【連載】

ネット時代の商品企画~「最大多数の最大幸福」への挑戦
第3回 かゆいところに手が届く…か?女性向けポータルのオリジナルブランド

【編集部から】
 新製品の商品開発やマーケティングリサーチにインターネットを活用する企業が増えている。商品開発の段階からユーザーの意見を取り入れることで消費者の潜在ニーズを拾い上げる手法は、はたして成功しているのだろうか?実際にユーザーの意見を元に商品開発に取り組んでいる企業の動向とその実情をレポートする。

 ここ数年、女性のインターネット人口が急増しているようだ。パソコンの低価格化により、世帯のパソコン普及率は50%を超え(平成12年度総務省調べ)、インターネット利用者の約三割は女性との調査結果も出ている。そして、1999年頃から、“女性”をターゲットにしたポータルサイトが続々と誕生してきている。だが、女性のネット利用者が増加しているにもかかわらず、どこもいまひとつ伸び悩んでいる印象を受ける。

 「女性向けポータルサイト」というのは、「男性向けポータルサイト」という言葉がないことを考えると少々不思議な名称だ。ひとくちに女性といっても、環境も経済状況もさまざま。例えば、同じ20代後半の女性といっても、結婚し子どもを産んで家庭に収まっている主婦と、バリバリと企業で働くキャリアウーマンとではファッションも違えば興味の対象も違う。書店で女性向けの雑誌を見ても、ライフスタイルやファッションの嗜好ごとにどんどん細分化してきている。インターネットでも、女性ユーザー自体が珍しかった数年前ならいざしらず、「女性向け」とおおざっぱなカテゴライズでサイトを運営しているのは、そろそろ厳しい時期なのではないだろうか。

 もちろん各サイトとも個性化をはかり、「固定ユーザー」をつかもうとさまざまな工夫をこらしている。そんな試行錯誤の中、最近目立つのが、ユーザーの声を反映したオリジナル商品の開発プロジェクトだ。しかし、ただでさえまとめるのが難しい女性のニーズをうまく取り込んだ商品開発を、インターネットでうまく行なっていくことが可能なのだろうか…?

●リーズナブルで高品質。高難易度の要求を叶える
 @woman Bottegaの「オリジナル口紅」ト


http://shopping.woman.co.jp/bottega/

 登録会員数21万人を誇る「@woman」は、独自のショッピングサイト「shopping@woman」でコスメ商品やサプリメント、雑貨など女性向けの商品を取りそろえている。

 Bottega(ボッテガ・イタリア語で工房の意味)は、会員からのアンケートによってオリジナル商品を作っていくプロジェクトだ。第一弾のピアスは、予定数(100個)をはるかに上回る約500個を完売したが、第五弾のピンブローチはわずか17個と予想をはるかに下回った。「アクセサリーばかりが続いたことで飽きられてしまったことと、ピンブローチというアイテム自体がユーザー層の使用シーンにマッチしなかったのかもしれませんね」と株式会社ジービーネクサイト@woman事業部コンテンツ企画グループの森川幸子さんは苦笑いする。人気アイテムだから、安定して売れるだろうという目算はハズレた恰好だ。

 @womanの会員構成比率は、主婦とOLが50%ずつになっているという。面白いのは、商品企画に積極的に意見を出してくるのは主婦層だが、商品の購入についてはOLのほうが多いらしい。

これまでにBottegaで商品化されたアクセサリー。左からピアス、ネックレス、ピンキーリング、ブレスレット、ピンブローチ

 Bottegaは現在、アクセサリーからコスメティックへと路線を変更し、オリジナル口紅の開発プロジェクトを進行中。「もともとアクセサリーというのは、オンラインショッピングサイトでも売れ筋の商品でしたが、アンケートでほかに人気が高かったのが化粧品だったんですね」(森川さん)。全会員を対象に流したアンケートメールからサンプル商品を作成し、モニターを募集。これに対して4,000人の応募があり、現在は250人のモニターにサンプルを提供し試用してもらっている最中だ。

森川幸子さん

 「市販の口紅は味やニオイ・添加物が気になる…という意見が多かったのを反映して開発を進めています」と、現在このプロジェクトを中心になって進めている@woman事業部付の船津崇氏。実際に店頭で試しても気に入った色を見つけるのが難しい口紅というアイテムを、ネット上で開発・販売するに当たっては苦心の連続だという。「パソコンのモニター上で、実際の商品になるべく近い色を再現するのは非常に難しいですね」(船津氏)。そこで、モニター上に表示される色に近い口紅をサンプルとして開発したというから、まさに発想の逆転だ。

