10月22日に開催される「Macromedia Flash Conference 2004」(主催:マクロメディア株式会社)で基調講演を行なう米Macromedia エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフソフトウェアアーキテクトであるケビン・リンチ氏に、講演に先立ってFlashの未来とMacromediaの企業戦略についてお話をうかがうことができた。
リンチ氏は、Flash MX製品ファミリーのゼネラルマネージャーを担当しながら、チーフソフトウェアアーキテクトとしても活躍している。これまでに、プロフェッショナル向けのWeb開発ツールとして評価の高い「Dreamweaver」の企画および開発の陣頭指揮をとるなど、リンチ氏がMacromediaで果たした功績は大きい。
● Flashの表現力をFlexでバックエンドと連携
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米Macromedia エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフソフトウェアアーキテクト ケビン・リンチ氏
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日本に来るために新調したという自身のPowerBookを広げ、Nikeのサイトにアクセスするリンチ氏
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リンチ氏は「アプリケーションでは体験が大事です」と語り、スニーカーをセミオーダーできるNikeや、画像をアップロードして自作カレンダーなどを作成できるofotoといったWebサイトにアクセスし、Flashのテクノロジーが現在どのように利用されているかの実例を示した。Nikeのサイトでは、スニーカーの形、各部分の色、ラベルなどを1つのスクリーン上で選んでいくことができる。また、ofotoではドラッグアンドドロップで画像を選択したり、画像をその場でトリミングするといった作業ができる。もちろんこれらはWebアプリケーションとしてWebブラウザ上で実現する機能ながら、Webアプリケーション特有のユーザーインターフェイス自体のリロードも発生しない。
これらのサイトは、Macromediaの提唱する「ガイド付きEコマース」の良い実例と言える。これまでの無機質なユーザーインターフェイスから、より付加価値のあるユーザーインターフェイスを提供することができるようになるのだ。
もちろん、Flashによる表現力あるユーザーインターフェイスは、すでに広く認知されている事実。マクロメディア株式会社 CTOである田中章雄氏が「インターネットの世界で最も普及しているコモンインフラ」と言い切るように、実行環境であるFlash Playerは全世界で5億近いユーザー数を誇っている。いまやPCだけにとどまらず、携帯電話などのモバイル端末、組込家電といった多くのデバイスにもインストールされている。Webアプリケーションの開発者にとってFlashを利用することは、HTMLを利用することと大差がないほど普及していると言っても差し支えないほどである。
Flashのテクノロジーを知っている人にとって、リンチ氏の示したサイトで実現しているアプリケーションの処理は当たり前と思われるかもしれない。最初にデータをロードして、多くの処理をクライアントサイドで実行するのだから当然と言われるかもしれない。もちろんそのとおりである。しかし、ここで重要なのは、Flashのテクノロジーで作成されたWebアプリケーションが、バックエンドであるサーバーサイドのデータベースとアクセスできるという点である。もちろん、結果はリアルタイムでクライアントサイドに反映されなければならない。
実はこれらの処理はFlexというサーバーソリューションによって実現する。FlexはWebサーバー上で動作するスクリプトであるMXML(Macromedia Flex Markup Language)の処理環境である。クライアントからリクエストがくると、FlexはMXMLに記述されている内容に従って処理を実行し、動的にFlashデータを生成してクライアントに返信するという仕組みだ。FlexにはDreamweaverをベースとしたMXMLの開発環境「Macromedia Flex Builder」が同梱されているが、MXMLはその名前のとおりXMLをベースにした言語なので、通常のテキストエディタやXML対応の開発環境から作成することもできる。
● RIAでWebアプリケーションの世界に革新的な技術を提供
リンチ氏は、Flexで実現するWebアプリケーションについて「非常に表現力豊かなユーザーインターフェイスなのはもちろんですが、インターフェイス自身をリロードする必要がないため、帯域やサーバーへの負荷が少なくて済みます」と語る。これは、多くのWebアプリケーションでは操作するたびにユーザーインターフェイスのHTMLデータまでが再読み込みされるのに対し、Flashの場合、ユーザーインターフェイス部分のデータをクライアントサイドでキャッシュすることで差分データだけがやり取りされることを指す。
現在、Webアプリケーションは「リッチクライアント」が重要なキーワードとなっている。さまざまなベンダーや団体が、よりリッチなクライアントを実現するテクノロジーを提唱している。しかしインターフェイスの表現力、開発者・デザイナーといった人材の豊富さ、そしてなによりクライアント数の多さを考えた場合、Flashが他のリッチクライアントと比較して非常に優位に立っていると言えるだろう。リンチ氏は、今後Macromediaでは「RIA(リッチインターネットアプリケーション)」によって、Webアプリケーションに革新的な技術を提供する企業となると語った。
● 今後のMacromediaの企業戦略
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Macromediaは新たな製品分野を手がけるたび、これまで売上げを大幅に伸ばしてきている
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リンチ氏は、今後Macromediaが取り組んでいく3つの柱として「Webアプリケーションで効果的に利用できるユーザーインターフェイス」、「豊かな表現力を持ったコンテンツの媒体」、「いろいろな場面で使えるコミュニケーションの実現」があり、今後はこれらを組み合わせていくことになると述べた。
さらに「これまでMacromediaはツールを売る企業と思われてきました。もちろんこれからも質の高いツールは提供し続けます。しかしFlexやBreezeといったサーバープロダクトにも力を入れていきます」と語り、もちろんクリエイター向けのツールベンダーとしての取り組みは続けていくとした上で、今後はサーバーソリューションにも力を入れていくことを強調した。現在米Macromediaの売上の80%はFlash MXなどのツールの売上であるが、企業向け製品での経験を持った新しい人材をヘッドハンティングしたり、企業向けの新しい販売チャネルも増やしているとのことである。
これまでMacromediaは企業として4回の変身を遂げているとリンチ氏は語る。フロッピーベースの時代には「VideoWorks」(当時はMacroMind社)、CD-ROMの時代には「Director」、Webの時代には「Dreamweaver」や「Flash」といったツールによってビジネスの成功を収めてきた。そして現在は「リッチクライアント」の時代であるという。これまですべてサーバーサイドで実行してきた処理の多くを、クライアントサイドで実行させることで、Webアプリケーションに多くの可能性が生まれるのである。もちろん、そのための動作環境であるFlash Playerも、今後一層の機能強化を図っていく予定とのことだ。
関連情報
■URL
Macromedia Flash Conference 2004
http://www.macromedia.com/jp/flashcon/
( 北原静香 )
2004/10/22 14:33
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