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「Googleブック検索」和解案と電子書籍ビジネスの行方(前編)


米出版社とその他の国の出版社に温度差

 米Googleの書籍検索サービスを巡る訴訟の結果が、日本の出版業界を浮き足立たせている。米国の著作者団体と出版協会が、同サービスを巡ってGoogleを著作権侵害で訴えていた訴訟で、和解することで合意。その合意案が集団訴訟として認められたことから、著作権を相互保護する「ベルヌ条約」を通じて、世界中に影響を及ぼしているからだ。

 Googleが2009年1月5日までにデジタル化した書籍の著者および出版社は、1)和解案を拒否するか、2)容認して一時金や使用料対価を受け取るか、3)和解案には合意するが、削除依頼あるいは各種使用方法の種類・範囲を選択するか――などの選択を、2009年9月4日までに求められている(当初は5月5日という日程だったが、4カ月延期された)。

 しかし、訴訟にかかわった米国の出版社と、その他の国の出版社では、和解案への反応に温度差があると言わざるを得ない。米国の著作者や出版業界関係者にとっては、訴訟に直接かかわった者ではなくとも、自国の集団訴訟(クラスアクション)の利害関係者ということで、まだ納得しやすいかもしれない。ところが、欧州や日本、アジア、その他各国の出版関係者にとっては、対岸の火事が飛び火したと受け止めている感がどうしても否めない。米国における1つの訴訟の結果が全世界に影響を与えようとしていることに対して、違和感や難色を示すのも無理はない。

 その一方で、米国の一部の先進的な出版関係者の中には、Googleブック検索の普及を前提にした新たなビジネス機会に視点をすでにシフトしている動きも見受けられる。Googleと米国の著作者団体、出版協会が合意に達してまだ間もない2009年2月、O'Reilly Mediaがニューヨークで開催した業界カンファレンス「O'Reilly TOC(Tools of Change)Conference」では、そんな兆しが見られた。


Googleブック検索における変更点 Googleブック検索を使った電子書籍アクセスモデル

 米Googleからは、ブック検索プロジェクトのエンジニアリングマネージャーのJon Orwant氏が登壇し、訴訟結果の大枠に加え、書籍検索サービスにおける変更点、コンテンツへの各種アクセスモデルなどについて説明した。

 Googleブック検索プロジェクトに参加するオックスフォード大学からは、Googleブック検索を通じた書籍販売に関するデータ数値例などが紹介された。その中で、ネット広告で言うコンバージョンレートのように、検索して見つけた書籍の閲覧ページビューに対して書籍販売につながった率や売り上げなどが示された。また、Googleブック検索を利用してから、1訪問あたりの平均ページビューは明らかに増加していることが伺われたという。


Googleブック検索を通じたオックスフォード大学の書籍販売動向 ドイツ系出版社におけるGoogleブック検索による利用量の増加例

 学術出版大手のSpringerは、Googleブック検索への参加経験と自社ビジネスにもたらした効果として、次のような事例を報告していた。3万7000タイトルの同社書籍に対して、5500万人の訪問者と3億4300万のページビューがあり、うち80万人で実際の購入につながった。古いタイトルも含めて、少なくとも99%の書籍が1回は閲覧され、89%の書籍が少なくとも1冊は購入された。

 そして、こうした事例は、オックスフォード大学やSpringerだけではなく、他のパートナー出版社でも見られるという。


米SpringerにおけるGoogleブック検索の利用成果 米McGraw-Hill、米Springer、オックスフォード大学以外の出版社でも増加しつつあるGoogleブック検索による利用

 その他、米国では、電子書籍・電子フォーマットの売り上げが、紙ベースの書籍の売り上げと同水準で推移している出版物や、iPhoneアプリ経由の電子書籍売り上げが紙ベースの書籍の売り上げを超えたという事例報告もされていた。

 こうした事例は、まだ圧倒的に少数派ではあろうが、米国の出版業界の一部では、デジタル化を前提とした新たなビジネスモデルへの取り組みや、より効率的なデジタル資産管理の仕方を具体的な形で実現しようとしているように見える。そしてGoogleは、壮大な事業提案を行い、世界中の利害関係者を巻き込むことで、そうしたデジタル化に必要な諸プロセスを加速、後押ししようとしているわけだ。

 この訴訟の和解の結果生まれるものは、検索可能な大量の書籍コンテンツと、それらコンテンツをオンラインで販売する各種手段だ。これまで書籍のデジタル化というと、AmazonやSonyの電子書籍端末などがあったが、iPodや携帯電話を通じて音楽のデジタル化が大きく発展したのに比べると、電子書籍の普及はまだ限定的だ。Googleブック検索の訴訟和解は今後、そんな電子書籍市場におけるビジネス障壁を低くし、電子書籍の普及に弾みをつけることができるのであろうか。少なくとも、そのための諸条件を整えるべく、大きな第一歩を踏み出したようには見える。


関連情報

URL
  「Googleブック検索」和解契約
  http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/agreement/
  「Googleブック検索」和解管理サイト
  http://www.googlebooksettlement.com/
  O'Reilly TOC(Tools of Change)Conference
  http://www.toccon.com/

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( 堀田有利江 / インターネットメディア総合研究所シニアリサーチャー )
2009/06/08 14:12

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