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「Googleブック検索」和解案と電子書籍ビジネスの行方(後編)


和解案がもたらす未来の電子書籍ビジネス

「Googleブック検索」和解管理サイト
 Googleの書籍検索サービスを巡る訴訟は、一般的な知的財産権訴訟の範囲を超越した大規模な集団訴訟だ。しかし、これは単に従来にない壮大なスケールの集団訴訟であるだけでない。その内容を見ると、和解案はGoogleと著作権者・出版社間の協力とその諸条件、体制などについて、前例のない細かいレベルで踏み込んでいる。

 例えば、和解案には次のようなことが含まれる。まずは和解契約に基づいて、独立した非営利の版権レジストリ組織が設立され、著者、出版社から同人数の代表者で構成する理事会によって運営される。同レジストリは、書籍の権利者を特定・確認して、和解契約に基づく収入の分配を行う。この組織の運営資金として、初期はGoogleが3450万ドル(約35億円)を投じ、運営が軌道に乗った後は、収入の一部が運営費として賄われる。また、Googleは、同レジストリの運営に必要な情報のインデックス化を行ったり、オンライン管理ツールを提供する。Googleに与えられているのは非独占の使用権であり、著作権所有の譲渡は一切無い――といった具合だ。

 コンテンツの表示については、プレビューの無償利用は書籍の最大20%まで、隣接する5ページを超えない。小説では、最後の5%または15ページは表示しない。単語検索により一部抜粋を表示する場合は、1書籍につき最大3個所の3~4行程度にとどめる。権利者は、得られた収益の中から63%を受け取ることができるといったことが示されている。

 Googleと和解に参加した米国の権利者たちは、こうした細かいビジネスモデルの取り決めをまとめ、書籍コンテンツのネット販売に絡む権利処理や著作権使用料の支払いに対する基盤を構築することで、書籍のデジタル流通を大きく促そうとしているわけだ。和解案については、各国の事情への対応や他国当事者への説明が不十分との批判も多い。しかし、新たなビジネスモデルの確立をただ単に待つのではなく、具体的に必要な詳細事項を権利者の代表と話し合い、妥協点を模索し歩み寄り、法律的な商業契約として実用化に持っていこうとする一連の試みについては実に先導的な取り組みと言える。

 米裁判所から米国外の著者・出版社に宛てられた通知には、和解管理者へコンタクトするための連絡先として、200カ国以上にわたり、それぞれトールフリー電話番号が提供されている。事前申し込みしていれば、ニューヨークでの公聴会への参加も可能だ(申し込み締め切りはすでに過ぎたが)。

 欧州、日本、その他の国では、課題や問題点の指摘は進んでいるが、和解の意義と未来のビジネスモデル具体案、収益分配の方法などについての議論はあまり進んでいるとはいえない。

 和解案に基づいて提供されゆくサービスは、米国内の利用に限られるとはいえ、デジタル化時代における著作権者とネットビジネスの未来、電子化のルール、継続可能なビジネスの諸条件について、一歩踏み込んだ先例を提示していることは確かだ。今後、それが世界的なデファクトスタンダードとして受け入れられていくのか、各国の反応を受けて修正・調整されていくのか、引き続き動向が注目される。


米国で激化する、電子書籍ビジネスを巡る攻防

Amazon「Kindle」とiPhoneの画面表示比較。iPhoneの方がカラーで一見きれいだが、文字を長時間読むにはKindleの方が目が疲れにくく読みやすそう
 「Googleブック検索」和解案以外の形でも、米国ではここにきて、電子書籍ビジネスを巡る勢力争いが激化している。

 Amazonは5月、同社の電子ブックリーダー第3弾となる雑誌サイズの「Kindle DX」を今夏に発売することを発表した。同社は2月に第2弾の「Kindle 2」を発表したばかりだ。

 これに対してGoogleは3月、電子書籍分野でSonyと提携。Googleがデータベース化した書籍50万冊をSonyの電子書籍リーダーで読めるようにしたほか、モバイル版Googleブック検索をAndroid端末とiPhone双方で閲覧できるようにもしている。また、Googleは5月末、オンライン/オフラインどちらでも利用できる電子書籍の販売を計画していることをほのめかしたとNew York Timesは報じている。

 一方、Adobe Systemsは4月、電子書籍配信のオープンなシステム「Open Publication Distribution System(OPDS)」への取り組みを発表。iPhone向けに無料電子書籍リーダー「Stanza」を提供するLexcycle、米非営利団体のInternet Archiveとともに、1つの電子書籍ストアでなく、複数のストアに対応するフォーマットで流通を促進することを目指すと表明。それから間もない4月27日には、AmazonがLexcycleを買収したことを発表した。

 そこで、ここでは米国における電子書籍の売り上げをあらためて見ておこう。国際デジタルパブリッシングフォーラムと米出版協会がまとめた統計データによると、米国における2008年の電子出版売上高は5240万ドル(約51億7000万円)と、前年比60%以上の伸びを示している。出版市場全体の伸び率である3%を大きく上回り、5年前に比べて7倍以上の伸び率にあたる。


米国における電子出版の売上高推移(国際デジタルパブリッシングフォーラムの調査データより)

 日本の電子書籍市場は、2007年度で355億円(インプレスR&D「電子書籍ビジネス調査報告書2008」より)と米国より大きいが、うち約8割は携帯電話向け市場だ。日米の差の大半は、携帯電話向け電子書籍市場の有無によるともいえよう。しかし、米国ではiPhone向け電子書籍リーダーも広まりつつあり、今後はさらなる拡大も見込まれる。Sonyの電子書籍端末「Librie」も、日本では販売終了になってしまったが、米国ではまだ販売されており、販売動向もそれなりに推移しているようだ。

 本格的な市場拡大はまだこれからだが、今後の展開の要は何になるのか、Googleブック検索訴訟の和解が米国の電子書籍市場拡大にどう寄与していくのか、今後の動向から目が離せない。


関連情報

URL
  「Googleブック検索」和解契約
  http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/agreement/
  「Googleブック検索」和解管理サイト
  http://www.googlebooksettlement.com/
  国際デジタルパブリックフォーラム
  http://www.idpf.org/

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( 堀田有利江 / インターネットメディア総合研究所シニアリサーチャー )
2009/06/09 12:52

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