2001年2月、日本語JPドメイン名の正式登録サービスがスタートした。日本語ドメイン名は国際化ドメイン名(IDN)の技術を利用したものだが、2003年3月にはこのIDNがIETFにおいてRFCとして標準化。それまで“塩漬け”状態を余儀なくされていたIDNがようやく普及するかのように見えたが……。登録開始から早や3年を経過した、日本語JPドメイン名の今を取材した。
● 「生茶」のWebサイトのドメイン名と言えば
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「生茶.jp」については、IDN非対応の携帯電話などからもアクセスできるように、「日本語JPアクセスサイト」経由のアクセス方法について説明が添えられた
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JPドメインを管理する日本レジストリサービス(JPRS)によれば、2004年11月における日本語JPドメイン名の新規登録件数は6,000件を突破し、サービス開始時以来の盛況ぶりだという。12月1日現在の累計登録数は48,016件に達した。co.jpやne.jpなどの属性型も含めたJPドメイン名の累計登録数は同日現在で623,539件だ。ピーク時には及ばないものの、日本語JPドメイン名の登録数は決して少なくはない。
確かに日本語ドメイン名を生活の中で目にする機会も、わずかだが増えてきている。今年夏、「生茶.jp」というドメイン名を見かけた記憶はないだろうか?
「生茶.jp」は見てわかるように、キリンビバレッジが販売する清涼飲料水「生茶」のドメイン名だ。同社が6月から7月にかけての1カ月間実施したキャンペーンで、プレミアムグッズのプレゼント応募を受け付けるサイトに利用され、商品に貼付してあるシールや店頭POP、雑誌、テレビCMなどで消費者に告知された。
実はこのキャンペーンでは日本語のほかに「namacha.jp」も併用していたが、「一般的な日本人であれば、『namacha.jp』を瞬間的に見て記憶することは難しくても、『生茶.jp』ならその可能性は高くなる」(キャンペーンを担当したキリンビバレッジの小川雅章氏)。
キリンビバレッジでは「生茶」のほかにも「午後の紅茶」などの日本語ブランドを持っている。WebブラウザにおけるIDN対応環境が十分に整っているとは言えない現状だが、「日本語ドメインが一般的になれば、現状とは違った展開が期待できる。特に告知方法や応募のしやすさが、大きなプラスになるのではないか」と判断。「今回のキャンペーンでの効果を期待するよりも、今後の展開に少しでも寄与できれば」との考えから「生茶.jp」を採用したとしている。
● “人名.jp”でSEO要らずの“名刺サイト”が実現
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堀田氏の名刺(上)と、「http://堀田博文.jp/」でアクセスできる“名刺サイト”(下)
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商品名だけではない。自分の名前をそのままドメイン名に登録することの効果をアピールするのは、JPRS取締役企画本部長の堀田博文氏だ。堀田氏は「堀田博文.jp」を登録している。
「堀田博文.jp」は、もちろんIDN対応ブラウザからなら直接アクセスできるので問題ないのだが、非対応ブラウザの場合でも、例えばGoogleで「堀田博文」で検索してみて欲しい。すると、比較的簡単にWebサイト「http://堀田博文.jp/」が見つかることがわかるだろう。Googleの検索結果のURL表示は日本語ドメイン名に対応しているため、堀田氏の公式サイトであると一目で想像できる。Webサイトにサーチエンジン最適化(SEO)を施していなくても、個人名で検索した際に、個人の情報を多く含んだWebサイトが上位に表示されるのは自然な結果であり、その時にURLに日本語で“人名.jp”が表示されることは、そのWebサイトの信頼感を大きく補強する。堀田氏は「第三者による情報が溢れる中、自分自身からの情報発信として有効な手段だ」と言う。
堀田氏はこのメリットに着目し、社名以外には大きく「http://堀田博文.jp/」とだけ記された名刺を持ち歩いている(裏面にはきちんと住所や電話番号なども掲載されているが)。一方、「http://堀田博文.jp/」サイトには、会社の連絡先のほか、同氏のプロフィールや活動履歴などが詳しく掲載されている。すなわち、「名刺は情報量が限られるが、自分の名前でドメイン名を登録すれば、名刺代わりのサイトが開設できる」わけだ。
さらに堀田氏は“人名.jp”が一生モノだという点も指摘する。「紙の名刺は、時間が経てば書かれている情報が古くなり、役に立たなくなることもある。“名刺サイト”なら情報をリアルタイムに更新できるので、もし私がJPRSを辞めてしまっても(笑)、名刺に書かれた『http://堀田博文.jp/』にアクセスすれば新しい連絡先がすぐにわかる」。
