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東京電力の執行役員で、光ネットワーク・カンパニーのプレジデントを務める勝又淳旺氏
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ADSLの登場により急速に普及したブロードバンドサービスだが、通信事業各社はさらにFTTHサービスの普及に向けて、テレビCMによるプロモーションや加入キャンペーンなど、積極的な展開を図っている。
そうした中、10月には東京電力とKDDIが光ファイバ事業での提携を発表した。東京電力の子会社で、法人向けの専用線サービスを手掛けるパワードコムは、KDDIと2006年1月に合併。また、東京電力とKDDIはFTTH事業で提携し、2005年内をめどにKDDIのCDNと東京電力の光ファイバを統合する計画が公表された。
FTTHサービス「TEPCOひかり」を積極的に展開している東京電力にとって、今回のKDDIとの提携はどのような意味を持つのか。また、今後FTTHサービスを展開していくにあたって、どのようなサービスを提供しようとしているのか。東京電力の執行役員で、光ネットワーク・カンパニーのプレジデントを務める勝又淳旺氏に話を伺った。
● NTTとの対抗ではなく、「暮らしのサービス」を提供していきたい
――今回のKDDIとの提携は、NTTグループへの対抗という側面が大きいのでしょうか?
勝又氏:必ずしも対抗というわけではありません。確かに、NTTとKDDIは対抗であるかもしれませんが、我々としては新しいサービスは同じ通信事業の中ではなく、電力事業で培ってきた「暮らしのサービス」に、KDDIの技術を利用していくことだと考えています。
――暮らしのサービスというのは、どのようなイメージですか
勝又氏:例えば、この部屋には通信の端末もあるかもしれませんが、電気の設備はもっとたくさんありますよね。宅内でももちろんそうですし、どの部屋にもコンセントは必ずあります。情報家電をネットワーク化するだけでなく、すでにある家電製品を全部ネットワーク化するというイメージです。例えば、門灯には電気が来ています。その門灯を外して、Webカメラ付きの門灯に換えていただければ、それだけで玄関の映像が携帯電話からも見られるようになります。
――そうなると、PLC(電力線搬送通信)を念頭に置いたサービスということでしょうか
勝又氏:PLCの利用も考えています。現在、実験では80Mbpsぐらいの速度が出ていますので、この速度であればハイビジョン映像も電力線で送れるようになります。現在はまだ実験が自由にできないということもあり、実用化にはまだ時間がかかりますが、各方面と話を始めているところです。
――すでにADSLがかなり普及していますが、FTTHの普及は進むでしょうか
勝又氏:光で何ができるのかということが、目に見えなければダメだと考えています。Webを見るだけならばADSLで十分なわけで、なぜ光でなければいけないのかということを説明できなければいけない。我々は電力会社ですから、暮らしの中でやってきたノウハウでサービスを強化していきたい。これは最初から変わりません。また、これから社会問題になるであろう労働人口の減少に向けて、家庭内に入っている女性などもホームオフィスのような形で活用していく時代がきっと日本には必要になると思っています。その時に、家庭内にいてもオフィスにいるのと同じ環境を作るには、やはりアップロード側の帯域が必要になります。そのためにも、やはり光ファイバが必要だと考えています。
――マンションや集合住宅などで、光ファイバを直接引けない場合も多いですね
勝又氏:集合住宅用にはVDSLや既設のEthernetを利用する方法や、5GHzの無線を使う方法があり、環境に応じた方法をお使いいただく形になっています。また、同軸ケーブルを利用したサービスの開発も進めています。マンションの場合、3階までは直接光ファイバを引くことができますが、4階以上になると電柱の上になってしまうので引くことができません。各部屋まで光ファイバを届けようといろいろ努力していますが、すぐには中に入っていけません。社会全体が光ファイバに向けて盛り上がってくれば、改めて集合住宅にも光ファイバを引かせていただけるようになるのではないかと思っています。
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12月2日~11日には、FTTHで変わるライフスタイルをテーマにした「ひかりライフスタイルイベント」を六本木ヒルズで開催した
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会場では、体調に関するデータをインターネットと連動して管理するシステムなど、「暮らしのサービス」に関する展示が行なわれた
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● 統合後のサービスについては現在調整中
――KDDIもFTTHサービス(KDDI光プラス)を展開していますが、提携ということで両社のブランドは統合されるのでしょうか
勝又氏:そうした点は現在調整を行なっている最中で、未定です。ただし、NTTと同じ枠の中でサービスを始めても価格競争になってしまうので、これは得策ではないと考えています。やはり、電力、暮らし側を軸足にしたサービスをやっていかないといけないと思っています。KDDIと一緒に展開することで全国のバックボーンも強力になります。他の電力系のサービスとも協力して、できればサービスも全国展開していきたいと考えています。
――次世代の通信サービスということではFMC(Fixed-Mobile Convergence)も話題に上りますが、それについてもKDDIと進めていくのでしょうか