 また、無添加・無香料にするにはどうしても開発コストがかかるが、アンケートでの購入希望価格帯はせいぜい1,500円前後と女性たちの要求は厳しい。「大手化粧品メーカーと違って宣伝広告費等はカットできますし…会員21万人にアピールする媒体(メールニュース)はありますから」と船津氏は言うが、品質のクオリティとリーズナブルな価格というよくばりな要望を両方かなえるのはなかなか難しそうだ。ただし、@womanオリジナルブランドの商材販売を目指すというよりは、会員の満足度向上が目的のサービスだというから、できるかぎり要求をくみ上げていく姿勢を貫くそうだ。

●女性の意見をくみ取るノウハウが「売りモノ」になる?
 Cafeglobe.com「欲しいものは自分たちで作ろうプロジェクト」


http://www.cafeglobe.com/

 ファッションや美容だけでなく、政治や経済などといったニュースも提供し、キャリア女性に人気の高い「Cafeglobe.com」では、“キャリア女性のための通勤ファッション”というコンセプトのもと、「欲しいものは自分たちで作ろうプロジェクト」という商品開発プロジェクトを展開している。これまで市販品に対して、“この部分がこうだったら”と思うことが多くても、それを言う場所がなかった。しかし、このプロジェクトでは、それを解消でき、自分たちの欲しい商品の開発に携われるとあって、注目を集めている。

 第一弾の「お仕事バッグ」(バッグ、書類ケース、パソコンケースの3点セット)は、BBSに書き込まれた「A4の書類が入るおしゃれなバッグってなかなかないよね」という投稿から生まれたもの。当初販売予定の60個はあっという間に完売、追加注文を受け付け、最終的には200個販売したそうだ。価格は18,800円と少々高めだったが、本当に欲しいものなら高くても購入する女性心理にうまくヒットしたようだ。このあたりは、主婦層が半数を占めるという@womanに対し、比較的お金を使うことができる20代~30代のキャリア女性が多いCafeglobe.comならではの特色かもしれない。

山岸祐加子さん

 意見を自由に書き込める「BBS」、いくつかの選択肢の中から投票形式で選べる「VOTE」、メールでのアンケートなど、女性たちの声をすくい上げるキメ細やかなノウハウは、他の女性向けサイトとは一線を画す。「ここまで商品の開発プロセスをユーザーに見せているのは珍しいのではないでしょうか? ヨソに真似されるくらいになったらうれしいですね(笑)」と、株式会社カフェグローブ・ドット・コム副編集長の山岸祐加子さんは語る。途中経過を見せていくことで、自分たちが作ったという参加意識を持ってもらい、自分の意見が反映された「自分たちのブランド」という満足感が得られる。さらに、「商品に対して愛着が湧くというか“親心”に似た感情を持てるのでは」、と山岸さんは言う。

 有名スタイリストや人気モデルをオピニオンリーダーとして招聘し、おしゃれでかつ機能的といったブランドイメージを確立するためのシカケも忘れない。ただし、山岸さんは、「やはり実際に身につけないとわからないアパレル商品をネットだけで開発・販売していくのは難しいですね」とも言う。この点についてCafeglobe.comでは、いくつかの手だてを講じている。

 「通勤スタイル向上委員会」は、月に1回、定例会議としてオフラインでミーティングを行なうシステムだ。これは、開発中の製品を試してもらうモニター10数名によるメイン委員と、オフラインミーティングには参加しないが、アンケートという形で参加する130人のサブ委員によって成り立っている。さらに、エスキス表参道と京都の藤井大丸にある店舗「dress for bliss」で、実際に手にとって見られるようにもなっている。「やはりユーザーの利便性を考えてのこと」と、事業開発部マネージャーの村田昭彦氏は言う。

 至れり尽くせりで、女性たちのニーズをしっかりとつかむプロセスは、サイトのオリジナリティを確立するのに役立っている。このようにCafeglobe.comでは、コミュニケーションの重要性を大事にしている。これは、ユーザー同士のコミュニケーションだけでなく、ユーザーと企業の間に入る“ブリッジ”としての役割にも現れている。

 Cafeglobe.comのビジネスモデルは、女性消費者の潜在ニーズをリサーチしたいと考えいる企業と、本当に自分たちが欲しいと思う商品を求めるユーザーにとって、双方がメリットを享受できるものといえる。「実際にクライアント様からも『これだけの反響があるとは,予想以上の効果だった』という喜びと驚きの声が多く、手ごたえを感じています」(村田氏)。消費のカギを握る「女心」をしっかりとくみ取れるノウハウが、売り物になるというわけだ。

いちば ゆみ
携帯電話・PDA・インターネット関係をメインに執筆するフリーライター。
 主な執筆先として「できるインターネット」(インプレス)、Asahiパソコン (朝日新聞社)、iモードスタイル(ソフトバンク)等。
 著作に 出会い系サイトを安全に利用するためのネット恋愛マニュアル本「オ オカミなんかコワくない!」等
http://you.can.ne.jp/

(2001/12/18)

[Reported by いちば ゆみ]

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