日本語の人名をそのままドメイン名に登録するというのは、話題づくりや将来的を見据えたドメイン名確保の意味もあるのだろう。「稲本潤一.jp」や「藤井フミヤ」など有名人のWebサイトではかねてより事例があった。しかし、彼ら有名人の公式サイトならば、検索エンジンに名前を入力すればすぐに見つけられる。むしろ“人名.jp”の効果が大きいのは、一般人による利用と言えそうだ。早い者勝ちなので、同姓同名の人にすでに登録されていればどうしようもないが……。
● Opera、Safari、Firefoxなどが続々とIDNに対応したけれど……
商品や人名、あるいは企業名などで日本語JPドメイン名のメリットがあるのは事実だ。にもかかわらず未だに普及しないのは、「別に日本語を使わなくても、アルファベットのドメイン名で間に合っている」という声もあるが、やはりWebブラウザのIDN対応状況によるところが大きいだろう。
おさらいのために、ここでIDNの大まかな仕組みを確認しておこう。例えば「インプレス.jp」というIDNは、そのままの文字列でDNSに問い合わせられるわけではなく、実際はPunycodeという方法によって「XN--ECKZBZEVD7A.JP」というASCII文字列に変換した上でやりとりされる。この処理がアプリケーションソフト内で行なわれることになっているため、IDNによるWebブラウザジングのためには、1)アドレスバーに入力されたIDNをPunycodeに“変換”する機能と、2)リンクタグをクリックした際など、Punycode表現のドメイン名を日本語などに“逆変換”して表示する機能──がWebブラウザに実装されている必要がある。また、ブックマークや閲覧履歴についても、きちんとIDNとして認識・表示されなければならない。
主要WebブラウザのIDN対応状況についての最新状況は、以下に公開されている、日本語ドメイン名協会がとりまとめた小冊子において確認できる。
■日本語ドメイン名に関する最新動向 2004年11月版(PDF)
http://www.jdna.jp/event/IW2004/brochure.pdf
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Firefox 1.0で、JPRSが運営する日本語JPドメイン名の情報サイト「日本語.jp」にアクセスしたところ。アドレスバーに注目
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Netscape 7.1以降、Mozilla 1.4以降、Firefox 0.8以降、Opera 7.1以降、Safari 1.2以降がIDNに対応しており、種類の上ではすでにIDN対応ブラウザが多数を占めている一方で、圧倒的なシェアを誇るInternet Explorer(IE)が対応していない。現時点でも、米VeriSignが開発したIDN対応化プラグイン「i-Nav」をインストールすれば、IEでもIDNが利用できる。また、アクセスポートが運営している日本語キーワードサービスの「JWordプラグイン」にもIDN対応機能が実装されたことで、これをインストールしていれば同じくIEでIDNが利用できるようになっている。
特にJWordプラグインについては、12月20日時点でインストール台数が2,000万台を突破したという。アクセスポートによれば、国内のPCの3台に1台に相当するというから、実はかなりのPCでIEからIDNが利用できるようになっていることになる。とはいえ、やはりIE自体が標準で対応しないことには、一般にWebブラウザから“利用できる”ようになったとは言い難い。
このことは、前述の「生茶.jp」キャンペーンの結果にも明確に表われている。キャンペーンサイトへの総アクセス数は約910万件に達したが、実は大部分は「namacha.jp」によるもので、「生茶.jp」は約30,600件(0.33%)だった。現時点でこの数字を大きいと見るか小さいと見るかは判断が分かれるだろう。また、Webブラウザの対応状況以前に、「ドメイン名はアルファベットで表記されるもの」との認識が消費者にあるのかもしれない。
しかしながら、もし仮にIEがすでにIDNに対応していたなら、そもそも「生茶.jp」と「namacha.jp」を併用する必要はなかったかもしれない。あるいは併用したとしても、商品名そのものズバリでインパクトのある「生茶.jp」を前面に押し出したPOPが制作された可能性もある。今回キリンビバレッジが用意したPOPの中には、「生茶.jp」が「namacha.jp」よりもひと回り小さく記載されているものもある。このこと自体、WebブラウザのIDN対応状況を物語るものと言える。
● Longhornを待たずにIEがIDNに対応か!?
