【コミュニティ】

千葉県初のBフレッツ導入マンションに学ぶ

既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法
[後編]


 集合住宅向けブロードバンドサービスも最近は、管理組合が負担する初期コストがゼロというものもめずらしくなくなった。その意味では、加入しない世帯の不利益はなく、コスト的な側面からは導入しやすい状況になってきていると言える。

 しかし、既存の集合住宅におけるブロードバンド導入へのハードルは、それだけでなくなるわけではないのは明らかだ。地域情報化の技術支援を行なうNPO「日本エンヂニヤリンググループ」(http://www.engineer.gr.jp/)の代表で、パティオス18番街の取り組みにも参加した原田輝俊さんは、「事業者側ではなく、利用者側に立った問題」が大きいと指摘する。

 これはもちろん、集合住宅における意思決定の難しさを指している。いくらコスト負担のないサービスを用意して導入を促そうとしても、事業者側からのアプローチでは限界があるのだ。これを解決するのには、「技術やコストではない方法が必要になるわけです」(原田さん)。


パティオス18番街の集会室で。(向かって左から)鈴木勝彦さん、行縄修さん、原田輝俊さん
 「マンションの中には、ブロードバンドに詳しい人が必ずいるものです。そういう人の知恵が生かせるのではないでしょうか」(原田さん)。

 パティオス18番街を担当したNTT東日本千葉支店の行縄修さんによると、確かに、あちこちのマンションで一部の詳しい住民がブロードバンドの導入を考えるようになってきたという。しかし、「だからといってそのマンションで導入が早いかといったら、それは疑問。詳しい人同士で議論すると、それぞれ自分の欲しいサービスが違うためにかえって結論が出ない」らしい。

 一方、パティオス18番街の「マルチメディア研究会」は、電気会社やキャリア、テレビ会社などで働く住民、いわばブロードバンドのエキスパートで構成されていた。普通なら「詳しい人が集まると、LANを引くと言い出しかねない」(原田さん)ところだが、出した結論は10MbpsのHomePNA方式。回線工事不要ということも当然あったが、研究会は、現在の状況を冷静に分析してこう判断したのだ。

 「多分3年ぐらい経てば、各世帯まで容易に敷設できる柔軟な光ファイバーが実用化されるかもしれない。ちょうどその時期には大規模修繕計画がある。ならば、その時に工事をすればいい。だいいち、今のコンテンツはそんなに速い回線は必要ない。総合的に考えると、今、無理をしてLANを引く必要はない」(パティオス18番街の理事長で研究会のメンバーも務めた鈴木勝彦さん)。

 実は住民の知恵はあるにもかかわらず、「うちのマンションは導入が遅い」というクレームになってしまって、それを生かせる状況にないところが多いのだそうだ。「知恵を持った人たちがもっと、それをかたちにして見せていけばいいと思う」。原田さんは、パティオス18番街の検討作業に実際に関わってみて、知恵を持った住民がマンション全体のことを考えて結論を出したと評価する。


 「ブロードバンドに関心のある人たちだけではなく、住民みんながわかるようなかたちでプレゼンテーションしている」(行縄さん)ことも、パティオス18番街が短期間でBフレッツを導入できた一因だろう。

 昨年10月、ブロードバンドサービスの利用意向をたずねるアンケートとともに、マルチメディア研究会がとりまとめた資料が住民に配布された。もちろん、各社サービスを詳しく比較した一覧表も添付されており、マルチメディア研究会がどういう方針に基づいてBフレッツという結論に達したのか説明されている。

 さらに、11月はじめにアンケート結果が発表された際には、住民から寄せられた20件ほどの質問に対して、研究会が作成した丁寧な回答文も添付されている。中にはブロードバンドとは何かまったくわからない初心者からの質問もあったが、研究会がこの質問に対して用意した回答は、「わかりやすく説明ができていなくて申し訳ありません。もし、今後インターネットを利用してみたい、インターネットって何だろうとかいう質問がありましたら、遠慮なくお問い合わせください」というものだった。


 既存の集合住宅といっても、もちろん、マンションごとに事情は大きく異なる。今回紹介したパティオス18番街の方法が、そのままどこでも通じるわけではない。

 実際、パティオス18番街は竣工から数年しか経っていない比較的新しいマンションである。建物内のCATV回線はインターネットが可能な双方向通信対応だったし、電話回線も新しく、HomePNAが使えるだけの品質を保っていた。さらに、光収容ということで、Bフレッツのアクセス回線もすぐに引けた。既存の集合住宅の中ではもっとも好条件がそろっていると言える。築年数の多いマンションでは、こうはいかない。

 しかし、これらの問題は、原田さんの言葉を借りれば、技術的な側面である。例えば、無線などの技術的な解決方法も考えられ、事業者側で対応できるわけだ。むしろ、パティオス18番街の事例から学ぶべきことは、マルチメディア研究会など住民側の取り組み姿勢に現われている“技術やコストではない方法”であると言える。(おわり)

理事会の承認から約1カ月後の昨年11月中旬、パティオス18番街の種会室で開かれたNTT東日本による住民向け説明会の様子。Bフレッツが引かれているということで、最近では他のマンション向けの説明会に利用されることもあるという(写真提供:日本エンヂニヤリンググループ) 中古のパソコンの寄付を住民に呼びかけたところ、2台のパソコンが集まった。集会室に設置されており、パティオス18番街の住民ならいつでも自由にインターネットが利用可能だ。ここで週1回、シニア向けのパソコン教室も開いている。やはり周囲の理解を得るには、こういった活動も欠かせないという

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既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法 [中編]

(2002/4/4)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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