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レポートではここ3回にわたり、Yahoo! BBをDIY設置で導入する際に必要となる作業について詳しく解説している。その最後となる今回は、複数のモジュラージャックがある住宅での“ブランチ配線”の方法について紹介する。また、後半には複数台のパソコンでYahoo! BBを利用する方法についても簡単に触れたい。
●ブランチ配線でも業者による電話配線工事は不要ここでは、図のように、加入者電話1回線が2カ所に分岐されており、1階のリビングと2階の書斎にモジュラージャックのある住宅について考えてみよう。Yahoo! BBを導入し、書斎のパソコンで利用するという想定だ。
本来であれば、次の図のように、分岐する手前にスプリッターを組み込み、根本の部分でADSL信号と通話信号を分離してしまうのが原則だ。
この場合、モジュラージャック以降の部分では何も変更しなくていい一方、その手前の部分で工事が必要となり、素人によるDIY工事では対応できない。電話工事業者など工事資格者に依頼する必要があり、場合によっては壁に穴を開けるなどの大がかりな作業が発生することもあるだろう。
ちなみに、Yahoo! BBの「初期導入オプションサービス」で提供される「ADSLモデムおよびスプリッター取り付け工事」を依頼したとしても、ここまでの工事は含まれない。前回説明したように、このサービスはあくまでもモジュラージャック以降の部分における接続作業である。もし、上記のようにモジュラージャック以前の配線工事が必要となれば、別途業者による工事が必要になるのだ。
ところがYahoo! BBによると、「ほとんどのお客様は、初期導入オプションサービスで開通する」ため、「まずは初期導入オプションサービスでご対応し、それで難しいようなら2次/3次サービスで専門的な対応をする体制を取っております」(ビー・ビー・テクノロジーの広報窓口であるソフトバンク社長室)としている。この体制により、全体のコスト削減も図られているという。
これは、今まで初期導入オプションサービスを提供したのが「モジュラージャックが1ヵ所しかないケースが大半」だったということもある。しかし、複数のモジュラージャックがある住宅についても、電話配線工事をともなう上の図のような方法をとらなくても、初期導入オプションサービスの範囲で対応できる方法があるためだ。初期導入オプションサービスで対応できるということは、もちろんユーザー自身もDIYで行なえる範囲のものだ。
●DIYでも対応できるブランチ配線まず考えられるのは、次の図のような方法だ。どちらか一方のモジュラージャックは廃止し、片方のモジュラージャックだけを使用するというものである。ここでは、リビングのモジュラージャックを廃止し、書斎のモジュラージャックにスプリッターを接続。そこから電話行きの配線を分配器(スプリッターではなく、単純にモジュラーケーブルを二股化するアダプター)で分岐し、それぞれ書斎とリビングの電話を接続している。 スプリッターからADSLモデム、PCまでの接続は通常通りだ。
これならば、モジュラージャック以降の工事は不要。電話工事資格のないユーザー自身でも対応できる。しかし、ケーブルの取り回し面で難があり、電話の設置場所が1階と2階で離れている場合など、部屋の間をケーブルを剥き出しで引き回すのはあまりスマートではない。きれいに配線しようとすれば、結局、電話配線工事と同じくらいの大がかりな工事が必要になるかもしれない。そもそも、すでに住宅内に敷設されている電話配線が無駄になってしまうのがもったいない。
そこで、次に考えられるのが下の図のような方法だ。パソコンを使う書斎のモジュラージャックのほうには通常通りスプリッターを接続し、ADSLモデムと電話機に分岐。一方、リビングのほうはモジュラージャックに直接もしくはスプリッターを挟んで電話機だけを接続するというものである。スプリッターがもう1台必要になるかもしれないが、宅内の既存電話配線を利用できるため、前の方法に比べてスマートと言える。
問題はリビング側にスプリッターが必要かどうかの判断だが、「お客さまにより、ご家庭内における電話のご利用状況が異なることが多い」ため、「スプリッターをすべてのモジューラージャック設置しなくても、通常の電話使用ではノイズが出ない場合もある」としている。
