【コミュニティ】

千葉県初のBフレッツ導入マンションに学ぶ

既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法
[中編]


MDF室に置かれたBフレッツの通信機器(写真提供:日本エンヂニヤリンググループ)
 幕張ベイタウンのマンション「パティオス18番街」が、住民の総会決議を経ることなくBフレッツ導入を実現できた理由は簡単だ。理事会の承認だけで進められる方法を、意図的に選んだからである。

 光収容マンションであるパティオス18番街には、予備の光ファイバーが敷設済みであり、Bフレッツ用に新たにアクセス回線を引き込むための工事を行なう必要がない。各世帯へは、既存の電話回線を利用してHomePNA方式で分配すれば、建物内についても工事が不要だ。MDF室にメディアコンバーターやHomePNAの親機を設置しなければならないが、電気代やメンテナンスも含めてそのコストはNTT東日本持ちである。総会決議なしでMDF室に入ることが許される業者は電力会社や電話会社、CATV事業者に限定されるということだが、その点もBフレッツはクリアしている……。

 すなわち、マンションの共有部分についてはMDF室に機器を置くだけということになり、総会決議が必要となる“施設の変更”にはあてはまらないという解釈である。同じBフレッツでも、建物内の回線工事が発生する100MbpsのLAN方式ではなく、あえて10MbpsのHomePNA方式を選んだのもこのためだ。


 パティオス18番街の理事長を務める鈴木勝彦さんによると、理事会としては「住民の4分の3をとりまとめるのは難しいだろう」という考え方が最初からったとしており、理事会の承認だけで導入に持っていける方法を探っていたという。もちろん、マンションの規約をすべてチェックし、規約に抵触しないかどうかも確認した。「“抜け道”というと言葉が悪いが、他のマンションでも規約の抜け道を探せば、住民の4分の3の同意がなくてもブロードバンド導入がうまくいく方法はある」と指摘する。

 ただし勘違いしてはならないのは、抜け道の利用が、鈴木さんの言う“定石”のすべてではないということだ。実際、Bフレッツという結論は、抜け道が使えるという理由だけで導き出されたものではなかったという。

 この結論に至るまでには、理事会の諮問機関として設けられた「マルチメディア研究会」による地道な検討作業が行なわれている。住民からのクレームもなく、抜け道を堂々と通ることができたのは、この研究会によるところが大きい。


予想アクセス速度は、マンション内で10ユーザー利用/マンションまで10ビルでシェアしていると仮定して算出している
 マルチメディア研究会の取り組みを如実に物語る1枚の資料がある。理事会への答申とともに提出された各社サービスの比較表である。最終的に検討の対象となった6社/12サービスについて、詳細なスペックがA4用紙にまとめられている。

 「去年ぐらいから不動産デベロッパー各社が集合住宅向けのブロードバンドサービスを始めましたよね。ところが、管理組合というのは(ブロードバンド導入の議題について)あまり熱心ではないから、『当社のサービスはどうですか』ってアンケートまで作って持ってくるわけです。そうすると、イエスかノーかを答えさせられて、それで(導入が)決まってしまう。管理組合の弱さを突かれているようなものです。うちのマンションも、デベロッパー系列のサービスを採用しても不思議ではなかったんでしょうが、自分たちの目で比較して決めました」(鈴木さん)。

 その比較表には、マンションまでのアクセス方式と速度、各世帯までのアクセス方式と速度にはじまり、月額料金や初期費用、マンション側の工事費はもちろんのこと、予想アクセス速度やサポート体制、MDF室に設置する通信機器の電気代は誰が負担するのかといったことまで、18の項目について細かく記されている。さらに、高速性やコストパフォーマンス、事業者の信頼性など7項目について研究会による4段階の評価が付けられ、その上で、採用するにふさわしいサービスを結論付けているのだ。


 マルチメディア研究会は10月はじめ、理事会への答申をとりまとめ、その中で2つのサービスの導入を提言した。Bフレッツともう一つ、CATVインターネットの128kbpsメニューである。

 パティオス18番街ではすでに512kbpsのCATVインターネットが導入されていたため、この結論は不思議に思われるかもしれない。そもそも、より高速なサービスが利用したいということで、今回の検討作業が開始されているのだ。

 しかしこの疑問は、研究会が検討方針として掲げた3つの条件を見ればすぐに解ける。

 まず1つめが、「個人契約ベースであること」である。サービスを利用する世帯と利用しない世帯があるため、管理組合が契約主体となるのは難しいためである。

 次に、「既設の配線を利用すること」。もちろん総会決議を回避しようという狙いがあったわけが、それだけではない。各世帯に平等に導入の選択肢があるという観点からも、これは外せない条件だった。実際、研究会が検討対象としたのは光ファイバーだけでなく、無線、CATVといった方式も含まれれていたが、最終的に無線方式は検討対象から外されている。全世帯平等のサービスが受けにくいという理由からだ。

 そして最後が、「一つのサービスに絞り込まず、複数の選択肢を提供すること」。インターネットの常時接続といっても、高速性を求めるユーザーだけとは限らない。いわゆるヘビーユーザー主導で進められた検討作業だが、常時接続だけを低料金で使いたいというニーズもあるということをきちんと汲んでいるのである。


 「総会決議がなくても、(研究会の結論に対して)住民が安心感を持っていたということはあると思う」(鈴木さん)。いわば抜け道を利用したパティオス18番外のブロードバンド導入だが、その検討過程で作成された資料1枚、ライトユーザーにも配慮した検討方針一つを見れば、このコメントもおおいにうなずけるところである。(以下、後編)

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既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法 [前編]
既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法 [後編]

(2002/4/3)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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