米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
6月に発表されたArbitron NewMediaの調査でも、オンラインでオーディオやビデオを視聴中のユーザーの70%がリンクされたWebコンテンツにアクセス、60%が広告をクリックし、さらに49%が製品を購入したという結果が出ている。このように、ストリーミングメディアはリッチメディア広告キャンペーンや双方向マーケティング、さらにはECの強力なプラットフォームになる可能性を秘めており、ケーブルモデムやADSLの普及によりこの傾向はさらに強まるものと予測される。Forrester Researchによると、2002年には米国の1,600万世帯が高速ネットワークに接続すると見込まれる。
しかし、その一方で、Webキャストを行なうためにはストリーミングサーバーやエンコーダー、編集ツールなどが必要であり、多額のコストがかかるのが現状である。これに対して、インターネットベースのオーディオ/ビデオ編集システムを開発し、マルチメディア分野で初めての包括的なソリューションを提供しているのが、シリコンアレーのスタートアップ(新興)企業、Javu Technologiesである。
ハドソン川沿いにある巨大なスポーツクラブの一角というユニークな場所にオフィスを構える同社は、1998年1月にロシア人移民のエンジニア3人により設立され、シリコンアレーの中でも優れたテクノロジー企業として注目を集めている。7月19日に正式にWebベースのオーディオ/ビデオ編集サイト「VideoFarm.com」を開設した同社のMichael Samoilov社長兼CEOへ、同社のビジネスモデルと将来的な戦略を尋ねてみた。
ズームやフィルター、キャプションや オーディオ挿入などのビデオ編集を Web上で行なえる |
しかし、Javuはストリーミングメディアの作成・配信に必要なすべてのツールを提供することで、ユーザーはソフトウェアおよびハードウェアを購入する必要がなくなった。同社が7月19日に正式に開設したサイト「VideoFarm.com」では、登録ユーザーがJavuサーバーにオーディオ/ビデオファイルをアップロードし、Javaベースのオーディオ/ビデオ編集ツール「JavuNetwork」を使用してWebブラウザーからズームやフィルター、キャプションやオーディオ挿入などの編集を自由に行なうことができる。
1GBのサーバーストレージ、エンコーディング、ホスティング、30分までのコンテンツの無料デジタル化を含めて、料金は毎月89ドルである。Samoilov氏は「我々のビジネスモデルでは、これ以上請求する必要はない」と語る。ビデオフォーマットはMPEG-1/2、MJPEG、AVI、QuickTime、RealAudio/Video、NetShow、VDO、画像はBMP、JPEG、GIF、TIFF、PCX、オーディオはMP3、AU、AIF、WAVをサポートしている。
ビデオクリップのアップロード/管理 ページ |
ビデオ編集プロダクションにとって最大のアドバンテージとなるのは、地理的条件に制約されずに共同でリアルタイム編集が行なえることだろう。たとえば、東京からビデオをサーバーにアップロードすれば、ニューヨークやロサンジェルスの編集プロダクションと同じ画面を見ながら、リアルタイムでビデオ編集を行なうことができる。コンテンツを郵送する時間の無駄も省け、20~30MBのサイズのビデオファイルを電子メールで何度もやりとりする必要もなくなる。
同氏は「これは、現在市場に出ているどのオーディオ/ビデオ編集システムでも不可能なことだ。『VideoFarm.com』では、すべてのファイルはJavuサーバーに常駐しているので、ユーザーは実質上どこからでもアクセスできる。ラップトップを持っていれば、休暇中のリゾート先からでも28.8kbpsモデムで簡単にビデオ編集ができる。また、プラットフォーム独立なので、オフィスのWindowsマシンでビデオ編集を行ない、家に帰ってからはMacで仕事を続けることができる」と語る。28.8kbpsのモデムなら、ユーザーはインターフェイスに表示される画質を低解像度に設定することができ、サーバーのファイルは高解像度のままで編集される。
