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[2004/12/27]
第6回:米国Yahoo! Inc.の検索エンジンと「Yahoo! Search Blog」の裏側
[2004/12/22]
第5回:Yahoo!検索の開発最前線! YST開発の4つのポイント
[2004/12/20]
第4回:Yahoo!検索の開発最前線! 米Yahoo! Inc.の現場とは
[2004/12/16]
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[2004/12/10]
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[2004/12/03]
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[2004/11/26]

Yahoo!の検索ビジネス戦略を探る


第4回:Yahoo!検索の開発最前線! 米Yahoo! Inc.の現場とは

~米Yahoo!検索エンジンプロジェクトマネージャー 実吉弓夫氏に聞く

 月間249億500万ページビュー、ユニークユーザー数約3,931万人と推定される国内最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。連載第4回目となる今回は、Yahoo!独自の検索エンジン「YST」の開発現場となる米国Yahoo! Inc. 検索エンジンプロダクトマネージャーの実吉弓夫氏にYSTとYahoo! JAPANとの連携についてお伺いした。


Yahoo! Inc.のYahoo! JAPANチームの仕事とは

米Yahoo! Inc. 検索エンジンプロダクトマネージャーの実吉弓夫氏

――Yahoo! Inc.には、Yahoo! JAPANのページ検索を専門とするチームがあると聞いたのですが、まず、こちらでの業務の内容とチームについてお聞かせください。

実吉:米国カリフォルニア州にあるYahoo! Inc.でYSTの開発に携わっています。プロダクトマネージャーとして全体的なディレクションも行ないますが、Yahoo! JAPANのチームと連絡を取りながら、日本特有の問題を解決することも大事な仕事ですね。YSTのチームの中には、言語学の博士号を持ったスペシャリストもいますし、モデリング、プログラミングのエンジニアもいます。

 検索アルゴリズムというのはコンピュータ科学の最先端ですが、コンピュータサイエンスのプロフェッショナルだけではとてもやっていけない世界です。日本語をわかっているだけではなくて、日本の文化、習慣、もっと細かいところで言いますと、芸能人の名前ですとか、日本の一般の方が検索するワードに関する知識がなければいけません。開発というのは、いくらメールや電話といった通信技術が発達したところで、エンジニアやいろいろなスタッフ同士でディスカッションする場が必要なのです。検索エンジンのバックエンドの開発はすべて米国でやっていますから、こちらにもチームがあるのです。

――Yahoo! JAPANのスタッフとはどういうやりとりがありますか?

実吉:Yahoo! JAPANにもエンジニアがいます。日本にいる、ということは当然お客様により近いところにいますから、いろいろなフィードバックが帰ってくるわけですね。それをこちらに伝えてもらって、悪い部分は改善し、新しい機能を追加していくわけです。コミュニケーションは頻繁ですよ。メールは毎日、電話も週に2~3回、さらに双方のチーム全員での電話会議を週1回やっています。特に(本連載第3回に登場した)宮崎氏とは、すぐそばで一緒に仕事をしているような錯覚に陥るほど、よく話をしますね(笑)。


日本人エンジニアがいる意味

――実際、日本のチームから上がってくる要望としてはどんなものがあるのでしょうか。

実吉:たとえばひらがなで「たかお」と入れると、いろいろな可能性があるんですね。高尾山という地名かもしれないし、大沢たかおという俳優さんかもしれない、あるいは高尾というパチンコメーカーという可能性もある。ひらがなを入れただけでは、実際にユーザーが何を欲しいのかは非常にわかりにくいわけですが、バックエンドの方で探しているであろう単語を結果の上位に表示させるために可能性の高いモノを出していく、そういったフィードバックは非常に多いです。

 この点をもっと突っ込むと、「たかお」の「か」は助詞かもしれない、という可能性もあります。そうすると、「たかお」という名詞の中でどれを選ぶかという問題のほかに、さらに文章をどうやって区切るか、という形態素解析の問題にもぶち当たるんですね。

