【連載】
小形克宏の「文字の海、ビットの舟」
――文字コードが私たちに問いかけるもの
特別編16
JIS文字コードの例示字体変更は、大きな混乱を招かないのか(2)
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この原稿は、今年1月15日から2月15日まで実施されていた「JIS X 0213改正原案の公開レビュー」に応募した後半部分だ。前半部分は先週に「特別編15」として公開した。本来は両方ともレビュー期間中に配信しなければいけないところだが、私の遅筆により、この後半部分はレビュー後になってしまった。申し訳ない。
なお、公開レビューへの応募原稿は、下記URLからダウンロードできる。一部を加筆しているので、すでに前回を読んだ方もぜひお読みいただきたい。また、感想などをいただけると筆者としてこの上ない喜びだ。
■「JIS X 0213 改正原案の公開レビュー」に対する意見と要望
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/sp16/review.pdf
●どうして今年度委員会の発足が5カ月も遅れたのか
2002年度新JCS委員会の第1回委員会は10月18日に行なわれた。年度始めの4月から半年も過ぎている。昨2001年度の第1回委員会は5月22日に開かれているから、それに比べれば5カ月遅れということになる。所轄である経産省や事務局をあずかる日本規格協会は、その理由について審議の席上で説明はなく、3カ月後の1月中旬には公開レビューをするから、それまでに改正原案をまとめて欲しいと日程を提示している。
なぜこんなに遅れたのだろう。私は委員会終了後の10月21日、佐藤敬幸副委員長に直接メールで疑問をぶつけてみた。その結果、以下のような回答を得た。
まったくその通りで、なぜ早く実作業開始できないかと確認したのですが、二つの理由で開始が、(ほとんど年度内完成が無理な程度に)遅れてしまいました。
一つは、経済省とJSA(引用者註:日本規格協会)の契約が遅れたためです。たしか7月か8月契約だったように記憶しています。これは役所側の事務の遅れと理解しております。
次に重要な委員について、組織から委員任命の許可が下りるまで時間がかかり、メンバーがそろったのが9月20日頃だったかと思います。
さらに委員会の幹事の時間の都合で、10月始めには委員会が開けませんでした。
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佐藤副委員長の説明によると、新JCS委員会のような以前からの継続プロジェクトの場合、通常はいちいち契約は結び直さないのだが、今年度はどういう理由からか改めて契約することになり、これが遅れたのだという。どうしてだろう?
1つには「汎用電子情報交換環境整備プログラム」の存在が挙げられるかもしれない。これは電子政府実現のためのフォントや文字データベースを整備するものだ。当然、住基ネットとも関係が深い。
■「汎用電子情報交換環境整備プログラム」提案公募要領
http://www.meti.go.jp/information/downloadfiles/c20620b01j.pdf
このうち、「12. 問合せ」にある経産省の担当者は、新JCS委員会の担当者と同一人物だ。上の文書は2002年の6月20日付け。この審査結果を示す文書は以下にある。
■工業標準化推進調査等委託費(汎用電子情報交換環境整備プログラム)に係る委託先公募の結果について
http://www.meti.go.jp/information/data/c20823aj.html
こちらは8月23日付け。すでに年度始めから5カ月弱がたっている。見ると落札したのは日本規格協会を代表とし、国立国語研究所、情報処理学会の3者であることがわかる。ちなみに日本規格協会の担当者は新JCS委員会の担当者と同一人物だ。
この「汎用電子情報交換環境整備プログラム」という名前が初めて公になったのは、情報処理学会を母体とする情報規格調査会が主宰する文字コード標準体系専門委員会(以下、文字コード委員会)の席上だった[*1]。ここでは新JCS委員会をも所轄する経済産業省の産業技術環境局標準課情報電気標準化推進室の課長をはじめ、落札した3法人が一堂に会している。前出の佐藤副委員長はじめ新JCS委員会のメンバーとも重なる部分が多い。
幸いなことにこの委員会の審議は公開されており、私も傍聴を続けてきた。そうして審議内容を先の落札者に照らし合わせれば、公募元の経産省にとっては、望んでいた団体が望んでいたように落札してくれたと取ることができる。
