【業界動向 / xDSL】


市内の有線放送電話網を利用して1ヵ月間実施

長野県伊那市でxDSL技術の公開利用実験を9月から開始

■URL
http://www.city.ina.nagano.jp/ (伊那市)

 長野県伊那市の「伊那xDSL利用実験連絡会」は、9月1日から1ヶ月間にわたり市内の有線放送電話網を利用したxDSL技術の公開利用実験を実施すると発表した。

 xDSL(x Digital Subscriber Line)とは、既存の電話線を利用して毎秒数メガビットのデジタル情報の送受信を可能にする技術。上りと下りで伝送速度が非対称の「ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)」、伝送速度が対称の「SDSL(Symmetric Digital Subscriber Line)」などがある。特にADSLについては、日本電信電話株式会社(NTT)が、同社の研究所構内で実証実験を行なうなど(本誌6月2日号参照)、将来の高速通信技術として注目されている。

 今回実験を実施する「伊那xDSL利用実験連絡会」は、伊那市有線放送農業協同組合、(社)日本有線放送電話協会、(社)農村漁村文化協会などの団体により運営される。また、システムの構築には国際電信電話株式会社、xDSL機器の提供にはソネット株式会社、住友電設株式会社などが参加する。実験は、市内の有線放送電話の加入者を対称に実施される。連絡会では、xDSL関連の実験が遅れているのは「電話回線網がNTTの独占下にあり、回線の貸し出しや局舎の開放もやっと緒がついたばかりという、わが国固有の事情があるから」としており、実験に際しては、NTTの回線に頼らない有線放送電話網を利用することを決めた。

 実験に使用される「有線放送電話網」とは、昭和30年代から主に農山村地域での通信媒体として利用されているもので、通信と放送の機能を兼ね備えた回線網だ。昭和32(1957)年6月に施行された「有線放送電話に関する法律」の下で運営されており、利用地域の限定、通信に限定した回線を持つことの禁止などの規制がある。主に地域の農業協同組合が運営にあたっており、最盛期には全国に2,650の施設があったが、電電公社(現NTT)の電話回線の普及などにより利用者が減り、現在は346施設83万戸の利用となっている。

 実験の場となる伊那市の有線放送電話は伊那市有線放送農業協同組合の運営によるもので、現在7,724戸が加入している。そのうち実験に参加するのは、個人13名と学校、役所などの公共機関。実験は、本局と支局の間を、SDSLより高速な「HDSL(High-bit-rate Digital Subscriber Line)」、支局と加入者の間をADSLで結んで行なわれる。内容はビデオ映像のオンデマンド配信やインターネット接続、テレビ電話/会議などが予定されている。ビデオ映像は、MPEG1形式でビデオサーバーに蓄積され、ユーザーは自宅のパソコンで閲覧する。また、テレビ電話/会議にはインターネット用のアプリケーションを利用する。

 「伊那xDSL利用実験連絡会」では、実験の目的を「xDSLモデム技術の現状把握」「ユーザー宅内、局への設置コストを探る」ことなどとしており、実験の運営、機器の提供などはすべてボランティアベースで無償により行なうとしている。実験結果については、実験終了後広く公表していくとのこと。連絡会では、事業化を前提とした実験ではないとしているが、設置のコストなど得られた情報は実際の事業化の際の材料となるものなので、実験の結果によっては、今後、同様の施設を持つ団体にxDSL技術が普及する可能性もある。なお、'97年10月には長野県上田市でも有線放送電話網によるxDSL技術の実験が予定されている。

 

('97/8/27)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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