勝又氏:確かに、これからどのようなサービスが提供できるのかという点はKDDIと徹底的に追求していきますが、さきほどの話のようにホームネットワークに携帯電話からアクセスするとなると、auからのアクセスだけでいいのかと言うと、これは不便ですよね。それはできるだけオープンプラットフォームにするべきだと思っています。基本的なスタンスとしては、さまざまな会社とアライアンスを組んでやっていきたいと思っています。ただ、FMCと言われても具体的なサービスはまだ何もない状態ですので、もう少し先の話になると思います。
――TEPCOひかりではプロバイダーとの一括契約になっているため、プロバイダーを乗り換えようとすると面倒だという声もありますが
勝又氏:確かに、現在はそうした場合には、いったん解約して新規に申し込んでいただく形になっていますので、そこは工夫したいと思っています。ただ、現在の仕組みですと、申し込みや支払いがプロバイダーに一本化されているというメリットもあります。
● 電力事業と通信事業の完全分離がユーザーの不便になることも
――光ファイバが生活インフラになっていくと、故障時のサポートが重要になると思うのですが
勝又氏:故障のサポートは土日も対応しています。光ファイバの場合、故障はほぼ2カ所に限られます。1カ所は外から宅内に入る所で、ここは光ファイバを曲げなければいけないので、被覆を少し剥いてあります。そこをカラスが突っついて断線が起きます。もう1カ所は、宅内に入ってからメディアコンバータまでの間で、ここを犬や猫が噛んでしまうことが多いです。メディアコンバータなどはほとんど壊れませんね。
――電気が故障した時のようにすぐ来てもらえるのでしょうか
勝又氏:東京電力としては、電力事業と通信事業を完全分離することが事業許可の条件になっているので、対応は別々にやらなければいけません。ところが、お客様から見ると、同じ東京電力なのにどうして対応してくれないのか、官僚的だと言われてしまうことがあります。例えば、目の前に(東京電力の)営業所があるのに、「なんでそこでTEPCOひかりの申し込みができないんだ」といったクレームもよく入ってきます。
――サポートも分けなければいけないのですか
勝又氏:そうです。お客様に本当に安く迅速なサービスを提供するためには、一緒にできればいいのですが。ましてや、これからPLCのサービスを始めると、もう電気の機器か通信の機器かという違いも分からなくなってしまいます。お客様側から見れば、どちらでもいいから早く直してもらいたいわけです。一緒にできればさらに安くサービスが提供できますし、お客様から見て同じ会社なのだからできて当たり前のサービスは提供できるようにしていきたいと思っています。
● サービスエリアの拡大は「まずはお電話を」
――TEPCOひかりのサービスエリアは都市部が中心ですが、今後はさらに拡大していくのでしょうか
勝又氏:都市部のエリアの他に、すでにスポット展開を行なっている地域もあります。サービスエリアの地図で、飛び地になっている部分です。こうした地域の多くは、光もADSLも来ないというような状況で、サービスを提供してくれないかという相談が来た所です。電話をいただきますと、我々が調査して、このぐらいの人数を集めていただければといった相談をします。地元の方がNPOを結成して、加入をまとめていただくケースもあります。この辺はまさに手作りで、こうしたエリアは20カ所ほどでサービスが始まっています。ほとんどがお客様からの電話で始めたエリアです。サービスを始めてほしいという要望がありましたら、とにかくまずはお電話をください。
――山間部のように、人口の少ない所でも大丈夫なのでしょうか
勝又氏:むしろ、そうした地域の方が大丈夫です。というのも、我々は1978年から徹底的に光ファイバを使い始めたのですが、山奥にある水力発電所の無人監視などで利用しています。水力発電所が約180カ所ほどありますが、そうした所まですでに光ファイバ網がありますので、山の方がかえって条件としてはいいのです。問題はちょうど真ん中で、現在のエリアの少し外側からが一番難しいです。ADSLもありますので、我々も厳しいし、他社も厳しいと思います。ここをどうするのかがこれから話題になると思います。
――都市部周辺は展開していくのにコストがかかるためですか
勝又氏:今は都市部にサービスを広げていますが、これから先、さらに広げていこうとすると、1軒あたりのコストがどんどん高くなっていきます。採算で考えると、NTTですら光ファイバが引けなくなってきます。当然、我々も引けません。そうなると、そこは誰が光ファイバを引くのかというのが大きな問題になります。我々も企業ですから、投資回収ができなければOKは出ません。これではますますデジタルデバイドを大きくすることになってしまいますので、やはり国の施策などが必要なのではないかと思います。
――そうなると現状ではやはりエリアの拡大は難しいですか
勝又氏:例えば、あらかじめ電線の脇に細いチューブを付けておけば、光ファイバはいくらでも入れられます。そうした用意をしておけばずいぶん楽なのですが、今はそうしたことも認められていません。そうしたことをちょっとやっておくだけで、お金をかけずにインフラが作れるようになるわけです。こうしたことも早めに議論をしておくほうがいいのではないでしょうか。これは、何も東京電力が独占するというようなことでなく、社会インフラという意味合いで工夫をしておく必要があるように思います。
――本日は、ありがとうございました。
関連情報
■URL
東京電力
http://www.tepco.co.jp/
TEPCOひかり
http://www.tepco.ne.jp/
関連記事:KDDI、東京電力の光ファイバを採用したFTTH新サービス[Broadband Watch]
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/11906.html
■関連記事
・ KDDIがパワードコムを吸収合併、東京電力とはCDNと光ファイバを統合(2005/10/13)
( 三柳英樹 )
2005/12/22 11:46
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