もっとも、この委員会の時点で「汎用電子情報交換環境整備プログラム」は、JIS文字コードにある文字を一般が照会でき、そこにない文字を登録申請することのできるシステムとして説明されていたが、上記の「提案公募要領」では、電子政府用のフォントや文字データベースのためのものとなっており、大きく性質が変わっている。
とはいっても、こうして一連の経緯を並べて見れば、限られた者たちの間で利権が独占されているとも取られかねない。これは国民の税金で国民のための行政をする経産省として絶対に避けたい見方のはず。その上このプロジェクトの委託先が決まる前にJIS文字コードの改正委員会を発足させれば、自分で火をつけて自分で火を消すマッチポンプと批判もされるかもしれない。だからこそ経産省は、委託先がはっきりするまで契約締結を遅らせた、そういうストーリーが成り立つ。
現在の私はこのプロジェクトについて公開情報以外なにも知らない。だからこれ以上述べる材料はない。そういえば、2002年7月に経産省の担当部局である情報電気標準化推進室に新JCS委員会の発足が遅れている理由を問い合わせた際、「文化庁もうち(経産省)も“別の予算の件”があり、なかなか手が回らなくて」と説明されたと思い当たるのみだ。たしかに、これだけのプロジェクトを新規立ち上げするとなれば、担当者は手一杯となり他の案件はお留守になりがちというのが実際の姿かもしれない。
しかし、仮にこの件がJIS X 0213と関係があったとしても、その改正作業にまでしわ寄せさせてよいとは言えないだろう。経産省は第1回委員会の時点で、新JCS委員会の発足が遅れた理由と、それにも関わらず改正を今年度中に終わらせる必要性を明らかにする責任があったと考える。もし「別の予算の件」で委員会発足を遅らさざるを得なかったならば、本来はその分だけ改正も遅らせるのが筋ではないか。JIS文字コードの改正は、拙速が許されるような軽い事案ではないはずだ。
●芝野幹事の委員就任の遅れは、委員会発足の遅れにつながったか
つぎに佐藤副委員長が「組織から委員任命の許可が下りるまで時間がかかった」と言った「重要な委員」について。私はすでに別の人物からこの件を聞いて知っていたのだが、これは芝野耕司幹事(WG1主査も兼任)のことを指す。これを折り返し佐藤副委員長に確認したところ、以下のような回答をもらった。
そうです、事務との間でもめたと聞いております。なにせ公務員には業務専念義務がありますから。
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通常JISの委員会は、委員を任命したい人間の承諾を得た後、その所属先に「そちらの某の委員就任を認めて欲しい」という「委員就任依頼状」を送付する。これが捺印されて戻り、正式にその人間は委員会の一員となる。そして、委員長や主査、幹事など役付の人間は、一般の委員よりも先行して手続きがすすめられる。なぜならこれら骨格となるべき人事が決まらないと、全体の編制ができないからだ。
さて、前述の私が聞いた話というのはこうだ。芝野幹事は標準化にかかわる国内や国際のさまざまな役職を引き受けている。ところがこれを勤務先の大学にうまく話を通していなかったのか、「公務員の業務専念義務に違反するのではないか」との声があがり、それでなかなか承認されず就任が遅れてしまった。上記の佐藤副委員長が言ったことも、私の聞いた話をそのまま裏づけている。
この件を確認すべく、芝野幹事の勤務先である東京外国語大学総務課に聞いたところ、以下のコメントを書面でいただいた。
こちらに委員就任依頼が届いたのは4月末、回答したのは7月23日です。3カ月ほどかかっているわけですが、手続き等は若干遅れておりました。
まず就任依頼状をみると、委員としての就任日は、承諾日からとなっております。通常、就任日を指定されてきますが、今回の依頼はその指定がありませんでした。ですから当方として通常どおり手続きをすすめました。
また、こうした依頼には教授会の議を経て学長の承認が必要ですが、教授会は月に一度程度しか開かれず、どうしてもタイミングを逃すと遅れがちになります。そこでたとえば4月に就任するならば、余裕をもって2月初旬に依頼をいただくのが通例です。
以上のように、当大学として事務を故意に遅らせたという事実はありませんが、事務手続きについては、今まで以上に迅速化を心がける所存であります。
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どうにも四角四面な返答で苦笑するしかないが、ともあれ佐藤副委員長と東京外語大の認識は食い違っているのは確かなようだ。そこで折衝に当たった事務局を担当する日本規格協会の関達雄研究員に話を聞いた。
