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第19回:メール編(8)「迷惑メール」が氾濫する理由
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第19回:メール編(8)「迷惑メール」が氾濫する理由


 これまで、電子メールの大まかな仕組みについて述べたが、ここからがいわゆる「迷惑メール」に関する話となる。


「迷惑メール」とはなんだろうか?

今回の連載用に収集したスパムメールの一部。同じ内容が何度も届いているのがわかるだろう。このメールは韓国から発信されていた
 迷惑メールの中でもっとも典型的なものは「スパムメール」と呼ばれる。「下手な鉄砲も数撃てば当たる」的に、大量無差別に送信されるメールというのがスパムの大まかな定義だ。

 このようなスパムメールは、ユーザーの要請にもとづくものでもなければ、配信停止の要求も(おそらく)通じない。各国で違法なメールとされているにも関わらず、世界中で大量に送信されている。

 この手の違法メールは、メールの本文自体も違法なものになることが多い。例えば日本語のスパムメールでは、出会い系サイトへの誘導と思しきメールが非常に多い。出会い系サイトは18歳未満の利用が禁じられており、その広告を無差別に送信することも問題になる。

 また、日本語のスパムメールでは少ないが、いわゆる「バイアグラ販売」などの医薬品広告も薬事法違反になるだろう。詳しくは後の回で言及するが、スパムメールが、マルウェアへの感染やスパムメール送信の「手下」になる可能性もある。

 広義の迷惑メールでは、上記した違法なスパムメールのほかにも、「受け取る人が望んでいない」合法なメールも含まれる。つまり、迷惑メールに立ち向かうためには法律で取り締まれるものもあるし、ダメなものがある。合法的な迷惑メールについては、後日詳しく紹介したい。

 ちなみにスパムメールの「スパム」は、英国BBCで放映されたコメディ番組「MONTY PYTHON's FLYING CIRCUS」のコントが由来とされている。レストランを舞台にしたこのコントでは、ほとんどのメニューにSPAM(米Hormel社のランチョンミートの登録商標)が使われているだけでなく、すでに店内にいたバイキングの一団まで「SPAM,SPAM,SPAM,SPAM,SPAM,SPAM」と歌いだすという内容だ(エンドロールまでSPAMが大量に埋め込まれて「BBC SPAM TV」になっている)。

 もちろん、SPAMそのものには罪はないが、先のコントでSPAMに埋め尽くされている様子と、SPAMが軍の食料品として常時提供され「今日もSPAM、明日もSPAM」と飽きられていることが、同じようなメールが山のように届く「spam mail」の由来になったといえるだろう(商標侵害の関係で区別のために小文字で書くことがHormel社から提唱されている)。


スパムメールの由来とされるコントで取り上げられた、米Hormel社のSPAM エンドロールの一部、スタッフ名にもSPAMが大量に混ざっている

「送信コストの安さ」が迷惑メールの氾濫を生む

 それではなぜ、迷惑メールが大量に出回るのだろうか? それはメールの送信コストが、他の個人向けの直接通信手段と比較して、非常に安いからだ。

 例えば、100万通の個人広告を郵送する場合、ハガキで送るとしても、1通50円なので5000万円かかる。ハガキの製作コスト、印刷代や宛名書きのコストが追加でかかるのは言うまでもない。個人はもちろん中小企業でも、プロモーションのために100万通のハガキを送るのはコスト的に難しいだろう。

 一方、電子メールを使った場合ならばどうだろう? ちょっと検索してみたところ、ある業者で「月40万通まで9,800円(1通あたり0.0245円)+追加26通あたり1円(同0.0384円)」というプランを見つけた。100万通を送信すれば単価がさらに下がることを考えれば、100万通の送信でもたった3万円程度で実行できるのだ。もちろん印刷代は不要、宛名書きはデータがあればそのまま利用できる。つまり、企業だけでなく個人でもその気になれば大量のメールを送ることは不可能ではない。

 企業の場合、3万円で実行可能ならば、リターン率が低くてもワリにあう手段といえる。100万人に送信して、1件1万円の利益が得られるとした場合、5人が成約に至れば5万円の収益が出る計算になる。3万円の経費をかけてもペイできるわけだ。

 ただし、この例は、メール送信を事業として行なっている会社に依頼する場合の話だ。もっと安いが、正しく送信されない可能性もある「スパム発信業者」を使う、あるいは自前で送信すればもっと低コストになるだろう。

 多くの人が「安くて効果的な広告手段」だと感じ、実践するとどうなるか? 多くの人のメールボックスに広告メールが溢れることになる。これが現在の電子メールの氾濫を生んでいる。メールの受信総数が多くなると、受信する側のメール管理がかなり面倒になるわけだ。


オプトアウトとオプトイン

 後述するように、日本の迷惑メールに対する法律は2008年末に大転換する。その前に、ユーザーの事前承諾なしにメール送信できる「オプトアウト」方式と、メール配信を希望するユーザーだけに送信する「オプトイン」方式という言葉を説明しておこう。

