圏などでは固定マイクロ通信システムとの共存上から、当面利用困難」(NTTアクセスサービスシステム研究所ワイヤレスアクセスプロジェクトの主幹研究員で、上記委員会で作業班のメンバーも務めた北條博史氏)との結果に達した。そこで、これを補うために急きょ、5.03GHz帯が追加されたという経緯がある。

 5.03GHz帯が含まれる5.000〜5.091GHzという周波数帯は、本来は航空機の進入・着陸の誘導システム「MLS(Microwave Landing System)」用に国際的に確保されている周波数帯であり、当然、日本でもMLS向けに割り当てられている。

 ところが、国内では現在MLSが運用されておらず、当面の間これを導入する計画もないということで、無線アクセスシステム用として開放しようということになった。いわば、MLSが導入されるまで“借用”するわけであり、総務省が示した5.0GHz帯無線アクセスシステムの技術的条件に「5.030〜5.091GHzについては、一定期間の仕様を想定」という項目が含まれているのは、このためだ。

 FWAでもNWAでも、事業化がスタートするのは需要が多いのは都市部からということになるだろう。とすれば、当初実用化されるのは5.03GHz帯からということになる。

 実際、すでに「ホットスポット」事業で5.2GHz帯を導入しているNTTコミュニケーションズが5.0GHz帯屋外利用の実験に取り組むことを明らかにしているが、これは5.03GHz帯のほうである。また、2月に4.9GHz帯の試験に成功したと発表しているスピードネットだが、こちらも5.03GHz帯についても検討中だとしている。

 固定マイクロ通信システムの周波数帯変更などにともない、将来的には4.9GHz帯も使えるようになるだろうが、それはかなり長いスパンでの話である。しばらくの間、4.9GHz帯については期待できないかもしれない。

◎関連URL
■NTTコミュニケーションズ 5GHz帯屋外無線LANの実験局免許申請について
http://www.ntt.com/release/2002NEWS/0006/0610.html

●無線システムベンダーの5.0GHz帯対応製品開発に期待

Atheros Communicationsのウェブサイト。6月27日付けで、5.0GHz帯にも対応したチップセット「AR5001J」が正式発表された
 今回の特集では、総務省が屋外利用開放に向けてまとめた技術的な条件をもとに、5.0GHz帯無線アクセスシステムの可能性を考えてみた。しかし、やはり実用化と普及を左右するのは対応製品の開発面となるだろう。IEEE 802.11aやIEEE 802.11bの場合は、米国製品がそのまま使えるよう国内の規制が緩和されたことで低価格化が進み、普及に弾みがついたわけだが、5.0GHz帯は日本独自の周波数帯なのである。

 とはいえ、5.2GHz用の無線チップセットで大きなシェアを持つ米Atheros Communicationsが、5.0GHz帯に対応するソリューションを発表済みである。5.2GHzもあわせて対応するチップセットということで、5.0GHz帯と5.2GHz帯を屋外/屋内で自動的に切り替える無線システムの製品化も期待できそうだ。無線アクセスシステム機器ベンダーの動向に期待が寄せられるわけだが、このあたりのテーマについては、機会をあらためてとり上げる予定だ。

(2002/7/1)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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