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【通信事業】

移動中でも無線LANが使える“街角無線インターネット”が現実に?
MISが東京で大規模なモニター実験を開始

■URL
http://www.miserv.net/

7日、千葉県内のホテルで開かれた記者発表会で。(向かって右から)衣川武志経営戦略室長、野上尊啓取締役(ラウンドキューブ取締役)、宇野康秀取締役(有線ブロードネットワークス代表取締役)、真野浩社長(ルート代表取締役)、CTO就任予定の太田昌孝・東京工業大学博士。このほか技術顧問に村井純・慶應義塾大学教授らが就く
無線基地局は、ルートのRGW2400シリーズ。屋内用(上)と屋外用(下)

 以前本誌でもお伝えした、無線ルーターによる“電柱のアクセスポイント化”が現実味を帯びてきた。同技術の開発・実験を進めてきたルートと、有線ブロードネットワークスが4月に共同設立した企画会社「モバイルインターネットサービス株式会社(MIS)」が、IEEE 802.11b準拠の無線システムを利用した公衆アクセスサービスの事業化へ向けて本格的な検討に入る。東京都内において、今月から約半年間の予定で数千人規模のモニターによる運用実験を開始する。

 MISが計画しているのは、現在PHSや携帯電話で提供されているデータ通信サービスを、最大11Mbpsというより高速な無線LANを活用し、安価な定額制料金で実現しようというものだ。光ファイバーやCATV、DSLなど有線回線が敷設された電柱などに数百メートルおきに無線ルーターを設置、子機となる無線カードを装着したノートパソコンなどからアクセスできる“街角無線インターネット”環境を提供する。

 IEEE 802.11b準拠の無線LANを利用したアクセスサービスとしては、すでにスピードネットなどで固定網向けにサービス化されているが、MISのサービスはその社名の通り、移動体に対応する点で異なっている。ユーザー認証やハンドオーバーの機能を強化することで、不特定多数のユーザーが基地局を利用する際のセキュリティを確保するとともに、基地局間移動中のシームレスな通信も可能にしたという。

 サービスの投入場所としては、3種類を予定している。1つめは人の集まる“ホットスポット”で、すでに渋谷区の数カ所で実験を開始しているという。空港のロビーやホテル、インターネットカフェなどにおける無線アクセス環境の導入例が国内でも見られるようになったが、接続が継続するのは同一スポット内に限られてしまう。これに対してMISの方式では、オフィスや家庭などと同じ設定をどこでも使えるというメリットがある。

 現在のところ、IEEE 802.11b準拠の無線デバイスとしては、ノートパソコンと組み合わせるPCMCIAタイプの無線カードが一般的だが、「街中でノートパソコンを開いたまま、うろうろするような人はいない」(WISの真野浩社長)と判断。事業化後の第1フェーズとしては、比較的固定網に近い感覚で利用されるホットスポットで展開し、その後PDAなどでも無線LANが使える製品が普及すれば、駅や交差点、自動販売機の前など「人が立ち止まりそうな場所」に拡大していく考えだ。

 なお、オフィスや家庭、ホットスポットでシームレスに利用できる無線LANサービスとしては、すでにNTT東日本が「Biportable」の実験を開始している。ただし、こちらは5.2GHzを利用した仕様のため、通信速度が最大36Mbpsと高速になる一方で、屋外では展開できないという規制がある。また、規格が世界標準でないこともネックだと指摘する。MISの方式では、IEEE 802.11b準拠の無線カードであれば、同社の提供する専用のドライバーをインストールするだけで、すでに市販されている製品がそのまま子機として利用できるようになるという。真野社長によると、国内だけでも昨年までに5万枚の無線カードが販売されたとしており、利用の普及に自信を見せている。

 2つめは、ある地域を面的にカバーする“ブロードバンドタウン”で、実証実験ではまず世田谷区三軒茶屋が舞台となる。将来的には、デジタルカメラや携帯型MP3プレーヤー、専用端末など、無線LAN機能がはじめから組み込まれているデバイスの登場も想定し、街を歩いている時にもインターネットに接続したままの状態を保てるようにするわけだ。この点について真野社長は、「(MISは)インターネットにつなぐためのサービスを提供するのではない。常につながっているためのサービスだ」と強調する。

 ところで、面的なエリア展開となると無視できないのが、そのインフラ構築コストだが、「非常に小さくシンプルな基地局を多数分散させて設置するため、コストはきわめて小さい」(真野社長)という。屋内用の基地局で数万円、屋外用でも20万円程度であり、バックボーンについても、例えば有線ブロードの光ファイバーを利用すれば月額6,100円で済むとしている。

 このほか、3つめの投入場所としてオフィスビルも検討中だとしており、実験では合計で約300カ所の基地局が設置される予定だ。出資会社である有線ブロードおよび同社子会社のユーズコミュニケーションのほか、東京めたりっく通信やアイ・ピー・レボルーションなどの通信事業者がバックボーンの提供および基地局工事の面で実験に協力する。

 実験モニターは6月末より公募する予定となっており、4,000名にPCMCIAタイプの無線カードを配布するほか、PDAやパソコンとのセットも準備する。また、既存のIEEE 802.11b準拠の製品で利用できるため、すでに無線カードを所有しているユーザーであれば、同社のウェブサイトで登録後、ドライバーソフトをダウンロードすれば実験に参加できる。いずれも無料でインターネット接続を試用できるようにする予定だ。

 気になる商用化の時期だが、「確実に言えるのは、来年ではないということ」(真野社長)という。また、提供エリアについても「事業化の際には、携帯電話やPHSの人口カバー率を目標にしなければならない」(野上尊啓取締役)としている。

 なお、“街角無線インターネット”の事業化後は、MISはあくまでも無線アクセスのためのプラットフォーム部分に限定して提供し、バックボーンやインターネットサービス、デバイスの開発については、それぞれ通信事業者やISP、ハードウェアベンダーとアライアンスを組んで分担していく方針だ。例えば、ISPがMISと提携することで、従来のPIAFSのアクセスポイントを用意するようなイメージで、無線LANによるアクセス手段を加入者に提供できるようになるわけだ。実際、実験にも既存のISPが参加することになっており、実験中、ISPの加入者が既存アカウントで無線LANアクセスを利用できるようにすることも検討するとしている。

 MISでは今後、コンソーシアムを設立し、通信事業者やISP、ベンダーのほかに、基地局の設置スポットを提供するアクセスロケーションパートナーやコンテンツプロバイダーなどにも広く参加を呼びかけながら、“街角無線インターネット”の普及に務める考えだ。

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(2001/6/7)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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