堀田氏が「最後の大きな砦」と表現するIEのIDN対応だが、次期Windowsである「Longhorn」において実現すると言われている。ただしこれは、「MicrosoftがIE 6にはもう新機能を追加しないという方針を示している一方で、LonghornにおいてIEの新バージョンを投入すると表明していることが根拠」(JPRS技術研究部の米谷嘉朗氏)。すなわち、「IDN対応という“新機能”が追加されるのであれば、それはLonghornにいおいてということになる」という論理により導かれた結論で、少なくともMicrosoftが正式にIDNの対応を発表しているような類のものではないという。
ところがつい先日、LonghornでIDNに対応することをMicrosoftが公式の場で表明していたことがわかった。12月1日、ICANNのケープタウン会議の中で行なわれたIDNに関するワークショップでのことだ。
ワークショップでは、IDN対応アプリケーションの開発に関するパネルディスカッションが設けられ、その中で堀田氏らがIEにおけるIDNの対応方針について質問。これに答えるかたちで、IE開発などを担当するMicrosoftのMichel Suignard氏が、以下のような趣旨の発言を行なっている。
「Longhornの出荷がいつになるかはコメントできないが、2006年だと考えていいと思う。しかし、LonghornでIDN対応が完成するとしても、それ以前に人々が期待するような基本的機能を備えたバージョンができる可能性はある。いずれにしても少し時間はかかるが、我々は既存バージョンでのWindowsでのサービスパックやアップデートによる対応も検討している。確実に言えるのは、LonghornではIDN対応を行なうだろうということだ」
この発言のポイントは、先にも述べたように、Microsoftが公式の場でLonghornにおけるIDN対応を表明したことだが、さらに注目されるのは、Windowsの既存バージョンにおける機能追加も検討しているという点だろう。「基本的機能」とは言っているものの、IDN対応というIEの新機能の追加はLonghornまで待たなければならないというこれまでの見方を改めさせる発言と言える。
IEの圧倒的シェアは依然として変わらないものの、最近ではFirefoxがユーザー数を急速に増やすなど、Webブラウザの勢力地図にも変化の兆しが見えている。2006年と言えば、まだ2年も先の話だ。新製品の登場やバージョンアップが進む他のブラウザの動向を見据え、「IEの新機能はLonghornで」というこれまでの方針をMicrosoftが変更することも決して考えられないことではない。
なお、発言の詳細については、ICANNが公開しているワークショップの議事録で参照できる。
■ICANNケープタウン会議 IDNに関するワークショップ 議事録(英文)
http://www.icann.org/meetings/capetown/captioning-idn-workshop-01dec04.htm
● 国内最大シェア?の“Webブラウザ”が日本語ドメイン名対応へ
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auのフルブラウザ搭載携帯電話「W21CA」
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Webブラウザは、なにもPC用だけではない。最後に、携帯電話の日本語ドメイン名対応状況を見ておこう。
まずauでは、携帯電話初のフルブラウザ搭載端末「W21CA」(カシオ計算機製)が登場したが、この端末ではブラウザにOperaを採用しており、日本語ドメイン名の入力が可能になった。KDDIでは今のところ、日本語ドメイン名への対応をau端末の標準仕様とするような明確な方針を打ち出しているわけではない。しかし、ブラウザ側が対応する流れにあることを考えると、今後の新機種では自然と日本語ドメイン名が使えるようになるのではないかとKDDIでは見ている。
さらに12月22日には、情報家電向け組み込みブラウザ「NetFront」を開発するACCESSが、NetFrontの次期バージョンで日本語ドメイン名に対応することを発表した。NetFrontは、NTTドコモのFOMAの全機種に採用されているのをはじめ、PDAやセットトップボックス、ゲーム機、カーナビなど、世界90社以上の342機種、1億5,085万台以上(2004年7月末現在)に広く搭載されている。
次期バージョンは、2005年1月中にもコアエンジンが発表され、まずはPocketPCで同製品を搭載した最初の製品が2月から3月にかけて出荷。追って、これを搭載した携帯電話端末が登場する見込みだ。ACCESSでは、「携帯電話などでは予測変換などの日本語入力補助機能により、インターネットアドレス入力はさらに簡単になる」としている。
携帯電話は、日本ではIEにも匹敵するシェアを誇る“Webブラウザ”と言えるが、PCよりもひと足早く日本語ドメイン名が“使える”ようになりそうだ。
関連情報
■URL
日本レジストリサービス
http://jprs.jp/
日本語.jp
http://XN--WGV71A119E.JP/
関連記事:汎用JPドメインの登録申請が間もなくスタート
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/0220/hanyojp.htm
関連記事:IETF、国際化ドメイン名のRFCを発行
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0310/idn.htm
関連記事:特集 日本語ドメインはいつから“使える”のか?
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/0528/idn.htm
関連記事:日本語ドメイン名の普及に、残る課題はアプリケーションの対応
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0730/jprs.htm
■関連記事
・ JPRSが取り組む「Webドメインマーケティング」とは?(2003/09/19)
( 永沢 茂 )
2004/12/22 21:08
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