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【編集部から】
インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!
■「ドッ」と注ぐのがドイツのビール
イラスト・Nobuko Ide
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この「ドッ」という表現が、わかりにくいかもしれない。これには、日本とドイツでビールを注ぐ時の違いがあるからだ。ドイツでは、友達と飲む時でも、お互いのグラスに注ぎあうことはまずない。日本の「おっとっとっ」という光景は、まず見ることができない。自分のビールは自分のグラスに注ぐのだ。考えてみれば当たり前の話で、食事に行って自分の注文したものを、まず向かいの人に食べさせるという人はいないだろう。ましてや自分で注文し、勘定の時に自分の分を1ペニヒまで計算してキチッと払う、金銭的に細かいのが特徴のドイツ人なのだから。裏を返せば、それ以上は一文たりとも払う気のない人が多いのだから、当然だ。
また日本でよく見る、グラスを傾けて泡が立たないようにそっと注ぐ光景は、ドイツでは見たことがない。ここでは、テーブルに置いた長めのグラスに、ビールを滝のように上から注ぐのだ。自然と泡がいっぱい出て、ビールがグラスの底に数センチ見える頃には、グラスの縁まで泡がきている。その泡がだんだん減ってくるまで話をしながら辛抱強く待つ。かなり減ったときに、また上から「ドッ」。これを繰り返し、ビールがグラスの八文目まで満たされ、グラスの縁よりはるか上までこんもりと泡が覆ってくれば、さぁ飲みどき。やっと「プロスト」(乾杯?)とお互いの目を見ながら、グラスを目の高さまで持ち上げ乾杯し、渇いたのどを潤すことができる。
ビールを「ドッ」と注いでくれる、酒場のおばさん
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補足すると、ドイツ人は冷たすぎるビールを嫌う。冷たいと味もわからないし、お腹にも良くないというのが理由だそうだが、「ビール=冷えている」というイメージしか持たない我々には、冷蔵庫で冷やさず、室温のビールを好む人を見ると妙な気がする。
こんなエピソードがある。晩酌にビールを欠かさない私の父が、遠路はるばる尋ねて来た時のことだ。600種類もあるといわれるドイツのビールを飲んでもらういいチャンス。毎日、違う銘柄を買ってきては飲ませてみた。もちろん、毎回これはどこのビールでどのような種類なのかを説明することも忘れなかった。一通りのお勧め銘柄を飲んでもらった頃、どのビールが一番美味しかったか聞いてみると、「ビールは冷たければ何だって美味しいよ」……。うーん、そんなものか。
■ビールの消費量の謎
私は大きな単位の数字が苦手だ。どの町の人口がどうの、どこそこの予算が何兆円だのというのは、馬耳東風の世界。その私がビールの消費量に関して書くつもりになった。ドイツのビール消費量は、きっと世界一だろうと思ったからだ。ところが、調べれば調べるほど謎が深まる。
まず「ビール消費量世界一の『ビール王国!』ドイツ」と書いているWebページがあった。さらに「1人当たりのビール消費量は、やはりドイツが1位」と書かれたページも見つかった。ところが、「ベルギーの1人あたりのビール消費量は、ドイツを抜いて1位」というページが出てきた。ということは、ドイツは第2位か? さらに「97年ビール消費量ランキング 1.米国 2.中国 3.ドイツ」というデータまで登場した。じゃあ、ドイツは第3位?
さあ困った、インターネットの世界で起こる典型的な光景、つまり情報が多すぎるんだ。しまいには「ドイツは、一人当たりのビール消費量がチェコ、アイルランドについで第3位、国全体の消費量もアメリカ、中国に次いで第3位のビール大国である」が出てきて、これであぁそうか! と納得した。要するに一人当たりの消費量というデータと国全体の消費量というデータが、混ざり合っているらしい。そのうえ、1997年から2000年までのデータも混ざっているのだ。手のつけようがない。
でも、どうやらドイツは第3位くらいになりそうだ……と思っていたら、ドイツ語のサイトではまた違っていた。「ヨーロッパ内でドイツのビール消費量はチェコに次いで第2位」とある。こうなったらもう、解らない。どうも調査の仕方、あるいはそれを調査する側の都合(!)によっても、順位が入れ替わるということか。
今挙げたいくつかのサイトを見ていて、ドイツのビールの消費量が年々減る傾向にあると書かれている点が気になった。そういえば、ロカールの中を見渡しても、ビールをがぶ飲みしている人はあまりいなくなった。昔風の古びたドイツ風ロカールよりも、最近はパリ風の粋なビストロの方が若い人には受けているようだし、そこに座っている人たちはワインのグラスを傾けている割合が多い気もする。ビールはカロリーが高くて太りやすいと思われているのも、理由の一つであろうか(連載第14回を参照)。まあこの傾向にしても、日本からの観光客ならたいていは訪れる「ホフブロイハウス」で有名な、ミュンヘンなどの「ビールの町」では、違ってくるのかもしれない。
■ワインの前に、まずビール!
“廃墟レストラン”から見下ろしたブドウ畑。映っている影は廃墟のものだ
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リースリングの原料のぶどう。このまま食べても美味しくないそう
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さて、2月後半のカーニバルが終わると、復活祭(今年は4月15日)前の40日間、Fastenzeit(断食節)と呼ばれる季節がやってくる。断食までする一般の人はいないと思うが、その間アルコールを断つ人たちも多い。……と思ったら、これを実行している人はどうも少ないようで、夜になるとどこのクナイペもビールを飲む人たちで賑わっている。私自身は大のワイン派で、「量より質」がモットー。晩御飯時になると、今日の献立に合ったワインのコルク栓を抜くために、料理の始まった台所をウロウロしている。
◎著者自己紹介 格別な味のビールやワインに比べ、お世辞にも美味しいとは言えないドイツ飯(めし)。おいしい物を食べることが大好きな私が、よりによってドイツに住みついてから長い年月が過ぎてしまった。時間がある場合は、ときどきライン川を渡り、フランス側で昼食をとる。川を一本渡るだけで、どうしてこんなにも味が違うのかと感心する。しかしデザートの後でコーヒーを飲む段階になると、無性にエスプレッソが欲しい。山(アルプス)を超えないと行かれないイタリアは、残念ながらちょっと遠い。各国のいいところだけを拝借するのは、そんなに難しいことか?と、悩んだりしている。 →taogaさんのホームページはこちら
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(2001/03/16)
[Reported by taoga]