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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!

第24回 アウトバーン (by taoga)

■ヨーロッパを自在にアクセスできる


イラスト・Nobuko Ide
 アウトバーンという言葉を聞いた時に、連想するものは何だろう。車の好きな人やスピード狂なら、時速無制限のまっすぐな道をぶっ飛ばしたくてウズウズしてくるだろう。私の暮らすマンハイムの周辺は交通の要だ。また東西南北に走るアウトバーンの中心に位置することから、この町の周りで方向変換することも多い。
 私の住む住居は大通り(分離帯は犬の散歩道になっている。「第16回 闘犬の受難」を参照)に面しているが、その道を走っていくと、アウトバーンに入る。乗り換えずに10数分まっすぐ走れば、古城で有名な、美しいハイデルベルクの町だ。その間に2ヵ所あるインターチェンジで乗り換えれば、大半の方面をカバーできる、便利なつくりになっている。例えば6番に乗って北に向かえばフランクフルトハノーファーハンブルクを通って、北の端まで続いていく。反対に南に向かえば、ハイルブロンを経由し、シュツットガルトヴュルツブルグ方面。南でもちょっと方向の違う5番に乗ると、バーゼル経由でスイスに入り、ゴッタルドのトンネルを抜ければ、イタリアはもうすぐそこだ。この5番とか6番とかの数字は、アウトバーンに付けられた番号。標識にも記されているので、覚えておくと乗り換えの時に便利だ。
 ワインを飲みに行く(「第18回 ビールvsワイン」参照)時は別だ。マンハイムから西方面に位置するプファルツ地方へ行く時だけは、ライン川を挟んで広がる隣の町ルードヴッヒハーフェンを抜け、アウトバーンに入る。そのアウトバーンからザールブリュッケンでドイツを出て、そのまままっすぐ走れば、パリまで約5時間の道のりとなる。
 また鉄道でも、ドイツ鉄道の新幹線にあたる「ICE」や急行列車の「IC」は、マンハイム中央駅で乗り換えることが多い。

 私は車が好きでも、スピード狂でもない。だからアウトバーンの恩恵にあずかるといっても、ただの交通の手段として利用しているに過ぎない。普段の速度は、時速100~120Kmくらいだろうか。以前、友人の家に行く時に先導してもらったら、160~180Kmで走り去る友人の車に全然追いつけずにうろたえたことがある。もたもたと走っている私にようやく気が付いたその友人、ウンザリしながら速度を私の車に合わせてくれた……が、目的地につくなり一言、「Schneckenfahrer!」と私に浴びせた。訳すなら「カタツムリ運転手」。そうか、私は亀よりのろいんだ……と納得。
 実際、ドイツの主要都市以外の小さな町や村に行くには、車なしではまず不可能だ。電車やバスを乗り継いでいては一日がかりとなる。私のように近郊の教会などでコンサートをする身だと、その後、夜中にマンハイムの家に帰ることなど絶対に無理だ。以前、まだ車を持っていなかった頃に隣の町ハイデルベルクでオペラを演奏した時など、電車を乗り継ぎ家に帰ったら深夜3時近かったなんていう経験もある。今は、その4時間半かかった行程を車で帰る。必要な時間はほんの20分(!)だ。

■アウトバーンの暗い一面


カラッと晴れた日のアウトバーン
 このドイツが誇るアウトバーンは、ヒトラーが残した遺産の一つだといわれる。道がまっすぐなのも、戦時中どこでも滑走路として使えるようにという理由もあったと聞く。戦後、1950年代頃から整備を続け、今日ではドイツ国内に広がるアウトバーン網の全長が約1万1,000kmにも及ぶという。東西ドイツ統合以降は、放置されて痛んだままだった旧東ドイツ側の修理に追われているようではあるが、最近はかなり整備が整ったようで、しばらく停滞していた旧西側のアウトバーンの整備も再開されている。

 日本の高速道路との大きな違いは、時速無制限なことだけではなく、料金所がないことだろう。無料なのだから当然だが、料金を払わなくていいだけではなく、料金所でいちいち徐行して停車する、時間的ロスがないことがうれしい。もう一つは、照明がないこと。真っ暗な闇の中を高速で走っていると、まるでブラックホールに突入していくような気持ちになり、慣れるまで怖かったのは私だけなのだろうか。他の車が一瞬で追い越して行き、そのテイルランプすらしばらくして見えなくなってしまうと、また闇の中を独りでポツンと走っていることになる。道が真っ直ぐなだけに眠気も襲ってくる。数秒なら居眠りしていても真っ直ぐだから大丈夫。オットット(笑)。
 照明がないのは電気代の節約にもなるし、滑走路代わりに使用する非常事態(!)に、飛行機(戦闘機?)の主翼が照明用の柱に引っ掛からないためでもあったようだ。私個人としては、この「非常時」という言葉を聞くたび、イヤーな気持ちになるのだが……。というのも、その一つ一つが「この人たちは、また戦争する気なのだ」と思わせるからだ。アウトバーン滑走路に限らない。もっとも代表的なものとして、防空壕がある。各町の要所要所に、今でも「非常時」に逃げ込むための防空壕が設置されているのだ。普段は蓋がしてあってそれとは気づかないが、その中には決められた収容人員分の何十日分だかの食料や水が常に用意されていると聞く。
穏やかな公園の一角…だが、実は防空壕の入り口になっている
 「いつ来るかもしれない非常時」のために、そしてその時に自分だけは助かりたいと思うその辺に、ドイツ人の本質を垣間見るような思いだ。実際、もし第3次世界大戦でも起ころうものなら、数十日分の食料を用意してあってもダメだろうし、ましてや外人の私は間違ってもここへ入れないのだから、どっちでもいいことなのだろうけれど……。
 しかしこれが、川を挟んだ、あるいは陸続きでもある隣国と常に戦ってきた民族の隠れた魂なのかもしれない。「平和」の2文字にどっぷりと浸かっている我々日本人もここから学べることもあると思う。

