徹底したデータ活用で
成長を続ける第2世代のECサイト
~「LOHACO」を支えるMicrosoft Azure~
「LOHACO」は、アスクルとYahoo! JAPANがタッグを組んで2012年10月にはじめた、日用品を中心に70,000点ものアイテムを取り扱う「第2世代ECサイト」だ。都市部の30~40代の女性を中心としたリピート顧客を獲得し続け、現在の利用者数は累計450万人を突破、国内EC最速の成長を遂げている。そうした成長を支えているのが、商品開発から販売、物流までに至るデータの徹底的な活用である。LOHACOにおける具体的なデータ活用の取り組みと、そのシステム基盤を支えるクラウドサービス、Microsoft Azureがもたらした効果について、アスクル ビジネスマネジメント&アナリティクス統括部長兼ECマーケティングディレクターの成松岳志氏とインフォメーション テクノロジー統括部長の小林悟氏に、社会学者の古市憲寿氏が聞いた。(以下、敬称略)
家庭で必要なものをECサイトで購入できる利便性を提供
古市アスクルは企業向け通販サービスで広く認知されていますが、B2C事業である「LOHACO」を開始された経緯をお聞かせください。
成松2012年当時のECは、地方の特産物や家電といった趣味嗜好品を単品買いするロングテール型が主流でした。これを仮に「第1世代のEC」とすれば、日常生活のほとんどをECで賄えるようなサービス、すなわち「第2世代EC」を提供しようと考えたのが始まりです。LOHACOがメインとする顧客は30~40代の働く女性なのですが、そうした女性たちは会社でアスクルを使っており、個人購入に対する要望も高かったのですね。
古市現在、利用者も累計で450万人に到達するなど、順調に成長を続けていますね。その要因はどこにあると分析していますか。
成松顧客が「重くてかさばる日用品を家まで届けてくれるなら、試しに使ってみよう」と、まずは飲料水やお米をLOHACOで買ってもらったとしましょう。そこで、「これは便利だな」と感じてもらえたなら、やがて他の日常品も購入して頂けるようになります。時間と共に購買カテゴリーも増加するわけですね。実際、トイレットペーパーや洗剤等、生活に必要で、かつ、お店で購入して持ち帰らなければならないものは沢山あるわけです。そして、使い始めた人はリピーターとなり、そこに新規顧客も加わることで、結果、雪だるま式に利用者が増えていったと考えています。
古市LOHACOの特徴として、魅力的なオリジナル商品が数多く販売されていることも挙げられます。
成松LOHACOには大きく2種類のオリジナル商品があります。1つはいわゆるプライベートブランド(PB)、私たちLOHACOが企画開発する商品ですね。もう1つが大手メーカーとの共創による、LOHACOだけで購入できるオリジナル商品で、これらを私たちは“コンシューマーブランド”(CB)と名付けています。PB商品も人気はありますが、特にCB商品は顧客から高い評価を獲ています。
古市CB商品は市販のものとパッケージデザインが異なり、シックでおしゃれですよね。
成松LOHACOでは、CB商品のコンセプトとして“暮らしになじむ”を掲げています。顧客が家で使うときにどう感じるかを重視しているのですね。対して、従来の商品であれば、まずは店頭で消費者に選択されることが重要となりますよね。
古市確かに。パッケージデザインも店頭でいかに目立つかに重点が置かれています。パッと目は引くものの、けばけばしかったり、正直、家の中で目に見えるところに置いておくのは抵抗があるものもあります(笑)
成松おっしゃる通り、「よく落ちる洗剤」というアピールは購入時には重要な要素となります。しかし、家の中でまでそれをアピールし続ける必要はないわけです。一方、LOHACOのようなECサイトでは商品パッケージがその役割を果たさずとも、商品を説明するコンテンツがそれをカバーしてくれます。パッケージや商品デザインも「家において気持ちが良い」ということにフォーカスできます。その視点に基づき、メーカーはどんな商品を作れるのか、何を作りたいのか、顧客に何を届けたいのか、LOHACOが保有しているデータを分析して、顧客が求める要件を理解し、商品開発を行っていくわけです。その結果、インテリアのように室内に置いてもらって気持ちよく使ってもらえる。そうした演出が実現できていることが、CB商品の人気の理由の1つであると思っています。
収集したデータをオープン化 LOHACO ECマーケティングラボも開設
古市商品開発にデータを活用しているということですが、もう少し詳しくLOHACOのデータ活用の取り組みをお聞かせください。
成松購買履歴やWebサイト上の行動情報から、お客様の趣味嗜好やライフスタイルまで分析を行っています。さらに、それらのデータは、個人情報とIR開示に抵触しない範囲において、LOHACOに参加しているすべてのメーカーに開放しています。ライバルメーカーの商品も含めて、全データが観られるようにしているのですね。そうしたデータを共同利用する場として、2014年2月から「LOHACO ECマーケティングラボ」を開設しました。いくら膨大なデータを持っていても、商品に関する課題は私たちEC事業者だけでは解決できません。ならば、このデータをメーカーにも使ってもらい、さらなる価値を提供する商品開発に繋げてもらおうと考えたのです。ティッシュペーパーを例に挙げると、評価ポイントも「たくさん入っていて安いものが良い」「肌にやさしくて、かぶれないものが良い」等、ユーザーごとに異なります。そこで「誰のどのような課題を解決したいのか」について、メーカーと一緒にデータを分析しながら、商品を開発していくわけです。
古市そうしたデータの共同利用の中から、数々のヒット商品が生まれてきたわけですね。しかし、多くの企業は自社商品に関する販売データは囲い込んでおきたいと思うのですが。