芝野先生の委員就任が遅れたことは事実です。ただ、それが東京外語大の責任とは考えておりません。通常、就任依頼は2月か3月に所属先に送りますが、今年度の場合それが4月にずれこみました。そしてこれは私の責任なのですが、芝野先生の場合、親委員会、幹事会、そしてWG1と3つの承認が必要で、これを一括すればよいところ書類を3枚作り、その上何度かに分けて送ってしまいました。
もともと芝野先生は他にもJISの委員を多く引き受けていただいてます。それで書類が積み上がってしまい、言い方は悪いのですが目立つことになり、大学から「委員会をたくさん引き受けているようだが全体で拘束時間はどの程度か、一覧表をつくってほしい」という問い合わせをうけました。業務専念義務違反という言葉じたい、そうしたやりとりの中で出てきたものです。こうして通常なら1回の会議で承認されるところを2回かかり、手続きに時間がかかってしまいました。
ただ、東京外語大の承認が遅れなかったとして、委員会の発足まで早まったかは疑問です。なぜなら経産省の発足の判断じたいが東京外語大の承認日より後だからです。
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つまり芝野幹事の就任に手間取ったのは事実だが、それが直ちに委員会発足の遅れにつながった訳ではない、ということになる。
国内外のさまざまな規格制定にかかわる芝野幹事を指して、学内の同僚が「ブルドーザー」と評するのを聞いたことがある。しかしそのような精力的な活動に対する報酬は、こういう仕事の通例として非常に少ないはずだ。そうしたことを考えれば、精力的なあまり勤務先から疑問の目を向けられたことを微笑ましく思っても、彼のしてきた仕事結果を日々享受している私として、彼を責めるのは筋違いと考える。むしろここでも問題にすべきなのは、経産省の判断が遅れたことの方ではないか。
●本当に十分な審議をして改正原案は作成されたのか
審議過程で問題にしなければならないことはまだある。それは新JCS委員会が公開レビュー前の時点で10月18日の1回だけしか開かれておらず、委員会は作業部会(WG)で作成した原案を、メールによる審議だけで了承していることだ。こうした省略された手続きで、はたして十分な審議を尽くして公開レビューをしたと言えるのだろうか。
じつは第1回の審議で日程を説明された時には、公開レビュー前には委員会を開催することになっていた。当日配布された『符号化文字集合(新JCS委員会)調査研究委員会の進め方(案)』(JCS14P-01-02)のうち、「4. 活動スケジュール」を見ると、1月の欄に「○」がついており、委員会がここで開催される予定だったことがわかる。私も当然1月中に委員会があるものと思っていた。
■『符号化文字集合(新JCS委員会)調査研究委員会の進め方(案)』
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/sp16/JPC14P-01-02.pdf
ありがたいことに一度傍聴した人間には、事務局が委員会の開催をメールで知らせてくれる通例になっている。しかし開催の知らせが来る前にきたのは、「JIS X 0213 改正原案を公開中です」というメールだった。知らないうちに親委員会が開催されたのだろうか? 不審に思い問い合わせたところ、事務局からは以下の返事が来た。
親(引用者註:委員会)は開いておりません。E-Mailで承認されました。
「大きな問題(言葉は違ったが)が無ければE-mailによる承認」
これは、先の委員会で確認されたことです。
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しかし10月の時点では、1月の開催が説明されていたことは前述したとおり。つまり上記の事務局の説明には矛盾がある。折り返しこのことを問い合わせたところ、以下のような返答が届いた。
第1回委員会で配付資料「新JCS委員会の進め方(案)」(JCS14P-01-02)について、佐藤副委員長から「メールで結論が得られない場合は,委員会を開催する」を追加する要望があり、認められたのでこれを追加しています。
事務局としてはこれを拡大解釈して、メールで結論が得られたので開催しませんでした。
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こうした恣意的な「拡大解釈」が許されるのか大きな疑問だ。これが許されれば、わざわざ会合など開かなくても原案作成が可能ということになる。百歩譲って「メールで結論が得られれば委員会は開催しない」ということであったとしても、10月の時点ではメールによってWG作業結果を審査するとは説明されていない。つまり、なんらかの理由によって1月の委員会は開けなくなり、急遽メールによる確認に変更されたと考えられる。それがどんな理由かはわからないが、まずは日程の遅れにより余裕がなくなったとするべきだろう。前述した発足の遅れがなければ、公開レビュー前に委員会は開催できたはずで、ここでもスタートの遅れのしわ寄せが審議に影を落としたことになる。繰り返すが、経産省にはこれについて説明責任がある。