 ともあれ、アウトバーンの快適さは確かだ。片道3車線から4車線あるところがほとんどだし、ほんの一時期の特定な時間帯や事故以外、普段は渋滞もない。2車線だと少し走りにくくなる。右の車線は大抵トラックで占められているからだ。左の追い越し車線(右側通行)は迂闊には出られない。私みたいにノロノロ走っていると、スピードのある車に一瞬でくっつかれて「邪魔、ジャマーーーー!」と言われる。それが同じ程度の小さな車だと腹が立つが、ポルシェフェラーリだったりすると、「ゴメンゴメン」となってしまう。その点、ウィークエンドは快適そのもの。特別な許可がない限りトラックは土日祭日は走れないからだ。その分、制限が解ける日曜日の夜は、トラックのオンパレードとなるが。

■「Langsam aber Sicher」で走っていこう


 最近のドイツは運転マナーが悪くなった。とはいえ、隣国のそれに比べればまだまだ規則正しい。イタリアやフランス、スイスから帰ってくる時、国境を越えドイツに入った途端、ホッとするのはそれが理由だ。最近の現象として、何故かウィンカーを出すことをしない人たちが増えてきていて、これが怖い。時速150キロとかそれ以上で走っていて、前触れなく突然(!)車線変更されるのも怖いが、街中の交差点でどっちに曲がってくるのか判らないと、道を横断することすら躊躇してしまう。ひがみっぽいが、いい車に乗っている人の方がその傾向が強いように感じて、高価な車にはウィンカーがついていないのかとも思ってしまったりしている。
 そのような小さなことが大きな事故に繋がる。時速が早ければ早いほど、事故の時はすさまじい。この数日、立て続けに事故現場を見たが、追い越し車線に文字通り「横たわって」いる車や見事に大破している車、炎を出して燃えている車を目のあたりに見たり、救出用のヘリコプターが飛び立ったりするのを見ると背筋がぞっとするのを抑えられない。また、一度事故がおきると、後遺症としての渋滞もすごい。大きな事故でなくても、渋滞に巻き込まれれば1時間は覚悟しないとダメだ。その後に仕事がある時は大変。一度など開演2分前に飛び込んだこともある。どんな演奏をしたかって尋ねられても、そのスリル以外は全然記憶にない(~_~;)

街中の標識もわかりやすい
 アウトバーンの標識は、見事に整備されている。青の標識はアウトバーン用。他のアウトバーンへの行き先指示というだけではない。街中にいて、どっちに走ればアウトバーンに乗れるのかを探す時にも、青い標識が頼りだ。他にも黄色の標識はアウトバーンではないが「Bundesstrasse」と呼ばれる自動車専用道路を示しているし、白の標識は普通の街中の道路用になる。
 標識さえ気をつけていれば、目的の場所にたどりつけないといったことはまずない。 これがドイツを一歩出ると、もう大変。「なんでこんなとこに来ちゃったのー」みたいな羽目に陥る。日本のようにカーナビも普及していないし、持っていたとしても2日目には窓ガラスを壊されて盗まれてしまうだろうし。間違いなく目的地に着きたいのなら、地図を常に用意しておかないと大変なことになる。
 インターネットの世界はというと、アウトバーンほど整備されるにはまだ時間がかかるかもしれない。ただ、ドイツでも通信のアウトバーンにあたるADSLが普及しつつある。日本のようなブームは起きないとは思うけれど、ドイツ風に着実に浸透していくだろう。ドイツ人の好きな言葉でいえば「Langsam aber Sicher」、“ゆっくりと、でも確実に……”というところか。

 私もドイツでの生活が長くなり、どこかがドイツ風になってしまっているようだ。これからも日本風なところとドイツ風なところの、できるならいいところをミックスして、時には素早く、時にはゆっくりとマイペースで生きたいと思う。
 これまでご愛読ありがとうございました。また、別の機会にドイツの情報をお伝えできることもあると思います。それまでAuf Wiedersehen!(また会う時まで)

※「アウトバーン通信」は今回で終了です。御愛読ありがとうございました。

◎著者自己紹介
 ドイツに来て27年。どんなことが珍しくて何が日本ではない物なのか見分けがつかなくなっている私。アウトバーン通信を書きながら、新たにドイツと日本の違いを考える機会に恵まれ貴重な経験をしました。それも今回で最終回。まだまだお伝えしたかったこともあったけれど、半年間だったこともあり季節にあわず書く機会を逸した部分が悔やまれてしまいます。いつか、ドイツの「秋編」をお伝えしたく思いながらひとまずお休みさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。
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(2001/04/27)

[Reported by taoga]

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