成松自社が持つデータだけでは、多角的な分析は行えません。「自社ブランドが他社ブランドと比較してどういった位置づけにあるのか」、さらには「この飲料を買っている人は、どんな洗剤や化粧品を使っているのか」といったことが見えてこなければ、顧客をトータルで理解することはできないのです。
古市なるほど。LOHACO ECマーケティングラボは、参加企業におけるマーケティング・プラットフォームとしての役割も担っていると。
成松その通りです。現在ラボに参加している企業は129社まで増え、販売したCB商品もトータルで85商品ほどあります。最近では、参加企業どうしのコラボレーションによる商品開発も始まっています。その一例がトイレタリー商品におけるコラボです。消臭剤とトイレクリーナー、トイレットティッシュのメーカーが共同でデザイン開発を行い、「暮らしになじむ、見せるトイレコーディネート」を実現しています。
LOHACOのビジネスの成長を支え、
俊敏性と拡張性をもたらしたMicrosoft Azure
古市アスクルで培った物流のスピードもLOHACOならではの強みですよね。
成松注文を頂いてから一番早くて当日、ほとんどのエリアで翌日にはお届けしているのですが、近年では宅配業界における人材のひっ迫が問題視されています。対して、顧客のニーズを分析すると、「今日、絶対に届けて欲しい人」もいれば「1週間後でも構わない人」もいるわけです。そこで現状の物流のキャパシティから逆算して「3日後のお届けならばポイントがお得になります」等の提案を行い、出荷量の調整を行っています。また東京都の11区と大阪市の9区では、早朝6時から深夜24時まで、1時間単位でお届け時間を指定できる「Happy On Time」というサービスも提供しており、こちらも好評を頂いています。その一方で、バックエンド側では、どの荷物をどの順番で誰がどう届けるのかの計画を策定するため、AIを活用した配送計画システムを導入しています。そうした処理にはより高性能でパフォーマンスに優れたシステム基盤が不可欠となります。
古市そうしたLOHACOのシステム基盤として、マイクロソフトのクラウドサービス、Microsoft Azureが活用されているそうですね。
小林そもそもクラウド自体は2012年から一部のシステムで活用を始めていましたが、近年、基幹系システムを本格的にクラウドに移行することが決まったのです。そこで、複数のクラウドの中から各種の条件を検討し選択されたのがMicrosoft Azureでした。当社の要求する規模の運用への対応が期待でき、かつコストも適正なサービスは限られてきます。そうした点を考慮すると共に、エコシステムの観点からMicrosoft Azureを選択したのです。
古市実際に導入・運用してみての印象はいかがでしょうか?
小林システムリソースの調達から運用開始までが早く柔軟なことは満足しています。また、コンソール画面が使いやすいことも評価ポイントです。加えて、BCP(事業継続性)の観点からは、日本国内に東西2か所のデータセンターが設置されていることも大きいですね。現在、基幹系システムを移行している途中ですが、システムを複数箇所に配置する災害対策の実施はマスト条件ですから。
成松私はビジネスを展開する利用者の立場ですが、システム基盤にNG要件が多いと、できることが限られてしまいます。対して、これまでは困難だった処理の高速化や柔軟な運用を実現するプラットフォームに移行してもらっているのはありがたいですね。
古市システム側の小林さんは、成松さんからいろいろと無理難題を言われることも多いと思います。
小林そうですね(笑)。しかし、Microsoft Azureに移行してから、納期や複雑なシステム要件に対しても、以前なら半年以上かかっていたのが1か月程度で実現できるようになっています。なにより、ビジネスがうまくいったらシステムを拡張し、ダメなら直ぐに次の策を打つ、という“トライ&エラー”がコストを抑えながらできるようになったことは大きい。
成松ビジネス環境の変化のスピードが速い業界なので、新しいことに矢継ぎ早に取り組んでいかなければ遅れをとってしまいます。スモールスタートが可能であり、成長が見込めた時には、コストを抑制しつつ、いち早くスケールできるシステム環境に置き換えてもらったのはとてもありがたいと感謝しています。
古市先程、LOHACOの納品書を見せてもらいましたが、手紙のようになっていて、顧客の好みを配慮した試供品も添付するなど、パーソナライズされていますね。このあたりのきめ細かい対応に、Microsoft Azureはどのように活用されているのでしょうか。
成松顧客の購入履歴の分析に基づき、新商品のサンプルやキャンペーン商品情報なども個別に提供しています。実際の店舗で接客するようなコミュニケーションを目指していますが、その実現にはサイト上の顧客の行動情報の分析から、物流センターでの梱包に至るまで、システムを一気通貫で繋いでいかなければなりません。そこで基幹系が稼働しているMicrosoft Azureを経由して、物流システムにリアルタイムにデータが送信される仕組みが整備されています。
古市今後、LOHACOでは、どのような点に注力しサービスを強化していくのでしょうか。
成松先にも述べたような顧客ごとにきめ細かくパーソナライズしたサービスをより強化していきたいと考えています。顧客の好みは千差万別で、1つの商品やサービスですべての人を満足させるのは不可能です。対して、LOHACOという1つの看板を通じて、顧客の要望の数だけ体験できるサービスを増やしていきたいですね。Microsoft Azureの導入により、そのためのプラットフォームも実現できつつあると考えています。
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