これに関連して指摘しなければならないことがある。それは今年度からWGの審議が非公開になったことだ。結果として、前年度はWGをふくめ総ての審議を傍聴できたのに、今年度はほとんど審議内容がわからないまま公開レビューを迎えてしまった。
なぜWGの審議は非公開に変更されたのだろう。これじたいは事務局の提案によるものだ。その提案理由について事務局に問い合わせたところ、以下のような回答を得た。
WGとは純粋に親委員会の依頼による作業のためのものです。昨年度は、本来親委員会で検討されるようなことがWGでされていたのではという反省がありました。そこで今年度からは、WGには作業部会としての作業に専念してもらいたいと考え、WG審議の非公開を提案しました。純粋に作業のための部会であるなら、公開の必要はあまりないからです。反面で、公的標準の策定にあたっては各関係部門の合意は必須で、WGを含めた議論が必要と考えております。そこで、今年度からはWGの委員も親委員会に出席可能としました。親委員会じたいの情報公開は、昨年度とはなんら変わっておりません。
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親委員会には親委員会の、WGにはWGの役割があり、それぞれの役割に専念してもらおうということか。しかし、基本的な部分で誤解があるようだが、審議そのものに支障がない限り、公開される情報が「必要か不必要か」を判断するのは、公開を受ける側であるはず。逆になればそれは単なる情報統制ではないか。もしもWGでの審議を聞いて必要がないと思えば、次は行かなければよいだけのこと。ところが非公開になれば、それすらわからないのだ。
本来の審議に悪影響が出るというのなら非公開も理解できよう。しかし「不必要だから」は果たして理由になるのだろうか。結局この事務局提案を唯々諾々と承認した新JCS委員会も「何のための情報公開か」という視点がなかったと思わざるを得ない。
また、事務局の回答は「親委員会こそが公開する価値のあるもの」ということのようだが、ならばなぜメールによって改正原案を承認するような安直な運営を親委員会でしたのか。
このようにしてWG非公開は、結果的に今年度の審議を不透明なものにし、痛くもない腹を探られる結果を招いただけだったと言える。公開レビュー前のWGでの検討作業は一切が藪の中ということを思い起こそう。来年度からはWGも公開に戻すべきだろう。
ここまで審議過程を検討した結論をのべよう。今年度の新JCS委員会の改正原案が正式に制定ということになれば、3カ月程度の突貫工事で原案を作っても、メールによって了承されれば改正原案にできるという前例を作ることになる。たとえ前年度に1年かけて改正方針をまとめていたとしても同じことで、こうした特急審議を正当化する理由になるとは思えない。
このような「お手軽改正」に道を開くことになれば、結果的に人々からJISは信頼されなくなり、公的な工業標準そのものが自壊の道を歩むだろう。将来に禍根を残さないためにも今年度の改正は見送り、時間をかけて再審議すべきと考える。
●なぜJIS X 0208が改正原案で触れられていないのか
昨年度新JCS委員会の成果報告書では、JIS文字コードの改正方針への公開レビューを総括する中で、JIS X 0208について以下のように書く。
今回の「考え方」は、JIS X 0213を軸に検討を行ったが、検討の対象となった文字の多くは、JIS X 0213においては、JIS X 0208から一括して引用されている符号位置にある。
JIS X 0213を改訂した場合、JIS X 0208をどうするか、という問題があり、本委員会の中にも現状維持、変更の両論があった。
公開レビューに対するコメントにもやはり両論があり、それぞれ論旨は甲乙つけがたい状態にある。
一方、「考え方」の趣旨を具体的な規格に反映するためには、今後さまざまな観点からの検討が必要となる。X 0208の扱いについても、次期委員会において規格論からの精緻な議論を踏まえて結論を出すこととしたい。(成果報告書 p.31)
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つまりJIS X 0208についての判断を今年度委員会に先送りしたわけだが、この「宿題」は未解決のままだ。〈今後さまざまな観点から〉〈規格論からの精緻な議論を踏まえて結論を出す〉とまで書いたものが、どうして今回の公開レビューにないのか? 私が第1回委員会を傍聴した際の議事メモによれば、親委員会としてWGに作業委託したのは以下の3点だ(ちなみにこの時の議事録は公開レビュー前の時点で未公開)。