サーバー側にアプリケーションやファイルを常駐させ、シンクライアントからサーバーにアクセスするというトレンドが強まっているが、サーバー側に置かれたアプリケーションをレンタルするASP市場は、料金体系が定まっていないにも関わらず、Forrester Researchによると同市場は今後2年間で64億ドル規模に成長すると予測されている。Samoilov氏は「すべてがサーバーに移動しているが、マルチメディアシステムだけはまだデスクトップに留まっている」と語る。
ハドソン川沿いにあるチェルシー・ピア のビルに入り、細長い通路の先にJavuの オフィスが |
Samoilov氏は「RIVLにより、画像、オーディオ、ビデオ、アニメーション、テキストなどの異なるタイプのコンテンツに対応する最初のクロスメディア/マルチクライアントエンジンが誕生した」と語る。Javuは、「VideoFarm.com」サービスの他に、大手ビデオ編集プロダクションやストリーミングメディアホスティング企業には、「JavuNetwork」のライセンス販売も行なっているという。ライセンス料金は規模や用途により異なるが、50万~100万ドルで、毎年10%前後のアップグレードコストがかかる。現在、2社のインターネットメディア企業と交渉中だという。
また、同社のネットワークシステムは、メリーランド州に本社を置く企業間ECサイト専門のISP、Eigixに設置している。サーバーはCとC++をベースにしてJavuが独自に開発しており、UNIX、Windous NT、Solarisに対応するスケーラブルなシステムだという。同氏は「ソフトウェアは非常に柔軟で、何台でもサーバーを追加することができる」と語る。
Javu創設者の3人。Max E. Orlov副社長 (左)、Michael Samoilov社長兼CEO (中)、Dmitry Shklovsky副社長(右) |
同氏は「卒業後、一時期ウォール街(Goldman Sachs)で働いたが、あまり自分にふさわしいとは思わなかった。そこで、3人で1998年1月に会社を興し、4~5年間続いていたコーネル大学の同プロジェクトをベースにロシアのエンジニア達と共同で開発を始めた。1998年夏、ベンチャーキャピタルからの投資を受け、本格的なビジネス構築に乗り出した」と語る。
この投資家とは、シリコンアレーで有名なアントレプレナーのMichael Paolucci氏で、同氏のJavuへの投資額は推定150万ドルとされている。同氏はRiddler.comやInteractive Imaginationsなどを創設しているが、Interactive Imaginationsはその後、Petry Interactive、Millenuim Marketingと合併して24/7 Media(本連載第12回参照)として生まれ変わった。
Javuは現在、ニューヨークに9人、シアトルに1人、モスクワに数人の社員を抱えており、そのほとんどがデベロッパーだという。ただし、シアトルにいるのは販売スタッフで、同氏は「多くのストリーミングメディア企業が存在するのはシアトルなので、販売スタッフはシアトルにいる」と語る。また、現在はサイトを開設したばかりなので、24時間体制でオフィスで寝泊まりすることも多いという。
「VideoFarm.com」サイトについて 説明するAlayna Tagariello氏 |
Samoilov氏は、ECサイトの効果的な双方向マーケティングツールとしてストリーミングメディアの使用が一般化するよう、今後はクレジットカード処理などのバックエンドのトランザクションを含めたサービスパッケージの提供をスモールビジネス向けに計画しているという。
同社は現在、2回目の投資ラウンドを終了する段階にあり、投資獲得後はビデオ関連のハイエンドユーザーをターゲットに大規模なマーケティング展開を行なう予定である。同氏は「1980年代はデスクトップ出版(DTP)、1990年代はWebベースの画像とテキスト、そして、2000年代はインターネットビデオの時代になるだろう。広帯域幅の普及にともない、ビデオ編集は一般ユーザーに広く普及するものになり、シンプルで安価なビデオ編集ツールが、このトレンドをさらに推進することになる」と語った。
('99/8/6)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]