 こうした問題については、フロントエンドで処理することも可能です。しかし、バックエンドを改良していくほうが効率もいいし、全体の検索効率も上がるのでバックエンド自体の性能向上を目指しているのです。

 こういった問題は、やはり米国人エンジニアに伝えてもなかなかわかってもらえない。日本人のエンジニアがいる意味というのはここにあるんですね。

米Yahoo!オフィスのエントランス 米Yahoo!オフィスの外観

検索エンジンのアルゴリズムは言語に左右されない

――日本チームと米国チームの役割の違いをお聞かせください。

実吉:両者の棲み分けとしては、日本のチームがフロントエンドとサービスの開発、米国チームがバックエンドの開発、と言っていいでしょう。フロントエンドは直にお客様に見ていただく部分ですから、どういうレイアウトが見やすいか、色合いが合うか、それは日本にいるスタッフが開発した方がいいだろうということですね。そして例えばYahoo!知恵袋やYahoo!辞書検索のような日本独自の検索サービスは日本のお客様を理解している日本チームが立案して提供していくべきだと思います。

 一方、検索エンジンのYSTの開発は日本の問題ではなく、ワールドワイドな製品です。また、アルゴリズムというのはそもそも言語に左右されるものではありません。科学的なセオリーやデータに基づくもので、ユニバーサルなものですから、米国で開発しているというわけです。

 フロントエンドは日本独自のものですから、こちらの方で新しい試みをして、日本での反応を見て都合がよければワールドワイドで利用されるYSTに反映させていく、といったこともあり得るでしょう。YSTでやっている意味というのはそういったところにもあるのです。もっとも、英語にも「Apple」といったら、果物のアップルかMacintoshのアップルか、といった問題はありますが(笑)。

――日本対策チームだけでなく、ほかの言語のチームもあるのですか?

実吉:日本ほどの規模ではないですが、それぞれの言語のスペシャリストがいます。YSTというのはYahoo!のバックボーンとなる部分ですし、ワールドワイド規模の製品ですから、インターナショナルチームには中国人もいれば韓国人もいます。

 ここで面白いのは、日本語というのは中国語や韓国語に近いので、これらの言語において、なにか発見や効率のよいアルゴリズムを発見した場合、日本語に適用できることがあるんですね。もちろん、日本語で見つかった問題解決の方法を中国語や韓国語に応用することもあります。

 他のチームがどんなことをやっているのかを間近で見ることによって、自分たちが担当する部分にも活かされる、そういった相乗効果はこの職場だからこそあることですね。


今後重要になるのはパーソナライズ

――実吉さんは日本と米国、どちらの事情もよくご存じだと思うのですが、両者の大きな違いを教えてください。

実吉:一番大きいのはユーザーの違いです。文化観の違いなのかもしれませんが、米国のユーザーの要望に対処するには、なるべくサービスの選択肢を増やしたほうがいいんですね。一方、日本ではセットにしたほうがいい場合がありますね。

 それはロボット検索か、ディレクトリかという話にも繋がってきます。ロボット検索は自主的にキーワードをインプットしなければなりません。その自主性と無限の選択肢を好むのは米国のユーザーでしょう。一方、そこから一歩踏み込んでサーチする対象をカテゴリという形でこちらから提供するディレクトリ検索が日本人に好まれるのも、やはりユーザーの文化観の違いによるものだと思います。

――現在、検索エンジンを開発するに当たって、難しい点とはどういったことでしょうか。今後の抱負と併せてお聞かせください。

実吉:個人的な意見ですが、結局は検索の質、それが一番難しいのです。よく検索エンジンに必要な要素として挙げられるのがレリバンシー(Relevancy=検索能力)とコンプリヘンシブネス(Comprehensiveness=包括性、網羅性)、フレッシュネス(Freshness=情報の新しさ)の3つですが、特にレリバンシーとコンプリヘンシブネスのバランスというのは難しいテーマですね。網羅性を追求すればそれだけ検索の母体となるサイトが増え、結果的に検索精度を上げるのが難しくなります。今後、Webサイトの数はさらに増えていくことは間違いありません。YSTに限らず、検索エンジンすべての問題ですね。