どうやら、分岐された配線のうちメインとなる配線にスプリッターが接続されていれば大丈夫ということのようだ。これは素人には判断が難しいため、どうしてもDIYでやるというなら、実際にスプリッターをつなぎ替えながら、ADSLモデムが正常にリンクするかどうかチェックしていくことになるだろう。
したがって、導入サービスでもこの作業については2次/3次サービスの扱いとなり、問診をしたうえで、必要ならば2台目以降のスプリッターを提供するという流れになる。この場合、追加分のスプリッターは1,800円で販売される。
また、DIY設置のユーザー向けにもスプリッターの販売を行なう予定だという(スプリッターはパソコン店などで市販されている製品もあるようだが、やはりYahoo! BBのものが推奨だとしている)。
なお、例えば書斎にはもう電話機はいらないというような場合は、下の図のように書斎のモジュラージャックとADSLモデムを直接接続してしまい、スプリッターはリビング側に回すことが可能だ。パソコン(ADSLモデム)の接続場所と電話機の接続場所が異なる部屋(モジュラージャック)の場合は、原則として「電話機の前にスプリッターを設置することで使用可能になる」としている。ただしこの場合も、すべての電話機の前にスプリッターが必要かというと、そうとも限らず、配線状況により異なることを覚えておかなければならない。
AMBIT Microsystemのウェブサイトにある「ADSL Router」の紹介ページ(左)。Yahoo! BBのADSLモデム背面(右)にはRS-232ポートがあり、パソコンのシリアルポートと接続することで設定管理が行なえるらしい。ただしマニュアルには「通常は使用しません」とあり、ユーザーには開放されていない |
実はマニュアルにはこの点についての説明は何も見あたらず、Yahoo! BBのウェブサイトで公開されているFAQに「Yahoo! BBのADSLサービスで使用する高速ADSLモデムは、ブリッジモードを使用し、ポートはLANポートが1つで、パソコンとの接続は、このLANポートを使用します」とあるのみだ。メーカー名さえも明らかにされていない。
そこで、電気通信端末機器審査協会(JATE)の認定番号(Yahoo! BBのADSLモデムにシールが貼られている)をもとに、同協会のウェブサイトで検索したところ、AMBIT Microsystems CorporationのJ18L003.00という機器であることが判明した。
AMBIT Microsystemsは、台湾に拠点を持つPC関連機器のOEMメーカーのようである。同社のウェブサイトにアクセスすると、Yahoo! BBのADSLモデムとそっくりな外見の「ADSL Router」という製品が見つかった。そのページに製品番号が明記されていなかったため同定はできなかったが、両者のインターフェースの仕様などを比較すると、この製品である可能性は高い。
ADSL Routerのスペックを見ると、DHCPクライアント、DHCPサーバー、NAT、パケットフィルタリングなど、ブロードバンドルーターとしての機能は一通り搭載。設定により、ブリッジモードとルーターモードが使えるようだ。Yahoo! BBのFAQに「ブリッジタイプ」ではなく「ブリッジモード」という表現が使われていることも合わせて考えると、ADSLモデム自体はルーターモードでも使えそうだということは想像できる。
しかし、残念ながらこのあたりの設定変更はユーザーに開放される予定はないようだ。ビー・ビー・テクノロジーによると、「マニュアル通りの使い方をすること」としており、あらかじめ設定されて送られて来た状態のままで使うしかないようだ。セキュリティ面がどういう設定になっているが気になるところだが、「通常の使用では問題ない」との回答だった。
●気前のいい(?)Yahoo! BBのIPアドレス割り当てところで、Yahoo! BBのADSLモデムはブリッジモードであるにもかかわらず、複数のパソコンから同時接続できるという現象が確認されている。モデムのEthernetポートは1系統だが、ハブを介することで同時に接続できてしまった。また、同時というわけではないが、複数台のパソコンをつなぎ替えて利用する際も、それぞれ異なるIPアドレスが割り当てられるのを確認している。