 まずオプトアウトとは、一定のルールを守ればメール送信を「明確に許諾していない」相手にも送信できるが、メール送信を明確に拒否した相手には送信してはいけないというものだ。現在日本では、このオプトアウト方式が採用されている。

 オプトアウトでは、メール送信事業者が出所の不明なメールアドレスリストを用いることも可能となっている。身に覚えのないメールを受信したユーザーは、配信停止を依頼するメールを返信できるが、ここに落とし穴がある。

 具体的には、不用意に配信停止を依頼するメールを返信してしまうと、メール送信事業者から「現在も使われているアドレス」と見なされる。その結果、返信先の事業者からのメールは停止するものの、他の事業者からのメールが大量に届く恐れがある。さらにいえば、「より使える“生きた”メールアドレス」として他の事業者に転売される可能性もある。これらの脅威と対策は、迷惑メールの監視を行なう日本データ通信協会のサイトにも記載されている。

 一方、海外で法規制の定番になっており、日本も2008年中に施行されるのがオプトインだ。これは「メール受信を希望する」意思のある人のみに送信するため、ユーザーからしてみると、自ら登録したメールだけが届くということになる。もちろん、途中でメール送信を拒否することも可能だ。

 なお、オプトインでは、事前に受信者のメールアドレスと送信許諾を得なければならない。そのためには、Web広告から誘導したキャンペーンページや商品・サービスの購入・会員登録ページなどで許諾を取るといったケースが考えられる。メール送信者にとっては、一段余計な手間(と費用)がかかるのは容易に想像できるだろう。

 また、最近ではオプトインから派生した「ダブルオプトイン」方式を採用する企業も増えている。ダブルオプトインとは、メールマガジンなどに申し込んだユーザーに対して、まず事業者側が登録意思を確認するためのメールが送る。ユーザーは、メール内に記載されたURLをクリックすることなどで、登録が完了するというものだ。


迷惑メールをめぐる法規制は今年大きく転換する

 日本において迷惑メールに対しての規制する法律は2つある。ひとつは広告主に対してのルールとなる「特定商取引に関する法律」で、もうひとつがメール広告送信のルールとなる「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(いわゆる迷惑メール法)だ。前者の特商法は商行為全般に対する法律であり、メールへの規制内容は後者のほうが厳しいので、以下は迷惑メール法の解説にとどめる。



「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(迷惑メール法)」の主な内容

1:メール送信の同意を得ていないものでも以下の用件を満たせば、送信可能
 ・メール件名の冒頭に「未承諾広告※」をつけること
 ・メール本文の最前部に事業者と送信者の氏名と受信拒否のためのメールアドレスを記載すること
 ・事業者には「<事業者>」、送信者には「<送信者>」と表示してから記載すること。事業者=送信者の場合は「<事業者><送信者>」か「<送信者><事業者>」と表示する。
 ・送信者の住所と電話番号を本文の任意の場所に記載すること

2:送信拒否の意思を示した人に送るのは禁止

3:プログラムによるランダムアドレス送信は禁止


 迷惑メール法を大雑把に説明すると、上の囲みのようになっている。繰り返しになるが、現在の日本の規制は、1に書かれているように同意がなくても送信できるオプトアウト方式だ。

 とはいえ現状は、氾濫する迷惑メールを見てもわかるとおり、「未承諾広告※」の表示すらあまり守られていない。また、その他の表示義務も守られていないだけでなく、送信者情報が虚偽のものを除くと、まず行政指導を行なってからでないと摘発できない。このため、摘発まで至った事例は非常に少なく、法施行から初の逮捕者が出るまでに約4年もかかっている。

 なお、6月6日には迷惑メール法が改正され、オプトイン方式の採用が決まったが、施行日はまだ決まっていない。。また、改正後にどれだけ迷惑メールを取り締まれるかについても未知数だ。やや悲観的な予測だが、多少は減るだろうが迷惑メールは今後もなくならないだろう。

 迷惑メール法改正案の可決に際して、参議院・衆議院ともに付帯決議が付記されている。衆議院の方は「迷惑メールによる被害は、受信者側が正しい知識を持って対応することにより、ある程度回避することが期待できることから、迷惑メールの受信者側の対応策についても、引き続き、国民に周知徹底を図ること」という項目があり、参議院側はこれに加えて「特に青少年が迷惑メールを通じて犯罪に巻き込まれる事案も発生していることから、青少年のメディア・リテラシーの向上に一層取り組むこと」となっている。

 迷惑メールの対策を法任せにするのは難しい。ある程度の知識を持って対処する必要があるだろう。

 次回は「迷惑メールが届くキッカケ」について触れたい。



2008/06/18 11:15
小林哲雄
中学合格で気を許して「マイコン」にのめりこんだのが人生の転機となり早ン十年のパソコン専業ライター。今回のメール編では、後日掲載の記事で使う自動巡回型スパムメールを収集するため、ダミーのメールアドレス「 ktetsuo_itw-080618@yahoo.co.jp 」にメールするとスパムと判定され記事化される可能性があるので要注意。

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