 チャレンジという意味では、今後重要になるのはパーソナライズです。これまでは検索語だけが、ユーザーの欲しているサイトを探るための唯一の情報でした。しかし、そこに、ユーザーがどのページにいるのか、男性か女性か、検索している時間、場所といった情報をサービス側で自動的に補ってやることによって検索精度を上げる、というのが重要になってきていると思います。キーワードだけに頼らない、ということですね。

 日々増殖していくWebサイト。増えていくインターネットその中でいかに探しているサイトを見つけ出す手助けができるか、我々は日々、考えながら開発をしています。


YST開発チームの雰囲気とYahoo!の社風

――YSTはAltavistaやAll The Webなど既存のエンジンを企業買収などによって別の会社から導入した技術を盛り込んで作られたものですが、いろいろなところから集まった開発チームの雰囲気はどうなんでしょうか。

実吉:個人的にはすごくいい環境だと思っています。これはあくまで私の私見ですが、エンジニアというのは自分の考えや哲学に固執しがちです。しかし、こうしていろいろなところのスタッフが集まってくることによって、検索についてのさまざまな考え方、多様なものの見方を社内のリソースとして蓄えることができるのです。そうした情報交換、情報共有というのが大きな財産になっていると思いますね。もちろん、企業文化や習慣の違いという乗り越えなければならないものもありますが。今の雰囲気はまだ完成されたモノでなく、YSTというフィールドにおいて、いろいろな考えを持ったスタッフたちが新しい文化をブレンドしている最中、といったところでしょうか。

――こういったネット企業には、技術的な部分を重視したアカデミックな社風のところと、もっと総合的な部分を重視した大企業型の会社とがありますが、Yahoo!というのはどういった社風なんでしょうか。

実吉:今どうあるか、ということはともかく、両方必要だと思います。専門的に研究していくような人材ももちろん必要ですし、一方、一般の方が使うサービスですから、バランス感覚やビジネス的な視点も必要です。それぞれの分野に秀でた人材を集めることでバランスを取る、といった感じが現在のYahoo!だと思います(笑)。

米Yahoo!には従業員用のスポーツジム「Yahoo! fitness」も 米Yahoo!のオフィス内に設けられたカフェテリア「URL」

Yahoo! Inc.の率直な印象は?

――実吉さんは今年の9月にYahoo! Inc.に入られたと聞きました。率直な印象をお聞かせください。

実吉:エキサイティングですね。今ホットな分野ということはありますが、それ以上に検索、つまり情報を探すということは、人間にとって永遠の課題だと思うのです。そういった大きな観点から見てもやりがいがありますし、一方で、アルゴリズムの開発は非常に数学的でミクロな世界でもあります。

 日々のニュース、それこそ芸能人の話題から世界情勢まで、包括的な仕事ができる、という意味では非常に魅力的ですね。今やYahoo!は大企業です。国籍や人種といった意味ではもちろん、アカデミックな人、メディアに強い人、クリエーターなど本当にいろいろな才能が集まっているのです。そういった人たちとコミュニケーションを取りながら仕事ができるのは、本当に仕事をしていてやりがいがありますね。

――最後の質問です。今、人材募集にも非常に力を入れているとお聞きしました。どういった人材を必要としていますか。

実吉:まずは検索に関心があるということはもちろんですが、日本語そのものにも興味を持っているエンジニアやプロジェクトマネージメント職の方ですね。米国にいる日本人というのは、在米中国人に比べればほんのわずかです。さらにこれらの条件を満たす人材となると、なかなかいないんですね。現在日本にいる方でも、条件に当てはまり、かつ英語での仕事に問題がない人であれば大歓迎です。

――ありがとうございました。


□Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/

[2004/12/16  取材・執筆:伊藤大地]


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