実際に何台まで同時利用できるかまでは調査していないが、どうやら、1ユーザー(1回線)に対してDHCPで割り当てるIPアドレス数が1個に制限されているわけではないらしい。プライベートアドレスならともかく、れっきとしたグローバルアドレスでサービスを提供しているYahoo! BBが、こんな気前のいいことでいいのだろうか? グローバルアドレスが何個も同時に利用できるというのは、一見するとユーザーにとってありがたいことと言える。しかし、(Yahoo! BBがいったいグローバルアドレスを何個確保しているのか不明だが)今後加入者が増加すれば、一部のユーザーが大量のIPアドレスを占有してしまうことで、他のユーザーがIPアドレスを取得できないという現象が起こる可能性もあるのだ。
この現象を確認したのはまだ試験提供中の8月だったが、商用サービススタート後も一部で生じているという。
そこで、ソフトバンク社長室を通じてビー・ビーテクノロジーに問い合わせたところ、使用できるのは「1ユーザーにつき、1グローバルIPアドレス」であり、「意図的にマニュアルの利用規約に違反した場合は会員規約に基づき、サービスの停止や解約が行なわれる場合もあります」との回答。マニュアル(モデムに添付されてくる「Yahoo! BB・セットアップ・ガイド」のこと)にはそれらしき記述が見あたらないため、再度問い合わせたところ、「『ADSLモデムとパソコン(LAN)の間にHUB(ハブ)を使用していませんか? HUB(ハブ)は取り外して、ADSLモデムとパソコン(LANカード)を、付属のLANカードで接続してください』と提示しております」との回答をいただいた。
あらためて読み直してみると、確かにそういう記述はあった。しかし、これはトラブルシューティングのページに載っている対処方法についての説明の一つである。これをもって「マニュアルの利用規約」と呼ぶには釈然としないものがある。禁止するならするで、会員規約で明確に規定する(もちろん、規約を変更するなら十分な周知期間を設けて)などの対処が必要だろう。
なお、CATVインターネットサービスの中には、ユーザーが使用するパソコン(LANアダプター)のMACアドレスを登録してもらい、これにより使用する台数に制限をかけるという方法を採用しているところも見受けられる。このような技術的な方法による接続台数(IPアドレス数)の制限を取り入れる予定があるのか確認したが、「現在のところ、いろいろな手法を検討中」ということだった。
●ブロードバンドルーターの使用は自己責任で結局、複数台のパソコンでYahoo! BBを利用するには、別途ブロードバンドルーターを用意することになる。たとえハブだけで複数のパソコンから接続可能だとしても、この方法は“規約違反”にあたるということであり、また、セキュリティ面も考慮すれば、ブロードバンドルーターを導入してしまうほうが現実的だ。
ただし、ルーター以下の部分についてはYahoo! BBのサポート対象外。FAQには「接続はパソコン1台のみを推奨しております。ルータ等を利用することで複数台のコンピュータからADSL接続を利用することができますが、複数のパソコンの接続はYahoo! BBでは推奨しておりませんので環境構築、設定に関してはお客様ご自身でお願いします」と明記されている。購入したブロードバンドルーターが実際にはYahoo! BBへの接続でうまく動作しなかったとしても、ユーザーの責任となってしまうわけだ。
最近では、自社のブロードバンドルーターや無線LANルーター製品について、ADSL 各社のサービスについて対応をアナウンスしているところも現われ始めた。安全を期するユーザーであれば、このようにYahoo! BBへの対応が確認された製品を選択するのが無難だろう。今後、このような対応確認と情報提供がメーカー各社で行なわれることが望まれる。
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(2001/9/21)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]