(1)「JIS文字コード改正の方針と具体的変更個所」にもとづき、JIS X 0213の規格本文、および附属書の追補原案の作成。
(2)JIS X 0208について、上記の追補で問題点が発生するか否かの検討。
(3)JIS X 0213のいわゆる「カッコ付き符号位置」について、すでにISO/IEC 10646で確定した部分を反映させる追補原案作成の可否の検討。もし出来るならば原案まで作成するが、時間的に無理であればパスしてもよい。
この委託内容から考えればWGでJIS X 0208についても検討したはず。しかし改正原案でこれについて全く触れられていないということは、WGでは「問題なし」と判断したととれる。もっとも本当にこの検討結果が妥当かどうかは、WGの議事が公開されていない以上、我々には判断できない。
そして、WGの作業結果をメールによって親委員会に承認させるという拙速な議事運営のため、「規格論からの精緻な議論を踏まえて結論を出す」という前年度委員会の「約束」を破る結果となってしまった。今年度委員会のメンバーが多く前年度と重なっていることを考えれば、これについて一言あってもよいのではないか。
では、前年度に示された改正方針をJIS X 0208に反映させようとした場合、どのような問題点が考えられるだろう。前回まとめた今年度のJIS X 0213改正原案の骨子を再掲すると、以下のようになる。
(1)JIS X 0213のうち168の面区点位置の例示字体を変更する[*2]。
(2)JIS X 0213に、「JIS X 0221互換漢字」として10の面区点位置を追加する。
(3)JIS X 0213附属書4、附属書6のうち、カッコで括られていた符号位置を、JIS X 0221-1とISO/IEC 10646-2に定められた正規の符号位置に変更する。
では、JIS X 0208について改正方針はどのように言っているだろう。上記を踏まえながらまとめると、以下の2つになる。
(a)JIS X 0213で変更する168の例示字体のうち、JIS X 0208では100字につき、変更する案・変更しない案の2つが考えられる。(改正方針 2.1.5-(5))
(b)JIS X 0213では「JIS X 0221互換漢字」として追加する10の符号位置は、JIS X 0208では追加しない。(改正方針 2.1.4-(2))
このうち(b)は、もともとJIS X 0208自体が表外漢字字体表のうち2字が表現できないことを考えれば、この10字を改めてJIS X 0208では追加しないという改正方針の判断は、ごく常識的なものと言える。だから今年度の審議過程を考える上でポイントとなるのは(a)であり、これをJIS X 0213と切り離して審議して良いかどうかだろう。
どちらが良いかは前述したので繰り返さず、ここでは手続き論だけ述べる。例示字体を変えようとする符号位置は、すべてがJIS X 0208にあるものだ。だから仮にJIS X 0208では変えず、JIS X 0213では変えると言うことになれば、ややこしいことにJIS X 0208は「JIS X 0208そのもの」と「JIS X 0213で引用されたJIS X 0208」の2種類ができてしまう。したがってこの判断は、本来両規格まとめてくだされるべき筋合いのもので、分けて判断してはいけないはずだ。
仮に「JIS X 0208は来年度に変えるからよい」としても問題は残る。今年度の原案通りに改正されたとすれば、JIS X 0208が改正されるまでの最低1年間、上記2種類のJIS X 0208が世の中に存在することになってしまう。これが混乱でなくてなんだろう。そもそも来年度に変えることが決まっているならば、今年度中にさっさと変えて
しまえばよいだけで、今からそう結論することは来年度委員会を形骸化するだけではないか。
どうして分けざるを得なかったか。十分な時間さえあれば審議は可能だったはずで、しつこいようだが委員会の発足が遅れたからだろう。つまり経産省の判断の遅れは、このように審議の内容にも深く影響していると考えられる。
以上述べたように、今年度新JCS委員会の審議過程には多くの疑問点がある。これらの疑問点を一掃するために、改正原案はいったん白紙にもどし、来年度から改めて慎重に審議されることを望みたい。
[Reported by 小形克宏]
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