米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
インターネット関連リサーチ会社、Forrester Researchの調査によると、1997年に使用されたオプトインメールは30億件(800万ドル)であり、2002年には2,500億件(9億5,000万ドル)に増加すると予測されている。また、ダイレクトマーケティングの業界団体、Direct Marketing Associationによると、現在1,627億ドルと言われるダイレクトマーケティング市場は2003年には2,215億ドルに成長し、その中でも最大の成長率を誇るのがインタラクティブ・ダイレクトマーケティング分野であると予測している。
このオプトインメール・マーケティング企業の最大手が、シリコンアレーにあるスタートアップ企業のNetCreationsである。ソーホーの一等地にオフィスを構える同社は、AltaVista、CMPnet、MicrosoftのLinkExchange、Internet.comを始めとする167種類のWebサイトからなる総計300万人のオプトインメールリストを管理・販売し、1,500社以上の広告主にダイレクトマーケティングサービスを提供している。スパムやプライバシー侵害に対して厳しい姿勢を貫き、オプトインの重要性を訴え続けてきたダイレクトマーケティングのエバンジェリストでもあるRosalind Resnick社長に、同社成功の秘密と将来的な展望を尋ねてみた。
AltaVistaのオンラインショッピング エリア。左端にオプトインメール登録 コーナーがある |
たとえば、AltaVistaではNetCreationsと提携して、同サイトのオンラインショッピングエリアにオプトインメールの登録コーナーを設けている。ユーザーが同サイトを訪れると「オンラインストアからのおトクな情報を受け取りたい人は、ご希望のカテゴリーを選んで電子メールアドレスを入力して下さい」という箇所がある。ユーザーは「アパレル」や「書籍」など12種類のカテゴリー欄の中から興味のあるカテゴリーを選んで、電子メールアドレスを入力すれば、NetCreationsのサーバのオプトインメールリストに加えられる。同氏は「このリストはAltaVistaが所有し、NetCreationsは管理と販売を受け持つ。我々は、サイトオーナーが付加価値のある資産を構築するのをサポートしている」と語る。
NetCreationsでは50:50の売上シェアモデルを採用しており、AltaVistaが広告主に対して1メールにつき20セントを請求する場合、NetCreationsは半額の10セントを受け取るしくみになっている。Resnick氏は「価格体系は各コンテンツサイトごとに異なっているが、たいてい1メールにつき10~30セント(1,000通あたり100~300ドル)である。市場価格は1メールにつき15~25セント(1,000通あたり150~250ドル)なので、競争力のある価格だといえる」と語る。
ユーザーのオプトインメール登録率は10%で、1人につき平均で8~10項目のカテゴリーを選択するという。NetCreationsでは、全部で3,000種類のカテゴリーを用意しているが、どのカテゴリーを使用するか、また登録に際していかなるユーザー情報を要求するかはサイトオーナーの判断に委ねられている。
「PostMasterDirect.com」のスタート ページ |
Resnick氏は「すべてのプロセスを完了するまでの所用時間は、30分程度だ。GAPやJ.Crewなどが広告キャンペーンを行ないたい場合には、『アパレル』に興味があると答えたユーザーのみに『Tシャツ無料プレゼント』などの広告メールを送ることができる。サービスの最低金額は400ドルからなので、多数の小規模サイトがサービスを利用している。1回のキャンペーン費用は平均1,800~2,000ドルだ」と語る。
オプトインメール市場は比較的新しい市場であるが、Direct MediaやAmerican List Counselなどの既存のリスト管理企業、WebPromote、Lists.comなどの電子メールリスト企業、MyPoint.comやCybergoldなどのインセンティブマーケティング企業など、多数の企業がこの成長市場に参入している。しかし、同氏は「我々のような規模でサービスを提供している企業は存在しない。また、MyPoint.comやCybergoldなどのインセンティブマーケティング企業はリストを集めるために多大な広告費をかけているので、損失を計上している。我々は唯一、利益を計上している企業だ」と語る。同社の売上は順調な伸びを示し、昨年の340万ドルから、今年は1,000~1,200万ドルの売上を予測している。
Yahoo!に買収されて一躍有名になったシリコンアレーのYoyodyneに関しては、同氏は「NetCreationsが新規ユーザーの開拓に力を入れているのに対して、Yoyodyneはゲームや懸賞を通した既存カスタマーとの関係強化を目的にしている。Yoyodyneが行なった大学生を対象にしたゲームコンテストでは、ある企業がスポンサーとなったメールを毎週数回受け取ることで、学生はスポンサー企業に親しみを持ち、就職活動の際にはその企業に行く確率が高まった。Yahoo!は、1,400万人の既存カスタマーとの関係を強化したいのだ」と語る。
Wayne Nagrowskiトラフィック マネージャー |
プライバシーの問題に関しても、Resnick氏は慎重な姿勢を崩さない。「ユーザーの個人情報に関しては、ユーザーが提供した以外の情報は調べない『100%オプトイン』を原則としている。いかなる情報を得るかは完全にコンシューマーの選択に任せており、Cookieも使用していない。したがって、サードパーティのデータを購入して個人情報を集めるような24/7 Media(本連載第12回参照)とはまったく異なるコンセプトを持っている」と語る。
同氏はまた「ゴルフに興味を持っているユーザーがいたとしよう。彼の職業は医者かもしれないが、もしも本人がそれを明らかにしたくなかった場合、こちらはそれを知る必要はない。『100%オプトイン』の意味は、コンシューマーがどの情報を提供するかに関して、コンシューマーがすべての決定権を持ついうことだ」と語る。
24台のサーバーが並ぶコンピュータルーム |
その後、サイトトラフィックの重要性の高まりとともに、プロモーションサービス「PostMaster URL Announcement Service」を開始した。これは、サイトオーナーが同社サイトを訪れ、URLやその他必要事項を書き込むと、同URLを400種類の異なる検索サイトに自動的に登録してくれるというサービス。しかし、しばらくするとこのサービスに関して、クライアントから苦情が出るようになったという。
Resnick氏は「この理由は、無数のWebサイトが登場し、検索サイトに登録しても直接トラフィックの増加にはつながらなくなったためだ。そこで、我々はもっとダイレクトにユーザーに働きかける方法を考えた。それが、オプトインメールサービスのPostMaster Direct Responseだった」と語る。しかし、このコンセプトが受け入れられるまでには長い年月を要した。「以前はよく、『NetCreationsはスパムを正当化している』と書かれた。1998年になり、ポータル各社がダイレクトマーケティング戦略を次々に発表して以来、ようやくオプトインメールの正当性が認められた」と語った。
NetCreationsのフロント |
同社は、今後も次々と新たなサービスを提供し、インタラクティブ・ダイレクトマーケティング市場でのトップの座を維持することを目標としている。Resnick氏は「電子メールによるマーケティングは、他のどのダイレクトマーケティングよりも安価で、どのインターネット広告よりも効果的だ。我々は、この急成長市場でグローバルな地位の確立を目指している」と語る。また「携帯電話、ファックスなどのさまざまなプラットフォームでも、オプトインサービスを行なう予定」と語った。
('99/6/11)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]